異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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1章 巡り会い2 囚われの行商人

044 初めての別行動 (改)

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 ティムルへの方針が決まったところで、ニーナと2人でベッドに入る。だけど今日は珍しい事にお互い服を着たままだ。

 遠征から戻ったばかりで疲れもあるし、何よりティムルの話を聞いてしまったせいでお互いそんな気分にはなれそうもない。おのれティムルめっ。


 服を着たまま抱き合っているニーナが、もぞもぞと動いて俺の胸から見上げてくる。


「それでダン。具体的にはどう行動するの? ネプトゥコってマグエルの反対側なんでしょ? ぐずぐずしてたら、ティムルがまた別の誰かに買われちゃうよぅ……」


 そういやティムル、今の旦那も望まぬ相手だったって言ってたっけか。

 この心配の仕方、もうニーナはティムルをうちの家族だとカウントしてるんだなぁ。


「ニーナには悪いんだけど、明日ネプトゥコまでポータルで行ってみようと思うんだ。まずはティムル本人に話を聞いて現状を把握したいからさ」

「……うーん、やっぱりそれしかないよね。うん、それで大丈夫だよダン。むしろちゃんとダンの方から言ってもらえて安心したの」


 ニーナに対する申し訳なさを見透かされて、気にしないでと笑ってくれるニーナ。

 移動魔法が使えないニーナには申し訳ないけど、ニーナへの配慮でティムルの救出を諦めるわけにはいかないからね。今回は1人で行くしかない。


「ダンはそれでいいとして、私はこっちに残って何をしてればいいのかな? 自由にしてって言われたら、ちょっと困っちゃうよ?」


 そうか。俺の行動ばかり考えていたけど、マグエルに残るニーナだって1人で行動しなきゃいけないんだった。

 う~ん、自由にって言われたほうが困るのか。ならちゃんと指示を出していくべきだなぁ。


「俺ももうポータルが使えるはずだから、なるべく毎日戻ってくるようにするつもりだけど……。ニーナは日帰りでいける範囲でなら1人でスポットに入ってくれていいよ。今のニーナならその辺りで事故が起きたりしないだろ?」

「うん。その範囲なら万が一もないと思う。ダンが留守の間はスポットに潜ってるの。だからダンはちゃんとティムルの事、連れて帰ってきてね?」

「当然、任しといてよ」


 ティムルの救出を誓って、ニーナにそっとキスをする。


 今日ニーナと2人で夕食を取った時、ちょっと静かすぎると思っちゃったからさ。このままティムルを見捨てるわけにはいかないよね。

 もうとっくに俺達の家族になってたんだなぁ、あいつ。





 翌朝目を覚まして、まずは体調を確認する。

 まだ遠征の疲れは抜け切っていないけど、これくらいなら平気だろ。戦いに行くわけじゃないし。


 ……あれ? 今のってフラグっぽくね?


 ニーナと2人で冒険者ギルドに行き、ネプトゥコ行きのポータル移動をお願いする。

 一旦ニーナとパーティを解散し、ポータルを使用する冒険者とパーティを組む。


「いってらっしゃいませご主人様。自宅でお待ちしておりますね」

「うん。すぐ帰ってくるから待っててよね」


 ニーナに見送られるのがなんだか新鮮に感じられた。

 あれ? そう言えばニーナとパーティ解散したのって、何気に初めてじゃね?


