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1章 巡り会い2 囚われの行商人
055 俺の物は俺の物 (改)
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目が覚める。明るい。夜が明けたようだ。
俺の腕の中にはティムルの黒い裸体。朝日を浴びて輝いている。
やりきった。色々な意味でやりきった。俺の勝ちだ。我々は勝利したのです。
心の内を吐露した後のティムルは最高に最高だった。
彼女は聞いてるこっちの脳が破壊されるくらいの性体験をしてきているわけだけど、その中で望んだ相手としたことは1度も無かったようだ。
自棄になって誘った事はあるらしいけど、脳細胞が飛び散りそうなので深くは追求しない。
自分が心から望む相手と体を重ねる行為に、ティムルの体は全力で反応してしまったようだ。当のティムル本人が困惑してしまうほどに。
自分の体の反応に戸惑う大人の女性。大変素晴らしいです。ブラボー。ハラショー。
直前に寸止めされた事もあり、それが逆に『ちからをためる』行為になったこともあり、もうひと晩中じっくりたっぷり全力で、お前は俺の女なんだと思い知らせてやった。
うんっ、楽しかった!
ティムルよ、思い知ったか。今後も生涯を通して思い知らせてやるからな。
だがな、ニーナはこんなもんじゃないんだ。俺達の戦いは、まだ始まったばかりなんだ。精進しよう。お互いに。
……うん、何言ってんだ俺は。ティムルとひと晩過ごした幸福感で脳がバグってるな。
「ん……。あ、あれ、ダン? ってそっか、そうだったわねぇ」
ティムルも目覚めたようだ。
一瞬困惑した後、安心したように体から力が抜けていくのが分かる。
だってティムル、俺の腕の中にいるから。
「おはようティムル。昨晩は無理させちゃってごめんね。でも最高に可愛かったよ」
「……おはよう、ダン。う~、昨日の事は言わないでぇ~。なんであんなに……、あーもうっ、あんなはずじゃないのにぃ~」
俺の腕の中でモゾモゾと悶えるティムル。
俺の腕の中で悶えても可愛いだけなんだけどぉ?
「さてと、2人とも目が覚めたし朝食にしようか」
腕の中のティムルを抱きしめ、彼女の頭を撫でながら新しい1日を始めよう。
「でもその前に、俺とニーナは寝起きに毎日してる事があってね。ニーナになりたいって言うなら、毎日欠かしちゃダメだからな?」
「え、2人の日課? それってな、ンムッ」
論より証拠。やって見せたほうが早い。なので戸惑うティムルの口を塞ぐ。
分かったかティムル。これが日課の目覚めのキスだ。
分かったか。分かったか。分かってるかもしれないけど、もっともっと分からせてやる。お前は俺の女だティムル。もう絶対に離さない。おりゃおりゃおりゃーっ。
徹底的に分からせた結果、ティムルは蕩けきった表情でグロッキー状態になっていた。
だがニーナはこんなもんじゃないんだぞ。放置しておくと本当に1日中でも続けそうなんだよあの人。
俺もまだまだ精進が足りない。
体に力が入らないというティムルの身支度を手伝って、2人で1階に下りていく。
1階に下りると当然のように朝食が出来ていた。ですよね。ちょっと頑張りすぎちゃったもんね。起きてからも分からせすぎちゃった。
「おはようございます2人とも。顔を洗ってきてください。朝食にしましょう」
「おはよう。2人が起きてくるの待ってたんだよ。僕はもうお腹ペコペコさ。急いでくれると嬉しいよ」
ニーナ、リーチェに挨拶し、言われた通りに顔を洗って席に着く。いただきます。
「僕はあまり人と食事を共にする機会がないからね。みんなで一緒に朝食を取るのは新鮮だな」
「ご主人様もお楽しみになったようで何よりです。ティムルのこともちゃんと愛してくれて、ありがとうございます」
う~ん。まだ俺の常識的に、ニーナに他の女を抱いてお礼を言われるのは慣れない……。
これから少しずつ慣れてくしかないかぁ。
「ニーナちゃん。昨日はありがとう。おかげで私も、本当の意味で2人に受け入れてもらえた気がしたわ。あ、ニーナちゃんの方が先輩なんだし、ニーナさんって呼んだ方がいいかしら?」
「いえ、私に対しては今まで通りで構いませんよ。家の外ではご主人様の奴隷らしい態度を取ってもらいたいですけど」
