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2章 強さを求めて1 3人の日々
060 2人のキス (改)
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「ニーナもティムルも、浴室の設置には前向きなのかいっ? それは嬉しいねっ」
夕食に帰ってきたリーチェに、この家の住人全員がお風呂に前向きな姿勢を見せている事を報告すると、弾んだ声で喜んでくれた。本当に風呂好きなんだなコイツ。
「複数人で入れる大きい浴槽っていうのも悪くないね。僕はいつも1人で入浴していたし、出来たら一緒に入ろうじゃないか」
女性陣がまだ見ぬお風呂談義で盛り上がっている中、俺はちょっとひっかかってしまう。
リーチェが喜んでくれるのは良いんだけど、ちょっと待って欲しいんだ。
俺はニーナとティムルと一緒に入りたい一心でお風呂の建設を進めたいんだけど、リーチェが一緒だと混浴ってわけにはいかなくね?
女性3人がわいわいと楽しく入浴する一方で、広い浴槽に1人で浸かる俺……。
いや? 想像してみると思ったより悪くないか? 広いお風呂になんの遠慮もなく長湯できるんだよ? 手足を思い切り伸ばせる浴槽が家にあるなんて、普通に贅沢だし最高じゃないか?
うん、問題なさそうだな。問題ないならどんどん話を進めてしまおうじゃないかっ。
「この家は部屋が余ってるし、どう扱ってもいいって内容で契約してるからね。1階の1室……、または2室くらいを浴室に改装してもいいかなって思ってる」
間取りから変える様なかなり大規模な改装になるだろうから、お金も時間もかかるだろうけどねぇ。
俺の提案に、ニーナとティムルもウンウンと同意を示してくれた。
「現状はリーチェの部屋兼客室が1つで、あと3部屋は手付かずですからねぇ。2部屋潰して浴室に、残った1部屋は客室にしてもいいかもしれません。それでもまだ2階に1部屋残ってますから」
「私とニーナちゃんの部屋は要りませんから、本当に部屋余りですよね。意外と来客は多い家なので、客室を2つ用意しておくのは悪くないかもしれません」
家に居るときはニーナとティムルの2人とは大体くっついてるからね。部屋を分けるなんて発想は無いのだ。
四六時中ニーナとティムルとくっついてるけど、不思議と1人の時間が欲しいとか思う事はない。恐らく2人が俺に気を遣ってくれているのもあると思うけどね。
だけどさ。1人の時間をもらったとしても、別にやることないんだよねこの世界。ネットもテレビも無いし、読書なんて大衆向けの娯楽ではなくて、勉強の為の学術資料の側面が強いんだよなぁ。
勿論英雄譚の本とか、ある程度娯楽向けの内容の本も流通してるらしいけど、そういった本でも庶民に手が出せる金額ではないらしい。この世界には印刷機なんて無いし、本は全て人力で写本してるんだろうねぇ。
識字率も低く生活困窮者が多いこの世界で、読書は特権階級のみに許された娯楽なのだ。
他に娯楽があってもニーナとティムルに触れたいと思うだろうに、他に何の娯楽もないのでニーナとティムルに触れるしかない。他の選択肢なんて存在しないのだ。あっても選ばないけど?
娯楽の無いこの世界では、1人の時間なんて寂しく過ごすだけだろう。部屋の隅で膝を抱える俺の姿が目に浮かぶようだ。
だったら部屋を分けずに3人で一緒に寝て、3人で毎日愛し合いたいと思っても仕方ないよね。他にすることないんだもん。
夕食を食べ終えて本日の業務はこれにて終了。
今夜も他にすることがないので全力で愛し合おうじゃないかと、ニーナとティムルを連れて寝室に引っ込もうとした時、地下に下りるリーチェに対して少しだけ申し訳ない気持ちになる。
そんな俺の表情に気付いたリーチェが、あははと笑いながら両手をパタパタと振って問題ないことをアピールしてくれる。
「いや、何の不満は無いよ? 僕は普段ふらふらしてるから野宿も多いしね。思ったより暑くもないし快適なくらいさ」
ああ。コイツ1人で旅してたんだっけ。すっかりうちに馴染んでるからそんなイメージ既に無くなってたわ。
そりゃ野宿に比べれば地下室でも快適ではあるだろうなぁ。少なくとも安全は保証されてるわけだから。
「というか……。君が言ってた通り、1階じゃちょっと寝れそうにないかな。君達の邪魔もしたくないしね」
リーチェが気まずそうに視線を外しながら、ちょっとだけ赤面しつつもゴニョゴニョと訴えてくる。
済みませんね。毎晩お騒がせしております。やめないけど?
