異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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序章 始まりの日々2 マグエルを目指して

026 期待はずれ (改)

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 フォーベアには5日間ほど滞在してから、改めてマグエルに向かって出発した。


 フォーベア、マグエル間は今まで通ってきた道の何処よりも長い道のりなんだけど、スポットのおかげで魔物狩りが盛んなマグエルには人が集まるので、街道を行き交う人がとても多い。

 行商人やその護衛も数多く通行している為、整備された野営地も多く、野盗などが襲撃をしてくる隙もない。旅の最後にして、1番楽な行程と言えた。


「戦士と旅人か。戦闘職が増えるのはありがたい。よろしく頼むよ」


 装備を整えた影響か、野営地での扱いが明らかに良くなった。

 これまでも戦闘職というだけでもまぁまぁ優遇されていた気がするけど、今はもうあからさまなくらいに歓迎される。

 いやいや、まだまだ若輩者っすよ俺なんて。


 フォーベア、マグエル間は人が多いので、野営地防衛のローテーションもかなり軽めだ。しかもお金を払えば荷物を預かってくれる人も居る。

 流石に貴重品は預けないけど。


 持ちきれないドロップアイテムの買い取り相手に困る事もなく、今までの道のりはなんだったのかと思うほどだ。

 
「はぁっ! やぁっ!」

 
 ブルーメタルダガーでナイトシャドウを切り裂くニーナ。
 荷物を預かってもらえるので、ニーナも問題なく戦闘に参加することが出来る。

 ニーナとステイルークを出てから1月弱といった所か。ここまで来るの、ほんっとうに長かったなぁ!


「ご主人様。もう交代の時間だそうです。戻って休みましょう」


 しかも担当時間も短いし!

 その分レベリングは遅れるけど、そっちはスポットに期待しよう。


「このくらいでしたら私も問題なく参加できそうですね。ナイトウルフが出てくるようになると、私では少々厳しいかもしれませんが」


 ニーナが懸念するとおり、全てが上手くいくなんて事はない。

 マグエルに近付くと言うことは、魔物の大量発生場所であるスポットに近付くということを意味する。つまり、魔物の質と数が向上する。

 人間側の戦力にも同じことは言えるんだけどね。


 もしも見たことのない魔物に襲撃を受けたときは、ニーナには下がるように言ってある。装備は揃えたけれど、旅人には戦闘時に有利な補正がないのだから無理はさせられない。




「ああっ! その話知ってるよ! 断魔の煌きがフレイムロードを討伐した話だろ!? へぇ、お前ら当事者なんだ。で!? 断魔の煌きには会えたのか!?」


 フロイさんが言ってた通り、断魔の煌きの名は誰もが知っているようで、俺たちが開拓村の生存者だという話は非常にウケが良かった。
 しかしその伝わり方は『開拓村が壊滅したという悲劇』ではなく、『断魔の煌きがロード種を討伐した武勇伝』として広がっているようだ。

 これにはちょっと考えさせられるよなぁ。


 英雄譚には、悪役による沢山の犠牲者が必要なんだ。

 巨悪を打ち破るからこそ英雄。残虐非道で人々を虐殺するからこその巨悪なわけで……。


 人々はみんな英雄に憧れているようだけど、英雄の現れる世界というのはきっと、苦しみに満ちた世界に違いない。




「赤き戦槍。紅蓮の暴虐。汝、貫きたる者よ。フレイムランス」

「慈愛の蒼。自然の緑。癒しの秘蹟。ヒールライト」

「拒絶の盾。隔絶の庭。断絶の崖。降り注ぐ厄災、その全てを否定せよ。プロテクション」


 マグエルに近付くに連れて、魔法を目にする機会も増えてきた。
 そんな中で特に面白かったのが攻撃魔法の仕様だ。

 どうやら攻撃魔法は人を透過するみたいだ。あれがパーティメンバーだからなのか、対人全般に適用されるのかは分からないけど。
 ただフレイムロードと相対したあの時、白い雷が甲冑の人を透過した謎が解けてすっきりした。


「魔法使いになる方法は、魔力の使用に全身全霊で集中することだと言われてるよ。だけど大体の魔法使いは、記憶にないくらい幼い頃に条件を満たしているからね。どうやればなれるかと言われても、具体的な方法は分からないかな。ごめんね」


 野営地で一緒になった魔法使いに人に、思い切って転職条件を聞いてみたけど、空振りに終わってしまった。

 魔力ってのはMP的な奴だと思うんだけど、魔法使いになる為には魔法を使えって? とんちなの?


