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未開の地で
57 選抜 (改)
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討伐隊と合流出来なくても、最早状況が予断を許さない。
だから俺達は防衛担当の低クラス冒険者の中から、臨時の討伐隊を結成する事になった。
まずはこの拠点の冒険者では最高クラス、唯一のCクラス冒険者であるレオナに話をする。
「声をかけていただいたことは光栄ですけど、私が皆さんのお役に立てるかどうか……」
「頼む。出来ればレオナには絶対に参加して欲しいんだ」
大魔法使いであるミシェルと自分の差を自覚しているレオナは、力不足を理由に討伐隊への参加を渋っている。
しかし誰を差し置いても真っ先にレオナを誘ったのは、彼女が必要なメンバーだと判断したからだ。なんとして説得しないと……。
「攻撃魔法の使い手がミシェルだけってのは不安すぎる。それに今回は素材を剝ぎ取る必要もないから、レオナもファイアストームを使いやすいだろ?」
「ミ、ミシェル様のサポートをするなんて荷が重過ぎますよぉ……」
パメラやスティーブも多少は魔法の心得もあるようだけど、流石に専門で魔法を学んでいるレオナには遠く及ばない。
人類よりもモンスターのほうが多いような場所では、レオナの範囲攻撃魔法はどうしても必要だ。
「……えっと。もしも、もしもですよ?」
「ん? 何だレオナ。要望があるなら遠慮なく言ってくれ」
討伐隊への参加を迷っていたレオナは、次第にモジモジしながら俺を上目遣いで見詰めてくる。
かなり危険度の高い任務だからな。ベテランであるレオナとしては、追加報酬の交渉でもしてくるのかもしれない。
「え~っと……。ソイルさんが、どうしても私が必要って言うなら、考えなくもないですけどぉ……」
「ああ。レオナ、お前がどうしても必要なんだ。お前じゃなきゃダメなんだよ、頼む、ついてきてくれっ!」
頭を下げようとした俺は、胸にレオナが飛び込んできたことで頭を下げ損なってしまう。
「行きますぅ……! 一生どこへでもついて行きますぅ……!」
俺の胸に顔を埋めて、俺にしがみ付いたまま討伐隊への参加を決心してくれたレオナ。
未開地域への侵入任務に、俺なんかに縋るほどに不安を感じているみたいだな。
「……大丈夫だレオナ。俺が必ず守ってやるからな」
「はいぃ……! ずっとずぅっと守ってくださいねぇ……!」
レオナの頭を撫でながら、彼女を安心させるように必ず守ると約束する。
こんなに怖がってるのに討伐隊への参加を覚悟してくれたんだ。守り通さなきゃ男じゃねぇよ。
レオナには遠征参加への準備をお願いして、俺は次にポーラの元に足を運ぶ。
ポーラの元気の良さは討伐隊の雰囲気を明るくしてくれそうだし、防衛隊がボロボロの時でも走り回れるほどのスタミナがあったからな。長期遠征にも耐えてくれるだろう。
「えーっ!? 未開地域に行けるなんて凄すぎじゃん! 行く行くっ、行くに決まってるってばっ!」
レオナとは対照的に二つ返事で参加を表明してくれたポーラ。
いや渋られても困るんだけど、そんなに簡単に決めていいのか? 危険度はここより遥かに上なんだが?