1人地下に下りていくリーチェを見送った俺達は、そのまま大人しく寝室に引っ込んで、寝室で大人気なく夜通し騒ぐことにする。
さぁ今こそ決戦の時よ。いざ参らんっ!
昼間に1度ガス抜きが出来たとは言え、10日振りの触れ合いがあの程度で終わるはずもない。
昼間以上に激化する戦い。激しく攻守が入れ替わり、どっちが攻めてどっちが受けてるのかもうよく分からないほどの混戦を極めた。
お互いがお互いを求めている事だけは確信できて、相手に応えたいと思いながらもっと強く相手を求める。お互いの想いが相手を更に昂ぶらせてしまうのだ。
そうして意識を失う頃には、自分と相手の境界線が曖昧になったような気さえしたのだった。
勝ち誇ったようなニーナとティムルの可愛い顔を見ながら、俺は自分の敗北を悟る。
やっぱり、女の子には勝てなかったよ。まさに我が人生に一片の悔い無しである。
……でも好色家を育てたらもっと続けられるのだ。悔いは無いけどまだまだ楽しみはいっぱいだ。死んでられるかこの野郎。
翌朝、俺が1番始めに目を覚ます。
やっぱり好色家の効果があったんだろうか? あれだけしたのに、なんとなく消耗が少ない気がする。
一緒に眠るニーナとティムルの寝顔を見る。ほっぺをつんつん。くすぐったそうにむにゃむにゃする2人。飽きない。楽しい。可愛い。
ニーナもティムルも、日々を過ごすほどにどんどん好きになっていく気がする。毎日もうこれ以上ないくらい好きだと思っているのに、次の日はもっと好きになっているのだから不思議だ。
いつか倦怠期とかが来て、この気持ちが冷めてしまう事もあるんだろうか? 正直信じられないな。
色恋は熱して冷めるもの。ならばいつかこの幸せな日々が終わってしまうというのか?
……終わるとしたら俺が2人に愛想尽かされた時だろうなぁ。
ティムルを迎えてから彼女に愛されてることで、なんとなくニーナに向ける愛情も大きくなっている気がする。
不思議だなぁ。2人の女性から愛を貰って、お返しできる愛情の総量が増えたみたいだ。
以前はニーナとティムルを同時に愛するなんて、どちらに対しても不誠実な浮気心だと思っていた。なのに今は本気で2人とも愛していると断言できる。浮気じゃなくて、2人とも本気だ。
というかニーナとティムルを愛する事が、俺の中ではもうイコールになってしまっている。片方だけを愛するなんて、最早出来そうもないねぇ。
「あ……。おはよう、ダン。よく眠れた……?」
「おはようニーナ。おかげさまで元気いっぱいだよ」
眠る2人のお姫様を見ていると、先にニーナが目を覚ました。
朝の挨拶を済ませたらほっぺをつついていた手を開き、手の平でニーナの頬を抱きながらキスをする。
朝のキスはニーナにとって、なにか特別な思い入れがあるのかもしれない。
俺の首に手を回し全身全霊で舌を絡ませてくるニーナは、まるでその行為で俺に忠誠を誓っているかのようだ。自分の全身全霊を捧げて、貴方に尽くしますと。
俺はそんなニーナの想いを受け止め、そして応えるように舌を絡ませる。
ニーナの儀式のようなキスが終わるまで、少しも離れないようにお互いを強く抱きしめ合った。
「っぷはぁ。ダン。大好きだよ。今日も1日宜しくね」
「うん。大好きだよニーナ。今日もよろしく」
