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2章 強さを求めて2 新たに2人
078 寝屋の語らい (改)
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夕食後の話し合いは、フラッタの引越しが決まった時点で、もう話は終わりと言わんばかりに解散の流れになった。
釈然としないものはあるけど、まぁ今は良しとしよう。なんたって夕食の後は家族の、夫婦の、恋人の時間なのだからなぁっ!
ダッシュで寝室に向かい、フラッタとリーチェのことなど頭の中から追い出して、ニーナとティムルに思いっきりお相手していただいた。
2人は家に客人が居るからなのか、暴走気味で甘えさせモードだった昨日と違っていつも通りに戻ってしまった。
けれど、逆に俺はフラッタとリーチェが居る家でニーナとティムルを抱いている事実に若干興奮してしまった気がする。変態かな? 変態でも興奮するものは仕方ないんだ。
今までだって旅の宿でも散々組んず解れつ色々してきたけど、今回ほど他人の存在を気にしたことはなかったのにぃ。
俺の中ではもうあの2人を貰った認識なのか?
……いや、貰った認識は流石にないけど、求婚したくらいに魅力的な女達だと思ってる。
多分それだ。あんなに魅力的な2人がいる家でこんなに魅力的な2人を……、みたいな興奮があったことは否定出来ない。うん、やっぱり変態だった。
「なぁ。俺の嫁の話は別にしても、フラッタの話、どう思う?」
ニーナとティムルを抱き寄せながら、夕食後の話にほとんど口を挟まなかった2人に改めて話を聞いてみる。休戦の間の暇潰しとも言う。
俺の問いに、身を寄せてくれているニーナとティムルは少し思案げな様子を見せる。う~ん、と悩ましげに上を向く動作が可愛い。
そんな中、先に口を開いたのはニーナだった。
「多分ダンも感じてると思うけど、違和感があったかな。まるで事件の話はどうでも良くて、始めからこの家に住むのが目的だったみたいに思えたの」
俺の感じたそのままの印象をニーナも抱いていたようだ。
確かにうちに来いって言ったのは俺だけど、その後の流れがスムーズ過ぎたよね。待ってましたと言わんばかりの流れだった。
「それに、リーチェとフラッタの会話がスムーズ過ぎたかなぁ。あれって2人で打ち合わせしてあったんじゃない?」
「その割にフラッタちゃんからは、お嫁に来るみたいな浮ついた感じがしなかったのよねぇ。あれじゃあまるでこの家に来るのが目的なんじゃなく、家から離れるのが目的みたいに見えちゃうわよね」
ニーナの言葉を引き継ぐティムル。
2人の言葉は俺の抱いた印象をそのまま代弁してくれている。
先ほどの話の流れは、フラッタの引越しという結論ありきで話が進められたような気がして仕方ない。
それにティムルが言っているように、フラッタのあの雰囲気では、引越しというより避難みたいに思えた。
……う~ん。せっかくフラッタがうちに住んでくれることになったのに、全然浮ついたノリにならなくて残念だ。
俺の女になる気はまだ無さそうだけど、その間のフラッタの扱いってどうしよう?
「俺たちは明後日から遠征で家を空けるよね? 避難措置としてうちに来るのであれば、フラッタをあまり長期間1人で放置するのって不味いよね?」
そうでなくてもフラッタを1人でここに放置しておくと、帰ってきたときに家がなくなっていても驚かないくらいに不安を感じる。
いや流石にそんな事は無いと頭では分かってるけどさぁ。俺の常識を上回りかねない可能性をフラッタには感じちゃうんだよぉ。
「んー、明日改めてフラッタに聞かなきゃだけど、基本は遠征にも同行してもらったほうがいいんじゃないかな。実力は申し分ないでしょ?」
申し分ないどころか、俺達3人が束になってかかっても余裕で蹴散らされるだろうね。フラッタがどれくらいの実力者であるのか、その正確な力量を把握することすら出来てないんだから。
「……それにフラッタを1人でお留守番させるなんて、気になって気になって遠征どころじゃないよぅ」
うん。俺とニーナの想いは1つだ。
重なった想いの内容はアレですけどね? おのれフラッタ。
「同行してもらうとなると、ダンの能力をどこまで伝えるかが問題よね。いっそ婚姻契約で結ばれてくれれば話しやすいんだけど……」
ティムルがフラッタに開示する情報量について頭を悩ませている。