 もう少し詳しく話を聞くと、この人は元々は貴族家の出身の人で、大抵の貴族の家には魔法使いになる条件を満たす為の専用のマジックアイテムがあるらしい。

 そのマジックアイテムは大変希少性が高く、貴族家の当主クラスじゃないと見ることすら許されないものらしい。


 それほど転職条件が厳しい割には、魔法使いの人たちはみんな快く回答してくれる。

 その理由は、現役の魔法使い達は人手が足りなくて、魔法使いにもっと増えて欲しいと思っているからなんだそうだ。
 魔法使いは確かに稀少で重宝されるけど、仕事の多さに辟易している状況なんだってさ。

 贅沢な悩みのような、可哀相というか。給料が良い会社に就職したけど、忙しすぎてお金を使う暇がない、みたいな?




「俺から離れろっ! 行くぜぇ、槍円舞!」

「喰らいなさい! 強振打きょうしんだ!」

「これで最後だぁ! 烈波斬れっぱざん!」


 魔法だけでなく、ウェポンスキルを使用する人も多くなってきた。


 つうかみんなノリノリだな!?

 皆さーん、夜中に夜襲を撃退してるとこだって、覚えてますかー?


 魔法使いの詠唱がどこか淡々としているのに比べて、ウェポンスキルの使用者はめっちゃ叫んで発動してる。まさか、叫ばないと発動しないの……?

 気持ちよく叫んでゴキゲンな武器の所有者に、突撃インタビューを敢行する。


「スキル付きの装備品を手に入れる方法だぁ? そんなのオークションに出品されたのを購入するか、どっかのアウターや遺跡なんかで自分で手に入れるしかねぇよ」


 ニーナの父親が言っていたお店って言うのは、オークションのことだったのかな? 少なくとも、一般的に流通しているものではないらしい。


「元々ある装備にスキルを付与する方法? そんなのは付与術士がやってるに決まってんだろ」


 付与術士ねぇ。システム的な職業なのか社会的な肩書きなのか、いまいち分からないなぁ。


「……付与術士のなり方だってぇ? ぶははははっ! そんなん知ってたら、とっくに俺が付与術士になってるってぇの!」


 なり方が一般的に広まっていない。となるとジョブシステム的な意味での珍しい職業なんだろうな、付与術士って。

 魔法使いになる方法とスキル付き装備の入手方法。
 この2つはティムルに聞くつもりだったのに、話の流れが妙な方向に言っちゃって、聞きそびれちゃったんだよね。

 ここで聞けたのはありがたかったけど、これじゃあ分からないことが分かっただけだなぁ。



 アッチン、フォーベアあたりの辛かった旅が嘘みたいに順調な日々が過ぎていく。

 しかし明日にもマグエルに到着するという場所で、とうとう懸念していたことが起きた。


「来たぞ! ナイトウルフの群れだ! 戦闘職は前に出ろ! それ以外は下がれ、死にたくねぇならな!」

「っ! 下がります! ご主人様、気をつけて!」


 一緒に夜警に参加している誰かの声に反応して、ニーナが素早く後方に下がっていく。

 ついに来たかナイトウルフ。俺とニーナの2人の時に襲われずに済んだのは幸運だったかな?


 やがて夜目の利かない俺にも分かるほどに魔物が近づいてくる。

 ん~、見た目もサイズも狼にしか見えない。動きも素早く、常に群れをなして襲ってくる。それってもう普通に狼では?

 まだ距離があるうちに鑑定を行う。



 ナイトウルフLV3



 っ! ここで出たか、LVが上がった魔物が! しかも俺に向かって来てるしぃっ!


「ガウアッ」


 あっという間に俺の目の前まで迫り、喉笛目掛けて噛み付いてくるナイトウルフ。

 しかし盾を体の前に翳して噛み付きを防ぐ。ダメージはないっ。


 カウンターでロングソードを振り下ろすけど、間に合わずに躱された。

 くそっ、悔しい。


「ガアァッ」


 俺の攻撃を警戒する必要なしと捉えたのか、再度同じ個体が攻撃を仕掛けてくる。

 ……が舐めんなぁ!

 先ほどは受けるだけだった盾を、飛びついてきたナイトウルフの顔面に思い切り叩きつける。そしてそのまま全身の力を使って、盾越しにナイトウルフを地面に叩きつけてやった。


「ガフゥンッ」


 今度こそ捉えた!

 胴体を狙ってロングソードを振り下ろす。
 ロングソードを伝わって、相手の肉を切り裂く感触が伝わる。勝った!


