ミスリルの剣

りっち

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未開の地で

84 見送り (改)

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 報酬を受け取っている間にスティーブが馬車旅の準備を済ませてくれたらしく、冒険者ギルドを出た俺達はそのまま馬車に乗り込んでサイザスの街を発つ事になった。

 けれどサイザスの街を出てすぐのところで、からかうようにスティーブが声をかけてきた。


「くくっ、ソイルよ。どうやらこのまますんなり通してはもらえないようだぞ?」

「あ? どういうこと……って、あいつらぁ……」


 スティーブの言葉に馬車の外の魔力を感知すると、そこには複数人分の魔力反応があった。


 ここ1ヶ月くらいはずっと一緒にいたからな。

 目なんて見えなくたって、魔力量だけで誰だか分かっちまうぜ。


 コイツら、どうやら俺達を見送るためにサイザスの外で待ち伏せしていたみたいだな。


「サイザスに帰ってきた日にもう発つなんて、せっかちすぎるでしょー! 怪我してるんだから、もうちょっとゆっくりしていきなってばーっ!」


 いつも通り元気な、だけど不満げなポーラの声が聞こえてくる。

 俺は馬車からは降りずに、顔だけ出してポーラに応える。


「その怪我が治る見込みがあるから急いでんだよ。怪我したままゆっくりするよりも、治ってからゆっくりした方が寛げるだろうが」

「女の子が引き止めてるんだからもうちょっと悩みなさいよ、この馬鹿ソイルーっ!」

「いやいや女の子って、お前なぁ……」


 本気で怒っている風のポーラに気圧されてしまい、どう言葉を返していいか迷ってしまう。

 今までは蔑まれて追い立てられることばっかりだったから、見送られることにも別れを惜しまれることにも慣れてないんだよ……。


「ソイルさんは拠点のイコンに戻られてからはどうされるんですか? 当分はイコンで療養されるご予定で?」


 ポーラへの返答に迷っていると、興奮気味のポーラとは対照的に、冷静な声でエマが話しかけてきた。

 落ち着いた口調の具体的な質問で、これなら答えやすくて助かるぜ。


「治療についてまだ良く分かってなくてな。だから時間がかかるようならイコンか、もしくはミシェルの家があるネクスに滞在してると思うぜ。それ以上は現時点では答えられねぇかな」

