73 / 878
2章 強さを求めて1 3人の日々
073 見送り (改)
しおりを挟む
ニーナとティムルによるめくるめく愛の波状攻撃でメロメロにされてしまったけれど、受け取った分は返さないといけない。
因果応報、自業自得、ご恩と奉公? なんか全部違くね?
弛緩しきった体に鞭打って、愛してくれた2人に全力で愛情を返した。
ニーナとティムルに愛情を注がれて、もう俺の体の中は愛ではち切れそうだ。どれだけ2人に愛情を注いでも、注いだ以上の愛情で返される。
昨日よりもっと2人のことが大好きになって、今までで1番の愛情を全力で伝えても、2人はあっさりとそれ以上の愛情で応えてくれる。
女の人って凄いなぁ。もう存在全体が愛の塊みたいだ。きっと一生、彼女達には敵わない。
気がつくと辺りが明るい。今までだって夜通し愛し合ったことはあったけれど、ここまで没頭したことはなかった気がする。
昨晩は本当にずっと3人で愛を伝え合った。きっと2日間押さえ込まれた反動で、とにかく相手に好きだと伝えたかったんだよなぁ、多分みんなが。
おかげさまで睡眠時間は足りてないけど、睡眠不足は全く感じない。体の中に気力が漲りはち切れそうなくらいだ。
いつもより早く目覚めたニーナとキスをする。
家では毎日交わしていたのに、今回は全然キスをする機会がなかった。だからこの3日間を取り返すように、俺からも積極的に舌を絡めた。
いつもより大分長いおはようのキス。どれだけ続けてももっとしたくなってしまう。だけど時間は待ってはくれない。このまま永遠にキスし続けるわけにはいかないのだ。くそう。
ニーナに続いてティムルともキスをする。
いつもは恐る恐るのティムルも、今日に限っては凄く積極的だった。なんだかんだ言ってティムルも寂しかったのかな?
俺も寂しかった。だからその分を少しでも取り返そう。今回はティムルにいっぱいお世話になった。ありがとう、大好きだよ。
2人との目覚めのキスを済ませた俺は、ベッドから下りて身支度を始める。
今日は遠征に出発する予定だ。あまりのんびりはしていられない。
毎回キスでメロメロになるティムルは身支度に少しだけ時間がかかる。
先に身支度を終えた俺は、ティムルとキスをしている間に身支度を整えたニーナを後ろから抱きしめながら、ティムルの支度が整うのを待った。
「ねぇダン……」
「ん? んんっ」
抱きしめているニーナに呼ばれたので下を向くと、待ってましたと口を塞がれる。
珍しいなぁ。普段は大人しく待ってるのに。ニーナとのキスは大歓迎だけどね?
というか、ニーナは些細な事でもティムルより優遇されるような行為を嫌う。
だから目覚めのキスの後はいつも大人しく待っているのに、今日は少しでも俺とキスしたいようだ。俺もずっとキスしていたい。大好きなニーナと1秒だって離れたくない。
身支度を終えたティムルともキスを……、キリがないので少し短めのキスを交わして寝室を出る。
いつも寝室を出るのは大変な気がするけど、今日は特に大変だった気がするなぁ。
やっぱり今回は、2人を構い足りなかったよねぇ。遠征から帰ってきたら、丸々2日くらいは家に篭ろうかな?
