ミスリルの剣

りっち

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未開の地で

69 召魔獣⑦ (改)

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「はぁっ!? 俺が、俺があの亀野郎を剣で倒せって言うのか!?」


 戦場にウィルの驚いた声が響き渡る。


 まぁ驚くのも無理ねぇわな。

 この戦いを終わらせる切り札がEクラス冒険者の自分だと言われたらよ。


「お前にしか頼めねぇんだよウィル。お前が全力で魔力を込めた剣なら、あの亀野郎の外皮だってぶち抜けるはずだ。頼む」


 頭を下げる俺に、ただただ困惑した様子を見せるウィル。

 悪いな。こんな大役を押し付ける事になっちまって。


「待ってくれよ!? 剣だったらソイルがやりゃいいじゃんか! パメラだっている! なんで俺なんだよ!?」

「俺の魔力量じゃ話になんねぇんだよ。そしてパメラでも足りないんだ。大魔法使いミシェル・ダインと同等の魔力量をその身に宿しているお前にしか出来ないんだ」


 ミシェルに匹敵する魔力量。剣の腕も悪く無いし、魔力操作も真面目に鍛錬してきたウィルなら出来るはずだ。

 レオナやミシェルが杖に魔力を込めるようにその身の魔力全てを剣に流し込めば、きっとウィルに貫けないものなんてこの世に存在しないだろう。


「おっ、俺まだEクラスなんだぜ……? BクラスAクラスで構成されてる討伐隊が苦戦してるあの亀野郎にEクラスの俺が太刀打ちできるわけ……」

「ざっけんなこのクラス詐欺野郎。お前のどこがEクラスなんだよボケ」


 才能だけでも群を抜いているのに、持ち前の負けん気と素直さでどんどん腕を上げやがって。

 お前のクラスがEなのは、まだ何も実績が無いからってだけじゃねぇか。


 お前ならいつか英雄になるとは思ってたけどよぉ……。

 総合的な戦闘力で考えれば、既にミシェルに匹敵する戦力なんだよ、お前さんは。


「ウィルなら出来ると思って頼んでんだ。防衛拠点でお前がどれだけ頑張ってたのか俺は知ってんだよ。自信持て」

「は、はは……。励まされてんのか脅されてんのか分かんねぇよ、もう……」


 顔を引き攣らせるウィルだが、肩の力は抜けたようだ。


 実績が無いから自信を持てないのは仕方ねぇけど、この場で召魔獣を剣で貫ける可能性があるのはウィルしかいないだろう。

 だから嫌でもやってもらわねぇとな。


 俺はミスリルの剣を抜き放ち、持ち手をウィルのほうに差し出した。


「貸してやる。これを使うんだウィル」

「え、これってソイルの剣じゃないかよ! う、受け取れねぇってば!」

「貸すだけだって言ってんだろ!」


 15年もかけて手に入れた剣をやるわけねぇだろ、この馬鹿!

