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2章 強さを求めて1 3人の日々
061 花壇と菜園 (改)
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ニーナとティムルと激しく交戦して、力尽きるように眠った翌日。今日も依頼に旅立つリーチェを玄関先まで見送る。
「いってらっしゃい。気をつけてな」
「うん。早く依頼を終わらせてこの家でのんびり過ごしたいよ。それじゃ行ってくる」
苦笑いを浮かべて軽く手を振りながらリーチェは転移していった。
……なんかこれ、微妙じゃない? 俺とリーチェが夫婦みたいなやりとりしてね? しかもリーチェが旦那で俺が妻役だよな。セリフ的に。
リーチェを送った後は我が家の庭で、少しの間ニーナとティムルと3人で手合わせをする。一応言っておくが夜の手合わせではない。
対人戦はHP補正が無いので、事故が起こらないように木製の武器に更に布まで巻き、防具は全て着用の上で手合わせを行った。
2人の体に傷はつけたくないけど、本気でやらないと稽古にならない。心を鬼にして木剣を構える。
「せいっ」「はぁっ」「やぁっ」
俺達の声と、木剣がぶつかり合う音が響き渡る。
手合わせの形式は実戦と同じで、俺vsニーナ&ティムルのペアだ。
実際に自分が対峙してみると、2人はなかなかにバランスの取れたペアのように思えた。
すっかり盾の扱いにも慣れて、正面からの俺の斬撃など悠々といなしてしまうニーナ。体勢の崩れた俺に反撃を仕掛けてくるが、そこは俺も盾持ち、問題なく対応する。
しかしそうしてニーナだけに対応していると、視界と意識の外からティムルがダガー二刀流で襲い掛かって来るのだ。そしてティムルには、戦闘職じゃないのに国中を行商して歩けるほどの戦闘技術がある。片手間で捌くのは難しい相手だ。
今の俺にはこの2人を崩すのはかなり難しい。でもだからこそ訓練になる。
ニーナに気を取られティムルに切り付けられる。ティムルに意識を割くとそれを決して見逃さずにニーナが攻勢に出る。
息の合った2人の動きに翻弄されて、結局手合わせを終えるまでに2人を崩すことは出来なかった。俺の完全敗北です。
「2人とも強いね。凄い安定感だったよ。これなら次回の遠征も心配要らないと思う」
稽古なのでちゃんと手合わせした感想を2人に告げる。でもなんか負けた俺が言うセリフじゃないよなぁ? 俺ももっと強くならないと。
「でも負けっぱなしは悔しいからさ。次は突破してみせるよ」
「手合わせありがとうございました。でもご主人様。褒めてもらえるのは嬉しいんですけど、いくらなんでも手加減しすぎですよ?」
ニーナの言葉にキョトンとしてしまう。
へ? 終始全力でやってましたけど……?
も、もしかして、手加減したと思われたくらいに俺が弱かったということかっ……!?
「あはーっ。その様子だと、本気で自覚が無いんですねぇ」
ティムルがしょうがないなぁと言わんばかりの苦笑いを浮かべて説明してくれる。
「ご主人様がニーナちゃんに切りかかる時、毎回剣が止まってましたよ? 1度の例外も無くです」
「……はぁ? いやそんなはずないでしょ? 現に盾でいなされてたし……?」
「はい。盾に当たる場合だけご主人様は武器を振られていたんですよ。ふふ、まさか無自覚だったとは思いませんでした」
え、ええ……? マジかよ俺ぇ……。
本気でやらないと稽古にならないっ。キリッとか擬音が出そうなこと言っちゃったのにっ。
本気でやらないと稽古にならない。なのに無意識で剣を止めてたとか、恥ずかしいってレベルじゃないんですけどぉ?