「ニーナがそれを言うのかい? 家の外でもあんまり奴隷に見えてないと思うよ?」
「うぐぅ……。よ、他所は他所、うちはうち、ですっ」
ニーナ、それ奴隷が言ったらダメなやつぅ。
賑やかになった朝の会話を少しだけ楽しみながら朝食を済ませた。
「それじゃ行ってくるよ。帰ってきたり来なかったりだと思うから、僕の事はあまり気にしなくて大丈夫さ」
「ああ、気をつけていってらっしゃい。帰宅した時に俺たちがいなければ、1階で寝泊りしてもいいからな」
俺たちがいる時は地下に追い出すけど。
「いってらっしゃいリーチェ。戦闘力は心配してませんけど、色々気をつけてくださいね」
ニーナがまるでフラッタを見るような眼差しでリーチェを心配している。
マルドック商会壊滅事件の調査を任されるくらいなんだから、戦闘以外の面も優秀な事は優秀なんだろうな。詰め所での姿が衝撃的過ぎて、全くイメージできないだけで。
いってきます、いってらっしゃいの応酬を済ませ、リーチェは転移していった。
「さて、それじゃ俺たちも遠征の準備しようか。ティムルは辛いかもしれないけど、今回もポイントフラッタの辺りで夜営しよう」
装備も揃わず、戦士も育ってないティムルには辛い場所かもしれない。
でもティムルに合わせて収入が減ってしまったら、メンバーが増えた意味がない。3人……、いや4人になって生活費も今まで以上に必要だからな。
「出来れば今回は、中で6日ほど夜営する10日間コースくらいを予定したいと思ってるんだ。ティムルのおかげで運搬できる物資が一気に増えるからね」
「ええ、ポイントフラッタってのは良く分からないけど、物資の運搬はお任せください」
行商人の補正もあるけど、多分ドワーフのティムルは素の身体能力も高いと思う。行商人が同じくらいのLVでも、俺より明らかに沢山の荷物を運搬してたもんね。
「それと今回殆どお金が無くなってしまったので、当面はお金稼ぎがメインだ。休みの日程を減らしてでもスポットに入ることになるかもしれない。大変だと思うけど、2人ともよろしく頼むよ」
「そうですね。あまり心配はしていませんけど、金銭的な余裕は必要です。しっかり稼ぎましょう」
ニーナがやる気に満ちている。
今まで俺に守られるだけだったニーナは、ティムルという守るべき存在の加入に燃えているようだ。
「あ、そう言えばティムルは商売人だったわけだけど、また商売人として活動したいとか、なにか将来の希望はあるかな? 当分は魔物狩りに付き合ってはもらうけど、余裕が出来たら考えるよ?」
シュパイン商会では結構重鎮だったっぽいし、商売も嫌いじゃなさそうなことを言ってたもんね。
……ってティムル。俺の問いかけに思い切りゲンナリした顔してるなぁ?
「私は商売にはもう未練はないですね。拾ってもらい、鍛えていただいた恩はありますが、それだけです。私にとって商売は生きる為に必要なことだっただけで、やりたい事ではありませんでしたから」
ふむ、そういうもんか。ずっと培ってきた経験とか、惜しく思ったりはしないんだろうか。
本人がいいって言ってるのに蒸し返したりはしないけどさ。
「そう言えばティムル。私たちは遠征の準備をシュパイン商会で整えているんですけど、他の店舗にしたほうがいいですか?」
「いえ大丈夫です。むしろちょっと見せびらかしてやりたいくらいですよ。私はご主人様のものになったんだぞーっ、って」
ははっ。うちの新入りは随分と可愛いこと言ってくれるねぇ。
ティムルを捨てたシュパイン商会の会長って、商売人とは思えないほど見る目ないな。
……それにしても、ある意味リーチェが同居してくれたのは助かったかもしれないなぁ。
ニーナとティムル、こんな可愛い2人を俺の好きにしていいってなったら、後先考えずにずっと家に篭って爛れた生活を送りかねない。
毎日最高だし、昨日も最高だった。しかも今夜のことを思うとまだ先があると戦慄する。夜が待ちきれないよぉ。
このまま家に戻って2人とずっと……、って少し油断するとこんな考えで頭がいっぱいになるもんね。
「ご主人様? 随分ご機嫌みたいですね?」
「いやぁ聞いてくれる? 昨日はもうほんっと最高だったんだけど、今日の事を考えたらもうね。待ちきれないくらいでさぁ。このまま家に入って2人を寝室で押し倒したくて仕方ないんだよねぇ」
俺の顔を覗き込むニーナに、ゴキゲンで答える俺。
あ~っ! 夜まで待てるかなぁっ!?
