異世界イチャラブ冒険譚

りっち

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序章 始まりの日々2 マグエルを目指して

017 ウェポンスキル (改)

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「あ、お前。ステイルークの傍で、女に縋って号泣してた奴じゃねぇか」

「その認識、今すぐ捨ててぇっ!」


 主に俺が原因で予定より少し遅れたけれど、なんとか夜になる前に夜営予定地に到着することが出来た。

 ここはステイルークと次の街であるステイーダの中間地点にある場所で、魔物の撃退がしやすいように開けた場所になっている。
 ステイルークとステイーダ間は人によっては1日で踏破してしまうそうだけど、夜の移動は昼とは危険度が段違いなので、よほどの急ぎでなければ多くの人がここを利用するとゴールさんが言っていた。

 目的地がどちらの街であっても中間地点のここで1泊するため、思ったより多くの人が集まっている。

 多分100人はいかないけど……、70人くらいは集まってるかな? その殆どが非戦闘員で、戦える者は半分もいないみたいだけど。


 ニーナにも苦言を呈された通り、俺の痴態は多くの人に目撃されていたようで、野営地に到着した途端にちょっとした騒ぎになった。

 しかし夜が近いのもあって、戦士の俺は野営地防衛に回されて、ニーナは俺の痴態を詳しく聞きたい女性陣に引きずられていってしまった。


 この世界の野営はやはり危険で、特に人間同士だとHPシステムが働かないため、簡単に殺し殺されが起こる。

 だけど職業のステータス補正が消えるわけではなく、見た目には誰が何の職業なのか判別出来ない。か弱い女性が実は物凄い戦闘力だった、なんてケースもあるため、人が多い場所での犯罪は比較的少なめだ。

 危険なのは少人数で夜営をする際に、大人数で襲撃されるケースらしい。


 俺とニーナはマントで覆って全身を隠してはいるけど、装備が整っていないとバレるといいカモにされてしまうかもしれない。
 なので出来るだけ集団から孤立しないように気をつけようとは思ってたんだけど、俺が恥をかいた事で人の輪に入る良いきっかけになったようだ。

 でもこんな方法でコミュニケーション、取りたくなかったよぉ。


「ぎゃははは! 確かに美人だと思うけど、奴隷に入れ込みすぎだろお前! 奴隷に縋りつくとかダッセェ!」

「ヒィヒィ。いやぁ~退屈な夜番にいい話題ができて感謝してるよぉ」

「だぁ~っ、もうっ! 感謝するなら夜番について教えてくれよ! 俺、ステイルークから出るの初めてなんだからさぁっ」


 戦える者は30人弱で、見張りは全員が共同で、前番と後番の交代で行うことになった。街から近く人も多いので、そこまで大変ではないね。


 俺は最初のグループのほうに振り分けられた。

 どうやら女性陣がニーナに話を聞きたいがために、俺を先に回してくれたらしい。俺が後番だと当番の時間までニーナに引っ付いてるから、話を聞くのが深夜になっちゃうのだ。


 おのれぇ、平和な理由だから文句も言えぬ。


「野営地の合同夜番なんて、そんなに構える事もねぇよ」


 ひとしきり笑って気が済んだのか、一緒に夜番になった槍使いが簡単な説明をしてくれる。


「ここは見通しも良くて人も多いから、よほど運が悪くない限りはナイトシャドウの襲撃しかねぇからな。運が悪くてもダークスライムくらいもんだ。ナイトシャドウに対処できるなら問題ねぇ」


 ふぅん。特に決まりごととか注意点とかは無い感じなのかね?

 ダークスライムはまだ会った事ない。2人の時に遭遇するより集団防衛戦の時に遭遇したいところだね。


 見張りの配置は、野営地を囲むようにして4箇所。それぞれ3~5人くらいずつの戦闘員で焚き火を囲んでいる。

 職業によって担当場所が決まるらしく、俺は3人の場所に配置。他の2人は兵士と剣士だと紹介された。3人とも戦闘職なのはここだけのようだね。


 2人を鑑定してみると、2人とも戦士のレベルは30だ。戦士のレベルは30が最高なのかな?