「おはようみんな。……どうやら楽しめたようでなによりさ」
「混ざりたくなったらいつでも来い。歓迎するよ」
リーチェと朝の挨拶代わりの軽口を叩き合う。
食堂にはフラッタとリーチェが待機していた。
先に起きてるなら食事の用意とかして欲しいんだけど、コイツらにそれを期待するのは無理だもんなぁ。
ニーナとティムルと3人で手早く朝食を用意する。
朝食の配膳が済んだら遠征の予定について、改めてリーチェとフラッタにも共有しておく。
「今後は12日間遠征、3日休息日の、毎月2回遠征のペースで行こうと思うんだ」
少なくとも年内はね。今の俺達の実力ではこのくらいが限界だろう。
来年の予定はまだちょっと分からないな。状況が変わる可能性もあるし。
「リーチェも俺達の予定に合わせてちゃんと顔出せよ? フラッタも遊びに来るなら日程確認するようにな。嫁に来るなら2人ともいつでも歓迎だ」
「うん。日程は了解したよ。嫁にはいけないけど今まで通り過ごさせてもらうと嬉しい。この家が好きなのは本当だからね」
嫁には行けないけどこの家は好きだと語るリーチェ。
もう昨日のように取り乱している様子はない。なんだかスッキリ感じるくらいにいつものリーチェに戻っている。
「あれだけ邪険に扱いおったくせに、ずいぶんとグイグイくるのじゃなぁ? 同衾を嫌がっていたのが嘘のようじゃぞ?」
「ああ。嫁に来たら好きなだけ同衾してやるから遠慮すんなよ。あ、でも多分嫁に来ても邪険には扱うよ?」
「なんでなのじゃ! そこは嘘でも大切にするのじゃっ!」
落ち着いたリーチェとは対照的に、コロコロと感情を変えるフラッタ。
いつもの毅然とした態度よりも幼さの残るこの振る舞いのほうが本当のフラッタのなのかもしれない。
心配するなフラッタ。邪険には扱うけど大切にも扱うって。でもどれだけ大切に想っても多分邪険に扱っちゃうと思うんだ、ごめんな。
「私の時もそうでしたけど、踏み込むと決めたら遠慮しませんからねぇ。次に寝るときはもう少し余裕があるように、寝具を新しくしておきますね」
「そうですよねぇ。それまでは散々渋って踏み込まないくせに、いざとなったらもう目の前に居るんですもの。早速寝具を注文しに行きましょう」
俺と客人2人の会話を聞いて、ニーナとティムルはベッドの買い替えを検討しているようだ。2人とも気が早いなぁ。
確かに俺も早く2人をもらってやりたいけど、2人をもらうには俺の実力が足りてないのに。
フラッタはシルヴァの件を片付けなきゃいけないだろうし、リーチェに至っては問題の片鱗すら分からない。
鑑定すれば見えるかもしれないけど、見えてもどうせ解決できない。
今の俺にはまだ、リーチェの事情を見る資格すら無いんだ。
「とりあえずシルヴァの足取りを追いながらも、マルドック商会とネプトゥコの領主とその周囲を洗い直してみるよ。依頼人のことは疑いたくないけど……、状況次第かな」
「無理はするなよ? マジで領主関与の証拠を掴んで依頼達成、でお茶を濁すのも全然ありだと思う。巨悪を暴くなんてこと、出来ればして欲しくないなぁ」
「心配しないで。僕だってこの家に帰ってこれなくなるような事態は避けたいからね。深追いはしない。約束するよ。それじゃ、いってきます」
「ああ、いってらっしゃい。気をつけてな」
いってきます。いってらっしゃい。
この挨拶がリーチェがこの場所を家だと思っていて、俺達の事を家族だと思ってくれている証拠、っていうのは虫が良すぎかねぇ?
俺なんかがリーチェの心配をするのはおこがましいのかもしれないけど、家族の心配をするのは当然だ。だからまだ力にはなれないけど、心配くらいはさせてくれよな。
リーチェを見送った後は、遠征の荷物を持って冒険者ギルドへ移動する。遠征前に冒険者ギルドに寄ったのは、ポータルで帰宅するフラッタを見送る為だ。
フラッタを送った後は、そのままマグエルを出て遠征に出発だ。
「まったく、此度の訪問は、まっこと刺激的だったのじゃ。のう? ダンよ」
「うちに嫁げばあんなの日常だ。今から覚悟しとけ。俺以外の男にフラッタを渡すつもりはないからな」
「まだ言うかおぬしはっ! それだと逆に訪問し辛くなろうがっ! ったく。節度を持つのじゃ節度をっ! ではなっ!」
ツンツンした態度で、フラッタがポータルの先に消えていった。
流石にフラッタ(大破)からフラッタ(小破)くらいになってたから、家に帰るくらいは心配ないだろう。
……ないよな?
フラッタを見送った俺たちは、その足でマグエルの出口に向かって歩き出す。
「いやぁ嵐のような3日間でしたねぇ。フラッタはもう陥落済みって感じですけど、リーチェは流石に大人という感じで余裕がありますね」
「フラッタちゃん、来た時はただの好意だったでしょうに、3日間で完全に落とされちゃいましたねぇ。でもフラッタちゃんの場合は自業自得感が強すぎますよね? 自分から罠に飛び込んだような」
「主人の事を罠扱いしないでくれるぅ?」
口調だけ丁寧でも会話の内容が奴隷感ゼロなんだけど?