頭を抱える俺に反して、ニーナとティムルは機嫌良さそうにニコニコと笑顔を浮かべている。
「おかげで怪我もなく手合わせが終えられてホッとしていますよ。私たちをご主人様の手で怪我させるわけにはいきませんからね」
「ですねぇ。自分の怪我より、私とニーナちゃんが怪我する方が良く効きそうですもの」
そりゃあ2人は俺の宝物ですから。自分の手で傷をつけようものならどれほど落ち込むか分かったものじゃないよ?
しかし……、そんな感じだったのかぁ。全く気付かなかったよ。
「これでも野盗とか殺してきたし、対人戦には慣れてると自分では思ってたんだけどなぁ。2人の稽古になってなかったらごめんね?」
「いえ、稽古にはなりましたよ。お手合わせありがとうございました。いつも大切にしてもらって、本当にありがとうございます」
「私の事も、購入していただいてまだ日も浅いのに、まさか無意識で剣が止まるほど想ってもらっているとは思いませんでした。これからもよろしくお願いしますねっ」
ニッコニコの2人を見ると、負けた悔しさもどっかいっちゃったよ、まったくもう。
……はぁ。参りました。降参。お手上げですよ。2人には敵いません。
3人での朝稽古の後は、コットン率いる教会園芸隊が我が家に到着した。今日から早速花壇と畑作りがスタートするのだ。ちょっとワクワクするな?
しかしいきなり花壇も畑も作ることは出来ない。花壇作りにしても家庭菜園を作るにしても、まずやるべきは整地。次に土作りだ。
まずはみんなで畑と花壇予定地の小石や雑草を丁寧に排除。それが出来たら農具を使ってザクザクと土を耕していく。
農具は装備品と違って銀貨で買える。安い物なら1000リーフもあれば買えたので、ある程度数を揃えることができた。
農具や調理器具と違って装備品が高い理由は、『装備品であるから』という理由らしい。
包丁のような調理器具、ノコギリなどの工具、鍬などの農具など、使い様によっては武器として扱えるのでは? と思うところだけれど、そこで立ち塞がるのがこの世界のバトルシステムなのだ。
『装備品』として分類されないものには職業補正が適用されない。つまり魔物との戦いに用いる事が出来ないというわけだ。
『装備品』は魔物と戦うための専用アイテム。だからその分お高い。そういうことらしいね。
みんなで地面を耕し、我が家の庭の土も始めよりかなり柔らかくなった。少しずつではあるけど、畑や花壇らしくなってきた気がするねっ?
でもこのまま作物を植えてもあまり成長は見込めない。植物の生育には栄養のある土が必要なのだ。
子供たちもニーナも、流石に土作りの経験も知識もない。俺だって農業の知識なんて皆無だ。
「以前の職場では食料品も扱っていましたからね。農家の方とお話しする機会もありました」
だがそこはベテラン行商人のティムルが解決策を提案してくれた。
「マグエル近郊の農家では、どうやらスポットから土を持ってきているケースが多いようですよ。スポットの魔力が宿った土は、植物の成長を助けてくれるのだそうです」
異世界ナイスゥ! 科学技術がない代わりに、魔力的な研究は色々進んでいるらしい素晴らしい。
「スポット内であれば、入り口付近のものでも効果が見込めるらしいので……。ご主人様、あとで一緒に取りに行きませんか?」
スポットの土を持ってくるのはいいけど、なんで俺を指名したのティムル?
……ってそうか。ポータルが使える上に行商人でもあるからか。好色家をつけっぱなしだったから、行商人もポータルもすっかり忘れてたよ。
問題はどっちも育成が終わってないから、移動魔法の為に冒険者に転職したら土が重過ぎるってことだなぁ。
……ま、そのくらいなら仕方ないか。
「魔力の含有量が高いほど効果は高いそうなので、奥地の土のほうが効果は高いらしいですけど、素人の私達の手には余る代物でしょう」
「つまり入り口付近の土で良いのか。なら今からちょっと行ってこようかな。2人とも留守を宜しくね」
「いえ、私も連れていってください。1度の運搬量が相当変わってくるでしょうから」
ティムルが自分も連れていけと立候補してくる。
考えてみたら別に1人で行かなきゃダメなわけじゃないのか。ならお願いするとしよう。
「了解。一緒に行こうか。……ごめんねニーナ。留守番をお願い」
「分かりました。私としても遠征前にある程度形にしておきたい所ですし、よろしくお願いしますね」
ニーナは特に気にした風も無く笑顔で送り出してくれる。
う~ん、こうやって忘れた頃に呪いの存在を突きつけられるのが腹立つよぉ、くっそぉ。
この前だってネプトゥコにも連れていけなかったし……、絶対に解呪してやるからなぁ?
