ミスリルの剣

りっち

文字の大きさ
上 下
72 / 100
未開の地で

72 英雄 (改)

しおりを挟む
 歓喜の怒号に包まれる中、討伐隊に囲まれている2人の英雄の姿をスティーブと共に眺める。


「……マジで助かったぜスティーブ。アンタのサポートが無けりゃ亀野郎をひっくり返せなかった。礼を言うよ」

「ふはっ! 礼など要らぬよ。以前の旅からソイルには世話になってばかりだったからな。今回の働きで少しでもその恩を返せたのならそれで充分だ」


 ニヤリと男臭い笑みを浮かべるスティーブ。渋いじゃねえかまったくよ。


「イテテ……。くそ、無茶しすぎちまったなぁ……」


 魔力を殆ど持たない身で許容量を超える魔力を何度も走らせてしまったせいで、全身隈なくズキズキと痛みやがる。

 そして金属のような頑強な召魔獣を何度も斬りつけたために、両手も痺れと痛みで大変な状態だ。


 だけどダイン家に用意してもらった白刃には刃零れ1つ無くて、まるで新品のような輝きを保っていた。

 流石にガンツの打ったミスリルの剣には及ばないんだろうが、どうやらこの剣も相当な業物だったみてぇだな。


「以前の旅と言やぁよ。旅の途中にダイン家に用意してもらったこの剣、随分上等な物みてぇだな? おかげで命拾いしたぜ」

「はっはっは! それはそうであろうよ。その剣はソイルの能力を把握したお嬢様がグリッジに相談して用意した、ソイルに最も適した剣なのだからなっ?」

「俺に最も適した剣? それってどういう……」

「「「わあああああああああ!!」」」


 スティーブへの質問は、討伐隊の歓声でかき消されてしまう。

 討伐隊に囲まれているウィルとミシェルの姿が、なんだかとても遠くに感じられた。


 多くのベテラン冒険者に歓声で迎えられる若き英雄か。

 俺もあんな存在になりたくて、15年間も必死に金を貯めてミスリルの剣を求めたんだったな。


 ……だけど、実際にミスリルの剣を手にして分かったのは、俺にミスリルの剣は分不相応だってことだった。


 魔力をよく通す魔法金属であるミスリルを使いこなす為には、俺では魔力量が足りなすぎる。

 背伸びして剣1本手に入れたところで、俺は英雄の器なんかじゃないってこった。


 不思議なもんだ。あんなに英雄に憧れて、あんなに周りを見返してやろうとだけ思って生きてきたってのに。

 討伐隊に囲まれる2人の姿がなんだか誇らしいし、遠巻きに2人の姿を眺めている自分がなんだか自分らしいと思ってしまう。


 ……これが大人になるってことなのだとしたら、大人になった代わりにもう英雄になる事はないんだろうな、俺は。


 さて、体中痛ぇけど何とか動けそうだ。

 元々の魔力が低いおかげで、魔力の回復だけは早いんだよな俺は。


 召魔獣との戦いで魔力枯渇気味になったってのに、もう魔力枯渇の症状は鳴りを潜めてしまっている。

 人並み外れて魔力が少ない事による、数少ないメリットって奴かねぇ?


 痛む体に魔力を走らせ、適度に魔力を流して回復力を高める。

 召魔獣を討伐したとは言え、まだまだここは危険地帯だ。この場を離れるまでに動けるようになっておかねぇとな。


 しかし、馬車に戻って休もうかなと立ち上がった俺の目に、馬車の後方で新たなイルミネイトが打ち上がったのが見えた。


「ありゃもしかして……」


 喜びに沸く討伐隊には、新たに上がったイルミネイトに気付いた奴はいないらしい。


「はぁ~~~……」


 心底ウンザリした気分になり、長い長い溜め息を吐いてしまう。
 
 だけど自分で指示を出した以上、行かないわけにはいかねぇよなぁ……。


 よりにもよってこのタイミングで来るかよぉ……。

 ま、俺が奴でもこのタイミングを狙うけどな。アイツも魔力感知が使えるみたいだったし。


 拳を何度か握って握力を確かめる。痺れは多少引いたかな? それじゃお出迎えといきますかぁ。


「む? ソイル? どこに行くのだ?」

「ちょっと馬車まで野暮用。すぐに戻るよ」


 声をかけてきたスティーブに、背中を向けたままでひらひらと右手を振って見せる。


 野暮用か。まさに野暮用だよなぁ。

 この空気に水を差すような野暮なことしやがって……!


 若き英雄の誕生に沸く場に背を向けて、新しく上がったイルミネイトを目指して駆け出した。


「あちこち痛ぇが……。なんとか動けなくもねぇな」


 走るだけでも微妙に痛みが走りやがるが……。

 この程度のコンディションで戦闘をこなした経験は何度もある。割り切るしかない。


 走りながら自分の体の状態をチェックしていると、思ったよりも直ぐに現場に到着できた。


「あっソイルさん! 良かった……! 来てくれたんですね!」

「そりゃ俺が指示したんだからな。無視は出来ねぇっての」


 現場にはウィルを除いた低クラス冒険者達、ポーラやエマとトリーの姉妹、弓使いの3人が集まっており、みんな険しい顔をして馬車の後方を睨みつけていた。


 彼女たちの視線の先には、砂埃をあげて走ってくる一頭の馬。

 そしてその馬を駆る男もこちらの姿に気付き、心底面倒臭そうな表情を浮かべてるのが見て取れた。


 エマたちを庇うように前に出ると、馬に乗った相手も下馬して、悪びれた様子も無く堂々とこちらに歩いてきた。


「……先ほどのイルミネイトは貴様の指示か? 木偶の癖に小賢しいことばかりしおって」

「テメェこそ今更ノコノコ出てきて何の用だ? もうテメェの居場所なんか残ってねぇぞ? フラスト」


 召魔獣を滅ぼして全員が弛緩しきったタイミングで現れたのは、討伐隊の本来の指揮官でありながら召魔獣との交戦直前に姿を消したフラストだった。


 召魔獣戦の直前で姿を消したフラストだが、召魔獣の撃破が成功しなければ帰還しても処分は免れない。

 そして禁忌魔法を使った以上、帰還したら待っているのは厳罰だけだ。


 ならフラストが取れる選択肢とは何か。

 それは召魔獣の撃破と、禁忌魔法の存在を知っている者の抹殺。


 ゆえに召魔獣の討伐に成功したタイミングが最も危険だと判断した俺は、戦闘への参加が認められなかったエマたちに周辺の警戒をお願いし、異変があったらイルミネイトを上げるように指示を出しておいたのだった。


「木偶の分際で人の心配とはな。身の程というものを弁えるがいい」

「その木偶の後ろに隠れて震えていた将軍様が、今更出てきて何の用だって聞いてんだよ。臆病者は臆病者らしく、引き篭もって震えてりゃいいんじゃねぇの?」


 俺の言葉に不快そうに眉を顰めながら、明確な殺意の篭った視線を向けてくるフラスト。


 召魔獣との戦いで消耗しきったところに禁忌魔法の使い手であるフラストが襲撃してくるなんざ、やってられねぇんだよクソがっ!

 この代償はテメェの命で贖ってもらうぜフラスト。今度は腹パン程度で許されると思うなよぉ?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...