もう奴隷として振舞う気あんまりないだろ2人とも。個人的には嬉しいけど。
「期待してるとこ悪いけど、あの2人を嫁に迎えるのはそう簡単じゃないよ。誰にも渡してやる気はないけど、手に入れる自信があるわけじゃないかな」
自信がないどころじゃない。正直言えば絶望的だ。
既に婚約者のいるフラッタは、グズグズしてると他の男の手に渡ってしまう。
そんなの絶対に許せないけど、その為にクリアするイベントの難易度が高すぎて、頭を抱えたくなるよぉ。
リーチェに至ってはイベントの全容すら見えてこない。間もなく配信予定、Coming Soonとだけ表示されてるような感覚だよまったく。
「ご主人様こそ何を言ってるんですか? 私の呪いを解く方法なんて未だに分かってないのに、自分がこの世界で生きていける保証もないのに、それでも私の手を取ったのは貴方ですよ?」
あの時はどうかしてたんだって。
ニーナをひと目見てどうかしちゃったんだよ、あの時の俺は。
「嫁に迎えるのは簡単じゃない、なんて笑っちゃいますよ? 全部無視してもらっちゃうくせに」
「ほんとですよ。私の時なんて、ティムルの事情を聞く気はないなんてきっぱり拒絶してた癖に。フラッタちゃんもリーチェも自分の女にすると決めた以上は、もう止まる気もないでしょうに」
ニーナとティムルが抜群の連携を発揮して、俺の過去の言動を挙げ連ねてくる。
あーこれか。パーティ内の男女比が女性のほうが多くなると、男性側の肩身が狭くなるって奴。
女の敵は女とか嘘だろ。女の味方は女、の間違いじゃね?
敵対してギスギス過ごされたいわけじゃないから、女の味方は女でいいんだけどね。俺をディスることで2人が仲良く過ごせるなら、まぁいいか?
「2人の信頼に応えられるように、全力で強くなって、さっさとあの2人を迎えることにするよ」
ニーナとティムルの言葉は俺への信頼と愛情の証だ。
だから2人の言葉を否定せずに、2人の信頼に裏切らないよう頑張るしかない。
「しっかしたった1人でこの世界に来て、ニーナと一緒になって、ティムルと一緒になって、フラッタとリーチェとも仲良くなって。教会のみんなもいて、なんだかあの広い家が少しずつ狭くなるみたいで楽しいよな」
「あは。そうですね。あの家広すぎましたものね」
ニーナが最高の笑顔で同意してくれる。
そう言えばあの家に決めたのは、ニーナの強い希望があったからだったね。
「ステイルークでご主人様のモノになると決めた時、私は生涯ご主人様と2人で生きていくのだと、それでも幸せすぎると思っていたのですけどねぇ……」
ステイルークで過ごした日々を、マグエルに辿り着くまでの旅を思い出しているのか、遠くを見るような目をしながら語るニーナ。
「いつの間にかティムルが押しかけてきて、フラッタが押しかけてきて、リーチェが押しかけてきて、……ってあれ? ご主人様の周りって、みんな押しかけてきてないですか?」
ニーナの指摘に心当たりしかなくて微妙な気持ちになる。
おかしいなぁ? 確かにティムルにもフラッタにもリーチェにも、押しかけられた記憶しかない。
「ああ、ある意味私も押しかけたことになるのですかね? ご主人様が泊まっていた宿に後から合流して、世話役を押し付けられて、ですものね」
「あっはっは! モテモテだったんですねご主人様は。私は振り返ってみると、うん、押しかけた以外の何者でもなかったですねっ」
おかしくて仕方が無いように声をあげて笑うティムル。
ティムルは完全に押しかけてきたよなぁ。アッチンの宿からずっと、夕食に混ざってきやがってたもんね。
「でもあの時はご主人様を好きだったというよりは、ご主人様とニーナちゃんに混ぜてもらいたかったって感じでしたかねぇ?」
うん。俺がモテモテなんて言われてもピンとこないけど、ニーナの影響もあると言われれば納得するかな。フラッタなんかニーナに懐きまくってるもんね。
まぁあれはニーナが懐柔されてるだけとも言う。
ニーナとフラッタって、どっちが懐柔されてんのか俺にも分からないんだよなぁ。
「どっかのクソジジイみたいに、嫁ばっかり何人も増やすのもどうかとは思うんだけどさ」
複数の女性を愛することを不誠実だなんてもう思わない。
俺はニーナとティムル、フラッタとリーチェたちと一緒に、ただ楽しく笑って生きていければそれでいい。
「ニーナと出会ってこの世界で生きていく覚悟が決まって、ティムルと出会ってマグエルでの生活が整って、教会のみんなのおかげで家の周りが賑やかになって、フラッタに出会って稽古をつけてもらって、リーチェに出会って……」
……あれ? アイツと出会ってからは別に何も無い?