朝一番の濃厚なキスと、お互いに好きだと伝え合えることが幸せすぎる。
って、こんなに大好きなニーナがまだ俺のお嫁さんじゃないなんて辛すぎるよぉ。
「それじゃあダン。ちゃんとティムルにも同じ事してあげてねっ」
「へーい。分かってますよぉ」
最後にもう1度、ちゅっと触れる程度のキスをしてからニーナから離れる。
そしてニーナの隣りには、これからされる事に期待で瞳を潤ませたティムルがいる。
「おはようティムル。今日もよろしく」
「お、おはンンッ」
瞳を潤ませたティムルが最高に可愛すぎて、挨拶を待たずに彼女を押し倒し、そのままティムルの口に舌を入れてしまう。
ティムルは未だに自分に自信が無く、俺に対してどう接していいのか迷っている節がある。愛の無い行為を続けさせられたティムルは、俺にどうやって愛情を伝えたらいいのか迷っているのかもしれない。
恐る恐る動かされる舌を巻き取って、あやすように絡めてしゃぶる。あやすように、ただ甘やかすように、甘やかして溶かすような動きを意識する。
ティムルが愛情の伝え方に迷うのなら、俺がティムルに愛情を伝える事で愛情の伝え方を教えればいいんだ。
愛情を伝える事にも受け取ることにも慣れていないティムルは、相手の愛を感じるともうメロメロのドロドロになる。愛情に耐性がなさ過ぎる。
経験豊富な大人の女性のハズのティムルが、受け止めきれない愛情を受け取ると、小さな女の子のように素直な反応しか返せなくなってしまう。それがまた可愛すぎるのだ。
「っふぅ。大好きだよティムル。さぁ起きようね」
「んーやだぁ。起きたくないのぉ。キス好きぃ。もっとしてぇ」
おはようのキスを終了して体を起こそうとする俺に抱きつきながら、甘ったるい声でおねだりしてくるティムルが最高に可愛い。
思わずこのまま決戦に持ち込みたくなるくらいに魅力的だけど、今の我が家の経済状況では働かないわけにもいかないのだ、くそぅ。
「ダーメ。そんな魅力的過ぎる提案されると困っちゃうよ。あんまり主人を困らせちゃダメだからね」
ティムルとも最後に軽くキスをして、断腸の想いで彼女から離れる。
ニーナともティムルとも離れると、なんとなく収まりが悪く感じられるな。もう2人とくっついてるほうが自然に思えるようになってしまったぜっ。
こんな調子じゃ、一瞬でも気を抜いたら一気に自堕落で爛れた愛欲の日々が始まりそう。なにそれ欲しい。でも我慢だっ。
最後に起きたティムルの身支度が整うまで、ニーナを抱きしめて待つことにする。寝室を1歩出れば抱きしめるのも簡単じゃないからな、可能な限り充電しておかなきゃ。
背中から俺に抱き締められているニーナは、ティムルの身支度を見ながら俺に話しかけてくる。
「なんだかなぁ。ティムルとダンがキスしてるの見て、私も嬉しいって思っちゃったの。ティムルと一緒にダンを愛せるのが嬉しいなぁって」
「……流石にそれは俺に都合良すぎて申し訳なさ過ぎるよ。2人の扱いに差はつけてないつもりだけど、そんなのは男側の都合の良い言い訳でしかないでしょ」
俺の言葉を聞いたニーナは俺の腕の中でくるりと反転してこちらを向く。その表情は不満気で、怒ったように頬を膨らませていた。
……怒った顔も最高に可愛いのってズルくないかなぁ?