「あっはっは! ソイルが来る前のここのほうがよっぽど極限だったってばっ」
「……いやいや爆笑してるけど、ソレ笑えねぇからな?」
「私的にはねー、貴方の傍にいるのが1番安全だって思ってるわけなのさーっ! たとえ未開地域に行く事になったとしてもねっ!」
ビシィッ! っと俺を指差してドヤ顔をするポーラ。
いや、この話の流れでお前がドヤ顔を決める理由が理解できないんだが? なんかトゥムちゃんに通じるものを感じるなコイツ。
「……俺なんかをあんまり買い被られても困るけど」
まぁせっかくやる気になってくれてるんだ。水は差すまい。ここはポーラの勢いに乗っかろう。
「とりあえず、ポーラが参加してくれて助かった。お前の信頼を裏切らないように、精一杯努力させて貰うよ」
「うんうんっ! この任務が終わってからもお世話してくれてもいいからねっ」
「はぁ? それってどういう……」
「じゃー準備してくるねっ。時間無いんでしょ? またあとでーっ」
俺の問いかけを無視して走り去っていくポーラ。
確かにポーラの言う通り時間も無いし、遠征の準備をしてくるって彼女を引き止めるのも時間の無駄か……。
ポーラの次は、エマとトリー姉妹に会いに行く。
エマは意外と真面目な性格で言われたことはきちんと守るし、トリーはそれなりに魔力も高いので、レオナとミシェルが出るまでもないような場面での魔法を担当してもらいたいのだ。
「未開地域に行くのは正直恐ろしいですけど……。私が行かなくても他の誰かが行くだけなんですよね? でしたら私が参加したいです」
「勿論私も行く。ダメって言ってもついてくから。ソイル、絶対逃がさない」
少し参加を躊躇したエマと、俺にしがみ付いて逃がさないと呪詛を吐くトリー。怖ぇっつうの。
2人には御者の仕方なんかも教えてあるからな。サポート要員としては申し分なしのはずだ。
姉妹と別れた俺は、今日も真面目に剣を振っているウィルの元に顔を出す。
「勿論行くぜ。行くに決まってるさ」
未開地域に少人数で突入するという危険度の高い話なのに、ウィルは躊躇無く参加を決めた。
「正直パメラやソイルがいる中でどこまで役に立てるか自信無いけど……、この機会を逃したら一生後悔する気がするんだ」
「……そうだな。お前は既にそこらのCクラス冒険者よりも実力は上だ。下手するとBクラス冒険者よりも上かもしれねぇ」
「…………」
「そんなお前に足りないのは経験だ。今回の件はその経験を補う最短コースだと俺も思う。この任務を成功できたら、きっとお前は一皮剥けていると思うぜ」
ミシェルレベルの天性の才能に、ミシェルと同じくらいの勤勉さ。素直さ、真面目さ。そして恐らくミシェルを上回るほどの強さへの渇望。
ウィルは間違いなく英雄になれる資質を持っている男だ。
本人に伝える気はねぇけど、お前さんの存在はある意味切り札みたいなもんだと思ってるぜ。今回の任務の成功を左右するのはウィルなんじゃねぇかってな。
「実戦でのソイルやパメラの剣、この目に焼き付けてやるからなっ! それに余裕があればミシェルとレオナから魔法だって教わってやる! だからソイル、帰ってきたら絶対1本取ってやるから覚悟しろよなっ!」
味方の俺に宣戦布告をして、遠征の準備をするためにウィルは走り去っていった。
冗談抜きで、遠征から帰ってきたら抜かされててもおかしくはない。俺もウカウカしてらんねぇなぁ。
討伐隊の主要メンバーはこれで揃った。
モンスターの領域で問題なく活躍できるレベルの魔法使いはもういないので、残りは弓が得意な者を中心に3人ほど集めた。
俺とパメラにスティーブ、更にポーラもエマもウィルも前衛だ。なので剣と魔法の中継役として弓使いを集めたのだ。
飲み水の運搬をしなくていいおかげで、それなりの数の矢を持ち込む余裕もあるからな。
弓使いの3人にレオナ、ポーラ、エマ、トリー、ウィルを加えた8名が防衛隊からの選抜メンバーだ。