リーチェも同居人だけど、魔物狩りにまでついて来てるわけじゃないからなぁ。ガンガン転職しながら魔物狩りをする俺達に同行させる以上、フラッタに職業設定を隠し通すのは難しいと思う。
……勘だけで転職に気付くからなぁ、フラッタって。
「ニーナちゃんと私に先んじて、フラッタちゃんだけ婚姻を結びって選択はあり? なし?」
「なしだな。俺の女に優先順位なんてものはないけど、ニーナの呪いを解いて嫁に貰うのは俺にとっての誓いだ。これは絶対に破れない」
たとえニーナもティムルも構わないと言ってくれたとしても、というか2人なら多分構わないと言ってくれるんだろうけど、ニーナより先に誰かを娶ることは絶対にしない。
ニーナに出来ない事は、ニーナと出来ないことは絶対にしたくない。ティムルを救出する為とか、そんな非常時でもない限りは絶対に。
「……もしニーナがこの誓いを負担だと思ったとしても、これは俺の誓約だから」
優しいニーナには俺の想いが重荷になってしまうかもしれないけど、これだけは譲れないんだ。
もしもそれをやってしまったら、別にニーナの呪いなんて解かなくて良いじゃん! とかになりそうで怖いんだよ。
「ほんっと、ダンはダンを信用しないねぇ」
ニーナに誓いを立てる俺に、仕方ないなぁと苦笑いを浮かべてくれるニーナ。
「でもそれでいいよ。その誓いを負担だなんて思ったりしない。嬉しいよダン。ありがとう」
ちゅっ、と軽くニーナからのキス。
だいじょうぶだよ、そんな気持ちを伝える為の確認のキス。
「フラッタはもう半分身内だと思ってるから、色々明かしちゃってもいいんじゃないかな。ダンはほんとに浮いてるから、色々聞かされたら多分フラッタも納得すると思うの。私がそうだったから」
「わかるー。わかるわニーナちゃんっ。ダンの秘密を知って、なるほど、だからかー、って感じだったわよ」
フラッタへの情報開示を提案するニーナと、それに大仰に頷いてみせるティムル。
「未だにダンの住んでいた世界っていうの想像できないけど、ダンが別の世界から来たっていうのは、逆にすとんっ、て感じに納得できちゃったのよねぇ」
浮いてる、ねぇ。
元の世界でも大きな問題はなかったのになんだか上手くいってなくて、別の世界でも浮いてて馴染めなくて、かぁ。
社会不適合者はどこに行っても社会不適合者のままってわけかねぇ。
「あは。私達が悪口で言ってる訳ないでしょ? 本当にダンは、自分の事はなんでもかんでも悪口だと思っちゃうんだから」
またしても苦笑いを浮かべながら俺の頭を撫でてくれるニーナ。
え~? 浮いてるって言葉に肯定的な意味あるぅ? 悪口とかじゃなくて正当な評価なんじゃないの?
「でもダーメっ。貴方がどれだけ貴方を嫌いでも、私とティムルは貴方の事が大好きなんだからね。大好きな人を貶されたら黙ってられないよー?」
大好きなんだからね、って叱られ方は斬新だなぁ……。
別に自虐ってほどでもなかったと思うんだけど。
ピンと来ない俺を見たティムルが、少し呆れたような笑みを浮かべている。
「ダンも懲りないわねぇ。ダンを馬鹿にしたらニーナちゃんも私もただで済ますわけないじゃない? たとえ馬鹿にしたのが貴方本人だったとしてもねー?」
俺を馬鹿にしたらニーナに怒られるってなにっ!?
俺、本人なんですけどっ!?
「いいえ。貴方本人だからこそ、私達が黙ってるわけにはいかないわ。やっちゃえニーナちゃんっ」
「うん、やっちゃうよっ。ティムル、後に続いてねっ。ダンを悪く言う人を2人でコテンパンにしちゃうんだからっ」
「ちょちょ、ちょと待ってっ! この流れには嫌な予感しかしないってば!」
挑戦的な笑顔を浮かべたまま少しずつ近づいてくる2人に、ゾクリと背筋が冷たくなる。
やっ、やばい! この流れはぁ……!
「悪かった! ホントごめん! つまんないこと考えて済みませんでしたっ! お願いだからアレだけムグゥ!」
「ちゅ~~~~~~~~~」
最早決まった流れのように、ニーナのキスで俺の言葉は遮られる。
ニーナの舌が俺に何処までも密着してきて、まるで俺の舌がニーナの舌に抱きしめられているみたいだ。
更には耳元から感じるティムルの吐息。もはや口先の感触が伝わるほどの距離から囁かれる愛の言葉。
愛してる。大好き。離さない。放さないで。
ニーナの舌から解放されると、逃げる間もなくティムルの舌に絡め捕らえられる。
そして耳から伝わってくるニーナの息遣いと想いの言葉。
ありがとう。貴方が私の全てです。今の私も未来の私も、貴方がいなくちゃ意味は無いの。
脳が……、心が溶かされるっ……!