「ま、そろそろ寝る奴も居るだろうから大笑いするわけにはいかねぇ。お前ダンだったっけ? 頼むからこれ以上笑わせないでくれよ?」

「別にウケ狙ってるつもりは一切ないんだけどぉ?」


 イジラレキャラが定着しつつある事にゲンナリとしながらも、少しまじめな話題を振ってみる。


「なぁ、この野営地っていつもこのくらいの人数居るの? 他の場所もこんな感じなのかな?」

「んー? まぁ当たり前だがそう言うのは場所によるなぁ」


 ウケ狙いでやった事ではないけど、せっかく会話しやすい状況になったんだ。ネタ提供代として、聞けることはどんどん聞いちゃえ。


「ここくらい平均して人が多いところは多分珍しいと思うぜ。夜営の見張りも、ここみたく全体で共同で行う場合もあれば、各自好き勝手にどうぞって場合もある」


 うーん。ここのやり方がこの世界のスタンダード、なんて甘い話はないか。


「共同の場合は、協力を断ると朝になってから護衛料を請求される場合もある。各自自由に行う場合だと、何かあった時に普通に見捨てられる事もあるから気をつけるんだな」


 朝になってから護衛料を請求されるのは質が悪いなぁ。護衛は必要ありませんなんて言っても、夜が明けちゃったら筋が通らなくなっちゃうよ。


「協力を要請されたら協力したほうが無難だし、人が居るからと油断して見張りを立てない、なんて事は控えるべきだな」


 周囲に協力さえしていればめったなことは起こらないわけね。だけど油断は禁物と。

 街で寝る時以外は、俺は常に見張りとして夜の間ずっと起きている必要がありそうだ。今のところ装備品の無いニーナに戦闘させるわけにはいかないし。


 会話しているとやがて夜が深まってきて、遠くで戦っている様子が感じられる。俺達の近くにはまだ何も現われてないけど、どうやら魔物の襲撃が始まったようだ。


「この焚き火の内側には絶対に進ませるなよ。ナイトシャドウなんかに抜かれたら、戦闘職として一生の恥だと思え」


 リラックスした様子の2人だけど、それでも雰囲気が変わった。戦闘モードって奴か。

 確かに、ナイトシャドウはナイフですら1撃で葬れる魔物だ。防衛を任された身としては、いくら数が多くたって後ろに抜かれるわけにはいかないね。


 それぞれが少し距離を取って、広めの範囲をカバーする。

 これで間を抜かれたらどうしようなんて少し不安だったけど、実際に戦闘が始まるとあまり問題はなかった。


 ナイトシャドウは簡単に倒せる上に、あまり知性の無い魔物だ。
 俺達の後ろに非戦闘員がいることなんて想定せずに、近くにいる俺達を優先して襲ってくる。つまり俺達をスルーすることがない。

 1人当たりの担当範囲が広くて少し走り回る羽目にはなったけど、防衛自体は楽なものだった。


 戦闘中に気になったのが槍使いの兵士だ。
 ちょいちょい槍を振り回して、広範囲をなぎ払っていた。

 俺の見間違いでなければ、明らかに槍の長さ以上の範囲を攻撃してるように見えたんだよねぇ。あれって、スキルなのかなぁ?


 4度ほど襲撃を蹴散らしたところで、ようやく見張り交代となった。急いでアイテムを回収して、解散する前に槍使いに話を聞いてみる。


「ああ。あれは槍円舞そうえんぶっていうウェポンスキルだよ。運良くスキルつきのコイツを手に入れられてな。重宝してんだ」


 意外とあっさり答えてくれた槍使い。
 ウェポンスキルってなんだ? 武器についてるスキルって意味か?

 っとそうだ、男が自慢げに見せ付けてくる槍を鑑定っと。



 鋼鉄の槍
 槍円舞 無し



 ん? 槍円舞は分かるとして、無しってなんだ? ナイフにも木の盾にも、無しなんて書いてないぞ?


「槍円舞は槍を振り回しながら発動するスキルでな。実際よりも広範囲を攻撃することが出来るんだ。その分威力は低めなんだがよ。雑魚を蹴散らすのには向いてんだわ」

「へ、へぇ。使いやすそうだな。やっぱり高かったのか」


 聞いてもいないのにスキルの説明をしてくれる槍使い。

 あっぶねぇ。考え込んでて半分話聞いてなかったよ。


「そうだな。スキルつきの装備なんざ王金貨が必要な場合もあるぜ。こいつはそこまでしなかったけどな」


 お、王金貨って……。確か1枚100万リーフの価値がある高価だよな……?

 槍の値段に驚愕していると、槍使いがくあぁ~っと大きな欠伸を零した。


「いや~あの時のことを語ってやりてぇのは山々だがよ。明日に差し支えるからそろそろ寝させてくれよ」

「あ、ああ。引き止めて悪かった。おやすみ」


 欠伸をしながら立ち去る槍使いの背中を見送る。

 無しについては気になるけど、俺もさっさとニーナと合流しよう。

 
 野営地の中心近くに来てニーナを探していると、ニーナの方が俺を見つけてくれた。


「お疲れ様ですご主人様。もう遅いですから早く休みましょう」

「まさかずっと起きてたの? 迎えは嬉しいけど、気にせず休んでても良かったのに」


 迎えが嬉しいと言うか、見つけてくれてありがとうと言うか。
 ニーナが来てくれなかったら、多分今夜は別々に寝ることになってたよ。


「いえそれが……。私のほうも先ほどようやく解放されたところでして」


 今までずーっと女性陣の質問責めに遭っていたらしい。もう結構遅い時間なんだけどなぁ?


「一緒に居た方が、ここに慣れてないご主人様が私を見つけるのは難しいだろうと、迎えを勧めてくれたんです」


 あ~、経験者からのアドバイスだったのかぁ。実際、迎えに来てもらえなければ、多分朝まで合流出来なかった気がする。

 ドロップアイテムは薄く光っているから、夜目の利かない俺でも問題なく回収できるんだけどねぇ。


「そっか。迎えありがとう。俺だけじゃ絶対合流できなかったよ」


 なんかこの世界の人って、夜目が利く人が多い印象だ。というか俺の方が普通よりも夜目が利かないのかなぁ?