そこにミシェル、パメラ。スティーブ、俺の4人を加えた総勢12名で臨時の討伐隊は結成された。
「みんな、今回は我らの不手際で諸君を危険な地へと誘う事になってしまい、本当に申し訳なく思っている……」
メンバーが一堂に会すると、パメラが静かに頭を下げる。
「だがっ!」
しかし次の瞬間、強い激と共に下げた頭を勢いよく上げたパメラは、燃える様な眼で1人1人と目を合わせる。
「私は諸君の実力に疑いは持っていない! ソイルが鍛え、推薦した者たちだからな! みんな、どうか我々に力を貸して欲しい! 共に死地から生きて帰るぞぉっ!!」
「「「おーーっ!!」」」
ポーラとエマを中心に、元気良くパメラに応える参加者達。頼もしいじゃないの。
男女で2台の馬車に分乗し、未開地域に向かって出発する。
そんな俺達の乗った馬車を、若い冒険者たちは歓声でもって送り出してくれるのだった。
だから俺達は防衛担当の低クラス冒険者の中から、臨時の討伐隊を結成する事になった。
まずはこの拠点の冒険者では最高クラス、唯一のCクラス冒険者であるレオナに話をする。
「声をかけていただいたことは光栄ですけど、私が皆さんのお役に立てるかどうか……」
「頼む。出来ればレオナには絶対に参加して欲しいんだ」
大魔法使いであるミシェルと自分の差を自覚しているレオナは、力不足を理由に討伐隊への参加を渋っている。
しかし誰を差し置いても真っ先にレオナを誘ったのは、彼女が必要なメンバーだと判断したからだ。なんとして説得しないと……。
「攻撃魔法の使い手がミシェルだけってのは不安すぎる。それに今回は素材を剝ぎ取る必要もないから、レオナもファイアストームを使いやすいだろ?」
「ミ、ミシェル様のサポートをするなんて荷が重過ぎますよぉ……」
パメラやスティーブも多少は魔法の心得もあるようだけど、流石に専門で魔法を学んでいるレオナには遠く及ばない。
人類よりもモンスターのほうが多いような場所では、レオナの範囲攻撃魔法はどうしても必要だ。
「……えっと。もしも、もしもですよ?」
「ん? 何だレオナ。要望があるなら遠慮なく言ってくれ」
討伐隊への参加を迷っていたレオナは、次第にモジモジしながら俺を上目遣いで見詰めてくる。
かなり危険度の高い任務だからな。ベテランであるレオナとしては、追加報酬の交渉でもしてくるのかもしれない。
「え~っと……。ソイルさんが、どうしても私が必要って言うなら、考えなくもないですけどぉ……」
「ああ。レオナ、お前がどうしても必要なんだ。お前じゃなきゃダメなんだよ、頼む、ついてきてくれっ!」
頭を下げようとした俺は、胸にレオナが飛び込んできたことで頭を下げ損なってしまう。
「行きますぅ……! 一生どこへでもついて行きますぅ……!」
俺の胸に顔を埋めて、俺にしがみ付いたまま討伐隊への参加を決心してくれたレオナ。
未開地域への侵入任務に、俺なんかに縋るほどに不安を感じているみたいだな。
「……大丈夫だレオナ。俺が必ず守ってやるからな」
「はいぃ……! ずっとずぅっと守ってくださいねぇ……!」
レオナの頭を撫でながら、彼女を安心させるように必ず守ると約束する。
こんなに怖がってるのに討伐隊への参加を覚悟してくれたんだ。守り通さなきゃ男じゃねぇよ。
レオナには遠征参加への準備をお願いして、俺は次にポーラの元に足を運ぶ。
ポーラの元気の良さは討伐隊の雰囲気を明るくしてくれそうだし、防衛隊がボロボロの時でも走り回れるほどのスタミナがあったからな。長期遠征にも耐えてくれるだろう。
「えーっ!? 未開地域に行けるなんて凄すぎじゃん! 行く行くっ、行くに決まってるってばっ!」
レオナとは対照的に二つ返事で参加を表明してくれたポーラ。
いや渋られても困るんだけど、そんなに簡単に決めていいのか? 危険度はここより遥かに上なんだが?