 ……と思ったのに、相手は軽やかな動きで距離を取り、今度は警戒した様子で俺の隙を窺っている。

 その体に傷など1つもなかった。

 そうですね。HP制でしたね。必死になりすぎてすっかり忘れてましたよ。


 動きは早いけど動きは直線的だし、毎回喉を狙って噛み付いてくるので、コイツの動きにはもう慣れた。

 終盤は盾で受けずに、カウンター気味にロングソードを叩きつけてやった。


 煙に還ったナイトウルフがいた場所には、ドロップアイテムが落ちている。



 毛皮



 まんまかい。黒いモフモフとしか認識できないね。

 さっと回収して防衛戦を続行した。


 1度動きを理解すればそこまで苦戦する相手でもないな。ナイトウルフのLVはみんなばらばらで、LV1~4くらいの幅があるようだ。

 視界の外から奇襲されることを警戒しながら剣を振り続けた。



 無事にナイトウルフの襲撃も凌いで俺達の夜番は終わった。

 寝る前にニーナと一緒に今回得たドロップアイテムの整理をする。


「ご主人様。毛皮はなるべく街まで持っていきましょう。買い取り価格が30リーフと、かなり高額ですから」


 ニーナの提案に驚いてしまった。
 凄いなナイトウルフ。俺の初陣の報酬より多いじゃん。

 それに経験値も良いらしいな。マグエルに到着直前で、俺の戦士はLV14、ニーナの旅人はLV11まで育成することが出来た。

 マグエルまでの道中は夜番の負担も減った代わりに、レベリングが全然捗ってくれなかったのになぁ。今夜だけで2つくらい上がってるよ。


「それで……ですね。大変申し上げにくいことですが、1つ残念な報告がございまして……」


 ニーナが俯き加減の上目遣いで、俺の顔色を窺うような仕草を見せている、

 え? なにそれ怖い。こんなに言いにくそうな様子のニーナ、あんまり見た覚えがないレベルだよぉ。


「聞きたくないけど……、そういうワケにもいかないよね。どうしたの?」


 ニーナの問題は俺の問題でもある。

 悪い話を覚悟して、ニーナに話の先を促した。


「それが、ですねぇ……。昨晩の戦闘で私の旅人が成長したのを感じたので、インベントリを確認したのですが……」

「えっ!? ま、まさかスキルが成長しなかったとかっ!?」


 驚きはしたけど、考えてみたら仕方ないのかもしれない。
 インベントリは割とチートに近い能力の1つだと思うもんなぁ。

 1㎥ならキリもいいし、そこで成長が止まっても違和感はない。残念感は満載だけどぉ。


「う~ん。ちょっと説明するのが難しいんですけど……」


 ひと言前置きしてから、身振り手振りを交えて話し始めるニーナ。


「今までのインベントリの収納スペースは成長せずに、新しく、成長前の収納スペースが追加されたんです。分かりますかね?」


 一生懸命説明してくれたニーナの言葉を、頭の中で整理する。

 LV10で1㎥になったインベントリは、LV11になっても変化することはなかった。
 その代わりに、LV1で使用できた10cm四方の収納が新たに追加された……、と?


「……え、マジ? 成長じゃなくて、追加されちゃったの?」

「そうそう! そういうことですご主人様!」


 自分の言いたいことが伝わったことが嬉しいのか、凄い凄いと飛び跳ねて喜んでくれるニーナ。ああもう可愛いなぁ。


「ということなので、新しく追加された方はまだなにも入れられないくらいの大きさなんですよ」


 ……って、はああああああ!? マジかよぉ!? ニーナの可愛さに一瞬誤魔化されかけたけど、マジかよそれえええ!?

 頭打ちになるよりはマシだけど、LV30の時点で1㎥の収納が3個あるのと、27㎥の収納が1つあるのとでは話が違いすぎるだろーーー!


 確かに……、確かに改めて考えてみると、27㎥の収納空間なんて強力すぎるけどさぁ!

 チートと言って差し支えないレベルの強力なスキルだよ? そんなのがあったら行商人たちが馬車で走る必要ないとは思ってたよ?

 でもさぁ。いくらなんでもこれは酷くない? この仕様でもちゃんと有用なスキルっていうあたりが、絶妙に酷くない!?


「ご、ご主人様……? た、確かに思っていたのとは少し違いましたけど、いくらなんでも落ち込みすぎでは……?」


 あ、やば。嘆きすぎてニーナがどん引きしてる。


「あー……。いやごめん。ちょっと俺が想像していたのと違う方向性に進んだ事が、自分でも驚くほどショックだったみたい」


 コホンと軽く咳払いをして気を取り直す。

 確かに期待通りの成長はしてくれなかったけれど、期待通りじゃなかっただけで成長が止まったわけでもない。改めて考えるとここまで嘆くのは大袈裟すぎたかもしれないな。


「うん大丈夫。受け入れた。勝手に期待してそれが外れて嘆くとか、独り相撲もいいとこだよ」


 インベントリさん、期待はずれとか思ってごめんなさい。いつも助かってますし、これからもお世話になります。


 でも、くっそーやっぱ悔しいってばぁ。

 流石にこの展開は全く予想してなかったよぉ。んもーっ。
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