異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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1章 巡り会い2 囚われの行商人

049 中身フラッタ (改)

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 ティムルにネフネリの情報を根掘り葉掘り聞いているうちに、リーチェが詰め所に戻ってきた。

 戻ってこなくても良かったのにと言いたいところだけど、ここまで話が進んでしまえばこいつも巻き込んで手伝わせるべきだな。メシ代として。


「なんだか領主さんも嬉しそうだったね。おかげで恙無く引き払うことが出来たよ。これでなんの問題もなくダンの家にご厄介になれるね」

「問題しかないし、ご厄介すぎるからな? うちに連れていくのと食事の世話は諦めたけどさぁ。というかうちでちょっと真面目な話がしたいから、来てもらえて助かるよ」


 俺の態度が変わったことにきょとんとしているリーチェを無視して、ティムルに別れのキスをする。


「それじゃティムル。また明日。運が良ければ今日中にでも片付けてくるよ。期待しないで待ってて」

「まだ貴方のものじゃないのに、こんなに毎回キスされたら堪らないわ。早く迎えに来てね?」

「俺の中ではもう俺の女だから。誰にもやらないから覚悟してよ」


 帰る前にもう1度、ティムルと少し長めのキスをする。

 周りの目? 知ったことじゃないね。囚われた姫君にキスをするのに、周りの目なんか気にしてられない。


 キスが終わりお別れの時間。牢の扉が閉まるギリギリまでティムルと見詰め合う。

 扉が閉まり彼女の姿が完全に見えなくなるまで、ティムルはずっと笑顔のままだった。


 ティムルの姿が見えなくなったらもうここに用はない。リーチェと共に警備隊の詰め所を出る。

 まだ陽は落ちてないけど、そろそろニーナは家に戻ってるかなぁ?


「ダンの家はマグエルだっけ? 僕がポータルで送ってあげるね」

「へぇ? リーチェってポータル使えるんだ。流石に旅慣れてるんだな。でも大丈夫。俺が使えば自宅に直接出れるから」


 リーチェのポータルだと、家までこいつと一緒にマグエルの中を歩き回らないと行けなくなるからね。直接家に帰れたほうが、気休め程度だけどダメージは減らせるだろう。


「えぇ? ダンって行商人って聞いたよ? なんでポータルが使えるんだい?」

「冒険者のあとに商売を始めたからだよ。それじゃ行くぞ。付いてこなかったら迎えには来ないからね」

「わわっ。行く行くっ! すぐ行くに決まってるよっ!」


 リーチェとお互いのステータスプレートを接触させてパーティを組む。しかしお互い内容は見ない。

 パーティを組んだことを確認し、共にポータルで帰宅する。


 帰宅すると、昨日同様に除草作業をしていたニーナが、リーチェの姿を確認して数秒ほど硬直。

 そしてゆっくりと立ち上り、満面の笑みを浮かべながら俺に近付いてくる。


 ……な、なんか強者のオーラみたいなのが見えるんだけどっ!? え、俺って死ぬの!? 死因ニーナ!?


「ご~しゅ~じ~ん~さ~ま~? どうしてティムルを助けに行って、全く知らない女性を連れて帰ってきたんですかぁ?」

「ニーナ待って。こいつはリーチェ。今回の件でティムルに物を盗まれたことになってる被害者だ。割と真面目な話だから落ち着いて? というかお前も喋れリーチェ」

「ニーナって言うんだね。君がダンの言ってた婚約者なのかい?」


 リーチェの口から出た婚約者という言葉を聞いて、ニーナの怒りが一気に収束していくのが分かった。いいぞ、もっとやれ。


「初めまして。僕はリーチェだ。急にお邪魔してごめん。僕が無理を言って付いてきたんだ。どうかダンを責めないでやってほしい」


 リーチェの説明を聞いて、なんだかさっきまでよりも微妙な気持ちになっていく。
 
 この説明だとさ、余計俺の立場無くない? なんか浮気の現場を押さえられて、それの弁明を浮気相手にさせてるような気になるんだけど?

 いや、そんなモテ男みたいな経験したことないですけどぉ。


「ティムルの話に関わってくる人なんですか? でも家まで連れて帰ってくるのは話が違うと思います。いくらリーチェさんが無理を言ったにしても、どうして連れて帰る判断をしてしまったんですかっ」