「う~ん。外から2人を見てた時から思ってましたけど、奴隷と主人の会話じゃないですよね。そんな中に私も入れてもらえて、嬉しいやら照れくさいやら」
ま、ちゃんと日常を送ってこそのお楽しみでしょう。この2人との生活を続ける為にもしっかりとお金を稼がないとな。
なんとか煩悩を振り切って、シュパイン商会の店舗に向かった。
シュパイン商会で遠征用の物資を購入していると、案の定エンダさんが近付いてきた。
「ティムル様。本当に奴隷になってしまったのですね。しかもよりにもよって、その男の……!」
「はい。大変ありがたいことにご主人様に購入していただきました。私はもう、ご主人様の所有物です」
笑顔で俺の所有物であると言い放つティムル。
おおすげぇ。これ思ったより凄い気持ちいい。優越感で脳内麻薬ドッパドパ。
はっはっは。性格悪くて済みませんねぇ? ティムルはもう俺のでーす!
「ティムル様はシュパイン商会に必要なお人です。どうか戻ってきていただけませんかっ」
「そう言われましても、私の所有権はご主人様にありますので。私の独断ではなんとも?」
詰め寄るエンダさんに、惚けた顔をして首を傾げてみせるティムル。
おいおいなんだよこの女、年上の癖に可愛すぎだろぉ?
「ダン様っ。どうかティムル様を解放して、この店に返していただけませんかっ。どうか!」
ティムルの可愛さに見蕩れていると、エンダさんがあまりに予想通り過ぎるセリフを言ってきたせいで思わず噴出しそうになる。
「嫌だけど? 昨日60万リーフで購入したばかりの奴隷を、お前の都合で即日解放しろとかよく言えるね? エンダさんって商売人じゃなかった? 計算も出来ねぇの?」
というか、今考えると実際かなり危うかった気がするんだよなぁ。ティムルの奴隷取引を行った奴隷商人ってシュパイン商会所属だったみたいだし。
あそこで俺が購入できなければ、奴隷となったティムルはシュパイン商会でどんな扱いを受けていたことやら。
60万リーフはホントギリギリだったよ。足が出たらリーチェに貸してもらうつもりだったのは内緒だ。
「俺みたいな個人で活動してる魔物狩りが買える値段だったんだよ? エンダさんだって買える金額だったでしょ。本当に必要だったらシュパイン商会で助けてやるべきだったし、そうでなくとも奴隷購入の準備くらいするべきじゃなかったの?」
俺はティムルの救出依頼を受けてもいいと意思表示をした。それを無視して何もしなかったのは、エンダさんのほうだろう?
今更ティムルを寄越せと言われて応じる馬鹿がいる訳ない。
「ティムルの奴隷契約をしたのはシュパイン商会の奴隷商人だったよ? エンダさんもその情報は知ろうと思えば知れたはずだよね? なのに俺が購入するまで一切の手出し口出しをしなかったのはなんで?」
俺に連絡してきた理由はいまいち分からないけどね。
リーチェのせいでティムルが犯罪者になりかけてたのが都合悪かったのかな?
犯罪奴隷って、確か年間コストが重くなるんだっけ。だから俺に容疑を晴らして欲しい、的な?