職業設定を使用し好色家から冒険者に変更。早速ポータルを使用してスポットの入り口に出る。
最近良く体験する移動魔法のあまりの便利さに、胸の辺りがムカムカと傷む。
……ニーナはこれが全て封じられてるんだな。
「ご主人様。すぐに始めましょう」
移動阻害の呪いにムカムカしていると、早く始めようとティムルが俺を急かしてくる。呆けてる場合じゃなかったな。
「入り口付近は魔物と会う心配も少ないとは思いますけど、決して油断しないでくださいね」
「了解。ニーナたちが待ってる。早く終わらせようか」
子供たちもいるとは言え、今はニーナを1人にしてしまっている状態だ。早いとこ帰ろう。
スポット内の土を掘り、リュックの中に詰めていく。
作業中は幸いにも魔物に襲われる事はなかったけど、ティムルには驚かされてしまった。
行商人がLVMAXになったおかげで所持アイテム重量軽減スキルの効果も増したんだろうけど、土が入った大型リュックを4つほど軽々持ち上げる姿は、痴話喧嘩で簡単に撲殺される俺の姿を容易に想像させた。
だ、大丈夫。け、喧嘩なんてする気ないし……?
ティムルと2人で持てるだけの土を背負って、ポータルで自宅に戻る。
自宅に戻ったらなんとなくニーナの頭を撫でておく。独りにさせてごめんね。
きょとんとするニーナが可愛い。気にしない気にしない。俺が撫でたいだけなんだ。
ニーナをなでなでしたあと早速スポットの土を撒いてみたけど、相当量運んだつもりだったのにギリギリ花壇分に足りた程度の料しかなかった。
こ、これは……。畑の分を考えるのが嫌になりますねぇ……。
その後も3回ほどティムルと土を運搬して、ちょっと畑の下地は出来たかな? というところで魔力枯渇の兆候が現れ始めた。
あれすげぇきつかったので無理はしない。続きは明日だ。
畑と花壇に撒いたスポットの土を手に取りながら、ニーナが感心したように呟いた。
「今まで気にしたことがなかったですけど、スポットの土ってフカフカしてたんですねぇ」
「歩いた感じだと、踏ん張りも利く硬い地面って感じなのにねぇ。ほんとこのせ……、スポットって不思議だよ」
危ない。口が滑りかけた。どうやら土の運搬で思った以上に疲れてしまっている模様。
魔力枯渇が出かけたために1人休憩していると、花壇の方から人が引いていくのが分かった。
花壇のほうは大体完成したのかな? もうニーナとコットンで種も蒔いてしまったみたいだし。
新しい職業を得られるかもしれないから、種まきはちょっと参加してみたかったなぁ。ま、畑のほうで体験すればいっか。
やがて日没になり、この日の作業は終了した。
花壇の方はもうほぼ手を入れるところは無いとのことなので、明日は畑用の土運びの続きを頑張らないとな。
日中は農作業で気持ちよく汗をかいたので、夜は寝室で適度な激しい運動を繰り返して、これでもかとこれでもかと、これでいいのかこれがいいのかと、徹底的に英気を養った。
職業とは関係ないところで好色家として成長した気がするぜっ。2人とも大好きだよっ!