「ダンさ。マグエルに来たばっかりの時、私になんて言ったか覚えてる? ニーナが他の事に目を向けるようになってくれて嬉しい、ダンはそう言ったんだよ? そのダンが、自分は私しか見なきゃダメって思うの、おかしくない?」
「いやいやっ。それは流石に矛盾してないでしょ? 俺はニーナやティムルが俺以外の男を見たら、多分許せないと思う。俺がしてるのはそういうことで……」
瞬間、唇に柔らかい感触。
ニーナが人差し指を当てて、俺の言葉を遮った。
「……まったく。ダンはほんっとにめんどくさい事ばっかり考えてるよね?」
心底呆れた様子のニーナ。
ニ、ニーナにめんどくさいって言われるの、結構堪えるなぁ……。
「ティムルと初めて会った時、貴方はティムルを拒絶した。でもティムルが窮地に立たされた時、たった1人貴方だけがティムルに手を差し伸べたの。貴方がティムルを受け入れたのは、貴方に拒絶されたらティムルに帰る場所がないって分かってからなんでしょ?」
俺の両頬を押さえて、俺と正面から向き合うニーナ。
「ダンはさ。心と頭がチグハグなんだよ。心は大切なことに一直線なんだけど、頭がそれを止めちゃうの」
まったく仕方ないなぁ、そんな声が聞こえるような苦笑いを浮かべてニーナは語り続ける。
「ダンが心に従って行動したことは、絶対に間違ってないよ。不安に思わないで。ティムルも私も、ちゃんと幸せなの」
そのとき突然背中から伝わる柔らかい感触。
身支度を済ませたティムルが、俺の後ろから抱きついていた。
「私の口からも伝えさせてね。ダン。私今すっごく幸せよ。貴方のおかげで私は幸せなの」
耳元で囁かれるティムルの声が心地いい。
うん。俺もすっごい幸せだよ。大好きな2人に抱きしめられて、愛する2人が幸せだって言ってくれるから。
「男側の都合の良い言い訳って何よ? 貴方はずっと私とは一定の距離を保ったままで、でも商会に捨てられた途端に全てぶち壊して踏み込んできてくれたんじゃない。投獄されてる私の前に、牢屋の扉を開けてまで手を差し伸べてくれたんじゃないの……」
だって、許せなかったんだ。こんなに素敵なティムルが、誰からも見捨てられて、独り不幸になっていくなんて。
そんなの絶対に間違ってるよ。
「貴方は自分の都合を全部放り投げて、私の幸せのために私を受け入れてくれたんじゃない。なのになんで貴方自身がその事実を否定するの?」
ティムル。俺はお前の為にお前を受け入れたんじゃないよ。俺がお前と一緒に生きたかったから、俺の我が侭でお前を攫いに行っただけなんだ。
そう言って反論したかったのに、俺の唇はニーナの人差し指で蓋をされたままだった。
「貴方が真剣に私に向き合ってくれたのが分かるから、私は貴方と一緒に暮らせて本当に幸せなの。貴方とニーナちゃん、2人と過ごせるのが本当に嬉しいのよ……」
前後に感じる2人の体温。
俺の言葉を否定して、俺の存在を肯定してくれる2人の言葉。
……ダメだなぁ。また2人に甘えてしまった。
浮気じゃない。本気で愛しているんだって言っても、それは言い訳だろうと、自分自身こそが信じきれていなかったのか。
「あー、ごめん2人とも。俺の前いた場所では一夫一妻が当たり前だったからさ。未だにその常識が抜けてなかったみたいだ」
ニーナの事もティムルの事も、両方愛するって決めたのになぁ。長年培ってきた常識っていうのは簡単には変わってくれないらしい。
「ありがとう2人とも。俺はもう迷わないよ。ニーナの事もティムルの事も、全身全霊で愛する。それを浮気だとか不誠実だとか迷ったりしない」
俺はもう俺の気持ちに嘘をついたりはしない。俺が好きだと思ったことを否定したりしないと決めた。
だから……。
「だからムーリさんやリーチェのおっぱいに目を奪われても、それが本気なら仕方ないよね」
「「それはダメっ」」
ちっ。勢いで押し切るのは無理だったかっ。
夕食に帰ってきたリーチェに、この家の住人全員がお風呂に前向きな姿勢を見せている事を報告すると、弾んだ声で喜んでくれた。本当に風呂好きなんだなコイツ。
「複数人で入れる大きい浴槽っていうのも悪くないね。僕はいつも1人で入浴していたし、出来たら一緒に入ろうじゃないか」
女性陣がまだ見ぬお風呂談義で盛り上がっている中、俺はちょっとひっかかってしまう。
リーチェが喜んでくれるのは良いんだけど、ちょっと待って欲しいんだ。
俺はニーナとティムルと一緒に入りたい一心でお風呂の建設を進めたいんだけど、リーチェが一緒だと混浴ってわけにはいかなくね?