自惚れるな。俺はそんな奴じゃない。信用するな。期待するな。諦めろ。
自惚れなければ傷つかない。
信用しなければ裏切られても傷つかない。
期待しなければ期待が外れても傷つかない。
諦めればなにが起きても傷つかない。
痛みも辛さも苦しみも、始めから当たり前なら受け入れられる。
俺が何も成し遂げられない男でも、元々そうなんだから仕方ない。当たり前なんだから受け入れろ。
卑屈。自虐。自己否定。それが俺の根底で燻っているのは分かっている。
でも自分じゃどうにもならないんだよ。もう完成してるんだ。
もう壊せないくらいに、俺の本質に根付いちゃってるんだよ……!
俺が自分を卑屈だと感じているなら、私達が貴方を真っ直ぐに愛します。
俺が自分を自虐するなら、私達が貴方を許し受け入れます。
俺が自分を否定するなら、私達が貴方を肯定します。
俺の1番深いところに根付いているドス黒い感情ごと、彼女たちは愛してくれている。
貴方はそのままでいい。貴方は変わらなくていい。私達はただ、貴方と共に生きたい。それだけが私達の幸福です。
そんな2人から伝わる想いが嬉しくて、幸せで、でも苦しくて、辛くて……、そして怖い。
怖くて重くて痛くて、もうどうしようもなく手放せないんだ。
……めんどくさくってごめん。いつも愛してくれてありがとう。
きっと2人はどんな俺だって、今と変わらず愛してくれると思うけれど。
卑屈で自虐的で自己否定ばっかりで、こんなに愛してくれる2人がいるのに他の女に目を向ける浮気性で、まだ嫁でもない女性のおっぱいをこねくり回すスケベ野郎で、早く好色家を育成しないと身が持たないんじゃないかと心配するような甲斐性なしなんだけど。
そんなどうしようもない俺だけど。
2人の想いを裏切るような生き様を2人に見せてしまうわけには、いかないよなぁ……。
釈然としないものはあるけど、まぁ今は良しとしよう。なんたって夕食の後は家族の、夫婦の、恋人の時間なのだからなぁっ!
ダッシュで寝室に向かい、フラッタとリーチェのことなど頭の中から追い出して、ニーナとティムルに思いっきりお相手していただいた。
2人は家に客人が居るからなのか、暴走気味で甘えさせモードだった昨日と違っていつも通りに戻ってしまった。
けれど、逆に俺はフラッタとリーチェが居る家でニーナとティムルを抱いている事実に若干興奮してしまった気がする。変態かな? 変態でも興奮するものは仕方ないんだ。
今までだって旅の宿でも散々組んず解れつ色々してきたけど、今回ほど他人の存在を気にしたことはなかったのにぃ。
俺の中ではもうあの2人を貰った認識なのか?
……いや、貰った認識は流石にないけど、求婚したくらいに魅力的な女達だと思ってる。
多分それだ。あんなに魅力的な2人がいる家でこんなに魅力的な2人を……、みたいな興奮があったことは否定出来ない。うん、やっぱり変態だった。
「なぁ。俺の嫁の話は別にしても、フラッタの話、どう思う?」
ニーナとティムルを抱き寄せながら、夕食後の話にほとんど口を挟まなかった2人に改めて話を聞いてみる。休戦の間の暇潰しとも言う。
俺の問いに、身を寄せてくれているニーナとティムルは少し思案げな様子を見せる。う~ん、と悩ましげに上を向く動作が可愛い。
そんな中、先に口を開いたのはニーナだった。
「多分ダンも感じてると思うけど、違和感があったかな。まるで事件の話はどうでも良くて、始めからこの家に住むのが目的だったみたいに思えたの」
俺の感じたそのままの印象をニーナも抱いていたようだ。
確かにうちに来いって言ったのは俺だけど、その後の流れがスムーズ過ぎたよね。待ってましたと言わんばかりの流れだった。
「それに、リーチェとフラッタの会話がスムーズ過ぎたかなぁ。あれって2人で打ち合わせしてあったんじゃない?」
「その割にフラッタちゃんからは、お嫁に来るみたいな浮ついた感じがしなかったのよねぇ。あれじゃあまるでこの家に来るのが目的なんじゃなく、家から離れるのが目的みたいに見えちゃうわよね」
ニーナの言葉を引き継ぐティムル。
2人の言葉は俺の抱いた印象をそのまま代弁してくれている。
先ほどの話の流れは、フラッタの引越しという結論ありきで話が進められたような気がして仕方ない。
それにティムルが言っているように、フラッタのあの雰囲気では、引越しというより避難みたいに思えた。
……う~ん。せっかくフラッタがうちに住んでくれることになったのに、全然浮ついたノリにならなくて残念だ。
俺の女になる気はまだ無さそうだけど、その間のフラッタの扱いってどうしよう?