「……まぁ、人と出会うごとに世界が広がっていく感じだよ」
リーチェと出会ったから……、フラッタとリーチェのおっぱいを弄り倒せた?
そう考えるとリーチェが1番影響がでかいとも言えるなっ。リーチェのおっぱいのようにっ。
俺の言葉を聞いたニーナとティムルは、うんうんと頷きながら嬉しそうに微笑んでくれた。ああもう2人とも可愛すぎるよぉ。
「私にとってはご主人様との出会いが、まさに世界の広がりそのものでしたよ。そしてそれは今も広がり続けていると感じます。本当に私は幸せ者です」
「私にとって2人との出会いは……、憧れ、でしたかね? 商人として生きてきて、それなりに世界中を渡り歩いたつもりでいましたが、2人の姿はこの世界で初めて見るもののように映りました」
2人の言葉がこそばゆい。
俺なんかそんな大したもんじゃないんだけどねぇ。
大した者じゃなくて、幸せ者だ。ニーナより絶対俺のほうが幸せ者でしょ。
ニーナとティムルの存在が、歩み続ける力をくれる。
フラッタとリーチェの存在が、腕を伸ばし続ける原動力になる。
さぁもっともっと強くなる為に。今日も元気に遠征を始めますかねぇっ!
因果応報、自業自得、ご恩と奉公? なんか全部違くね?
弛緩しきった体に鞭打って、愛してくれた2人に全力で愛情を返した。
ニーナとティムルに愛情を注がれて、もう俺の体の中は愛ではち切れそうだ。どれだけ2人に愛情を注いでも、注いだ以上の愛情で返される。
昨日よりもっと2人のことが大好きになって、今までで1番の愛情を全力で伝えても、2人はあっさりとそれ以上の愛情で応えてくれる。
女の人って凄いなぁ。もう存在全体が愛の塊みたいだ。きっと一生、彼女達には敵わない。
気がつくと辺りが明るい。今までだって夜通し愛し合ったことはあったけれど、ここまで没頭したことはなかった気がする。
昨晩は本当にずっと3人で愛を伝え合った。きっと2日間押さえ込まれた反動で、とにかく相手に好きだと伝えたかったんだよなぁ、多分みんなが。
おかげさまで睡眠時間は足りてないけど、睡眠不足は全く感じない。体の中に気力が漲りはち切れそうなくらいだ。
いつもより早く目覚めたニーナとキスをする。
家では毎日交わしていたのに、今回は全然キスをする機会がなかった。だからこの3日間を取り返すように、俺からも積極的に舌を絡めた。
いつもより大分長いおはようのキス。どれだけ続けてももっとしたくなってしまう。だけど時間は待ってはくれない。このまま永遠にキスし続けるわけにはいかないのだ。くそう。
ニーナに続いてティムルともキスをする。
いつもは恐る恐るのティムルも、今日に限っては凄く積極的だった。なんだかんだ言ってティムルも寂しかったのかな?
俺も寂しかった。だからその分を少しでも取り返そう。今回はティムルにいっぱいお世話になった。ありがとう、大好きだよ。
2人との目覚めのキスを済ませた俺は、ベッドから下りて身支度を始める。
今日は遠征に出発する予定だ。あまりのんびりはしていられない。
毎回キスでメロメロになるティムルは身支度に少しだけ時間がかかる。
先に身支度を終えた俺は、ティムルとキスをしている間に身支度を整えたニーナを後ろから抱きしめながら、ティムルの支度が整うのを待った。
「ねぇダン……」
「ん? んんっ」
抱きしめているニーナに呼ばれたので下を向くと、待ってましたと口を塞がれる。
珍しいなぁ。普段は大人しく待ってるのに。ニーナとのキスは大歓迎だけどね?