 一瞬納得しかけたニーナだったけど、いやいややっぱりおかしいでしょと俺に詰め寄ってくる。

 どうしてか。うん、ニーナの疑問は尤もだ。いったいどうしてこうなってしまったのか。


「ああ、それはねニーナ」


 リーチェを我が家に連れてくると決めたときからずっと考えていた。どうすればニーナに分かってもらえるかと。

 それで思い至った。魔法の言葉に。


 そう、きっとこのひと言で、ニーナは全てを理解してくれるはず。


「……リーチェってさぁ。見た目も中身も、フラッタなんだよ」


 俺とニーナの間を沈黙が支配する。


 俺の言葉を聞いたニーナの様子がめまぐるしく変わっていく。困惑、吟味、理解、同情。そして悲哀……。

 俺がここに至るまでにどんな苦労があったのか、魔法の言葉のおかげで理解してくれたらしい。泣きたい。


「……それはもう、なんと申し上げればいいか。お、おつかれさまでした……?」

「分かってもらえて嬉しいよ。詳しい話を聞いたらもっと同情されそうなのが嫌なんだけどね……」

「あれ? なんだか思ったよりもあっさり受け入れてもらえたみたいだね? 僕が口を挟むまでも無かったようでなによりさ。それにしてもフラッタってなんだい?」


 リーチェが口を開くたびに、ニーナに理解が広がっていくのが分かる。

 だけどごめんニーナ。リーチェの本領はまだまだこんなもんじゃないんだ。外見も中身もほんとフラッタなんだよこいつ。


 3人で家に入って、ニーナと一緒に夕食の準備をしながら、まずはリーチェがうちに来ることになった流れを説明する。説明を聞いたニーナは、調理をしながらげんなりした表情になってしまった。

 リーチェは料理が出来ないという事で、邪魔しないように炊事場の隅っこに立ってます。


「というかリーチェって……、本当にあの翠の姫エルフ本人なんですか? 私ですら聞いたことありますよ? 父さんに聞かせてもらった英雄譚の1つで語られるほどの人物です」
 
「へぇ? リーチェってかなり若く見えるんだけど、やっぱりエルフって長命なのかな? そんな昔から活躍してる人には見えないね」


 どう見ても20代前半。下手すると10代でも通りそうだけどなぁ。


「聞こえてるよダン。女性に年齢の話はするものじゃない。英雄譚に語られるのは光栄だけど、僕はそれほど立派な人物じゃない。ただ他の人よりも少しだけ長生きしているだけさ」


 英雄と称されながらもそれほどでもないと謙遜するリーチェ。

 詰め所での1件さえなければ尊敬してたんだけどさぁ。どれだけリーチェが凄いって説明されても、中身フラッタって言われると、それだけで尊敬できないっていうか……。


「なんかこう……、親しみを覚えちゃいますよね? というかフラッタも将来的には英雄譚で語られる人物になりそうですよねぇ」

「フラッタって人の名前だったの? 褒められてるのか貶されてるのか良く分からないね?」


 頭にはてなマークを浮かべながらリーチェが首を傾げている。

 大丈夫だリーチェ。俺とニーナも褒めてるのか貶してるのかは分かってないから。


 とりあえずリーチェのリクエスト通りに、果物を多めに使った夕食を用意した。

 エルフに料理を習ったわけじゃないので、期待に応えられなくても俺は知らないぞ。俺に料理を教えてくれたのはニーナとフロイさん、どっちも獣人だからなっ。


 夕食時のリーチェは、詰め所での大騒ぎが幻だったかのように、洗練されつくした所作で料理を口に運んでいる。

 お前さぁ……、詰め所での1件をなかったことにしようとしてないか?


「うん。流石に母の料理と同じとはいかないけど……、似ている味だと思う。懐かしいよ」


 リーチェが求めている味を再現できているか不安だったけれど、どうやら及第点はもらえたようだ。なんだか少し感慨深げな様子で料理を口に運んでいくリーチェ。


「僕が自分で料理できればもっと早く食べられたかもしれないと思うと、なんだか少し悔しいね」

「口に合ったようで何よりだよ。つうかお前、寝泊りはどうするの? まさかここに寝泊りする気でいたりする?」

「……ダメかな? どうしてもダメだと言われたら諦めるけど、部屋も余ってるようだし……。物置でも馬小屋でも良いから貸してくれないかい?」


 ……確かに部屋は余ってるけどさぁ。どうしたもんかねぇ。

 ニーナと目が合う。お客さんが居ると思うと、多分夜に支障が出そうなんだよなぁ。


 リーチェって見た目通りの年齢じゃないらしいし、ストレートに伝えても大丈夫かね?


「単刀直入に言う。リーチェに部屋を貸すのは構わないんだけど、俺とニーナの睦言に支障が出そうなのが嫌だ。間もなくティムル……、ドワーフ女も追加される予定だし?」

「ず、随分とはっきり言うねぇ……?」


 なに若干引いてやがる。押しかけてきたくせに気を使ってもらえると思ってんじゃないやい。


「僕の方は気にしないよ。長く旅をしていると色々目にしてしまう事もあるからね。でも僕じゃなくて君たちの方が気になると言われると……、少し難しいかな」

「……というかですねリーチェさん。今晩だけ泊まるという話ではなくて、この家に同居する流れに聞こえるんですけど? 貴女って世界中を放浪してるんじゃなかったでしたっけ?」


 ああっ!? ほんとだ、気付かなかった!
 ニーナの言う通りだ。いつの間にか完全に同居する流れで話してたよ!