「ティムルをシュパイン商会預かりの奴隷にして、ティムルの事を好きに扱おうとしてたんじゃないのぉ? エンダさん。そんな年にもなってお盛んだねぇ」
「そ、そんなわけないだろう! わた、私は純粋に商会のためを思って! ティムル様! 全てこの男の妄想です! 私は決してそのようなっ!」
動揺しすぎかよ。商売人の癖に本音を隠すことも出来ねぇのかアンタは。
まぁエンダさんの気持ちは分かるよ。同じ男としてね。
ティムルは最高に美人だもんなぁ。こんな美人を奴隷にして自分の好き勝手に扱えるなんて男の夢だよねぇ。
「そ、そういえば急ぎの仕事がありましたっ。済みませんが失礼させてもらいますっ!」
自分の劣勢を感じ取ったのか、急用を思い出したエンダさんは足早に去っていった。
はいはいおつかれー。もう2度と口出ししてこないでねー。
エンダさんは身銭を切るのを躊躇ったからダメなんだよ。普通に金出しゃ買えたのに、変に謀略巡らせて無料で手に入れようとした。だから失敗したんだよ。
え? ニーナを無料で手に入れた俺が言うなって? あの時はお金が無かったから仕方無いんですぅ。
「まさかエンダがそんなことを考えていたなんて……」
エンダさんが去った方向を、信じられないといった表情で見詰めるティムル。
そういや店を潰したエンダさんをティムルが拾ってあげたんだっけ。
「ご主人様。こんなのばかりだから、私はもう商売には未練はないんですよ。苦しんでいたところを助け、ずっと信頼してきた部下ですらこの有様なんですから……」
そうだね。それが商売人の世界だとしても、今回のエンダさんに嫌悪感を抱くなってのはちょっと難しいわ。
男の欲望に晒され続けたティムルが、俺とニーナに憧れたのがなんとなく分かるよ。俺達、お互い以外の誰かを求めるほどの余裕すらなかったから。
「それにしてもご主人様こそ、商売人でもないのによくエンダを出し抜けましたね?」
「いや、エンダさんって商才ないでしょ? 自分の店を潰したって話も聞いたし、ティムルを頑なにこの店に呼び戻そうとしてたんだもん。自分1人でこの店を経営していく自信がないんだよ」
普通有能な商人だったら、上が空けば喜ぶでしょ。そしてティムルに本気で恩を感じていたのなら、ティムルに好意的な商会の人に助けを求めることだって出来たはずだからな。
ティムルより上の8人の奥さんは、商会に利益を齎すティムルを見捨てたりはしなかっただろうから。
それなのに、ティムルを助けたいと言いながら留守を任されたから動けないなんて、笑いを堪えるのに必死だったね。
「ティムルに恩があると言いながら助けようともせず、店長としてやっていく自信もない。俺が凄いんじゃなくて、エンダさんがそれほどでもなかっただけでしょ」
せめて自分でお金を出す覚悟さえあればねぇ……。
恐らく、シュパイン商会の誰かに自分がティムルに関わっていると知られるのが嫌だったんだろうなぁ。ティムルが抜けた後、ティムルを陥れた相手に目を付けられたくなかったとかで。
正直エンダさんって、単純に小者だと思う。
「ティムル。これがご主人様です。なんでもないような顔して、なんでもしちゃうんですよ? 傍に居る者としては堪ったものじゃないんです」
ニーナが呆れたような口調で、褒めているのか貶しているのか良く分からないことを語り出す。聞いている限りでは褒められている気はしないですね?
