ミスリルの剣

りっち

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サイザス防衛戦

47 夜明け (改)

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 殆ど等間隔で襲い掛かってくるモンスターの襲撃。

 正確に測っているわけではないけれど、体感では30分に1度くらい。1時間に2~3回程度襲撃されている感じか。


 襲撃の群れの大きさは結構まばらなようで、20体にも満たない小規模の襲撃から、100体を優に超える大規模の襲撃が起こる可能性も低くないようだ。

 幸いな事に、強力な個体は殆ど混じっていないが。


 大きい群れを相手取ると撃退に時間を取られてしまい、解体作業や休憩時間を挟む余裕が無くなってしまうが、小さい群れだと一瞬で殲滅し終えてゆっくり休憩することが出来る。

 解体作業を教えたおかげでモチベーションの高まった若者たちは、段々と疲労を見せながらも、最後まで気力だけは漲っていた。


「お……。終わりは近そうだな」


 20回を超える襲撃を撃退した頃、遠くの空が白んでいるのが分かった。どうやら夜明けが近いらしい。


「ポーラ。ちょっと頼みがあるんだけどいいかな?」

「ん? なになに? 何でも言ってよっ」


 休憩中に、比較的元気が有り余っている少女に伝令役をお願いする。


 交替の人員には全員解体用のナイフを持参すること。

 明るい時間帯は防護柵を設置したあたりで撃退を行う予定なので、これから俺達が帰還するまで前に出なくて良いこと。

 待機中の奴等には、空いた時間で俺が剣や弓を見てやることなどを伝えてもらう。


「ねぇねぇっ! それって私にも教えてくれるわけっ!?」

「ああ、希望者には出来る限り指導してやるよ。お前らの腕が上がれば俺の負担だって減るからな」

「やったねっ! それじゃ行ってくるっ。きっとみんなも大喜びだよっ!」

「あ、伝令が終わったらポーラはそのまま休憩に入っていいぞ。こっちに戻ってこなくても……って、もう行っちまったよ。はえぇな……」


 徹夜の防衛戦の疲れを全く感じさせない軽い足取りで、風の様にポーラは走り去っていった。

 これが若さって奴か?


「ソイルさーんっ! 片付け終わったよーっ!」

「おー了解。お疲れさーん!」


 ポーラと会話している間に、モンスターの死体の片付けは終わったようだ。

 間もなく夜も明けそうだし長居は無用。さっさと帰るか。


「それじゃ俺達も帰還しよう。解体した素材は手分けして運搬してくれー!」

「分かってるって! 報酬に直結するんだから大切に運ぶに決まってらぁ!」

「恐らく帰還中にもう1度襲撃を受けると思うから、交替するまで気を抜くんじゃないぞぉ!」

「それも分かってるっての! やっと眠れるぜーっ!」


 帰還と聞いて嬉しそうな顔をするみんな。

 気力は充実してたけど、やっぱり疲労は溜まってたみたいだな。早く戻って休ませてやらないと。


「まさか解体まで教えてもらえるなんてなぁ……!」

「魔法だって剣だって教えてくれるって言うし、腕をあげるチャンスだぜ!」

「あははっ! みんな昨日までと雰囲気が違いすぎるってばーっ!」


 疲れは溜まっているはずなのに、解体したモンスター素材を運搬する若者たちの足取りは軽い。自分達で解体した素材なのが嬉しいのかもしれない。


 今回は全員で報酬を共有する形になるので、個別の報酬は増えないぞと説明はしてあるんだけど、解体の技術を学べるだけでもお釣りが来るよと、みんな熱心に解体に取り組んでくれていた。