「もういいか? それではネプトゥコへ行くぞ」


 俺とニーナのやり取りを見ていた冒険者の男が、見送りが済んだと判断したのか魔法の詠唱を始める。


「虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル」


 詠唱が終わると、目の前に長距離移動魔法のポータルの入り口が出現する。

 この先がネプトゥコ。ティムルがいるはずの場所だ。


 最後にニーナと頷き合って、ポータルに足を踏み入れた、


 一瞬の軽い酩酊感。

 目を閉じたりしなかったのに、気付くと知らない街の入り口に立っていた。冒険者ギルドでポータルを利用すると、どうやら街の入り口に飛ばされるらしいね。

 そしてすぐにギルドの冒険者がパーティから抜けたのを感じる。慌てて周囲を見回すも、既に冒険者の姿はなくなっていた。

 ギルドで利用する移動魔法はこんな感じなのかぁ。随分あっさりしたもんだ。


 さてと、まずはティムルを探さなきゃいけないんだけど、その前にやる事がある。職業設定で自分を冒険者にして、と。


「えっと、なんだっけ。虚ろな経路。点と線。見えざる流れ。空と実。求めし彼方へ繋いで到れ。ポータル」


 頭に浮かんだ呪文を詠唱すると、目の前にポータルが出現する。どうやら無事に成功した模様。

 ……う~ん、25にもなって呪文詠唱するのは辛いものがあるわぁ。


 魔力の消費だけが心配だったけど、消費したような実感もないな。これなら問題ないだろ。


 ポータルに足を踏み入れる。

 先ほど感じたのと同じ酩酊感。それが終わると、目の前にはマグエルの自宅があった。


 もう1度ポータルを使用し、今度は自力でネプトゥコへ転移する。うん、自力でいけるね。

 ネプトゥコまで問題なく飛べた事を確認してもう1度ポータルを発動、自宅に戻って少し待つ。


 ほどなくして冒険者ギルドから帰ってきたニーナと、再度パーティ登録をした。


「ご主人様とは朝となく夜となく繋がりっ放しでしたので、抜けた状態だと落ち着きませんでした。入れてもらってひと安心です」


 わざとだろうけど、ちゃんとパーティ登録の話だって言って欲しいなぁっ。


「俺がこの世界に来てから過ごした時間で考えると、ニーナとパーティ組んでる時間の方が圧倒的に長いんだよねぇ。たとえ別行動することになっても、パーティ解散したままじゃ俺も落ち着かないよ」


 ステータスプレートに表示されたニーナの名前に安心感を覚える。別行動は仕方ないけど、常にお互いの存在を感じられるのは安心感が違う。

 インベントリの引継ぎが目的だったけど、俺も旅人上げきっておいて良かった。こんなに早くポータルが必要になるとは思ってなかったからなぁ。


「それじゃなるべく毎日帰ってくるようにするよ。ニーナも気をつけてね。1人で戦うのは初めてなんだしさ」

「わかっています。決して無理はしませんよ。初めて訪れる街で活動するご主人様こそお気をつけて」


 ニーナの警告に頷きで答える。

 そうだね。別行動で心配なのは俺の方だよね。戦士を上げてるニーナが入り口付近で危険な目に遭うことはないだろうし。


「……場合によっては、救出を諦める判断をしても私は受け入れますから。どうかご無事で」


 ニーナが言い辛そうに、搾り出すように呟いた言葉。

 救出を諦める。
 それはティムルを見捨ててでも、俺に無事で帰ってこいということだ。


 ……ティムルを諦めたくないと思っているニーナにこんなことを言わせてしまう俺は、やっぱりまだまだ頼りないんだよなぁ。


「大丈夫。自分を犠牲にしてまで他人を助けようなんて思ってないよ。ティムルを助けると決めた以上、俺もちゃんと帰ってくるさ」


 ニーナを軽く抱き寄せる。そして不安な自分に言い聞かせるように、ニーナに自信満々で宣言してあげる。

 
「ニーナが前に言ったろ? ティムルの話を聞いたなら、きっと俺は何とかしてしまうんだって。今回はその言葉を信じて頑張ってみるよ」

「ふふ。そうでしたね。ご主人様がそういう人だと言ったのは私でしたね。なら私も、ティムルが帰ってくるつもりで準備しておきましょう。ティムルの部屋は……、なんとなく、用意しても無駄になりそうですね」


 首を軽く傾けて悪戯っぽく笑うニーナ。
 いやぁ部屋余ってるんだし、活用して欲しいんだけどねぇ。

 ティムルの部屋が無駄になる理由は俺次第で変わってくる。だがどうなるにしても、まずは本人を探さないとな。


 笑顔のニーナに見送られてネプトゥコへ転移。今度こそティムルの捜索を開始した。


 ここネプトゥコは、スポットを挟んでマグエルの反対側の街だ。
 両者共にスポットの周辺都市ということで、全体的な雰囲気はマグエルに結構似ているね。

 さて、ティムルはこの街で拘束されていると聞いたけど、どこに居るのかまでは聞けなかったからなぁ。どうやって探せばいいかな?


 うん。困ったときの冒険者ギルドだ。まずは冒険者ギルドに問い合わせてみよう。

 そこで情報が得られなかったら商人ギルドや行商人ギルドを探してみよう。正式に警備隊が動いているなら、いずれかのギルドで情報が得られるはずだ。


 対して迷うことも無く、冒険者ギルドはすぐに発見することが出来た。冒険者ギルドは基本的に大きい建物なので、どこの街でも目立つんだよねこれ。

 冒険者ギルドの職員に、自分はティムルの行商人仲間で、本人に話が聞きたいので会わせて欲しいとお願いする。


「その者なら警備隊の詰め所に拘留中のはずだ。しかし盗品がまだ見つかっておらぬはずだから、面会には警備隊の者も立ち会うことになるだろう。面会自体は許可されるのではないかな?」


 まだ盗品が見つかっていないから、警備隊も立ち会って俺が盗品を持っているんじゃないのか、俺に何らかの指示が与えられるのではないかを確認するわけね。

 ま、容疑者との面会に立会人が居るのは仕方ない。早速警備隊の詰め所の場所を教えてもらって、冒険者ギルドを後にする。


 教えてもらった場所に向かいながらも、得られた情報を少しずつ整理する。


 盗品は見つかっていない、か。でもぶっちゃけ出てくるわけないよなぁ。今回の件はティムルを嵌めるのが目的ではあるんだろうけど、世界樹の護りはそのままパクられちゃう可能性が高い。