「ティムルもこれから散々思い知ると思いますよ。ご主人様の非常識さを」
「ご主人様の凄さは理解しているつもりでしたけど……。ちょっと、私の人を見る目もまだまだだなって痛感しました」
いやぁ? あのくらい、現代日本で普通に社会人やってた人なら分かるでしょ。
人は利が無ければ動かない。利を提示せずに人を動かそうとする奴は信用できない。
特に今回エンダさんがやったみたいに、親しくもないのに情に訴えるなんて商人としては最低の行為でしょ。俺が非常識なんじゃなくて、今回の1件ではエンダさんの方が非常識だったんだよ、商売人としてね。
俺の腕の中にはティムルの黒い裸体。朝日を浴びて輝いている。
やりきった。色々な意味でやりきった。俺の勝ちだ。我々は勝利したのです。
心の内を吐露した後のティムルは最高に最高だった。
彼女は聞いてるこっちの脳が破壊されるくらいの性体験をしてきているわけだけど、その中で望んだ相手としたことは1度も無かったようだ。
自棄になって誘った事はあるらしいけど、脳細胞が飛び散りそうなので深くは追求しない。
自分が心から望む相手と体を重ねる行為に、ティムルの体は全力で反応してしまったようだ。当のティムル本人が困惑してしまうほどに。
自分の体の反応に戸惑う大人の女性。大変素晴らしいです。ブラボー。ハラショー。
直前に寸止めされた事もあり、それが逆に『ちからをためる』行為になったこともあり、もうひと晩中じっくりたっぷり全力で、お前は俺の女なんだと思い知らせてやった。
うんっ、楽しかった!
ティムルよ、思い知ったか。今後も生涯を通して思い知らせてやるからな。
だがな、ニーナはこんなもんじゃないんだ。俺達の戦いは、まだ始まったばかりなんだ。精進しよう。お互いに。
……うん、何言ってんだ俺は。ティムルとひと晩過ごした幸福感で脳がバグってるな。
「ん……。あ、あれ、ダン? ってそっか、そうだったわねぇ」
ティムルも目覚めたようだ。
一瞬困惑した後、安心したように体から力が抜けていくのが分かる。
だってティムル、俺の腕の中にいるから。
「おはようティムル。昨晩は無理させちゃってごめんね。でも最高に可愛かったよ」
「……おはよう、ダン。う~、昨日の事は言わないでぇ~。なんであんなに……、あーもうっ、あんなはずじゃないのにぃ~」
俺の腕の中でモゾモゾと悶えるティムル。
俺の腕の中で悶えても可愛いだけなんだけどぉ?
「さてと、2人とも目が覚めたし朝食にしようか」
腕の中のティムルを抱きしめ、彼女の頭を撫でながら新しい1日を始めよう。
「でもその前に、俺とニーナは寝起きに毎日してる事があってね。ニーナになりたいって言うなら、毎日欠かしちゃダメだからな?」
「え、2人の日課? それってな、ンムッ」
論より証拠。やって見せたほうが早い。なので戸惑うティムルの口を塞ぐ。
分かったかティムル。これが日課の目覚めのキスだ。
分かったか。分かったか。分かってるかもしれないけど、もっともっと分からせてやる。お前は俺の女だティムル。もう絶対に離さない。おりゃおりゃおりゃーっ。
徹底的に分からせた結果、ティムルは蕩けきった表情でグロッキー状態になっていた。
だがニーナはこんなもんじゃないんだぞ。放置しておくと本当に1日中でも続けそうなんだよあの人。
俺もまだまだ精進が足りない。
体に力が入らないというティムルの身支度を手伝って、2人で1階に下りていく。
1階に下りると当然のように朝食が出来ていた。ですよね。ちょっと頑張りすぎちゃったもんね。起きてからも分からせすぎちゃった。
「おはようございます2人とも。顔を洗ってきてください。朝食にしましょう」
「おはよう。2人が起きてくるの待ってたんだよ。僕はもうお腹ペコペコさ。急いでくれると嬉しいよ」
ニーナ、リーチェに挨拶し、言われた通りに顔を洗って席に着く。いただきます。
「僕はあまり人と食事を共にする機会がないからね。みんなで一緒に朝食を取るのは新鮮だな」
「ご主人様もお楽しみになったようで何よりです。ティムルのこともちゃんと愛してくれて、ありがとうございます」
う~ん。まだ俺の常識的に、ニーナに他の女を抱いてお礼を言われるのは慣れない……。
これから少しずつ慣れてくしかないかぁ。
「ニーナちゃん。昨日はありがとう。おかげで私も、本当の意味で2人に受け入れてもらえた気がしたわ。あ、ニーナちゃんの方が先輩なんだし、ニーナさんって呼んだ方がいいかしら?」