女性3人がわいわいと楽しく入浴する一方で、広い浴槽に1人で浸かる俺……。
いや? 想像してみると思ったより悪くないか? 広いお風呂になんの遠慮もなく長湯できるんだよ? 手足を思い切り伸ばせる浴槽が家にあるなんて、普通に贅沢だし最高じゃないか?
うん、問題なさそうだな。問題ないならどんどん話を進めてしまおうじゃないかっ。
「この家は部屋が余ってるし、どう扱ってもいいって内容で契約してるからね。1階の1室……、または2室くらいを浴室に改装してもいいかなって思ってる」
間取りから変える様なかなり大規模な改装になるだろうから、お金も時間もかかるだろうけどねぇ。
俺の提案に、ニーナとティムルもウンウンと同意を示してくれた。
「現状はリーチェの部屋兼客室が1つで、あと3部屋は手付かずですからねぇ。2部屋潰して浴室に、残った1部屋は客室にしてもいいかもしれません。それでもまだ2階に1部屋残ってますから」
「私とニーナちゃんの部屋は要りませんから、本当に部屋余りですよね。意外と来客は多い家なので、客室を2つ用意しておくのは悪くないかもしれません」
家に居るときはニーナとティムルの2人とは大体くっついてるからね。部屋を分けるなんて発想は無いのだ。
四六時中ニーナとティムルとくっついてるけど、不思議と1人の時間が欲しいとか思う事はない。恐らく2人が俺に気を遣ってくれているのもあると思うけどね。
だけどさ。1人の時間をもらったとしても、別にやることないんだよねこの世界。ネットもテレビも無いし、読書なんて大衆向けの娯楽ではなくて、勉強の為の学術資料の側面が強いんだよなぁ。
勿論英雄譚の本とか、ある程度娯楽向けの内容の本も流通してるらしいけど、そういった本でも庶民に手が出せる金額ではないらしい。この世界には印刷機なんて無いし、本は全て人力で写本してるんだろうねぇ。
識字率も低く生活困窮者が多いこの世界で、読書は特権階級のみに許された娯楽なのだ。
他に娯楽があってもニーナとティムルに触れたいと思うだろうに、他に何の娯楽もないのでニーナとティムルに触れるしかない。他の選択肢なんて存在しないのだ。あっても選ばないけど?
娯楽の無いこの世界では、1人の時間なんて寂しく過ごすだけだろう。部屋の隅で膝を抱える俺の姿が目に浮かぶようだ。
だったら部屋を分けずに3人で一緒に寝て、3人で毎日愛し合いたいと思っても仕方ないよね。他にすることないんだもん。
夕食を食べ終えて本日の業務はこれにて終了。
今夜も他にすることがないので全力で愛し合おうじゃないかと、ニーナとティムルを連れて寝室に引っ込もうとした時、地下に下りるリーチェに対して少しだけ申し訳ない気持ちになる。
そんな俺の表情に気付いたリーチェが、あははと笑いながら両手をパタパタと振って問題ないことをアピールしてくれる。
「いや、何の不満は無いよ? 僕は普段ふらふらしてるから野宿も多いしね。思ったより暑くもないし快適なくらいさ」
ああ。コイツ1人で旅してたんだっけ。すっかりうちに馴染んでるからそんなイメージ既に無くなってたわ。
そりゃ野宿に比べれば地下室でも快適ではあるだろうなぁ。少なくとも安全は保証されてるわけだから。
「というか……。君が言ってた通り、1階じゃちょっと寝れそうにないかな。君達の邪魔もしたくないしね」
リーチェが気まずそうに視線を外しながら、ちょっとだけ赤面しつつもゴニョゴニョと訴えてくる。
済みませんね。毎晩お騒がせしております。やめないけど?
