異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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序章 始まりの日々2 マグエルを目指して

022 チート能力 (改)

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 夜が深まり、ナイトシャドウたちの襲撃が始まった。
 盗賊たちに警戒しつつナイトシャドウを撃退していると、野営地の中心付近で悲鳴が上がった。


「ダンーっ! 助けっ、モガッ!?」

「っ! ニーナ!? すぐ行く!」


 ちっ、始まったか! ティムルの予想、外れて欲しかったなぁ!

 魔物を無視してニーナの元に向かおうとしたけど、そんな俺の前に盗賊2名が立ちはだかる。


「おおっと。ここは通れないぜ彼氏くん」

「ここで大人しくしてりゃあ、お前は死なずに済むかもなぁ? なぁに。あの2人だって死ぬわけじゃねぇから心配は要らねぇよ。あの器量ならどっちも高く売れるだろうからよぉ」


 下品に大笑いしている盗賊はスルー。

 ニーナがいるはずの方向に目を向けると、ティムルとニーナが後ろ手に縛られて、盗賊の肩に担がれているのが見えた。

 っていうかティムルぅ! あっさり掴まってんじゃねぇよ、もう! 命の危険を感じたら迷わず投降しろと、事前に打ち合わせておいたとはいえさぁ。


「悪いけどあの2人を渡すわけにはいかないね。黙って道を開けてアジトまで案内してくれるなら、殺すのは勘弁してやるけど?」


 襲い掛かってくるナイトシャドウを蹴散らしながら、目の前の2人を挑発する。

 2人は既に野営地から連れ去られている。グズグズしている暇はない。


「おぅおぅかっこいー! 女のために命を懸けるなんて男だねぇ!」

「そうだなぁ。アジトに招待してやっても良いぜぇ? お前の目の前で、あの2人をひと晩中姦してやるよぉ!」


 言うが早いか、野盗の1人が襲い掛かってくる。

 早いっ! 敏捷性特化の職業は伊達じゃない。


 けど、こっちは思考するだけでいいんだ。流石に後れは取らない。

 向かってくる男を鑑定し職業設定を起動。職業を村人に変更する。


「はえ?」


 自分の体に起こった変化に戸惑う男。


 敏捷性補正は、対人戦では非常に強力な能力だろう。
 でもだからこそ、転職による身体感覚の狂いは他の職とは比べ物にならないはず。

 そのことを証明するかのように、俺に向かってきた男は突然の感覚の狂いに対応できずに足を縺れさせた。


 その隙だらけの顔を目掛けて、ナイフの柄尻を叩きつける。


「ぎゃべ!?」


 肉が潰れる感触が手に伝わる。

 けどこちとら毎日ホワイトラビット狩りをしてたんだ。いまさら肉を壊す感覚なんかに、忌避感を覚えてられっかよ。


「テメェ! なにしやがった!?」


 もう1人もこちらに向かってくる。

 やはり凄い早さだ。けど可能な限り引き付けてから、職業を村人に変更。


「あ、れ……?」


 こちらの男も、思考と体の感覚がチグハグになって、俺の目の前で動きが一気にぎこちなくなる。

 そんな隙だらけの男の喉笛を、ナイフでひと思いに切り裂いてやった。


 男の喉から、まるで噴水のように勢い良く鮮血が飛び散る。水道管が破裂した時って、こんな感じだったなぁ。

 なにが起きたか理解できない様子の噴水男が膝から崩れ落ちていく中、忘れずに職業を盗賊に戻す。
 死人のステータスプレートには干渉できないと聞いている。職業設定スキルでも、死後は職業の変更は不可能だと想定するべきだ。
 

「鼻が! 俺の鼻がああああ!」


 ちっ、うるせぇなぁ。


 顔を押さえて地面に転がっている男の太股に、ナイフを突き立てて少し抉る。

 これで機動力は完全に殺せたはずだ。職業を盗賊に戻す。


「あーーーー! あーーーー!」

「あーあーうるせぇ。さっさとアジトまで案内しろ。そうすれば命だけは……って、んん?」


 ニーナは何処に、と思った瞬間、ニーナのいる方向がなんとなく感じ取れた? なんだこれ?

