ミスリルの剣

りっち

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ミスリルの剣

92 襲撃 (改)

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 俺達が乗っている馬車の前後からは強い殺気が送られてきており、俺達に敵意を持つ相手に挟まれてしまっている状態だ。

 目的地である聖教会の本拠地、大聖堂が眼と鼻の先にあるっていうのに、どうやらトラブルに巻き込まれてしまったようだ。


 ほぼ敵対者で間違いないのだが、それでも確証も無く俺達から仕掛ける事は出来ない。

 なのでまずは相手の出方を見るためにこちらの馬車を止め、前後の相手の様子を窺う。


「……目の前の馬車が反転しようとしているな。どうやら私たちに用事があるのは間違いなさそうだ」


 目の見えない俺に配慮したのか、すぐにパメラが現状を伝えてくれる。


「相手の人数とか分かるか? それと後ろの馬車の様子も知りたい」

「後ろの馬車は速度を変えずに近づいてきているな。人数は分からん。前後の馬車とも、御者台に男が1人乗っている以上のことは確認出来ない」

「人数を視認できないのは厄介だな……。下手すりゃ10人を超える人数で襲ってこられるかもしれねぇのか」


 パメラに相槌を打ちながらも集中を深めて、魔力感知の範囲を広げるように意識する。

 前後から1名ずつ魔力を感知できるが、それ以上はちょっと分からない。恐らく馬車の中で待機しているのだろう。


 だが舐めんなよ? こちとら最近ずっと馬車にこもって魔力感知の訓練をし続けたんだ。

 馬車の中に居る連中の魔力くらい感知出来ないんじゃ、話にならないってもんだ。


「恐らく……、前方の馬車が5人、後方の馬車から3名分の魔力が感知できた。予定通り俺が前方、2人が後方を担当してくれ」

「……ちっ、盲目のソイルに負担をかけたくはないが、ミシェル様の護衛を加味すればそれがベストか。死ぬなよソイル」

「ったりめーだ。目的地の目前でくたばってなんてやれるかよ」

「あっ……! まっ、前の馬車が止まった……。乗客が降車してこっちに徒歩で向かって来てるっ!」


 焦りを帯びたミシェルの声。


 先を行く馬車がわざわざ反転してこちらに向かって来ているのなら、もう敵確定でいいだろう。

 ミシェルから貰った剣を握りその存在を確かめてから、御者台から飛び降りて馬車の前に立ち塞がってやった。


 俺が馬車を降りるのに一瞬遅れて、ミシェルとパメラも馬車の後方で臨戦態勢を取っているようだ。

 しっかし、モノの見事に分断されちまったな。人手が足りねぇから仕方ねぇんだが。


 前方から近づいてきた5名は、俺からたっぷり15メートルほどの距離を取って立ち止まった。


「……なぁオッサン。どうやって俺達に気付いたんだぁ?」


 前方から中年男性のような声で問いかけられた。

 相手の疑問を解消してやる義理なんざ無いが、まだ敵じゃない可能性もわずかだが残っている。友好的に接すべきか。


「これでも勘は鋭い方でな。そんな露骨な殺気を送られちゃあ気付くなって方が無理だぜ」

「はっ。これでも充分距離を空けて対策していたつもりなんだがな。見縊ってしまっていたようだ」


 前方からスラリ、と金属同士が擦れたような音がした。

 それに応えるように俺も剣を抜き放ち、自然体のまま相手の出方を待つ。


「一応全員の情報は洗ったつもりだったんだがな。聞いていた以上の手練れだったってことか」

「対策? 聞いていた? 何の話をしてやがる? お前らいったい何者なんだ?」

「おおっとぉ。ついつい喋り過ぎちまうのが俺の悪い癖だぜ。だが今から死に行くお前に言っても何の問題も無いだろうがな」

「随分自信があるみてぇだな? その自信がいつまで続くか見ものだな?」


 ……ちっ、どれだけ煽ってやっても、喋っている男以外はなんの反応も見せやがらねぇ。

 黙って一定間隔を保ったまま臨戦体勢を維持するあたり、コイツらってかなりの手練れじゃねぇのか?


「無駄だとは思うが一応聞いてやるぜ」

「あ?」

「俺達の目的は呪文詠唱使いのミシェル・ダインの身柄だけだ。だから黙ってミシェル・ダインを差し出せば、お前のことは見逃してやってもいいぞ?」


 コイツらの目的はミシェルの誘拐かっ……!


 世界有数の大魔法使いであるミシェルの名は、魔法使いなら誰でも知っているほど有名らしいからな。

 ダイン家を離れて1人旅立つタイミングで仕掛けてきたってわけか……!


「……確かに愚問だな。余計に引き下がるわけにはいかなくなっちまったぜ」

「はっ! かっこつけるのは自由だがよ。その体で何ができるんだよ!?」

「どんな体であれ、俺はミシェル・ダインの護衛を任された身なんだよ。テメェらが何者であろうとも負けるわけにはいかねぇなぁ?」

「言うだけなら簡単だがよ。結果が伴わなけりゃただのマヌケだぜ、ソイル!」


 会話担当が俺の名前を呼んだ瞬間、残りの4人が無言で俺に切りかかってくる。

 4人の剣に魔力感知で対応すると、どうやら全員が片手剣を両手で振るうスタイルであることが理解出来てきた。


 戦闘スタイルが似通っている上、4人の連携も中々巧みで、対応するのに少し梃子摺る。


 この一糸乱れぬ完璧な動作。こいつらが何者なのかは未だ分からないけれど、少なくとも同じ集団に属する人間であろう事は疑う余地も無い。

 完璧な連携に翻弄され、中々反撃の糸口が掴めない。


「おいおいおいぃぃ!? 大口を叩いた割になんだよその体たらくは!? もう少し頑張ってお姫様を守ってみせろよ、騎士様よぉ!」


 ちっ、好き勝手言いやがって。

 こっちだって好きで梃子摺ってるわけじゃねぇんだよ!


 だが4人と剣を合わせているうちに、4人の件のことが少しずつ分かってきた。

 同じような戦闘スタイルで完璧な連携の4人だからこそ、太刀筋が読みやすく単調だ。

 4人の体内を走る魔力まで先読みして、ミシェルを守る為に反撃を開始する。


 コイツら1人1人、パメラと同格の剣の使い手だ。

 そんな奴らが4人で連携を取ってきたら、俺なんかにゃ勝てるはずがない。


 だけどお前らの目的がミシェルであるなら、例え勝ち目なんか無くったって、俺はお前らを止めなきゃいけねぇんだよ!


 聖教会に所属することで手に入れられるらしい、ミシェルの望んだ未来。

 それを邪魔する相手がたとえ何者であろうとも、絶対にミシェルを守り抜いてやらぁっ!!
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