1人地下に下りていくリーチェを見送った俺達は、そのまま大人しく寝室に引っ込んで、寝室で大人気なく夜通し騒ぐことにする。
さぁ今こそ決戦の時よ。いざ参らんっ!
昼間に1度ガス抜きが出来たとは言え、10日振りの触れ合いがあの程度で終わるはずもない。
昼間以上に激化する戦い。激しく攻守が入れ替わり、どっちが攻めてどっちが受けてるのかもうよく分からないほどの混戦を極めた。
お互いがお互いを求めている事だけは確信できて、相手に応えたいと思いながらもっと強く相手を求める。お互いの想いが相手を更に昂ぶらせてしまうのだ。
そうして意識を失う頃には、自分と相手の境界線が曖昧になったような気さえしたのだった。
勝ち誇ったようなニーナとティムルの可愛い顔を見ながら、俺は自分の敗北を悟る。
やっぱり、女の子には勝てなかったよ。まさに我が人生に一片の悔い無しである。
……でも好色家を育てたらもっと続けられるのだ。悔いは無いけどまだまだ楽しみはいっぱいだ。死んでられるかこの野郎。
翌朝、俺が1番始めに目を覚ます。
やっぱり好色家の効果があったんだろうか? あれだけしたのに、なんとなく消耗が少ない気がする。
一緒に眠るニーナとティムルの寝顔を見る。ほっぺをつんつん。くすぐったそうにむにゃむにゃする2人。飽きない。楽しい。可愛い。
ニーナもティムルも、日々を過ごすほどにどんどん好きになっていく気がする。毎日もうこれ以上ないくらい好きだと思っているのに、次の日はもっと好きになっているのだから不思議だ。
いつか倦怠期とかが来て、この気持ちが冷めてしまう事もあるんだろうか? 正直信じられないな。
色恋は熱して冷めるもの。ならばいつかこの幸せな日々が終わってしまうというのか?
……終わるとしたら俺が2人に愛想尽かされた時だろうなぁ。
ティムルを迎えてから彼女に愛されてることで、なんとなくニーナに向ける愛情も大きくなっている気がする。
不思議だなぁ。2人の女性から愛を貰って、お返しできる愛情の総量が増えたみたいだ。
以前はニーナとティムルを同時に愛するなんて、どちらに対しても不誠実な浮気心だと思っていた。なのに今は本気で2人とも愛していると断言できる。浮気じゃなくて、2人とも本気だ。
というかニーナとティムルを愛する事が、俺の中ではもうイコールになってしまっている。片方だけを愛するなんて、最早出来そうもないねぇ。
「あ……。おはよう、ダン。よく眠れた……?」
「おはようニーナ。おかげさまで元気いっぱいだよ」
眠る2人のお姫様を見ていると、先にニーナが目を覚ました。
朝の挨拶を済ませたらほっぺをつついていた手を開き、手の平でニーナの頬を抱きながらキスをする。
朝のキスはニーナにとって、なにか特別な思い入れがあるのかもしれない。
俺の首に手を回し全身全霊で舌を絡ませてくるニーナは、まるでその行為で俺に忠誠を誓っているかのようだ。自分の全身全霊を捧げて、貴方に尽くしますと。
俺はそんなニーナの想いを受け止め、そして応えるように舌を絡ませる。
ニーナの儀式のようなキスが終わるまで、少しも離れないようにお互いを強く抱きしめ合った。
「っぷはぁ。ダン。大好きだよ。今日も1日宜しくね」
「うん。大好きだよニーナ。今日もよろしく」