 ニーナのいる場所を知ろうとする度に、何度も同じ感覚を覚えた。なんだこれ? 愛の力?


 ……そうじゃない。これってもしかして、パーティメンバーの所在確認か!?


 太股を押さえていた男の喉も切り裂いて、止めを刺す。こいつを生かしておく必要性はもう無くなったからな。


 自分の職業を旅人にして、とりあえず武器だけ回収。
 ステータスプレートはインベントリに収納できなかったので、ズボンのポケットに突っ込んでおく。

 ズボンに突っ込む前に確認したけど、間違いなくどちらも盗賊だった。そして職業設定を試してみるも、やはり職業変更は出来なくなっているようだ。

 考えてみれば、ステータスプレートは鑑定対象外だったもんね。


 さて。職業設定による弱体化は思った以上に強力だった。

 でもこれって盗賊だからこそ上手く機能したんであって、敏捷性補正が無い職業に使っても効果は期待できないだろうね。そういう意味では、荷運び人が1番の難敵かもしれない。


 まぁ考えるのは後だ。今はニーナを追わないと。

 盗賊の死体を放置したまま、ニーナの反応を頼りに夜の森の中に足を踏み入れた。




 ニーナの反応を追って、街道沿いの林を進むこと数分。


 ……居た。

 暢気にランタンなんか点けやがって。
 仲間がやられるなんて微塵も思ってないってか?