「いえ、私に対しては今まで通りで構いませんよ。家の外ではご主人様の奴隷らしい態度を取ってもらいたいですけど」
「ニーナがそれを言うのかい? 家の外でもあんまり奴隷に見えてないと思うよ?」
「うぐぅ……。よ、他所は他所、うちはうち、ですっ」
ニーナ、それ奴隷が言ったらダメなやつぅ。
賑やかになった朝の会話を少しだけ楽しみながら朝食を済ませた。
「それじゃ行ってくるよ。帰ってきたり来なかったりだと思うから、僕の事はあまり気にしなくて大丈夫さ」
「ああ、気をつけていってらっしゃい。帰宅した時に俺たちがいなければ、1階で寝泊りしてもいいからな」
俺たちがいる時は地下に追い出すけど。
「いってらっしゃいリーチェ。戦闘力は心配してませんけど、色々気をつけてくださいね」
ニーナがまるでフラッタを見るような眼差しでリーチェを心配している。
マルドック商会壊滅事件の調査を任されるくらいなんだから、戦闘以外の面も優秀な事は優秀なんだろうな。詰め所での姿が衝撃的過ぎて、全くイメージできないだけで。
いってきます、いってらっしゃいの応酬を済ませ、リーチェは転移していった。
「さて、それじゃ俺たちも遠征の準備しようか。ティムルは辛いかもしれないけど、今回もポイントフラッタの辺りで夜営しよう」
装備も揃わず、戦士も育ってないティムルには辛い場所かもしれない。
でもティムルに合わせて収入が減ってしまったら、メンバーが増えた意味がない。3人……、いや4人になって生活費も今まで以上に必要だからな。
「出来れば今回は、中で6日ほど夜営する10日間コースくらいを予定したいと思ってるんだ。ティムルのおかげで運搬できる物資が一気に増えるからね」
「ええ、ポイントフラッタってのは良く分からないけど、物資の運搬はお任せください」
行商人の補正もあるけど、多分ドワーフのティムルは素の身体能力も高いと思う。行商人が同じくらいのLVでも、俺より明らかに沢山の荷物を運搬してたもんね。
「それと今回殆どお金が無くなってしまったので、当面はお金稼ぎがメインだ。休みの日程を減らしてでもスポットに入ることになるかもしれない。大変だと思うけど、2人ともよろしく頼むよ」
「そうですね。あまり心配はしていませんけど、金銭的な余裕は必要です。しっかり稼ぎましょう」
ニーナがやる気に満ちている。
今まで俺に守られるだけだったニーナは、ティムルという守るべき存在の加入に燃えているようだ。
「あ、そう言えばティムルは商売人だったわけだけど、また商売人として活動したいとか、なにか将来の希望はあるかな? 当分は魔物狩りに付き合ってはもらうけど、余裕が出来たら考えるよ?」
シュパイン商会では結構重鎮だったっぽいし、商売も嫌いじゃなさそうなことを言ってたもんね。
……ってティムル。俺の問いかけに思い切りゲンナリした顔してるなぁ?
「私は商売にはもう未練はないですね。拾ってもらい、鍛えていただいた恩はありますが、それだけです。私にとって商売は生きる為に必要なことだっただけで、やりたい事ではありませんでしたから」
ふむ、そういうもんか。ずっと培ってきた経験とか、惜しく思ったりはしないんだろうか。
本人がいいって言ってるのに蒸し返したりはしないけどさ。
「そう言えばティムル。私たちは遠征の準備をシュパイン商会で整えているんですけど、他の店舗にしたほうがいいですか?」
「いえ大丈夫です。むしろちょっと見せびらかしてやりたいくらいですよ。私はご主人様のものになったんだぞーっ、って」
ははっ。うちの新入りは随分と可愛いこと言ってくれるねぇ。
ティムルを捨てたシュパイン商会の会長って、商売人とは思えないほど見る目ないな。
……それにしても、ある意味リーチェが同居してくれたのは助かったかもしれないなぁ。
ニーナとティムル、こんな可愛い2人を俺の好きにしていいってなったら、後先考えずにずっと家に篭って爛れた生活を送りかねない。
毎日最高だし、昨日も最高だった。しかも今夜のことを思うとまだ先があると戦慄する。夜が待ちきれないよぉ。
このまま家に戻って2人とずっと……、って少し油断するとこんな考えで頭がいっぱいになるもんね。
「ご主人様? 随分ご機嫌みたいですね?」
「いやぁ聞いてくれる? 昨日はもうほんっと最高だったんだけど、今日の事を考えたらもうね。待ちきれないくらいでさぁ。このまま家に入って2人を寝室で押し倒したくて仕方ないんだよねぇ」
俺の顔を覗き込むニーナに、ゴキゲンで答える俺。
あ~っ! 夜まで待てるかなぁっ!?