朝一番の濃厚なキスと、お互いに好きだと伝え合えることが幸せすぎる。
って、こんなに大好きなニーナがまだ俺のお嫁さんじゃないなんて辛すぎるよぉ。
「それじゃあダン。ちゃんとティムルにも同じ事してあげてねっ」
「へーい。分かってますよぉ」
最後にもう1度、ちゅっと触れる程度のキスをしてからニーナから離れる。
そしてニーナの隣りには、これからされる事に期待で瞳を潤ませたティムルがいる。
「おはようティムル。今日もよろしく」
「お、おはンンッ」
瞳を潤ませたティムルが最高に可愛すぎて、挨拶を待たずに彼女を押し倒し、そのままティムルの口に舌を入れてしまう。
ティムルは未だに自分に自信が無く、俺に対してどう接していいのか迷っている節がある。愛の無い行為を続けさせられたティムルは、俺にどうやって愛情を伝えたらいいのか迷っているのかもしれない。
恐る恐る動かされる舌を巻き取って、あやすように絡めてしゃぶる。あやすように、ただ甘やかすように、甘やかして溶かすような動きを意識する。
ティムルが愛情の伝え方に迷うのなら、俺がティムルに愛情を伝える事で愛情の伝え方を教えればいいんだ。
愛情を伝える事にも受け取ることにも慣れていないティムルは、相手の愛を感じるともうメロメロのドロドロになる。愛情に耐性がなさ過ぎる。
経験豊富な大人の女性のハズのティムルが、受け止めきれない愛情を受け取ると、小さな女の子のように素直な反応しか返せなくなってしまう。それがまた可愛すぎるのだ。
「っふぅ。大好きだよティムル。さぁ起きようね」
「んーやだぁ。起きたくないのぉ。キス好きぃ。もっとしてぇ」
おはようのキスを終了して体を起こそうとする俺に抱きつきながら、甘ったるい声でおねだりしてくるティムルが最高に可愛い。
思わずこのまま決戦に持ち込みたくなるくらいに魅力的だけど、今の我が家の経済状況では働かないわけにもいかないのだ、くそぅ。
「ダーメ。そんな魅力的過ぎる提案されると困っちゃうよ。あんまり主人を困らせちゃダメだからね」
ティムルとも最後に軽くキスをして、断腸の想いで彼女から離れる。
ニーナともティムルとも離れると、なんとなく収まりが悪く感じられるな。もう2人とくっついてるほうが自然に思えるようになってしまったぜっ。
こんな調子じゃ、一瞬でも気を抜いたら一気に自堕落で爛れた愛欲の日々が始まりそう。なにそれ欲しい。でも我慢だっ。
最後に起きたティムルの身支度が整うまで、ニーナを抱きしめて待つことにする。寝室を1歩出れば抱きしめるのも簡単じゃないからな、可能な限り充電しておかなきゃ。
背中から俺に抱き締められているニーナは、ティムルの身支度を見ながら俺に話しかけてくる。
「なんだかなぁ。ティムルとダンがキスしてるの見て、私も嬉しいって思っちゃったの。ティムルと一緒にダンを愛せるのが嬉しいなぁって」
「……流石にそれは俺に都合良すぎて申し訳なさ過ぎるよ。2人の扱いに差はつけてないつもりだけど、そんなのは男側の都合の良い言い訳でしかないでしょ」
俺の言葉を聞いたニーナは俺の腕の中でくるりと反転してこちらを向く。その表情は不満気で、怒ったように頬を膨らませていた。
……怒った顔も最高に可愛いのってズルくないかなぁ?
