ミスリルの剣

りっち

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ミスリルの剣

91 聖教会を目指して (改)

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 ダイン家から聖教会の本拠地までは、馬車で約1ヶ月ほどかかる見込みらしい。

  今回の旅はのんびりは出来なくても強行軍で進む必要も無いので、パメラの案内で道中の街で宿泊し、夜営や野宿は極力避ける方針だ。


 野宿をする必要も無いため、基本的にはパメラが御者を担当しつつも、パメラの負担を軽減する為にミシェルも普通に馬車を操縦している。

 ミシェルの操縦でも馬車の乗り心地が悪く感じたりすることは無かったので、グリッジが言っていた通りミシェルの技術に不安は無さそうだった。


 聖教会に向かう間、目の見えない俺に出来ることは何も無く、大人しく2人の話し相手になってやることくらいしか出来なかった。

 モンスターの襲撃でもあれば役に立てたかもしれないが、平和な馬車旅では役立たずもいいところだったぜ。

 仮にモンスターの襲撃があったとしても、ミシェルとパメラなら俺の出る幕も無く蹴散らしてしまいそうだけどな。


 やることが無かった俺は、やはりひたすら魔力制御の訓練に没頭する事にした。

 この目が治るか治らないかは分からねぇが、どちらにしたって魔力制御技術を磨いていれば無駄にはならないはずだからな。


 それに、せっかくの馬車旅だっていうのに景色を楽しむことすらできねぇんだ。

 なら訓練でもしてねぇと暇で仕方がねぇ。


 最近訓練しているのは、フラストを仕留めたあの1撃の再現だ。


 自分自身の意識すら追いつかないほどの神速の1撃。

 苛速魔法ブラッドシフトにも劣らないような、目にも映らないほどの高速動作。


 アレをモノにしようとずっと訓練しているんだが、如何せん上手くいきゃしねぇ。


 魔力枯渇から解放された直後に湧き出た、ほんのひと雫の魔力を引き伸ばし、瞬きほどの一瞬に全身に駆け巡らせて超加速を得る技術。

 アレを自在に扱えるようになりゃあ、俺は禁忌魔法使いと同水準の高速動作が可能になるってこった。

 だから練習してるんだが、1度たりとも成功してくれねぇんだよなぁ……。


 あの時は極限状態だったし、自分でも信じられないほどの集中状態だったと思う。

 そんな状態だからこそ成功した奇跡の技であって、アレを普段から使いこなすのはやっぱ無理なのかねぇ……?


「ソイルー。今ちょっと暇だから、話し相手になってくれない?」

「へいへい。今行きますよーっと」


 ミシェルが御者台から俺を呼ぶ。

 馬車の操縦には既に不安は無いんだが、天気のいい日に平坦な道を走らせていると眠くなるらしく、話し相手に指名されることがしばしばあるのだ。


 勿論話し相手は俺だけじゃなくパメラが担当することもあるのだが、パメラが話し相手になっていると御者を交代した意味が無いからな。

 暇を紛らわす為の話し相手くらい、何の役にも立てていない俺が担当するのが筋ってもんだ。


 魔力感知と手探りで御者台に行き、馬車を操るミシェルの隣りに腰を下ろした。


 ゆったりとした馬車の速度に、吹き抜ける暖かなそよ風が心地いい。

 こりゃミシェルじゃなくても眠たくなるわな。


「おつかれさんだ。代わってやれなくて申し訳ねぇな」

「召魔の門を破壊する旅も、未開地域に行った時も私は御者を務められなかったからね。その時の借りを返してるだけよ」


 声を聞く限り、どうやらミシェルはご機嫌のようだ。


 目が見えなくなってから音にばかり意識が向くようになってしまって、以前よりも人の声に敏感になってしまった気がする。

 声に乗せられた感情なんて、以前なら気にもしなかっただろうにな。


 聖教会への旅の間、ミシェルは基本的にいつも上機嫌だ。

 感情が大きく揺らぐことも無く、いつも機嫌が良さそうにカラカラと笑っている気がする。

 暇を持て余して他愛の無い話で盛り上がっている時も、なんだか大袈裟なくらいに楽しそうに振舞っている気がする。


 ……魔力感知のおかげで日常生活にも日常会話にも支障はねぇんだが、機嫌が良さそうなミシェルの顔を拝めねぇってのはちょっと残念だ。


「あ、そうだソイル。昨日ダニーから手紙が来てたんだけどさ……」

「へぇ? まだダイン家を出発してひと月も経ってねぇのに、もう手紙なんか寄越しやがったのかアイツは」

「その手紙に書いてあったんだけどさ。ソイルって今まで恋人がいなかったって……ホントなの?」

「はぁっ!? あっ、あのアホがぁぁぁ! ミシェルになにを報告してやがんだぁぁぁ!!」


 普通男同士の知人にすら公開しねぇだろっ、そんな情報は!