 ……だからこそ、そこを崩せれば状況も変わりそうではあるけどね。


 教えてもらった通りに進み、程なくして警備隊の詰め所に到着する。外観的には大きめの建物ってだけで、これといった特徴はないかな。

 出入りしている人たちも統一された制服なんか着てないから、魔物狩りとの見分けもつかないよぉ。


 まぁいいや。さっさと問い合わせよう。


「容疑者の友人? 確かに行商人のようだが……」


 詰め所の入り口に居た男にステータスプレートを見せると、ティムルと同じ行商人という部分で信用してくれたようだ。


「ふむ、面会にはウチの者が立ち会うことになるが、それでも構わないなら許可しよう」


 そして意外にあっさりと面会が許可された。

 まだ盗品が見つかってないから、少しでも事態の進展を促したいのかも? なんにしてもありがたい。


 詰め所の奥に通されると、途中から床から天井まで全てが石造りに変わって、凄く頑丈そうな構造の場所に来た。ここって牢屋かな?

 そのまま黙って付いていくと、1つの扉の前まで案内された。

 全体は木で出来ているけど枠組みは金属製で、分厚くて重そうな扉だった。


「今よりこの扉を開ける。会話はこの場で行ってもらうぞ」


 面会室みたいな場所は無いのか。まぁ今回はティムルの話が聞ければいいだけだから場所はどこでもいい。


「物品の受け渡しは禁止。もし何か怪しい動きがあれば、お前も拘束される可能性がある。気をつけろ」


 簡単な警告の後、部屋の扉が開かれる。

 扉の裏側……、通路と部屋の間は更に鉄柵で遮られている為、隙を付いて逃亡、なんてことは出来そうにない。


 鉄柵の中央付近に横長の、まるで郵便受けみたいな穴が開いている。ここから食事を差し入れたりするのかなぁ?


 鉄柵越しに中を覗き見る。えーっと、ティムルはどこだ?

 一瞬どこにいるのか分からなかったけど、部屋の隅で膝を抱えて蹲っている姿を発見。間違いなくティムルのようだ。


「おーいティムルー。起きてるー? 今日はこっちから愚痴を聞きに来てやったぞー」


 寝てないだろうな? あ、ぴくっとした。起きてた。

 俺の言葉にゆっくりと顔を上げるティムル。
 その顔は憔悴しきっていて、ちょっとの間にだいぶ痩せてしまった様に見える。


 こっちに虚ろな視線を向けてきたので、笑顔で手を振ってみる。けど反応がないな。ただの行商人のようだ?


 あ、なんか小刻みに震えだした。

 ティムルは小さく震えながら、見てるこっちのほうがびっくりするくらい大きく目を見開いていく。


 あーティムルさんや。それ以上は目玉が零れ落ちちゃいますってばぁ。


「ダンっ……!? あ、貴方、なんでここに……!?」

「言ったろ。愚痴を聞きに来たんだよ。この状況ならいっぱい溜まってんでしょ?」


 俺の言葉に目玉こそ零れ落ちなかったけれど、みるみる大粒の涙が溜まり、そして零れ出すティムル。


「あ、ああああ……! ダンっ……、ダンっ……!」


 覚束ない足取りで駆け寄ってくるティムル。

 鉄柵の間から必死に手を伸ばしてきたので、鉄柵に歩み寄ってティムルの手を握ってやった。


 だけどそのまま体を手繰り寄せられて、鉄柵を挟んでハグされてしまう。めちゃくちゃ痛いっすぅ。


「なんでぇ……なんで来ちゃうのぉ……。なんで、なんで貴方だけが来ちゃうのよぉ……」

「今回はニーナも了承済みだから抱きしめられる分には構わないんだけど、間に鉄柵挟んでてめっちゃ痛いんだけど? まったく、ネプトゥコで助け求められても困るって言ったのに、なにやってんだよお前さぁ」


 俺も鉄柵の中に腕を入れて、ティムルの後頭部を撫でてやる。

 ワケも分からずこんなことになって、味方のはずのシュパイン家には縁を切られて、ずっと心細かったのかもしれない。


 たださぁ。警備隊の人、傍でめっちゃ厳しい顔してこっち見てんだよね。そろそろ離してくれた方が良くない?

 そう告げてもティムルは話してくれなかったので、仕方なく立ち会っている警備隊員に銀貨を10枚ほど渡すと、男はニコニコしながら少し距離を取ってくれた。


 ああ、お金って怖いなぁ。

 そんなことを思いながら、ティムルが泣き止むまで鉄柵の感触を嫌ってほど楽しんだ。
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