「ダンさ。マグエルに来たばっかりの時、私になんて言ったか覚えてる? ニーナが他の事に目を向けるようになってくれて嬉しい、ダンはそう言ったんだよ? そのダンが、自分は私しか見なきゃダメって思うの、おかしくない?」
「いやいやっ。それは流石に矛盾してないでしょ? 俺はニーナやティムルが俺以外の男を見たら、多分許せないと思う。俺がしてるのはそういうことで……」
瞬間、唇に柔らかい感触。
ニーナが人差し指を当てて、俺の言葉を遮った。
「……まったく。ダンはほんっとにめんどくさい事ばっかり考えてるよね?」
心底呆れた様子のニーナ。
ニ、ニーナにめんどくさいって言われるの、結構堪えるなぁ……。
「ティムルと初めて会った時、貴方はティムルを拒絶した。でもティムルが窮地に立たされた時、たった1人貴方だけがティムルに手を差し伸べたの。貴方がティムルを受け入れたのは、貴方に拒絶されたらティムルに帰る場所がないって分かってからなんでしょ?」
俺の両頬を押さえて、俺と正面から向き合うニーナ。
「ダンはさ。心と頭がチグハグなんだよ。心は大切なことに一直線なんだけど、頭がそれを止めちゃうの」
まったく仕方ないなぁ、そんな声が聞こえるような苦笑いを浮かべてニーナは語り続ける。
「ダンが心に従って行動したことは、絶対に間違ってないよ。不安に思わないで。ティムルも私も、ちゃんと幸せなの」
そのとき突然背中から伝わる柔らかい感触。
身支度を済ませたティムルが、俺の後ろから抱きついていた。
「私の口からも伝えさせてね。ダン。私今すっごく幸せよ。貴方のおかげで私は幸せなの」
耳元で囁かれるティムルの声が心地いい。
うん。俺もすっごい幸せだよ。大好きな2人に抱きしめられて、愛する2人が幸せだって言ってくれるから。
「男側の都合の良い言い訳って何よ? 貴方はずっと私とは一定の距離を保ったままで、でも商会に捨てられた途端に全てぶち壊して踏み込んできてくれたんじゃない。投獄されてる私の前に、牢屋の扉を開けてまで手を差し伸べてくれたんじゃないの……」
だって、許せなかったんだ。こんなに素敵なティムルが、誰からも見捨てられて、独り不幸になっていくなんて。
そんなの絶対に間違ってるよ。
「貴方は自分の都合を全部放り投げて、私の幸せのために私を受け入れてくれたんじゃない。なのになんで貴方自身がその事実を否定するの?」
ティムル。俺はお前の為にお前を受け入れたんじゃないよ。俺がお前と一緒に生きたかったから、俺の我が侭でお前を攫いに行っただけなんだ。
そう言って反論したかったのに、俺の唇はニーナの人差し指で蓋をされたままだった。
「貴方が真剣に私に向き合ってくれたのが分かるから、私は貴方と一緒に暮らせて本当に幸せなの。貴方とニーナちゃん、2人と過ごせるのが本当に嬉しいのよ……」
前後に感じる2人の体温。
俺の言葉を否定して、俺の存在を肯定してくれる2人の言葉。
……ダメだなぁ。また2人に甘えてしまった。
浮気じゃない。本気で愛しているんだって言っても、それは言い訳だろうと、自分自身こそが信じきれていなかったのか。
「あー、ごめん2人とも。俺の前いた場所では一夫一妻が当たり前だったからさ。未だにその常識が抜けてなかったみたいだ」
ニーナの事もティムルの事も、両方愛するって決めたのになぁ。長年培ってきた常識っていうのは簡単には変わってくれないらしい。
「ありがとう2人とも。俺はもう迷わないよ。ニーナの事もティムルの事も、全身全霊で愛する。それを浮気だとか不誠実だとか迷ったりしない」
俺はもう俺の気持ちに嘘をついたりはしない。俺が好きだと思ったことを否定したりしないと決めた。
だから……。
「だからムーリさんやリーチェのおっぱいに目を奪われても、それが本気なら仕方ないよね」
「「それはダメっ」」
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