 なんでよりにもよってミシェルに伝えてんだあの馬鹿はーーーっ!


 再会したら酒の約束だぁ!?

 次に会ったらぶっ殺して、テメェの墓前に酒を添えてやるからなぁっ!!


「私から見て、ソイルって結構モテてるイメージがあったから意外なんだよねー。本当にソイルって、今まで1度も恋人居なかったの?」

「ちっ……。居たことねぇよ女なんざ……! っていうか、俺の何処を見てモテてるとか言ってんだお前は。モテたことなんざ1度だってねぇっての」

「はぁ~? ソイル、それ本気で言ってるの? トゥムさん然りサイザスで会ったみんな然り、ソイルに興味深々だったじゃないの」

「トゥムちゃんは誰にでもあーなんだよ。サイザスで出会った連中は、Bクラスが俺しかいなかったから買い被っちまっただけだろ。防衛戦が終わった今頃は熱が冷めてることだろうぜ」

「……だといいんですけどねー?」


 ミシェルは特に反論はせず、なんだか呆れたような口調で会話を切り上げた。


「そう言えばソイルって自己評価最低だったわねぇ。サイザスであそこまでストレートに迫られていてもそんな認識なんて、想像以上に朴念仁だったんだなぁ……」

「あ? 今何か言ったかミシェル? 小声過ぎて聞き取れなかったんだが」

「なんでもないですよーだ。ただ、ちょっとだけ作戦を変更しなきゃいけないなーって思っただけー」

「作戦? まだ聖教会に辿り着いてもいないのに、なにか依頼される予定でもあんのか?」

「ごめんなさーい。こちら極秘事項となってますので、現在お答え出来ませーん」


 つっけんどんな態度で俺を突き放すミシェル。なんだってんだいったい?


「――――っ!?」


 しかしこれ以上ミシェルに追求する前に、俺の魔力感知が異常を捉えた。

 すぐさま馬車の中で休んでいるパメラに声をかける。


「起きろパメラ! こっちに向けて敵意のこもった魔力を向けてる奴がいる! 恐らく敵襲だ!」

「……敵襲だと? ちっ、間もなく大聖堂に到着するというのに……!」


 俺の声に素早く反応したパメラは、すぐさま装備を整えているようだ。


「ソ、ソイル……!? て、敵襲って……!?」

「詳しくは分からねぇが、前後から俺達に向けて敵意っつうか害意っつうか、少なくとも味方じゃなさそうな気配を感じるんだよ。それらしい奴は見えないか?」

「えっと……、ま、前には少し離れた位置に馬車が1台走ってるけど……」

「後方にも1台馬車がいますね……。ちっ、コイツらが敵だとするなら挟まれたということになるな……! どうするソイル?」


 前後からの挟み撃ちか。しかも両方馬車持ち。

 振り切って逃げるのは難しいだろうし、相手の出方次第だが撃退するしかねぇか……!


「もしも仕掛けてきたら撃退するしかねぇな。俺とパメラならやれるはずだ」

「了解。役割は?」


 幸いパメラは聖騎士、剣も魔法も一流だ。特に護衛には慣れているはず。

 ならば……。


「パメラはミシェルを護衛しながら後ろの馬車の相手を頼む。俺は前方の馬車の相手する。ミシェルはパメラの傍にいて、パメラの指示に従ってくれ」

「う、うん分かった……! よ、よろしくねパメラ……」

「お任せください。何人たりともミシェル様には近づけさせませんよ」


 まさかこのタイミングで襲撃されるとは思わなかったぜ。

 馬車に乗ってるってこたぁモンスターじゃないはずだし、野盗の類いか?


 まぁ俺1人でミシェルを護りきるのはきつかったかもしれねぇが、ミシェルの護衛をパメラに任せられるなら話は別だ。

 ミシェルとの楽しい馬車旅を邪魔してくれた礼は、たっぷりとしてやらねぇとなぁ?
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