 拠点に戻る前に30体規模の襲撃を蹴散らしたあと、我先に解体作業に勤しむ若者達を見て、サイザスの未来は明るそうだなぁなんて年寄りくさいことを思ってしまった。


「よーしみんなお疲れさん! 荷物を置いたらゆっくり休んでくれーっ!」

「っしゃーーー! ようやく休めるぜーっ!」


 防衛ポイントまで戻ってくると、周囲はすっかり明るくなっていた。

 だけどイルミネイトの担当者は、俺達が戻るまで律儀に魔法を続けてくれていたようだ。


「おかえりソイル。怪我は無い?」

「ただいまトリー。俺もみんなも怪我は無いよ。夜間防衛成功だ。イルミネイト助かったぜ」


 トリーの頭をわしゃわしゃと撫でる。

 少し痛そうな顔をしながらもされるがままのトリー。


 だけどこのままずっとトリーの頭を撫でているわけにもいかない。夜は無事に越したけれど、ここの防衛はまだまだ終わらないんだからな。


「夜間防衛の担当は、寝る前に装備品をしっかり手入れしておけよーっ!」

「ちょっ!? 寝ていいって言ったばっかじゃねぇかよーっ!?」

「ははっ! どうせすぐにベッドに入っても興奮で寝れねぇんだよっ! だったら落ち着くまで次の準備でもしてろってこった!」


 ずっと防衛線を続けてきたコイツらにとって、昨夜は初陣でもなんでもない。

 けれど圧倒的な快勝に興奮している様子を見るに、ベッドに横になってもすぐに叫びだしたくなっちまうだろうぜ?


 ぶーぶー言いながら去っていく昨夜の防衛担当者達を送り出して、後退で防衛を担当するグループに声をかける。


「次のグループはこの場で防衛するからな。昨夜みたいに前に出る事はないから安心してくれ」

「そ、それは良いんだけどよソイルさん……! さっきポーラが言ってた話って……」

「ああ。ポーラから聞いてるとは思うが、防衛の合間に剣や解体を教えてやる。期待しとけっ!」


 俺の言葉に素直に従い、すぐに動き始めてくれるみんな。

 元々俺のことを受け入れてくれていたけど、被害を出さずに夜を越えたこと、剣や解体技術を学べるメリットなども加わって、俺の言うことを素直に聞いた方が良いと判断してくれたようだ。


「それじゃあまずは……って、なんだぁ?」


 次の防衛グループに指示を出さなければと、1歩踏み出した俺の袖が引っ張られる。

 振り返ると心配そうな表情をしたトリーと、いつの間にか合流していたエマが俺の服の袖を掴んでいた。


「ソイルさん、もう2晩寝てないじゃないですかっ……! ソイルさんこそ休まないとっ……!」

「ソイルが倒れたらみんな崩れちゃう。無理しちゃダメ……!」

「あー……。そういやそうだったっけ……」


 エマに言われるまで、サイザスに着いてからまともに寝ていないことをすっかり忘れていた。

 ぶっちゃけ、俺だけならここの防衛、楽なんだよな……。


 1人では倒せないモンスターが闊歩する森の中で、数日間生き延びなきゃいけないことも何度もあった。

 ソロ冒険者の俺にはまともに寝れないことも珍しくないから、この程度は大した負担にも感じない。


 ……が、そんな説明をしても2人は納得しないだろうな。ちゃんと交替する約束をしておくか。

 不安そうな2人の頭を撫でながら、諭す様に語りかける。


「こう見えて俺はBクラス冒険者だぜ? Eクラスのお前らに心配されるほどヤワじゃねぇから」

「ク、クラスは関係ないですよっ! たとえどんなに強い人だって、休みなく戦ってたらいずれは……!」

「休むっての。襲撃の合間にだって休ませてもらうし、レオナが復帰したら下がるつもりだよ」

「……レオナが復帰したら? なんで?」

「俺とレオナの片方は、常に前線に配置しておきたいんだよ。俺は弓で殲滅が出来るし、レオナは範囲攻撃魔法が使えるみたいだからな」


 矢が潤沢なおかげで1人でも防衛できる俺と、範囲攻撃が可能らしいCクラス魔法使いのレオナ。

 そのどちらかでも待機していれば、不測の事態にも対処できるはずだ。


「う~……。こ、これが高クラスの男の人なの……!? お、落ちちゃうよぉ……!」

「おねぇ気をしっかり持って。ソイルは私が責任持って担当するから。おねぇは冷静でいて」

「うっ、うんっ……! ありがとうトリー。って、ありがとう? なんか変じゃなかった……?」


 姉妹でコソコソと話し始めたので、2人の頭を解放して次のグループと合流する。


 ポーラか帰還した夜間防衛担当者に話を聞いたのか、次のグループはワクワクと期待に満ちた眼差しを俺に向けてくる。

 くすぐったいねどうも。


 心配しなくてお前らのこともちゃんと面倒見てやるよ。

 そして早いとこ強くなってもらって、俺がグースカ寝てても平気なようになってもらわねぇとな。
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