ミスリルの剣

りっち

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サイザス防衛戦

45 夜間防衛② (改)

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「それじゃトリー先生。いっちょ頼むぜイルミネイト」

「任せてっ。イルミネイトっ!」


 ローテーションも決まったので、早速1番手のトリーにイルミネイトをお願いした。

 トリーがイルミネイトを発動すると彼女の両手から光球が打ち出され、今居る場所の100メートルくらい先の頭上5メートルくらいの上空に、煌々と輝きながら留まった。


「……完璧だトリー先生」


 一気に開けた視界に思わず息を飲んでしまう。


 前方100メートルくらいの視界が確保できる照明魔法は、夜間戦闘の難易度を大きく下げてくれるはずだ。

 篝火で戦闘していたからこそ、改めて魔法の強力さを思い知るな……。


「これで篝火を焚き続ける必要も無くなったし、Cクラスの魔法使いであるレオナの攻撃魔法にも期待できる様になった。感謝してるぜっ」

「ふふんっ。こんなのお安い御用。でも使用中は身動きが取れないから、ソイルに守って欲しい」

「それこそお安い御用だ。トリーには1体たりともモンスターを近づけさせやしねぇよ。約束する」


 トリーの照明魔法を見て、周囲の冒険者達も歓声を上げている。やっぱり篝火での戦闘は辛かったんだろうな。

 夜の闇から解放されて、モンスターと打ち合う前衛の冒険者の負担はかなり軽減されるはずだ。


「流石トリーっ。お姉ちゃんも鼻が高いよ……って、えええええっ!?」

「おわっ!? なんだどうしたっ!?」


 トリーと話していると、突然エマが素っ頓狂な叫びを上げたもんだからビビっちまった。

 何事かとエマを見ると、彼女は前方を見ながら口をパクパクさせている。なんだってんだいったい?


「ソ、ソイル……。あれって……」

「ああ。あれってもしかして、俺が射抜いたモンスター……か?」 


 トリーの指差した先に目を向けると、そこには照明魔法で照らされた夥しい数のモンスターの死体が横たわっていた。

 そしてその全てに頭部に1本の矢が突き立っている。


「へぇ、思ったより大量にいたんだなぁ」

「じゃないですよーーーっ!? なんで射抜いた本人が把握して無いんですかーーーっ!? なんで照明魔法が無い暗闇の中、1射も外さず全てのモンスターを1撃で殺してるんですかっ!?」


 いや、俺って魔力を感知してるだけで夜目が利くわけじゃないんだよ。魔力の濃い部分を狙って矢を放ってるだけだから、照明魔法がなくちゃ俺だって見えてないんだよな。

 でも魔力感知能力のおかげで、モンスターの場所は手に取るように分かるんだよ。外すわけがねぇっての。


「……ソイル。約束、忘れちゃダメだから。ソイルは討伐隊に行っちゃダメだからね?」

「行かねぇっての。お前との約束を破るつもりなんてねぇって。心配性だなトリーは」


 さっき約束した時と違って、なんか若干引き気味の表情で約束を確認してくるトリー。

 そりゃあんなに大量のモンスターが襲ってきていたと気付けば引きもするか。コイツははまだ駆け出しなんだから、俺がちゃんと導いてやらねぇとなぁ。


「視界が確保されたから、これからはどんどん前衛に頑張ってもらおうと思う」


 トリーの頭をぽんぽんと叩きながら、エマに伝令役をお願いする。


「ちょうどイルミネイトが目印になってくれるから、あの真下までは前に出ていいって伝えてくれ。勿論俺も打って出るからさ」

「りょっ、了解しましたけど……。アレだけ弓が使えるのに、ソイルさんが前に出る必要なんてあるんですかっ……!?」

「必要な物資は惜しむべきじゃないけど、必要無いコストは抑えるべきだ。出来れば夜間戦闘での矢の消費を押さえて、日中に矢の訓練をさせたいんだよ」


 防衛に参加している人数は126人もいるっていうのに、弓矢が扱える者は10人にも満たない。これは流石に勿体無さ過ぎるからな。

 将来的に魔法が覚えられるものには必要ないだろうが、希望者にはどんどん弓矢の扱いを覚えてもらいたいところだ。



「お客さんのお出ましだ。視界も確保できたし、存分にもてなしてやろうぜ」

「「「おおおおっ!!」」」



 若者たちの怒号が谺する。


 イルミネイトで照らされた遥か前方から、新たなモンスターたちが迫ってきているのが見えた。

 エマに集めてもらった前衛職達と共に、モンスターを迎え討たんと打って出る。


「道幅には余裕があるけど、戦闘中には絶対に端には近寄るなよ。余裕を持って中央付近で戦ってくれ。どうせモンスターは俺達を無視したりしないからな」


 モンスターに知性があれば、俺達を無視して後続を狙う可能性もある。だけどモンスターは基本的に動物と変わらない。

 奴らの行動原理は食欲が最優先だ。わざわざ目の前の餌をスルーしてまで、遠くの餌場に足を運ぶことはまず無いだろう。


 仮に抜かれたとしても、そのときは射抜いてやればいいだけだしな。


「自信を持てよお前ら。今まではあんなにボロボロの状態でも、篝火の不安定な灯りの下でも余裕を持って迎撃できていたんだからな」


 迫り来るモンスターの大群を前に、士気高揚を狙って若者たちに話しかける。


「そんなお前達が万全な状態で視界も良好になった今、モンスターなんかに後れを取るわけが無い。だろ? 他ならぬお前達自身がそれを証明してるんだ」


 俺の言葉に、誰かがゴクリと唾を飲み込む音がする。

 コイツらは確かに駆け出しで、殆どがE・Dクラスの冒険者だ。世間一般的にはまだまだ若造だと軽んじられる存在でしかない。


 しかしこいつらがこの場所で連日連夜モンスターの撃退に成功している事は、コイツら自身が1番よく分かっているはずだ。

 その成功体験が自信となって、コイツらの実力を更に押し上げてくれるはず。


「さぁ目の前に迫り来るモンスターの群れを見てみろ。全然怖くなんか無いだろ? だって今までお前らが撃退して来たモンスターしかいないんだからな」


 最後にあえてモンスターに背を向けて、若者たちと向かい合う。


「この防衛戦で生き抜いたみんなの力を貸してくれ! モンスターなんざ皆殺しにしてやろうぜぇっ!」

「「「うおおおおおおおっっ!!」」」


 俺の声に応えて、この場にいる全員が武器を空に掲げて雄叫びを上げた。

 その大地を揺らすような叫び声を聞いたモンスターたちははっきりと戸惑いを見せて、間違いなく怯んで足を止めた。


「見たか!? モンスターは俺達にブルっちまってるみたいだぜ!? さぁ蹴散らすぞお前ら! あとの奴らに出番なんて残さなくていい! 俺達で全部片付けちまおうぜぇぇぇ!」

「「「おおおおおおお!!」」」


 再度雄叫びを上げる若き冒険者たちと共に、俺達の迫力に気圧されたモンスターたちに突撃する。

 今まで好き放題やってくれたみたいだけどなぁ? ここからは反撃させてもらうぜっ、覚悟しやがれぇっ!
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