「あっはっは! ソイルが来る前のここのほうがよっぽど極限だったってばっ」
「……いやいや爆笑してるけど、ソレ笑えねぇからな?」
「私的にはねー、貴方の傍にいるのが1番安全だって思ってるわけなのさーっ! たとえ未開地域に行く事になったとしてもねっ!」
ビシィッ! っと俺を指差してドヤ顔をするポーラ。
いや、この話の流れでお前がドヤ顔を決める理由が理解できないんだが? なんかトゥムちゃんに通じるものを感じるなコイツ。
「……俺なんかをあんまり買い被られても困るけど」
まぁせっかくやる気になってくれてるんだ。水は差すまい。ここはポーラの勢いに乗っかろう。
「とりあえず、ポーラが参加してくれて助かった。お前の信頼を裏切らないように、精一杯努力させて貰うよ」
「うんうんっ! この任務が終わってからもお世話してくれてもいいからねっ」
「はぁ? それってどういう……」
「じゃー準備してくるねっ。時間無いんでしょ? またあとでーっ」
俺の問いかけを無視して走り去っていくポーラ。
確かにポーラの言う通り時間も無いし、遠征の準備をしてくるって彼女を引き止めるのも時間の無駄か……。
ポーラの次は、エマとトリー姉妹に会いに行く。
エマは意外と真面目な性格で言われたことはきちんと守るし、トリーはそれなりに魔力も高いので、レオナとミシェルが出るまでもないような場面での魔法を担当してもらいたいのだ。
「未開地域に行くのは正直恐ろしいですけど……。私が行かなくても他の誰かが行くだけなんですよね? でしたら私が参加したいです」
「勿論私も行く。ダメって言ってもついてくから。ソイル、絶対逃がさない」
少し参加を躊躇したエマと、俺にしがみ付いて逃がさないと呪詛を吐くトリー。怖ぇっつうの。
2人には御者の仕方なんかも教えてあるからな。サポート要員としては申し分なしのはずだ。
姉妹と別れた俺は、今日も真面目に剣を振っているウィルの元に顔を出す。
「勿論行くぜ。行くに決まってるさ」
未開地域に少人数で突入するという危険度の高い話なのに、ウィルは躊躇無く参加を決めた。
「正直パメラやソイルがいる中でどこまで役に立てるか自信無いけど……、この機会を逃したら一生後悔する気がするんだ」
「……そうだな。お前は既にそこらのCクラス冒険者よりも実力は上だ。下手するとBクラス冒険者よりも上かもしれねぇ」
「…………」
「そんなお前に足りないのは経験だ。今回の件はその経験を補う最短コースだと俺も思う。この任務を成功できたら、きっとお前は一皮剥けていると思うぜ」
ミシェルレベルの天性の才能に、ミシェルと同じくらいの勤勉さ。素直さ、真面目さ。そして恐らくミシェルを上回るほどの強さへの渇望。
ウィルは間違いなく英雄になれる資質を持っている男だ。
本人に伝える気はねぇけど、お前さんの存在はある意味切り札みたいなもんだと思ってるぜ。今回の任務の成功を左右するのはウィルなんじゃねぇかってな。
「実戦でのソイルやパメラの剣、この目に焼き付けてやるからなっ! それに余裕があればミシェルとレオナから魔法だって教わってやる! だからソイル、帰ってきたら絶対1本取ってやるから覚悟しろよなっ!」
味方の俺に宣戦布告をして、遠征の準備をするためにウィルは走り去っていった。
冗談抜きで、遠征から帰ってきたら抜かされててもおかしくはない。俺もウカウカしてらんねぇなぁ。
討伐隊の主要メンバーはこれで揃った。
モンスターの領域で問題なく活躍できるレベルの魔法使いはもういないので、残りは弓が得意な者を中心に3人ほど集めた。
俺とパメラにスティーブ、更にポーラもエマもウィルも前衛だ。なので剣と魔法の中継役として弓使いを集めたのだ。
飲み水の運搬をしなくていいおかげで、それなりの数の矢を持ち込む余裕もあるからな。
弓使いの3人にレオナ、ポーラ、エマ、トリー、ウィルを加えた8名が防衛隊からの選抜メンバーだ。
そこにミシェル、パメラ。スティーブ、俺の4人を加えた総勢12名で臨時の討伐隊は結成された。
「みんな、今回は我らの不手際で諸君を危険な地へと誘う事になってしまい、本当に申し訳なく思っている……」
メンバーが一堂に会すると、パメラが静かに頭を下げる。
「だがっ!」
しかし次の瞬間、強い激と共に下げた頭を勢いよく上げたパメラは、燃える様な眼で1人1人と目を合わせる。
「私は諸君の実力に疑いは持っていない! ソイルが鍛え、推薦した者たちだからな! みんな、どうか我々に力を貸して欲しい! 共に死地から生きて帰るぞぉっ!!」
「「「おーーっ!!」」」
ポーラとエマを中心に、元気良くパメラに応える参加者達。頼もしいじゃないの。
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