「俺たちは明後日から遠征で家を空けるよね? 避難措置としてうちに来るのであれば、フラッタをあまり長期間1人で放置するのって不味いよね?」
そうでなくてもフラッタを1人でここに放置しておくと、帰ってきたときに家がなくなっていても驚かないくらいに不安を感じる。
いや流石にそんな事は無いと頭では分かってるけどさぁ。俺の常識を上回りかねない可能性をフラッタには感じちゃうんだよぉ。
「んー、明日改めてフラッタに聞かなきゃだけど、基本は遠征にも同行してもらったほうがいいんじゃないかな。実力は申し分ないでしょ?」
申し分ないどころか、俺達3人が束になってかかっても余裕で蹴散らされるだろうね。フラッタがどれくらいの実力者であるのか、その正確な力量を把握することすら出来てないんだから。
「……それにフラッタを1人でお留守番させるなんて、気になって気になって遠征どころじゃないよぅ」
うん。俺とニーナの想いは1つだ。
重なった想いの内容はアレですけどね? おのれフラッタ。
「同行してもらうとなると、ダンの能力をどこまで伝えるかが問題よね。いっそ婚姻契約で結ばれてくれれば話しやすいんだけど……」
ティムルがフラッタに開示する情報量について頭を悩ませている。
リーチェも同居人だけど、魔物狩りにまでついて来てるわけじゃないからなぁ。ガンガン転職しながら魔物狩りをする俺達に同行させる以上、フラッタに職業設定を隠し通すのは難しいと思う。
……勘だけで転職に気付くからなぁ、フラッタって。
「ニーナちゃんと私に先んじて、フラッタちゃんだけ婚姻を結びって選択はあり? なし?」
「なしだな。俺の女に優先順位なんてものはないけど、ニーナの呪いを解いて嫁に貰うのは俺にとっての誓いだ。これは絶対に破れない」
たとえニーナもティムルも構わないと言ってくれたとしても、というか2人なら多分構わないと言ってくれるんだろうけど、ニーナより先に誰かを娶ることは絶対にしない。
ニーナに出来ない事は、ニーナと出来ないことは絶対にしたくない。ティムルを救出する為とか、そんな非常時でもない限りは絶対に。
「……もしニーナがこの誓いを負担だと思ったとしても、これは俺の誓約だから」
優しいニーナには俺の想いが重荷になってしまうかもしれないけど、これだけは譲れないんだ。
もしもそれをやってしまったら、別にニーナの呪いなんて解かなくて良いじゃん! とかになりそうで怖いんだよ。
「ほんっと、ダンはダンを信用しないねぇ」
ニーナに誓いを立てる俺に、仕方ないなぁと苦笑いを浮かべてくれるニーナ。
「でもそれでいいよ。その誓いを負担だなんて思ったりしない。嬉しいよダン。ありがとう」
ちゅっ、と軽くニーナからのキス。
だいじょうぶだよ、そんな気持ちを伝える為の確認のキス。
「フラッタはもう半分身内だと思ってるから、色々明かしちゃってもいいんじゃないかな。ダンはほんとに浮いてるから、色々聞かされたら多分フラッタも納得すると思うの。私がそうだったから」
「わかるー。わかるわニーナちゃんっ。ダンの秘密を知って、なるほど、だからかー、って感じだったわよ」
フラッタへの情報開示を提案するニーナと、それに大仰に頷いてみせるティムル。
「未だにダンの住んでいた世界っていうの想像できないけど、ダンが別の世界から来たっていうのは、逆にすとんっ、て感じに納得できちゃったのよねぇ」
浮いてる、ねぇ。
元の世界でも大きな問題はなかったのになんだか上手くいってなくて、別の世界でも浮いてて馴染めなくて、かぁ。
社会不適合者はどこに行っても社会不適合者のままってわけかねぇ。
「あは。私達が悪口で言ってる訳ないでしょ? 本当にダンは、自分の事はなんでもかんでも悪口だと思っちゃうんだから」
またしても苦笑いを浮かべながら俺の頭を撫でてくれるニーナ。
え~? 浮いてるって言葉に肯定的な意味あるぅ? 悪口とかじゃなくて正当な評価なんじゃないの?