翌朝。日課の唾液交換をたっぷりねっとり楽しんで、出勤するリーチェを送り出してから、まずは稽古の前にティムルと一緒に土の運搬作業を済ませる。
魔力は自然回復するので、先に消費しておきたかったのよね。
魔力枯渇が起きかけた頃にコットン率いる教会部隊とも合流し、今日もみんなで畑作りを開始する。
まだ畑に必要量の土の運搬は完了していないけれど、土が足りている場所から順次種まきを始めている。俺も手伝わせてもらったけど、流石に職業は増えなかった。残念。
魔力が回復する度にスポットに土を採りに行き、最早何回往復したのかも良く分からなくなった時、珍しくコットンから声をかけられる。
「も、もう充分だと思います……。その、あ、ありがとうございましたっ……!」
それだけ言って、コットンはニーナのところに走って戻っていってしまった。人見知りのコットンにしちゃあ頑張った方かな?
今回の休暇中は庭のほうにかかりっきりで、風呂場建設計画を進める事はできなかったなぁ、心の底から残念だ。
花壇も家庭菜園も時間がかかるし、教会のみんなとも関わってくる事だから、ちょっと後回しにしにくかったんだよねぇ。
「ダン、ありがとう。おかげで立派な花壇が出来たのっ」
「お疲れダン。頑張った人にはご褒美をあげなくっちゃいけないわねぇ?」
この日の夜は、頑張って良かったと心から思えるほどのご褒美を、ニーナとティムルの両方から沢山貰ってしまった。
貰って貰って貰い過ぎて、もう充分と遠慮したけど夜通しご褒美を貰い続けた。
まったく最高かよ。毎晩最高だけど?
「頑張った人にご褒美が必要なら、俺よりも2人にこそご褒美を上げないといけないね?」
貰ってばかりで終わるわけにはいかない。貰った分は倍返しだとばかりに好色家をセットし、ご褒美返しを決行する。
だって明日からまた遠征なんだもん。最後の1滴まで絞りつくさないと未練が残りそうなんだよ。
ニーナとティムルにめくるめくご褒美タイムをプレゼントしていると、ふとある考えが頭をよぎる。
……あれ? これって結局、俺がご褒美貰ってるような気がしない?
「いってらっしゃい。気をつけてな」
「うん。早く依頼を終わらせてこの家でのんびり過ごしたいよ。それじゃ行ってくる」
苦笑いを浮かべて軽く手を振りながらリーチェは転移していった。
……なんかこれ、微妙じゃない? 俺とリーチェが夫婦みたいなやりとりしてね? しかもリーチェが旦那で俺が妻役だよな。セリフ的に。
リーチェを送った後は我が家の庭で、少しの間ニーナとティムルと3人で手合わせをする。一応言っておくが夜の手合わせではない。
対人戦はHP補正が無いので、事故が起こらないように木製の武器に更に布まで巻き、防具は全て着用の上で手合わせを行った。
2人の体に傷はつけたくないけど、本気でやらないと稽古にならない。心を鬼にして木剣を構える。
「せいっ」「はぁっ」「やぁっ」
俺達の声と、木剣がぶつかり合う音が響き渡る。
手合わせの形式は実戦と同じで、俺vsニーナ&ティムルのペアだ。
実際に自分が対峙してみると、2人はなかなかにバランスの取れたペアのように思えた。
すっかり盾の扱いにも慣れて、正面からの俺の斬撃など悠々といなしてしまうニーナ。体勢の崩れた俺に反撃を仕掛けてくるが、そこは俺も盾持ち、問題なく対応する。
しかしそうしてニーナだけに対応していると、視界と意識の外からティムルがダガー二刀流で襲い掛かって来るのだ。そしてティムルには、戦闘職じゃないのに国中を行商して歩けるほどの戦闘技術がある。片手間で捌くのは難しい相手だ。
今の俺にはこの2人を崩すのはかなり難しい。でもだからこそ訓練になる。
ニーナに気を取られティムルに切り付けられる。ティムルに意識を割くとそれを決して見逃さずにニーナが攻勢に出る。
息の合った2人の動きに翻弄されて、結局手合わせを終えるまでに2人を崩すことは出来なかった。俺の完全敗北です。
「2人とも強いね。凄い安定感だったよ。これなら次回の遠征も心配要らないと思う」
稽古なのでちゃんと手合わせした感想を2人に告げる。でもなんか負けた俺が言うセリフじゃないよなぁ? 俺ももっと強くならないと。
「でも負けっぱなしは悔しいからさ。次は突破してみせるよ」
「手合わせありがとうございました。でもご主人様。褒めてもらえるのは嬉しいんですけど、いくらなんでも手加減しすぎですよ?」
ニーナの言葉にキョトンとしてしまう。
へ? 終始全力でやってましたけど……?