「イコン、そしてネクスですね……。ちなみにソイルさんと連絡を取る方法ってあります?」

「あ? そんなの冒険者ギルドを通して連絡してくれりゃあいいんじゃねぇか? 持ち家なんか無ぇからよ、ギルドを通してもらうのが1番確実だと思うぜ」

「なるほど、ありがとうございます。今回お世話になったお礼をしたいので、いつかイコンに会いに行きますね」

「礼なんか……いや、そうだな」


 礼なんか必要無い。そう断ろうとして、だけど寸でのところで思い留まった。

 若者が自分の出身の街から広い世界に踏み出そうとしているってのに、年寄りが祝福してやらなくてどうすんだってな。


「再会を楽しみにしてるよエマ。今回報酬もたんまり貰ったから、当分は大人しくしている予定だしな。イコンに来るなら歓迎させてもらうぜ」

「……聞いたポーラ? イコンに行けばソイルに会える。みんなで押しかけよ?」

「私だって、あの馬鹿将軍から守ってもらったお礼をしたいんだからねーっ! 絶対に待ってないと許さないんだからーっ!」


 ……礼儀正しいエマの後ろで、トリーが不穏なことを言ってやがるなぁ。

 ポーラも興奮冷めやらずって感じだし、本当にイコンまで押しかけてきそうだなコイツら。


「へいへい。トリーもポーラも来たけりゃ来い。怪我の治療が済む前に来ても、あんまりもてなせないけどな?」


 ちなみに、こいつらが俺達に同行することが出来ないのは理由がある。

 防衛隊と討伐隊の参加者がかなり多く、ニクロムによる査定が終了していない為にサイザスを離れられないのだ。


 俺に関しては報酬は支払い限度額いっぱいまでとか、細かい計算を抜きにして直ぐに依頼の達成処理を行なってくれたんだよな。

 恐らくだけど、一刻も早く怪我の治療に専念できるようにと配慮してくれたんだと思う。


「ソイルさん。ミシェルさん。この度は本当にお世話になりました。2人のおかげで私も大きく成長することが出来たと思いますよ」

「世話になったのはこっちだぜレオナ。お前の起死回生のファイアストームが無かったら全員死んでたからな。お前は命の恩人だよ」

「なるべく魔力制御の訓練は続けてね? レオナさんの魔力量は充分だから、あとはそれを十全に使いこなすことが大事だと思うから」


 Cクラスのベテラン冒険者であるレオナは、同業者との別れにも慣れているのだろう。

 俺とミシェルとひと言会話して、あっさりと下がっていった。


「師匠! 師匠から受け取ったこの剣に誓って、絶対に師匠から1本取ってみせるからな! だから師匠も治療を成功させて万全の態勢になっておけよ!?」

「はっ! 怪我した俺にも勝てねぇくせに、いっちょ前に言うじゃねぇかウィル。期待しないで待っててやらぁ」

「すぐに吠え面かかせてやるからなぁ! だから俺以外の誰にも負けるなよ、師匠ーーっ!」


 なんだかなぁ。初対面の頃から、ウィルには突っかかられてばっかりな気がするぜ。


 ま、大袈裟でもなんでもなく、コイツは大天才だからな。

 きっと瞬く間に俺なんか追い抜いて、世界中の人々に語られる大英雄に成長してくれそうだ。


「みんな、本当にありがとうな。今回の依頼では本当に世話になったよ」


 俺はもう帰ることで頭がいっぱいだったのに、態々見送りに来てくれるなんてありがたい話じゃねぇか。


 こいつらの誰か1人でも欠けていたら、俺はきっとフラストの野郎に殺されていただろう。

 そんな風に思ったら、自然と感謝の言葉が口から溢れてきちまった。


「お前らのおかげで、俺も自分の成長って奴を実感できた気がするよ。俺もお前らに負けないように腕を磨こうって気になった。だから……、また会おうぜっ!」

「みんなありがとう! ネクスに来る事があったら、是非うちに寄ってねーっ。歓迎するからーっ!」


 馬車の上からミシェルと手を振り、今回世話になったみんなに見送ってもらってサイザスを後にした。

 ミシェルが満足するまで2人でみんなに手を振って、暫くしてから馬車の中に引っ込んだ。


「ねぇねぇ。1つ聞いていい?」

「ん?」


 馬車に顔を引っ込めた後、ミシェルが俺に問いかけてくる。


「みんなにお世話になったのは分かるけど、ソイルが実感した成長って何? 剣も魔法もそれ以外の技術も、ソイルの方がよっぽど上だったんじゃないの?」

「んーなんつうかなぁ。あいつらが急激に成長していくのを見ていたら、俺もまだまだ成長できるんじゃないか、以前より成長できているんじゃないかって思えたんだよ」


 勿論今までだって、自分の成長を自覚したことは何度だってある。

 グリッジたちに剣を教わったり、ミシェルに魔力制御を習った時も、自分の成長を強く実感することが出来たはずだ。


 だけどそんな俺よりもずっと早い速度で成長していくウィルやエマたちを見ていたら、あいつらの成長速度に引っ張られて、俺自身も成長することが出来たような気がしたんだ。


 だけど俺の抱いたそんな想いは、ミシェルにくすくすと笑い飛ばされてしまった。


「あははっ、なにそれー? 私と旅をしてから、ソイルはずーっと腕を上げ続けているくせにっ。ソイルが成長出来ていないなんて思ってたの、きっと貴方本人だけよーっ?」

「……なんだかなぁ。それはそれで、成長してないって言われてる気がするぜぇ……」


 いつも依頼が終われば、追い立てられるようにイコンに帰るだけだったんだがなぁ。

 出会った奴らに別れを惜しまれて、会いに行くと再会を約束させられるなんて初めての経験だったぜ。


 それにイコンまではミシェルの笑い声までついてくるんだ。

 今回の依頼の報酬は、金なんかよりもよっぽど価値があるモノを沢山貰った気がするな。
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