というか、ニーナは些細な事でもティムルより優遇されるような行為を嫌う。
だから目覚めのキスの後はいつも大人しく待っているのに、今日は少しでも俺とキスしたいようだ。俺もずっとキスしていたい。大好きなニーナと1秒だって離れたくない。
身支度を終えたティムルともキスを……、キリがないので少し短めのキスを交わして寝室を出る。
いつも寝室を出るのは大変な気がするけど、今日は特に大変だった気がするなぁ。
やっぱり今回は、2人を構い足りなかったよねぇ。遠征から帰ってきたら、丸々2日くらいは家に篭ろうかな?
「おはようみんな。……どうやら楽しめたようでなによりさ」
「混ざりたくなったらいつでも来い。歓迎するよ」
リーチェと朝の挨拶代わりの軽口を叩き合う。
食堂にはフラッタとリーチェが待機していた。
先に起きてるなら食事の用意とかして欲しいんだけど、コイツらにそれを期待するのは無理だもんなぁ。
ニーナとティムルと3人で手早く朝食を用意する。
朝食の配膳が済んだら遠征の予定について、改めてリーチェとフラッタにも共有しておく。
「今後は12日間遠征、3日休息日の、毎月2回遠征のペースで行こうと思うんだ」
少なくとも年内はね。今の俺達の実力ではこのくらいが限界だろう。
来年の予定はまだちょっと分からないな。状況が変わる可能性もあるし。
「リーチェも俺達の予定に合わせてちゃんと顔出せよ? フラッタも遊びに来るなら日程確認するようにな。嫁に来るなら2人ともいつでも歓迎だ」
「うん。日程は了解したよ。嫁にはいけないけど今まで通り過ごさせてもらうと嬉しい。この家が好きなのは本当だからね」
嫁には行けないけどこの家は好きだと語るリーチェ。
もう昨日のように取り乱している様子はない。なんだかスッキリ感じるくらいにいつものリーチェに戻っている。
「あれだけ邪険に扱いおったくせに、ずいぶんとグイグイくるのじゃなぁ? 同衾を嫌がっていたのが嘘のようじゃぞ?」
「ああ。嫁に来たら好きなだけ同衾してやるから遠慮すんなよ。あ、でも多分嫁に来ても邪険には扱うよ?」
「なんでなのじゃ! そこは嘘でも大切にするのじゃっ!」
落ち着いたリーチェとは対照的に、コロコロと感情を変えるフラッタ。
いつもの毅然とした態度よりも幼さの残るこの振る舞いのほうが本当のフラッタのなのかもしれない。
心配するなフラッタ。邪険には扱うけど大切にも扱うって。でもどれだけ大切に想っても多分邪険に扱っちゃうと思うんだ、ごめんな。
「私の時もそうでしたけど、踏み込むと決めたら遠慮しませんからねぇ。次に寝るときはもう少し余裕があるように、寝具を新しくしておきますね」
「そうですよねぇ。それまでは散々渋って踏み込まないくせに、いざとなったらもう目の前に居るんですもの。早速寝具を注文しに行きましょう」
俺と客人2人の会話を聞いて、ニーナとティムルはベッドの買い替えを検討しているようだ。2人とも気が早いなぁ。
確かに俺も早く2人をもらってやりたいけど、2人をもらうには俺の実力が足りてないのに。
フラッタはシルヴァの件を片付けなきゃいけないだろうし、リーチェに至っては問題の片鱗すら分からない。
鑑定すれば見えるかもしれないけど、見えてもどうせ解決できない。
今の俺にはまだ、リーチェの事情を見る資格すら無いんだ。
「とりあえずシルヴァの足取りを追いながらも、マルドック商会とネプトゥコの領主とその周囲を洗い直してみるよ。依頼人のことは疑いたくないけど……、状況次第かな」
「無理はするなよ? マジで領主関与の証拠を掴んで依頼達成、でお茶を濁すのも全然ありだと思う。巨悪を暴くなんてこと、出来ればして欲しくないなぁ」
「心配しないで。僕だってこの家に帰ってこれなくなるような事態は避けたいからね。深追いはしない。約束するよ。それじゃ、いってきます」
「ああ、いってらっしゃい。気をつけてな」
いってきます。いってらっしゃい。
この挨拶がリーチェがこの場所を家だと思っていて、俺達の事を家族だと思ってくれている証拠、っていうのは虫が良すぎかねぇ?