も、もしかして、手加減したと思われたくらいに俺が弱かったということかっ……!?
「あはーっ。その様子だと、本気で自覚が無いんですねぇ」
ティムルがしょうがないなぁと言わんばかりの苦笑いを浮かべて説明してくれる。
「ご主人様がニーナちゃんに切りかかる時、毎回剣が止まってましたよ? 1度の例外も無くです」
「……はぁ? いやそんなはずないでしょ? 現に盾でいなされてたし……?」
「はい。盾に当たる場合だけご主人様は武器を振られていたんですよ。ふふ、まさか無自覚だったとは思いませんでした」
え、ええ……? マジかよ俺ぇ……。
本気でやらないと稽古にならないっ。キリッとか擬音が出そうなこと言っちゃったのにっ。
本気でやらないと稽古にならない。なのに無意識で剣を止めてたとか、恥ずかしいってレベルじゃないんですけどぉ?
頭を抱える俺に反して、ニーナとティムルは機嫌良さそうにニコニコと笑顔を浮かべている。
「おかげで怪我もなく手合わせが終えられてホッとしていますよ。私たちをご主人様の手で怪我させるわけにはいきませんからね」
「ですねぇ。自分の怪我より、私とニーナちゃんが怪我する方が良く効きそうですもの」
そりゃあ2人は俺の宝物ですから。自分の手で傷をつけようものならどれほど落ち込むか分かったものじゃないよ?
しかし……、そんな感じだったのかぁ。全く気付かなかったよ。
「これでも野盗とか殺してきたし、対人戦には慣れてると自分では思ってたんだけどなぁ。2人の稽古になってなかったらごめんね?」
「いえ、稽古にはなりましたよ。お手合わせありがとうございました。いつも大切にしてもらって、本当にありがとうございます」
「私の事も、購入していただいてまだ日も浅いのに、まさか無意識で剣が止まるほど想ってもらっているとは思いませんでした。これからもよろしくお願いしますねっ」
ニッコニコの2人を見ると、負けた悔しさもどっかいっちゃったよ、まったくもう。
……はぁ。参りました。降参。お手上げですよ。2人には敵いません。
3人での朝稽古の後は、コットン率いる教会園芸隊が我が家に到着した。今日から早速花壇と畑作りがスタートするのだ。ちょっとワクワクするな?
しかしいきなり花壇も畑も作ることは出来ない。花壇作りにしても家庭菜園を作るにしても、まずやるべきは整地。次に土作りだ。
まずはみんなで畑と花壇予定地の小石や雑草を丁寧に排除。それが出来たら農具を使ってザクザクと土を耕していく。
農具は装備品と違って銀貨で買える。安い物なら1000リーフもあれば買えたので、ある程度数を揃えることができた。
農具や調理器具と違って装備品が高い理由は、『装備品であるから』という理由らしい。
包丁のような調理器具、ノコギリなどの工具、鍬などの農具など、使い様によっては武器として扱えるのでは? と思うところだけれど、そこで立ち塞がるのがこの世界のバトルシステムなのだ。
『装備品』として分類されないものには職業補正が適用されない。つまり魔物との戦いに用いる事が出来ないというわけだ。
『装備品』は魔物と戦うための専用アイテム。だからその分お高い。そういうことらしいね。
みんなで地面を耕し、我が家の庭の土も始めよりかなり柔らかくなった。少しずつではあるけど、畑や花壇らしくなってきた気がするねっ?