「でもダーメっ。貴方がどれだけ貴方を嫌いでも、私とティムルは貴方の事が大好きなんだからね。大好きな人を貶されたら黙ってられないよー?」
大好きなんだからね、って叱られ方は斬新だなぁ……。
別に自虐ってほどでもなかったと思うんだけど。
ピンと来ない俺を見たティムルが、少し呆れたような笑みを浮かべている。
「ダンも懲りないわねぇ。ダンを馬鹿にしたらニーナちゃんも私もただで済ますわけないじゃない? たとえ馬鹿にしたのが貴方本人だったとしてもねー?」
俺を馬鹿にしたらニーナに怒られるってなにっ!?
俺、本人なんですけどっ!?
「いいえ。貴方本人だからこそ、私達が黙ってるわけにはいかないわ。やっちゃえニーナちゃんっ」
「うん、やっちゃうよっ。ティムル、後に続いてねっ。ダンを悪く言う人を2人でコテンパンにしちゃうんだからっ」
「ちょちょ、ちょと待ってっ! この流れには嫌な予感しかしないってば!」
挑戦的な笑顔を浮かべたまま少しずつ近づいてくる2人に、ゾクリと背筋が冷たくなる。
やっ、やばい! この流れはぁ……!
「悪かった! ホントごめん! つまんないこと考えて済みませんでしたっ! お願いだからアレだけムグゥ!」
「ちゅ~~~~~~~~~」
最早決まった流れのように、ニーナのキスで俺の言葉は遮られる。
ニーナの舌が俺に何処までも密着してきて、まるで俺の舌がニーナの舌に抱きしめられているみたいだ。
更には耳元から感じるティムルの吐息。もはや口先の感触が伝わるほどの距離から囁かれる愛の言葉。
愛してる。大好き。離さない。放さないで。
ニーナの舌から解放されると、逃げる間もなくティムルの舌に絡め捕らえられる。
そして耳から伝わってくるニーナの息遣いと想いの言葉。
ありがとう。貴方が私の全てです。今の私も未来の私も、貴方がいなくちゃ意味は無いの。
脳が……、心が溶かされるっ……!
自惚れるな。俺はそんな奴じゃない。信用するな。期待するな。諦めろ。
自惚れなければ傷つかない。
信用しなければ裏切られても傷つかない。
期待しなければ期待が外れても傷つかない。
諦めればなにが起きても傷つかない。
痛みも辛さも苦しみも、始めから当たり前なら受け入れられる。
俺が何も成し遂げられない男でも、元々そうなんだから仕方ない。当たり前なんだから受け入れろ。
卑屈。自虐。自己否定。それが俺の根底で燻っているのは分かっている。
でも自分じゃどうにもならないんだよ。もう完成してるんだ。
もう壊せないくらいに、俺の本質に根付いちゃってるんだよ……!
俺が自分を卑屈だと感じているなら、私達が貴方を真っ直ぐに愛します。
俺が自分を自虐するなら、私達が貴方を許し受け入れます。
俺が自分を否定するなら、私達が貴方を肯定します。
俺の1番深いところに根付いているドス黒い感情ごと、彼女たちは愛してくれている。
貴方はそのままでいい。貴方は変わらなくていい。私達はただ、貴方と共に生きたい。それだけが私達の幸福です。
そんな2人から伝わる想いが嬉しくて、幸せで、でも苦しくて、辛くて……、そして怖い。
怖くて重くて痛くて、もうどうしようもなく手放せないんだ。
……めんどくさくってごめん。いつも愛してくれてありがとう。
きっと2人はどんな俺だって、今と変わらず愛してくれると思うけれど。
卑屈で自虐的で自己否定ばっかりで、こんなに愛してくれる2人がいるのに他の女に目を向ける浮気性で、まだ嫁でもない女性のおっぱいをこねくり回すスケベ野郎で、早く好色家を育成しないと身が持たないんじゃないかと心配するような甲斐性なしなんだけど。
そんなどうしようもない俺だけど。
2人の想いを裏切るような生き様を2人に見せてしまうわけには、いかないよなぁ……。
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