俺なんかがリーチェの心配をするのはおこがましいのかもしれないけど、家族の心配をするのは当然だ。だからまだ力にはなれないけど、心配くらいはさせてくれよな。
リーチェを見送った後は、遠征の荷物を持って冒険者ギルドへ移動する。遠征前に冒険者ギルドに寄ったのは、ポータルで帰宅するフラッタを見送る為だ。
フラッタを送った後は、そのままマグエルを出て遠征に出発だ。
「まったく、此度の訪問は、まっこと刺激的だったのじゃ。のう? ダンよ」
「うちに嫁げばあんなの日常だ。今から覚悟しとけ。俺以外の男にフラッタを渡すつもりはないからな」
「まだ言うかおぬしはっ! それだと逆に訪問し辛くなろうがっ! ったく。節度を持つのじゃ節度をっ! ではなっ!」
ツンツンした態度で、フラッタがポータルの先に消えていった。
流石にフラッタ(大破)からフラッタ(小破)くらいになってたから、家に帰るくらいは心配ないだろう。
……ないよな?
フラッタを見送った俺たちは、その足でマグエルの出口に向かって歩き出す。
「いやぁ嵐のような3日間でしたねぇ。フラッタはもう陥落済みって感じですけど、リーチェは流石に大人という感じで余裕がありますね」
「フラッタちゃん、来た時はただの好意だったでしょうに、3日間で完全に落とされちゃいましたねぇ。でもフラッタちゃんの場合は自業自得感が強すぎますよね? 自分から罠に飛び込んだような」
「主人の事を罠扱いしないでくれるぅ?」
口調だけ丁寧でも会話の内容が奴隷感ゼロなんだけど?
もう奴隷として振舞う気あんまりないだろ2人とも。個人的には嬉しいけど。
「期待してるとこ悪いけど、あの2人を嫁に迎えるのはそう簡単じゃないよ。誰にも渡してやる気はないけど、手に入れる自信があるわけじゃないかな」
自信がないどころじゃない。正直言えば絶望的だ。
既に婚約者のいるフラッタは、グズグズしてると他の男の手に渡ってしまう。
そんなの絶対に許せないけど、その為にクリアするイベントの難易度が高すぎて、頭を抱えたくなるよぉ。
リーチェに至ってはイベントの全容すら見えてこない。間もなく配信予定、Coming Soonとだけ表示されてるような感覚だよまったく。
「ご主人様こそ何を言ってるんですか? 私の呪いを解く方法なんて未だに分かってないのに、自分がこの世界で生きていける保証もないのに、それでも私の手を取ったのは貴方ですよ?」
あの時はどうかしてたんだって。
ニーナをひと目見てどうかしちゃったんだよ、あの時の俺は。
「嫁に迎えるのは簡単じゃない、なんて笑っちゃいますよ? 全部無視してもらっちゃうくせに」
「ほんとですよ。私の時なんて、ティムルの事情を聞く気はないなんてきっぱり拒絶してた癖に。フラッタちゃんもリーチェも自分の女にすると決めた以上は、もう止まる気もないでしょうに」
ニーナとティムルが抜群の連携を発揮して、俺の過去の言動を挙げ連ねてくる。
あーこれか。パーティ内の男女比が女性のほうが多くなると、男性側の肩身が狭くなるって奴。
女の敵は女とか嘘だろ。女の味方は女、の間違いじゃね?
敵対してギスギス過ごされたいわけじゃないから、女の味方は女でいいんだけどね。俺をディスることで2人が仲良く過ごせるなら、まぁいいか?