でもこのまま作物を植えてもあまり成長は見込めない。植物の生育には栄養のある土が必要なのだ。
子供たちもニーナも、流石に土作りの経験も知識もない。俺だって農業の知識なんて皆無だ。
「以前の職場では食料品も扱っていましたからね。農家の方とお話しする機会もありました」
だがそこはベテラン行商人のティムルが解決策を提案してくれた。
「マグエル近郊の農家では、どうやらスポットから土を持ってきているケースが多いようですよ。スポットの魔力が宿った土は、植物の成長を助けてくれるのだそうです」
異世界ナイスゥ! 科学技術がない代わりに、魔力的な研究は色々進んでいるらしい素晴らしい。
「スポット内であれば、入り口付近のものでも効果が見込めるらしいので……。ご主人様、あとで一緒に取りに行きませんか?」
スポットの土を持ってくるのはいいけど、なんで俺を指名したのティムル?
……ってそうか。ポータルが使える上に行商人でもあるからか。好色家をつけっぱなしだったから、行商人もポータルもすっかり忘れてたよ。
問題はどっちも育成が終わってないから、移動魔法の為に冒険者に転職したら土が重過ぎるってことだなぁ。
……ま、そのくらいなら仕方ないか。
「魔力の含有量が高いほど効果は高いそうなので、奥地の土のほうが効果は高いらしいですけど、素人の私達の手には余る代物でしょう」
「つまり入り口付近の土で良いのか。なら今からちょっと行ってこようかな。2人とも留守を宜しくね」
「いえ、私も連れていってください。1度の運搬量が相当変わってくるでしょうから」
ティムルが自分も連れていけと立候補してくる。
考えてみたら別に1人で行かなきゃダメなわけじゃないのか。ならお願いするとしよう。
「了解。一緒に行こうか。……ごめんねニーナ。留守番をお願い」
「分かりました。私としても遠征前にある程度形にしておきたい所ですし、よろしくお願いしますね」
ニーナは特に気にした風も無く笑顔で送り出してくれる。
う~ん、こうやって忘れた頃に呪いの存在を突きつけられるのが腹立つよぉ、くっそぉ。
この前だってネプトゥコにも連れていけなかったし……、絶対に解呪してやるからなぁ?
職業設定を使用し好色家から冒険者に変更。早速ポータルを使用してスポットの入り口に出る。
最近良く体験する移動魔法のあまりの便利さに、胸の辺りがムカムカと傷む。
……ニーナはこれが全て封じられてるんだな。
「ご主人様。すぐに始めましょう」
移動阻害の呪いにムカムカしていると、早く始めようとティムルが俺を急かしてくる。呆けてる場合じゃなかったな。
「入り口付近は魔物と会う心配も少ないとは思いますけど、決して油断しないでくださいね」
「了解。ニーナたちが待ってる。早く終わらせようか」
子供たちもいるとは言え、今はニーナを1人にしてしまっている状態だ。早いとこ帰ろう。
スポット内の土を掘り、リュックの中に詰めていく。
作業中は幸いにも魔物に襲われる事はなかったけど、ティムルには驚かされてしまった。
行商人がLVMAXになったおかげで所持アイテム重量軽減スキルの効果も増したんだろうけど、土が入った大型リュックを4つほど軽々持ち上げる姿は、痴話喧嘩で簡単に撲殺される俺の姿を容易に想像させた。
だ、大丈夫。け、喧嘩なんてする気ないし……?