「う~ん。外から2人を見てた時から思ってましたけど、奴隷と主人の会話じゃないですよね。そんな中に私も入れてもらえて、嬉しいやら照れくさいやら」
ま、ちゃんと日常を送ってこそのお楽しみでしょう。この2人との生活を続ける為にもしっかりとお金を稼がないとな。
なんとか煩悩を振り切って、シュパイン商会の店舗に向かった。
シュパイン商会で遠征用の物資を購入していると、案の定エンダさんが近付いてきた。
「ティムル様。本当に奴隷になってしまったのですね。しかもよりにもよって、その男の……!」
「はい。大変ありがたいことにご主人様に購入していただきました。私はもう、ご主人様の所有物です」
笑顔で俺の所有物であると言い放つティムル。
おおすげぇ。これ思ったより凄い気持ちいい。優越感で脳内麻薬ドッパドパ。
はっはっは。性格悪くて済みませんねぇ? ティムルはもう俺のでーす!
「ティムル様はシュパイン商会に必要なお人です。どうか戻ってきていただけませんかっ」
「そう言われましても、私の所有権はご主人様にありますので。私の独断ではなんとも?」
詰め寄るエンダさんに、惚けた顔をして首を傾げてみせるティムル。
おいおいなんだよこの女、年上の癖に可愛すぎだろぉ?
「ダン様っ。どうかティムル様を解放して、この店に返していただけませんかっ。どうか!」
ティムルの可愛さに見蕩れていると、エンダさんがあまりに予想通り過ぎるセリフを言ってきたせいで思わず噴出しそうになる。
「嫌だけど? 昨日60万リーフで購入したばかりの奴隷を、お前の都合で即日解放しろとかよく言えるね? エンダさんって商売人じゃなかった? 計算も出来ねぇの?」
というか、今考えると実際かなり危うかった気がするんだよなぁ。ティムルの奴隷取引を行った奴隷商人ってシュパイン商会所属だったみたいだし。
あそこで俺が購入できなければ、奴隷となったティムルはシュパイン商会でどんな扱いを受けていたことやら。
60万リーフはホントギリギリだったよ。足が出たらリーチェに貸してもらうつもりだったのは内緒だ。
「俺みたいな個人で活動してる魔物狩りが買える値段だったんだよ? エンダさんだって買える金額だったでしょ。本当に必要だったらシュパイン商会で助けてやるべきだったし、そうでなくとも奴隷購入の準備くらいするべきじゃなかったの?」
俺はティムルの救出依頼を受けてもいいと意思表示をした。それを無視して何もしなかったのは、エンダさんのほうだろう?
今更ティムルを寄越せと言われて応じる馬鹿がいる訳ない。
「ティムルの奴隷契約をしたのはシュパイン商会の奴隷商人だったよ? エンダさんもその情報は知ろうと思えば知れたはずだよね? なのに俺が購入するまで一切の手出し口出しをしなかったのはなんで?」
俺に連絡してきた理由はいまいち分からないけどね。
リーチェのせいでティムルが犯罪者になりかけてたのが都合悪かったのかな?
犯罪奴隷って、確か年間コストが重くなるんだっけ。だから俺に容疑を晴らして欲しい、的な?