 だけどこの剣であれば、この亀野郎だって貫いてくれるはずだ。


「お前の使ってる剣じゃお前の魔力に耐えれないんだよ! ミスリル製のこの剣なら、お前の全力にだって耐えてくれるはずだ。とっとと受け取れ!」


 ウィルに剣を押し付けて強引に受け取らせる。

 剣を受け取ったウィルは、薄蒼く輝くミスリルの剣の美しさに目を奪われてしまっているようだ。


「い、いいのかよソイル……。これって大事なものなんじゃないのか……? 俺なんかが振るってなにかあったら……」

「俺の15年間の集大成だよ。だからきっとお前のこともその剣が助けてくれるはずさ。なんたって俺の人生の結晶だからな」

「この剣がソイルの人生の集大成で、結晶……」


 さっきまで戸惑いを浮かべていたウィルが、ミスリルの剣を握ってから少しずつ気持ちが昂ぶり始めているのを感じる。


 分かるぜウィル。すげぇ武器を握っちまうと、自分が強くなったみたいに思えるよな。

 それは時として慢心や過信に繋がる危険性もあるけどよ。今みたいな状況じゃ心の支えになって、自信を与えてくれるんだよ。


「ミシェル。パメラ。聞いてた通りだ。これからウィルにこの剣で召魔獣を貫いてもらおうと思ってる。そこで2人にも頼みたい事があるんだ」


 ウィルが剣に見蕩れている間にパメラとミシェルと相談しておく。


 さぁて、ここが正念場だぜ。

 ここを乗り切れなきゃ、せっかく頑張って窮地を救ってくれたレオナにも合わす顔がねぇよ。


「そろそろ戻って来いウィル! いつまで剣に見蕩れてんだお前はっ!」

「し、仕方ねぇじゃねぇか! こんなに綺麗で凄ぇ剣、今まで見たことすらなかったんだからよ……!」


 慌てて俺に返事をするウィル。その目にはもう戸惑いは感じられない。

 その目に宿るのは、早くこの剣を使ってみたいという高揚感だった。


 いい目だぜウィル。上を目指す若者ってのはそうじゃなきゃなぁ!


「行くぞウィル。覚悟は出来てんだろうな?」


 腰から予備の剣を引き抜く。

 旅の途中にミシェルに買ってもらったあの剣だ。


「この戦いが終わったらお前は英雄だ。お前の望み通り剣で成り上がれるぜ? だから気合入れろよぉっ!?」

「のっ、望むところだって! あんな亀野郎、この俺がぶっ倒してやるぜ!」


 お互いの持つ剣の腹をぶつけ、召魔獣の討伐を誓う。

 さぁ行くぜウィル! お前が英雄になる時だ!


 2人で強く頷きあって前線へと駆け出した。


「ウィルは俺の後ろで全力で魔力を込めていてくれ。真面目に訓練してたお前の魔力制御なら、剣に魔力を込めるくらい簡単だろ?」

「か、軽く言いやがって……! こっちはまだ魔力制御を覚えたばっかりだってのによ……!」


 前線までの短い距離を駆け抜ける間に、ウィルと簡単な打ち合わせを済ませておく。


「俺が亀野郎の注意を引き付けるから、お前はただ全力を込めて亀の中心に剣を突き立ててくれ。お前の魔力とその剣ならアイツの外皮も貫けるはずだからな」

「ふぅぅ……。ふぅぅ……」


 おっと、もう集中し始めているな。こりゃ余計な事を言わないほうが良さそうだ。

 口を閉じて前線へと急ぐ。


「怯むなぁっ! 少しでも時間を稼げぇっ!」

「聖騎士様が今対抗策を練ってくれている! 今の俺達に出来るのは、聖騎士様が作戦を立てる時間を稼ぐことだぁっ!!」

「「「うおーーーーっ!!!」」」


 前線では多くの前衛たちが無駄と知りながらも全力で切りかかり、召魔獣の進撃を防いでいる。

 助かったぜ討伐隊! お前らの稼いでくれた時間、絶対無駄にはしないぜぇ!


「道を空けてくれ! あの亀野郎を倒せるかもしれないからなっ!」

「なっ!? ほ、本当かっ……!?」

「道を空けろーーっ! 亀野郎の前を空けるんだーーっ!!」


 俺の言葉に、召魔獣に群がっていた前衛たちが蜘蛛の子を散らしたように道を空けてくれた。


「……はっ! 万年Cクラスの落ち零れの俺が、まさかこんなバケモンとやりあう事になろうとはなぁっ!」

「ふぅぅぅぅ……。ふぅぅぅぅ……」


 ミシェルから貰った白刃を構え、亀野郎と対峙する。

 背中でウィルが膨大な魔力をミスリルの剣に注ぎこんでいるのを感じながら、俺は1人で巨大な召魔獣に相対するのだった。
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