 コワいっ。コワすぎるっ! おのれフラッタめっ。いやフラッタじゃないけどっ。


「出来ればここを拠点にさせてもらえると嬉しいなー……って。ダメ……?」


 ええい、お前の外見で上目遣いすんのやめろぉっ! 破壊力高すぎるんだよっ!


「それと、世界中を放浪しているというのは誤解だね。腰を落ち着けたいと思える場所がなかったからフラフラしていただけの話さ」


 なんだか少しだけ寂しそうに語るリーチェ。

 長い間世界中をたった独りで旅し続けるなんて、いったいどんな気持ちだったんだろう。


「ここはようやく見つけた落ち着ける場所なんだ。僕はポータルが使えるから仕事をするにも支障が無いし。なるべく2人に迷惑をかけないようにするから、おねがいっ……!」


 両手を合わせて縮こまるリーチェの姿に、ニーナが文字通り頭を抱えてしまっている。

 ニーナの葛藤が手に取るように分かる。中身フラッタだけあって、邪険に扱うのも難しいんだよなぁコイツって……。


「……ご主人様。本当に呪われてませんか? なんでこんなに美人ばっかり寄ってくるんです? 翠の姫エルフにここまで言わせた男って、今までどれだけいたんだって話ですよ?」


 知らないよそんなことぉっ! こいつに食わせた料理だって、ニーナにもティムルにも、なんならネプトゥコのオッサン連中にも食べさせたものでしかないんだからねっ!?

 でもその呪いのおかげでニーナとティムルをお迎えできたんだったら感謝しかありませんけど!? ありがとうございますぅ!?


「僕はずっと旅続きだったし、ずっと1人だったからね。多分ダンだけだと思うよ?」

「ああもうっ。今の返しって本当にフラッタですね!」

「返しがフラッタってなにさ!?」


 ダメだ。ニーナと2人がかりでもリーチェのペースになりつつある。

 ……というかもう完全に追い出せる雰囲気じゃないわ。


 ニーナに視線を向けると、ちょうど彼女と目が合う。そして2人同時に巨大ため息。諦め100%のクソデカため息。

 やがてニーナが、まるで降伏宣言でもするかのように沈んだ声でリーチェに話しかける。


「……この家には地下に石造りの倉庫があるんですけど、寝泊りするのはそこでも構いませんか? 部屋が余ってるのにそんな場所をあてがうのは恐縮なんですけど、あそこなら寝室の声が届く事はないかと思うんですよね……」

「もちろん何処でも構わないよ! ありがとうニーナさん!」

「私の事はニーナ、でいいですよ。ご主人様もこれで宜しいですか?」


 ニーナの問いに頷きで答える。
 本当は宜しくないですけど、これ以上どうしようもないよねぇ……。

 短い間とは言え、ニーナもこの世界に独りぼっちになってしまった経験がある。だからきっと共感してしまったんだ、リーチェの抱える寂しさに。

 共感してしまったら、理解してしまったら……、もう追い出せないよなぁ。


「それにしても、まさかティムルよりも先に別の同居人が増えるとは思いませんでしたよ。ましてや相手が翠の姫エルフで、初めて会った日に家に連れ帰ってくるとは。……本当にフラッタの時を思い出します」

「俺にもなにがなにやら分からないよ。ティムルを助けに行ったら、その日初めて会ったエルフが家に押しかけてきた。何を言っているのか分からねぇがー、って気分だよまったくさぁ」


 本当に信じられない。リーチェって今日初めて会ったはずなんだよなぁ。なんで同居することになってんの? 同棲生活というよりは下宿に近い気もするけどさぁ。

 こりゃさっさとティムルも救出してしまわないとねぇ。グズグズしてると更に家が狭くなりそうだ。


「それじゃリーチェがここで下宿生活を送ることになったところで本題だ。リーチェの世界樹の護りを取り返してティムルを救出する、そっちの方の話をするぞ。出来れば今晩中にも決着をつけてしまいたいところだね」


 仕切りなおして話題を変える。こっちが本題だったのになかなか切り出せなくって参っちゃったよ。

 ティムルが投獄されて、だけどその原因たるリーチェのほうが同居するとか頭と感情がバグりそうだ。さっさとこのこんがらがった状況を整理してしまわないとダメだ。変になりそう。


 ……ティムルもリーチェも悪くないのは分かってんだけどさぁ。

 お前らいい加減にしやがれー! くらい言っても、罰当たらないと思うのよねぇ。
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