「ティムルをシュパイン商会預かりの奴隷にして、ティムルの事を好きに扱おうとしてたんじゃないのぉ? エンダさん。そんな年にもなってお盛んだねぇ」
「そ、そんなわけないだろう! わた、私は純粋に商会のためを思って! ティムル様! 全てこの男の妄想です! 私は決してそのようなっ!」
動揺しすぎかよ。商売人の癖に本音を隠すことも出来ねぇのかアンタは。
まぁエンダさんの気持ちは分かるよ。同じ男としてね。
ティムルは最高に美人だもんなぁ。こんな美人を奴隷にして自分の好き勝手に扱えるなんて男の夢だよねぇ。
「そ、そういえば急ぎの仕事がありましたっ。済みませんが失礼させてもらいますっ!」
自分の劣勢を感じ取ったのか、急用を思い出したエンダさんは足早に去っていった。
はいはいおつかれー。もう2度と口出ししてこないでねー。
エンダさんは身銭を切るのを躊躇ったからダメなんだよ。普通に金出しゃ買えたのに、変に謀略巡らせて無料で手に入れようとした。だから失敗したんだよ。
え? ニーナを無料で手に入れた俺が言うなって? あの時はお金が無かったから仕方無いんですぅ。
「まさかエンダがそんなことを考えていたなんて……」
エンダさんが去った方向を、信じられないといった表情で見詰めるティムル。
そういや店を潰したエンダさんをティムルが拾ってあげたんだっけ。
「ご主人様。こんなのばかりだから、私はもう商売には未練はないんですよ。苦しんでいたところを助け、ずっと信頼してきた部下ですらこの有様なんですから……」
そうだね。それが商売人の世界だとしても、今回のエンダさんに嫌悪感を抱くなってのはちょっと難しいわ。
男の欲望に晒され続けたティムルが、俺とニーナに憧れたのがなんとなく分かるよ。俺達、お互い以外の誰かを求めるほどの余裕すらなかったから。
「それにしてもご主人様こそ、商売人でもないのによくエンダを出し抜けましたね?」
「いや、エンダさんって商才ないでしょ? 自分の店を潰したって話も聞いたし、ティムルを頑なにこの店に呼び戻そうとしてたんだもん。自分1人でこの店を経営していく自信がないんだよ」
普通有能な商人だったら、上が空けば喜ぶでしょ。そしてティムルに本気で恩を感じていたのなら、ティムルに好意的な商会の人に助けを求めることだって出来たはずだからな。
ティムルより上の8人の奥さんは、商会に利益を齎すティムルを見捨てたりはしなかっただろうから。
それなのに、ティムルを助けたいと言いながら留守を任されたから動けないなんて、笑いを堪えるのに必死だったね。
「ティムルに恩があると言いながら助けようともせず、店長としてやっていく自信もない。俺が凄いんじゃなくて、エンダさんがそれほどでもなかっただけでしょ」
せめて自分でお金を出す覚悟さえあればねぇ……。
恐らく、シュパイン商会の誰かに自分がティムルに関わっていると知られるのが嫌だったんだろうなぁ。ティムルが抜けた後、ティムルを陥れた相手に目を付けられたくなかったとかで。
正直エンダさんって、単純に小者だと思う。
「ティムル。これがご主人様です。なんでもないような顔して、なんでもしちゃうんですよ? 傍に居る者としては堪ったものじゃないんです」
ニーナが呆れたような口調で、褒めているのか貶しているのか良く分からないことを語り出す。聞いている限りでは褒められている気はしないですね?
「ティムルもこれから散々思い知ると思いますよ。ご主人様の非常識さを」
「ご主人様の凄さは理解しているつもりでしたけど……。ちょっと、私の人を見る目もまだまだだなって痛感しました」
いやぁ? あのくらい、現代日本で普通に社会人やってた人なら分かるでしょ。
人は利が無ければ動かない。利を提示せずに人を動かそうとする奴は信用できない。
特に今回エンダさんがやったみたいに、親しくもないのに情に訴えるなんて商人としては最低の行為でしょ。俺が非常識なんじゃなくて、今回の1件ではエンダさんの方が非常識だったんだよ、商売人としてね。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
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