ティムルと2人で持てるだけの土を背負って、ポータルで自宅に戻る。
自宅に戻ったらなんとなくニーナの頭を撫でておく。独りにさせてごめんね。
きょとんとするニーナが可愛い。気にしない気にしない。俺が撫でたいだけなんだ。
ニーナをなでなでしたあと早速スポットの土を撒いてみたけど、相当量運んだつもりだったのにギリギリ花壇分に足りた程度の料しかなかった。
こ、これは……。畑の分を考えるのが嫌になりますねぇ……。
その後も3回ほどティムルと土を運搬して、ちょっと畑の下地は出来たかな? というところで魔力枯渇の兆候が現れ始めた。
あれすげぇきつかったので無理はしない。続きは明日だ。
畑と花壇に撒いたスポットの土を手に取りながら、ニーナが感心したように呟いた。
「今まで気にしたことがなかったですけど、スポットの土ってフカフカしてたんですねぇ」
「歩いた感じだと、踏ん張りも利く硬い地面って感じなのにねぇ。ほんとこのせ……、スポットって不思議だよ」
危ない。口が滑りかけた。どうやら土の運搬で思った以上に疲れてしまっている模様。
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花壇のほうは大体完成したのかな? もうニーナとコットンで種も蒔いてしまったみたいだし。
新しい職業を得られるかもしれないから、種まきはちょっと参加してみたかったなぁ。ま、畑のほうで体験すればいっか。
やがて日没になり、この日の作業は終了した。
花壇の方はもうほぼ手を入れるところは無いとのことなので、明日は畑用の土運びの続きを頑張らないとな。
日中は農作業で気持ちよく汗をかいたので、夜は寝室で適度な激しい運動を繰り返して、これでもかとこれでもかと、これでいいのかこれがいいのかと、徹底的に英気を養った。
職業とは関係ないところで好色家として成長した気がするぜっ。2人とも大好きだよっ!
翌朝。日課の唾液交換をたっぷりねっとり楽しんで、出勤するリーチェを送り出してから、まずは稽古の前にティムルと一緒に土の運搬作業を済ませる。
魔力は自然回復するので、先に消費しておきたかったのよね。
魔力枯渇が起きかけた頃にコットン率いる教会部隊とも合流し、今日もみんなで畑作りを開始する。
まだ畑に必要量の土の運搬は完了していないけれど、土が足りている場所から順次種まきを始めている。俺も手伝わせてもらったけど、流石に職業は増えなかった。残念。
魔力が回復する度にスポットに土を採りに行き、最早何回往復したのかも良く分からなくなった時、珍しくコットンから声をかけられる。
「も、もう充分だと思います……。その、あ、ありがとうございましたっ……!」
それだけ言って、コットンはニーナのところに走って戻っていってしまった。人見知りのコットンにしちゃあ頑張った方かな?
今回の休暇中は庭のほうにかかりっきりで、風呂場建設計画を進める事はできなかったなぁ、心の底から残念だ。
花壇も家庭菜園も時間がかかるし、教会のみんなとも関わってくる事だから、ちょっと後回しにしにくかったんだよねぇ。
「ダン、ありがとう。おかげで立派な花壇が出来たのっ」
「お疲れダン。頑張った人にはご褒美をあげなくっちゃいけないわねぇ?」
この日の夜は、頑張って良かったと心から思えるほどのご褒美を、ニーナとティムルの両方から沢山貰ってしまった。
貰って貰って貰い過ぎて、もう充分と遠慮したけど夜通しご褒美を貰い続けた。
まったく最高かよ。毎晩最高だけど?
「頑張った人にご褒美が必要なら、俺よりも2人にこそご褒美を上げないといけないね?」
貰ってばかりで終わるわけにはいかない。貰った分は倍返しだとばかりに好色家をセットし、ご褒美返しを決行する。
だって明日からまた遠征なんだもん。最後の1滴まで絞りつくさないと未練が残りそうなんだよ。
ニーナとティムルにめくるめくご褒美タイムをプレゼントしていると、ふとある考えが頭をよぎる。
……あれ? これって結局、俺がご褒美貰ってるような気がしない?
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孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
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