「さてそれじゃ休もう……って、寝る時も離れて寝ないとダメかな?」


 奴隷の扱いなんて分からないから所有者としての振る舞いだって分からない。分からないことは素直に聞く事にする。


「いえ、街道の1件でご主人様が私にメロメロだと野営地中に伝わってるので、むしろ離れて寝るほうが不自然かと?」

「くっ! 怪我の功名……!」


 宜しい。取り繕う必要がないなら、遠慮なく引っ付かせてもらおうじゃないか。

 満天の星空を見上げながら、2人で抱き合って眠りについた。 





「ぎゃはははは! だから奴隷に引っ付きすぎだっつってんだろ! それじゃ奴隷じゃなくて、恋人にしか見えねぇから!」

「あ~若いっていいわねぇ。ニーナちゃん、愛されてるわぁ」


 おかげで翌朝も思い切り弄らましたけどね? 恋人に見えると言われて、悪い気はしないけどっ。


「おはようございますご主人様。私にメロメロなのは分かりますけど、もう少し周囲を気にしてください」

「おはようニーナ。ニーナにメロメロなのは否定しないけど、さっさとメシ食ってステイーダに向かおうか。ステイーダにまで広まってないと良いんだけどぉ」


 朝の食事は、夜に戦闘に参加しなかった人たちがまとめて用意してくれた。

 これはこの野営地ではいつものことだそうで、戦闘職の人の負担を減らす意図があるそうだ。
 

「この場にいる半分はステイーダに向かうわけですし、私達の到着と共に広まるんじゃないですか? 私としては望むところですけど」

「奴隷より恋人同士に見られる方が俺も嬉しいけどねぇ……」


 ステイーダでも弄られる可能性にゲンナリしつつも、ニーナの言葉に嬉しさも覚えてしまう。複雑な心境だなっ。


「それじゃ少し真面目な話なんだけどさ。昨晩は4回ほど襲撃を撃退したんだけど、ニーナのインベントリ、広がったみたいだね?」

「……お分かりになるのですね。おかげさまで成長したようです」


 なぜか少し言いよどんだニーナだったけど、直ぐに返答してくれた。

 昨晩の夜営は普段より距離が離れた状態だったけど、ニーナにもちゃんと経験値が分配されていたようだ。


「ただご主人様。この話題をご主人様から私に振るのは少し無用心だと思いますよ」

「ああっとそうだね。次からは広がった? って聞くようにするよ」


 なるほど。鑑定と職業設定のことを簡単に口にしたから言いよどんじゃったのか。確かに無用心だったかな。


 朝食中にニーナを鑑定したところ、ナイトシャドウの襲撃4回でニーナは旅人LV2になってたのだ。

 フロイさんの指導では1日に1度しか襲撃を乗り越えなかったのに、最終的に戦士のLVが4に到達したことを考えると、明らかにペースダウンしてる。
 俺がどのくらいの魔物を倒せたかは怪しいところなんだけどさ。槍円舞を使った槍使いが無双してたもんなぁ。


 フロイさんの指導を受けていた時と違うのは、俺とニーナがそれぞれ1つずつ魔玉を携帯していることだ。これが原因で経験値が減少している可能性も低くないはず。
 魔玉に貯まる魔力とは経験値と同じものである、という疑惑は強まったんじゃないかな。

 う~ん、お金は必要だから魔玉を持たないわけにはいかないんだけど、魔玉のせいでレベリングが遅くなるの辛いなぁ。今の俺たちには、お金もレベリングも必要なのにぃ。


「私のインベントリが広くなれば、ドロップアイテムを街まで運ぶ事が出来るようになるでしょう。そうなればもう少し金銭的に楽になるかもしれないです」


 広がったインベントリに限界まで硬貨を詰めながら語るニーナ。


 今回のドロップアイテムについては、荷物に余裕のある商人が買い取ってくれた。
 でも当たり前だけど相場より安く……、というか半額はどう考えてもぼったくられてるよねぇ。

 持ちきれないんだから、売るしかないんだけどさぁ。微妙に悔しい。


「ま、赤字じゃないだけヨシとしないとね。ステイーダで宿に泊まっても足が出ない程度には稼げたんだから、街に着いたらゆっくり休もうよ」

「ふふ。次の街が楽しみですね」


 硬貨を仕舞い終えたニーナが俺の隣りに腰を下ろした。


「まさか私が世界を旅をすることが出来るなんて、思ったこともありませんでしたよ。生きているって素晴らしいですね、ご主人様っ」


 俺にピタッと寄り添って、最高の笑顔を見せてくれるニーナ。

 朝日の中で見るニーナの笑顔はいつだって最高だ。朝日の中じゃなくても最高ですけどね?


 うん。恥をかくのも笑われるのも、今生きているからこそだね。

 笑われるのは勘弁して欲しいけど、ニーナが笑ってくれてるなら……、まぁいっか。
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