 盗賊は対人戦では無類の強さを発揮する職業だってのは認めるけどさ。


 ニーナの呪いのおかげで旅の間は苦労してるけど、逆に言えば今回のように連れ去られても簡単に引き離される事はない。
 だから追いつけるかどうかは心配してなかった。

 問題なのはやはり、コイツらを撃退できるかどうかだ。


 パーティ登録があるから、多少距離を取っても問題なさそうだ。
 このままアジトまで案内してもらって、油断してもらうのがいいだろう。

 もし他にも被害者がいるなら救出してあげたいしな。


 30分も歩かないような場所に洞窟があって、見張りなのか男が1人立っていた。職業はやはり盗賊。

 街道を少しでも離れると、こんなに近くにアジトがあっても見つからないもんなんだなぁ。


 4人が洞窟に入って数分経ったので、襲撃開始だ。門番を村人にしてから飛び出す。


「なっ!? 誰だテメェ!? って、あ、あれ!?」


 感覚の狂いからか、武器を手にすることすら覚束ない様子。

 遠慮なくその隙をついて、駆け寄りざまに男の胸にナイフを差し込んだ。

 
 柄本まで刺さったナイフをすぐに引き抜き、出血を強いる。

 男が地面に膝をついたのを確認してから盗賊に戻す。
 出てきたステータスプレートだけ回収して、洞窟の中に侵入する。


 ……暗い。何も見えない。

 一旦戻って、見張りの腰に下がっていたランタンを回収。改めて中に入った。


 どうやらここは天然の洞窟を利用したアジトのようだ。

 見張りもいたし、中に魔物がいる事はないだろう。ニーナとティムルを除けば敵しかいないはずだ。自由に動き回ってる奴がいたら敵に間違いない。即攻撃しよう。


 途中に分岐があったけど、ニーナの反応を追って奥に進む。

 するとなんだか奥のほうから、楽しそうに馬鹿笑いする男の声が聞こえてきた。


「さぁて。売っ払っちまう前に、商品の価値を確認しておかねぇとなぁ?」


 おおっと、なんだか楽しそうなこと言ってるねぇ? でもさせるわけにはいかないんだよなぁ。


 ランタンを地面において先に進む。

 すると奥では、野盗の中でも特にLVの高かった2人がそれぞれ、ニーナとティムルを押し倒したところだった。

 野盗2人の職業を変更してから隙だらけの背中にナイフを突き立て、力が抜けた馬鹿共を蹴り飛ばしておく。


 お楽しみの最中に悪いね。でも人生そう甘くはないもんなんだよ。


「ダン!? 良かっ……、あ、ごめ……」


 ニーナに人差し指を立てて見せて、静かにしてもらうようにお願いする。

 遅くなってごめん。でもまだ終わってないんだ。まだこのアジト全体の制圧が終わったわけじゃないからね。


 蹴り飛ばした2人は痛みに呻いていたので、ナイフを抜いて職を戻す。

 ニーナを押し倒していた男は念入りに殺しておこう。

 キューブスライムだと思ってざくざくざくざく。
 もう死んでるだろうけど念のために、もう少しざくざくざくざく。


 ふぅ。俺のニーナに汚い手で触ってんじゃねぇ、殺すぞ。殺したけど。


 野盗2人からステータスプレートが排出されたことを確認してから、ニーナとティムルの縄を切った。


「ダン。助けてくれてありがとう。ずっとついてきてくれてるの、感じてたよ」


 ニーナのお礼の言葉に、救出が成功したことを実感する。

 良かった。ニーナが無事で本当に良かった。
 死体が転がっている部屋でニーナと抱き合い、互いの無事を確認する。


「ニーナ、それにティムルも無事で良かった。俺はこの中を制圧してくるから、2人ともここで待っててくれる? 他にも捕まってる人がいたら助けてあげたいんだ」


 小声で2人と話し合う。

 まだ野盗のメンバーが残っているのは間違いないからね。まだ油断するわけにはいかない。


「そ、それはいいけど、ダンってこんなに強かったの……? 私はあいつらの動きについていくことも出来なかったのに……」

「いやいや、女を押し倒してる時の男って世界で1番無防備な生物だからね? タイミングの問題だよ」


 ティムルの問いには適当な答えを返してはぐらかしておく。


「それじゃ行ってくる。武器はそこに転がってるやつらから確保してくれ」


 この2人なら、武器さえあれば最低限の護身はできるだろう。

 ステータスプレートだけは俺が回収する。うん。ちゃんと盗賊のままだな。
 死後は職業の変更が出来ないので、犯罪職じゃないステータスプレートが残ってしまったらこっちのほうが犯罪者扱いされてしまいかねない。気をつけないとな。


 野営地で2人、見張りを1人、今ここで2人殺したわけだけど、野営地に来たのは6名。見張りはここにいたわけだから、最低でもあと2人はこの中にいる事になるな。

 ランタンは置いてくか。鑑定があれば暗闇でも人には気付けるし。


 来た道を戻って、洞窟の中を探索する。

 さっきのが野盗の頭目の部屋だとすれば、洞窟の1番奥の部屋だった可能性が高い。それを考えれば、この洞窟はそこまで広い空間じゃないな。


 暗くて分かりにくいけど、分岐路まで戻ってきた。分岐の先を確認するがどうやら無人。


 暗くて分かりにくいけど、どうやらここは倉庫のようだね。暗闇の中でも分かるティムルの巨大リュックもあるし、俺達の荷物も回収されていた。
 どうやら荷物を取りに野営地に戻る必要はなさそうだ。つうか良くティムルのリュックを運搬できたもんだよ。荷運び人凄いな?


 倉庫を出て再度洞窟を探索すると、なんだか騒がしい場所を見つけた。

 こっそり覗き込むと、中には盗賊が3人、荷運び人1人。
 同じ数の女性を相手になんだか楽しそうなことをしていたので、敵の職業を変更して俺も乱入する。

 真っ先に荷運び人を始末し、あとは村人に変えた盗賊たちを順番に処理。


 女を抱きながら死ねたんだ。男なら悔いはないだろ。

 絶命する前に職業を元に戻して、ステータスプレートを回収する。


 突然の事態に呆然としている女性陣。ちょっと直視できない格好なので、通路に出てから声をかける。


「俺は味方だよ。これから女の仲間を連れてくるからここで待ってて」


 女性陣には盗賊は1人も居なかったので、恐らく野盗の仲間って事はないだろう。鑑定は敵味方の判別がつけやすくて便利だ。


「別に逃げてもいいけど今は夜だ。外に出たら魔物に襲われるかもしれないから良く考えてね。外に行った奴をわざわざ追いかけてまで助ける気はないから」


 警告というわけじゃないけど、このまま待っていてもらうように忠告してから通路を戻る。


 このあと軽く洞窟の探索を続けたけど、他に部屋は見つからなかった。

 ニーナとティムルに合流して、乱暴されていた女性たちに話をしてもらう。


 その間に俺は野盗の装備品の剥ぎ取りをして、洞窟の外に死体を捨てた。結構な重労働。
 剥ぎ取りも死体の扱いもめんどくさい。生きてても迷惑なのに死んでても迷惑かけるなんて、野盗連中は魔物以下ですね。

 なんか昔のゲームキャラがモンスターに向かって、何も残らないだけゴミよりマシ、とか言ってたなぁ。


 野盗の死体を順番に外に捨てていると、ティムルがやってきた。


「ダン。私は今から野営地に戻って、2人の死体から装備品と服を剥ぎ取ってくるわ」


 野営地で始末した盗賊の武器は俺が回収してきたし、あいつらは防具は身につけていなかったよ。そう言いかけてギリギリ思い留まった。
 この情報は鑑定が使えなきゃ得られないんだってば。迂闊だな俺って。


「ついでに野営地から死体を移動しておくわ。明日になったら誰か来るかもしれないから、死体をそのままにしておいたら迷惑だしね」


 殺人が発覚したら困るでしょじゃなくて、ゴミを放置してたら迷惑でしょって口調なのが恐ろしい。


「貴方はここに残ってここの防衛をお願い。女たちの中に戦える人は居ないみたいだから貴方が頼りよ」

「俺がここを守るのは構わないけど、ティムルこそ1人で大丈夫? 死体の片付けだって、女手1つじゃ時間かかるんじゃないの?」

「貴方ほどじゃないにしても、私だって戦えるのは見せたでしょ? 装備品も戻ってきたし心配要らないわ」


 盗賊から奪い返した2本の短剣、ウィンドダガーとヴェノムダガーを見せながら心配無いと語るティムル。確かにこの武器があればナイトシャドウに不覚を取る可能性はまずないだろう。


「それにこれでも私はドワーフよ。人間族の女と比べれば力には自信があるわ」


 なるほど? ドワーフは人間族より力が強いんだ? 獣人族であるニーナも俺より力がある感じだしなぁ。


「捕まっていた女たちも私達がフォーベアまで護衛する必要があると思うの。どうせならポーターとして、戦利品を運んでもらうのを手伝ってもらいましょ」


 流石は大商人。ちゃっかりしてるなぁ。

 ま、こうなった以上は少しでも儲けるべきか。


 捕まっていた女は4人。それぞれフォーベアとアッチンの住人だそうで、中には半月近く監禁されていた人も居たらしい。

 その苦痛は当人たちにしか分からないけど、少なくとも明確に壊れてしまっている人はいない。妊娠のリスクが低い事が彼女達の心の支えになったのかもね。


 彼女達の衣服はなかったので、剝ぎ取った野盗の服を洗って着てもらう。
 今乾かし中で、明日には乾いてくれることだろう。洞窟の近くに小さな川があって良かった。

 川があったからこそ拠点に選んだんだろうけどね。

 俺の返り血も洗い流した。さっきまでさぞやスプラッタな見た目だっただろうね。噴水みたいな返り血を回避するなんて芸当、俺にはまず無理だ。


 洞窟の中に簡単な調理スペースがあったので、女たちに温かいスープを配ってやる。

 食事を取ったことでようやく彼女達は落ち着いてきたのか、部屋の隅に寄り添って眠りに落ちていった。


 この様子じゃすぐに移動は無理かなぁ。もう1日くらいはここで休むことを考えないとダメかも。

 野営地の後始末を終えて戻ってきたティムルとも話し合って、もう1日この洞窟で体を休めて、明後日の朝に改めてフォーベアに向かうことにした。


 俺達3人で交替して洞窟の入り口を見張りながら過ごし、やがて夜が明ける。これで魔物の襲撃の危険性はあまりなくなったはずだ。
 魔物が居なければ非戦闘員でも見張りに立てるだろうから、保護した女に2人ずつ交代で日中の見張りに立ってもらって俺たちは休むことにした。


 ニーナを抱きしめながら鑑定をすると、旅人のLVは4のままで上がってなかった。ニーナもLVが上がってない。
 つまり対人戦をこなしても、レベリングにはならないってことか。

 ただレベルは上がってなかった代わりに、新たに3つの職業を獲得したみたいだ。



 盗賊LV1
 補正 敏捷性上昇
 スキル 小型武器使用時敏捷性上昇


 殺人者LV1
 補正 敏捷性上昇 敏捷性上昇-
 スキル 対人攻撃力上昇


 賞金稼ぎLV1
 補正 敏捷性上昇
 スキル 対人防御力上昇



 けど、使いづれぇ~……。


 盗賊なんかの犯罪者には強制的に職が変更されるそうだけど、どうやら俺の職に変化はなかった。犯罪者相手だったから、転職条件は満たしたけどペナルティは無しだった?

 それにしても、対人能力か。対人戦特化の職業があるってのは怖い。
 出来れば賞金稼ぎのLVを上げておいて、対人防御力を確保しておきたいなぁ。


「ダン? 早く休んで。じゃないと夜が辛くなっちゃうよぅ」


 俺に抱きついたままで、もぞもぞと動いて俺をたしなめるニーナ。

 ニーナだって疲れてるはずなのに、決して俺より先に寝ようとしないんだからなぁ。こんなに愛しいニーナを守れて本当に良かった。良かったんだよ。


「……? ダン、震えてるの? 大丈夫?」


 腕の中のニーナが心配してくれる。

 ニーナよりも大切なものなんてなんにもない。ニーナを守りきれたんだから何にも問題ないし大丈夫のはずだろ俺。


「……大丈夫。ただ初めての対人戦だったし、相手のほうが俺より遥かに格上だったから、今さらになってちょっと怖くなっちゃってさ。ほんと、ニーナを守りきれて良かったよ」


 手加減している余裕はなかった。
 ニーナとティムルのほかにも、4名もの女性を救い出すことも出来た。

 だから俺のやったことは絶対に間違っていないはずだ。なんて簡単に割り切れたら苦労はしないんだけどな……。


「……うん。今回はちょっと大変だったね」


 ニーナが俺の腕の中から手を伸ばして、俺の頭を優しく撫でてくれる。

 俺を励ますように、俺を安心させるように。


「ダンのおかげで私は今こうしてダンに抱きしめてもらえているし、ダンのおかげであの人たちは野盗から解放されたんだよ。絶対に忘れないでね?」


 ニーナに隠し事は出来ない。
 きっと彼女には、俺が震えている理由も、全てお見通しなんだろうなぁ。


「分かってる。頭では分かってるんだけどね」


 全て覚悟の上でやったことだ。やらなければ俺達が死んでいた。

 だけど感情って奴は、理屈だけで動いちゃくれないらしい。


「……悪いけどニーナ。暫くこのままでいさせてくれる?」

「もちろん。好きなだけこうしてて」


 ニーナとお互いに抱きしめあう。

 この腕の温もりを失わない為に。ニーナを守る為に仕方ないことだった。


「……ダン。助けてくれてありがとう」


 ニーナが何度も俺に感謝を伝えてくれる。


 ニーナを守れたんだ。後悔はしていない。してたまるか。

 他の誰を殺してでも、ニーナを守ると決めたはずだろ。


 だけど……。



 殺人者。



 分かってるから、頼むから突きつけてこないでくれ……!
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