「2人の信頼に応えられるように、全力で強くなって、さっさとあの2人を迎えることにするよ」
ニーナとティムルの言葉は俺への信頼と愛情の証だ。
だから2人の言葉を否定せずに、2人の信頼に裏切らないよう頑張るしかない。
「しっかしたった1人でこの世界に来て、ニーナと一緒になって、ティムルと一緒になって、フラッタとリーチェとも仲良くなって。教会のみんなもいて、なんだかあの広い家が少しずつ狭くなるみたいで楽しいよな」
「あは。そうですね。あの家広すぎましたものね」
ニーナが最高の笑顔で同意してくれる。
そう言えばあの家に決めたのは、ニーナの強い希望があったからだったね。
「ステイルークでご主人様のモノになると決めた時、私は生涯ご主人様と2人で生きていくのだと、それでも幸せすぎると思っていたのですけどねぇ……」
ステイルークで過ごした日々を、マグエルに辿り着くまでの旅を思い出しているのか、遠くを見るような目をしながら語るニーナ。
「いつの間にかティムルが押しかけてきて、フラッタが押しかけてきて、リーチェが押しかけてきて、……ってあれ? ご主人様の周りって、みんな押しかけてきてないですか?」
ニーナの指摘に心当たりしかなくて微妙な気持ちになる。
おかしいなぁ? 確かにティムルにもフラッタにもリーチェにも、押しかけられた記憶しかない。
「ああ、ある意味私も押しかけたことになるのですかね? ご主人様が泊まっていた宿に後から合流して、世話役を押し付けられて、ですものね」
「あっはっは! モテモテだったんですねご主人様は。私は振り返ってみると、うん、押しかけた以外の何者でもなかったですねっ」
おかしくて仕方が無いように声をあげて笑うティムル。
ティムルは完全に押しかけてきたよなぁ。アッチンの宿からずっと、夕食に混ざってきやがってたもんね。
「でもあの時はご主人様を好きだったというよりは、ご主人様とニーナちゃんに混ぜてもらいたかったって感じでしたかねぇ?」
うん。俺がモテモテなんて言われてもピンとこないけど、ニーナの影響もあると言われれば納得するかな。フラッタなんかニーナに懐きまくってるもんね。
まぁあれはニーナが懐柔されてるだけとも言う。
ニーナとフラッタって、どっちが懐柔されてんのか俺にも分からないんだよなぁ。
「どっかのクソジジイみたいに、嫁ばっかり何人も増やすのもどうかとは思うんだけどさ」
複数の女性を愛することを不誠実だなんてもう思わない。
俺はニーナとティムル、フラッタとリーチェたちと一緒に、ただ楽しく笑って生きていければそれでいい。
「ニーナと出会ってこの世界で生きていく覚悟が決まって、ティムルと出会ってマグエルでの生活が整って、教会のみんなのおかげで家の周りが賑やかになって、フラッタに出会って稽古をつけてもらって、リーチェに出会って……」
……あれ? アイツと出会ってからは別に何も無い?
「……まぁ、人と出会うごとに世界が広がっていく感じだよ」
リーチェと出会ったから……、フラッタとリーチェのおっぱいを弄り倒せた?
そう考えるとリーチェが1番影響がでかいとも言えるなっ。リーチェのおっぱいのようにっ。
俺の言葉を聞いたニーナとティムルは、うんうんと頷きながら嬉しそうに微笑んでくれた。ああもう2人とも可愛すぎるよぉ。
「私にとってはご主人様との出会いが、まさに世界の広がりそのものでしたよ。そしてそれは今も広がり続けていると感じます。本当に私は幸せ者です」
「私にとって2人との出会いは……、憧れ、でしたかね? 商人として生きてきて、それなりに世界中を渡り歩いたつもりでいましたが、2人の姿はこの世界で初めて見るもののように映りました」
2人の言葉がこそばゆい。
俺なんかそんな大したもんじゃないんだけどねぇ。
大した者じゃなくて、幸せ者だ。ニーナより絶対俺のほうが幸せ者でしょ。
ニーナとティムルの存在が、歩み続ける力をくれる。
フラッタとリーチェの存在が、腕を伸ばし続ける原動力になる。
さぁもっともっと強くなる為に。今日も元気に遠征を始めますかねぇっ!
11
お気に入りに追加
1,820
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜
水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。
その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。
危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。
彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。
初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。
そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。
警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。
これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる