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大きな依頼
30 再会 (改)
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今にも火を噴きそうなくらいに顔を真っ赤にしたミシェルの登場に、それでも困惑よりも再会の喜びを感じてしまう。
ネクスで挨拶が出来なかったこと、自分で思った以上に後悔していたみたいだ。
「ミシェル!? なんでお前がここに……」
「おおっと、お嬢様だけでなくて悪いな!」
興奮しながらミシェルに問いかけると、ミシェルの背後の壁から更に人影が現れた。
ミシェルに続いてすっかり見知った顔が2人、冒険者ギルドに入ってくる。
「スティーブ! グリッジ! お前らも!? ははっ、なんでイコンに居るんだよ?」
数ヶ月苦楽を共にしたメンバーの突然の登場に、俺は思わず嬉しくなって3人に駆け寄ってしまった。
そんな俺に、興奮冷めやらずといった様子のミシェルが怒りをぶつけてくる。
「なんでも何もないわよっ! なんで朝起きたらパーティ解散して、パメラもソイルも帰っちゃってるのよーっ! ひと晩くらい待ってくれてもいいじゃないっ! ソイルの馬鹿ーっ!」
「え、えぇ……?」
俺もパメラも、速やかに帰るように言われたから従っただけなんだが……。
ま、まぁいいや。余計な事は言うまい。せっかく会いにきてくれたんだから。
「俺も3人と挨拶できなかったのが気になってたんだ。あのままお別れにならずに済んで良かったぜ」
「だったら1日くらいネクスで待ちなさいよっ! なんで帰還したその日に解散して、みんな帰っちゃうわけーっ!?」
「お嬢様。話が進みませんから落ち着いて。ソイルさん済みません。この街の宿を紹介してもらえますか。ソイルさんと同じ宿でいいので」
興奮して話が進まないミシェルを宥めながら、グリッジが割って入ってくる。
ミシェルを止めてくれたのはありがたいけど……、お前のセリフも大概不穏なんだけど?
「そりゃ構わないけど、俺が泊まってる宿なんて安宿だぞ? そんなところにミシェルを……、っていうかお前らイコンに泊まってくの?」
「うむ! ソイルのおかげで我らの旅は予定より早く終わったであろう? 数日程度の休暇を貰っても問題ないのだ!」
確かにスティーブの言う通り、俺達の予定は半分くらい短縮されたわけだからな……。
新たに予定を組みなおすにしても、数日間は予定が白紙の状態というわけだ。
「それにお嬢様が屋敷を飛び出してしまってな。お1人で出歩いてもらうわけにも行かぬので、引き続き護衛任務中なのだ! ガッハッハ!」
任務中だと言いながらも最低限の装備しか身に着けていないスティーブが、豪快に笑いながら説明してくれる。
休暇を貰って任務続行って、なに言ってるのか分からねぇなもう。
「お嬢様も安宿で大丈夫ですよ。これでも旅をやり遂げたお方なのはソイルさんもご存知でしょう?」
グリッジの言う通り、旅の後半はミシェルにも安宿に泊まってもらっていたのだ。だから俺が泊まっている宿でも問題ないっていう理屈は分かるんだけど……。
「……? なによっ。言いたいことがあるなら言いなさいよっ」
「いやぁ……。俺が取った宿が酷すぎて、流石にミシェルに申し訳が無くってさぁ……」
いざこうして任務が終わってみると、ミシェルはどこからどう見ても貴族令嬢にしか見えなくて、そんな彼女を安宿に泊めるのは罪悪感みたいなものが湧いてくるんだよなぁ。
宿の紹介に迷う俺に、グリッジはいつも通り飄々と告げてくる。
「ソイルさん。こちらで騒いでいるとギルドの迷惑になりますし、まずは宿を紹介して頂けますか?」
「あー……だな。これじゃ初めてグリッジがここに来た時くらい迷惑をかけちまってるな」
「……ほらお嬢様。話は後にしてまずは宿を確保しますよ。旅で学んだでしょう」
「うっ、そ、そうね。まずは宿の確保が大切なのよね」
俺の言葉を意図的にスルーしたグリッジがミシェルを諭してくれたおかげで、ミシェルも少し頭を冷やしてくれたようだ。
出先で拠点を築かずに行動する危険性を思い出してくれたらしい。
「じゃあソイルっ、宿に案内してちょうだい。別の宿を紹介したら許さないからねっ!」
「え~、マジで安宿なんだけどな……」
安宿を紹介しなきゃ許さないって意味が分からねぇよ……。
ミシェル。お前は正真正銘の貴族令嬢だろうが。らしくなさ過ぎるぞ?
まぁ、お前らしいと言えばお前らしいのかもしれないけどさ。
「まぁいいや……。んじゃ部屋が埋まる前に行こうか」
「あ、ちょっ……」
ミシェルの肩を回して反転させ、その背中を押しながらトゥムちゃんに頭だけ振り返る。
「トゥムちゃん、騒がしくして悪かった。今日はこれで失礼するよ」
「はーい。お疲れ様でした。数日はゆっくりお休みになったらいかがですかね? ではでは~」
「押さなくたって歩くってばっ! んも~っ!」
興奮冷めやらぬミシェルの背中を押しながらトゥムちゃんに挨拶し、冒険者ギルドを後にした。
「ソイル~? 随分と受付嬢と親しげだったじゃない~?」
「ん? そりゃトゥムちゃんがギルド員になる前から冒険者やってんだ。それなりに付き合いは長いんだよ」
不服そうに膨れているミシェルはとりあえず放っておいて、安宿で新たに3人の部屋を追加で取る。部屋が空いてて助かったぜ。
さて、今日はそのまま休むつもりだったが……。3人を放置して寝るわけにもいかないよな。
「宿も取れたし夕飯でもどうだ? わざわざイコンに来てくれた事だし俺が出すからよ。お前らがここに居る理由もゆっくり聞きたいし」
「そうですね。お言葉に甘えましょうか。食事しながらならお嬢様も落ち着きを取り戻すでしょうし」
「人を食いしん坊みたいに言わないでっ! もうっ!」
話しかけたグリッジからプイっと顔をそむけるミシェル。
ミシェルは別に食いしん坊ってわけじゃないけど、好奇心が旺盛なんだよな。小食の癖に色んな料理を食べたがるっていうか。
「ソイル! 早く行こっ! 美味しいところに案内してよねっ!」
「あ、ああ。でも俺がいく水準の店だからな? ミシェルに満足してもらえるかは自信ねぇぞ?」
カンカンに怒ってたと思ったが、今はニコニコと笑っているミシェル。
俺の先生は、本当にコロコロと表情を変えるもんだよ。
俺は3人を連れていつもの安い酒場……ではなく。ちょっとだけ値の張る、普段なら絶対に利用しない、個室が利用できる食堂に向かった。
料理を頼み、飲み物が運ばれてきたので、とりあえず乾杯することにした。
「改めて、渦の破壊の旅、お疲れ様だったぜ!」
「「「お疲れ様~っ!」」」
俺の音頭で酒の入ったコップをぶつけ合う。
ははっ。いっつもはガンツのしけた面ばかり見ながら打ち上げしてたから、なんか新鮮だなっ。
「3人がイコンに来てくれて嬉しいよ。俺もあのままさよならは残念だと思ってたからさ」
「うむ! 我も再会できて嬉しく思っているぞ」
裏表の無いスティーブが、俺に真っ直ぐに再会の喜びを伝えてくれる。
って、もう1杯目を空けてやがるっ……!?
「今回イコンに来たのは、お嬢様の護衛兼休暇だな。我もグリッジも半分は休暇扱いだ」
「そういうことですね。私たちだけでなく、お嬢様の予定も大幅に短縮されて時間が空きましたから」
そりゃあ1年はかかると思っていた旅が半年弱で終わっちまったんだもんなぁ。
苛酷な旅には違いなかったんだし、休暇を与えられるのも頷けるよ。
「さ、お嬢様。お嬢様の方から説明してあげてください」
「う~っ! だってさぁ! せっかくみんなで旅を終わらせて帰ってきたんじゃないっ!」
グリッジに事情説明を任されたミシェルが、ふくれっ面になって喚き始める。思い出し怒りってか?
「だからささやかでも、みんなでお祝いくらいしたかったのっ! なのにパメラもソイルも帰っちゃうし、ダニーは暇を出されているしで、なんなのよもう!」
「いや俺だって挨拶くらいはしようと思ったけどさぁ。ミシェルはもう休んでるって言われたら食い下がるわけにもいかねぇし、大金持ったままぶらつくのも危険だし、仕方ねぇじゃねぇかよぉ」
旅のおかげで多少腕を上げることが出来た自信はあるけど、それだって何処まで通用するかはまだ分からない。金貨狙いのチンピラに囲まれただけであっさり負けちまう可能性だってある。
金貨150枚なんて大金を俺が持ってるとは誰も思わないだろうが、例えばジェシーやステファニーが情報を流す可能性だってゼロではないのだ。
……ダイン家の使用人を疑いたくはないけどなぁ。
「うむ。ソイルの事情はこちらも分かっている。だからこうしてこちらから訪ねさせてもらったのだよ」
「そういうことっ! 貴方がネクスに留まれなかった理由は2人から散々説明されたから、仕方ないから納得してあげるわよっ」
カンカンに怒っていたミシェルだったけれど、実際にはこっちの都合は分かってくれていたみたいだ。
話をしていて落ち着いたのか、ようやくミシェルは怒りの矛を収めてくれた。
「でもあれでお別れなんてイヤだもん……。そこでさっ。ちょうど私たちは予定も空いたばかりだし、ならいっそこっちから押しかけちゃおうって思ったのよっ!」
前半はしおらしい感じだったのに、後半は聞き捨てならねぇぞ? 押しかけちゃおうじゃねぇよ、れっきとした貴族令嬢のくせしやがって……。
「1週間くらいは滞在できると思うから、その間宜しくねっソイル!」
「い、1週間も居るのか……!? いや、滞在するのは構わねぇんだけどよ。流石に俺は丸々1週間も休んでられねぇから、仕事させてもらいてぇんだが」
せっかくイコンにまで来てくれたミシェルたちを放っておくのは申し訳ないが、恐らくミスリルの剣を購入したら俺は全財産の殆どを失う事になるだろう。仕事をしないと宿にも泊まれなくなっちまうのは流石に不味い。
しかし俺の言葉に、ミシェルはふっふーんと不敵に笑う。
「そんなの私たちも同行すればいいだけじゃないっ。実際の依頼に同行するのも勉強になるでしょ。ね? いいでしょグリッジ」
「勿論ですお嬢様」
「許可すんのかよっ!?」
「ということでソイルさん、貴方の都合を優先してもらって大丈夫ですので、1週間ほど宜しくお願いします。旅の延長だと思ってくださればと」
「……ははっ、なんだよそれっ?」
旅の延長か。実際の旅はあっさりと終わっちまったからなぁ。
こんなオマケが付いてるだなんて想像もしてなかったけど……。そう言われると悪い気はしねぇなっ?
「ま、みんながいいって言うなら断る理由も無いよ。3人とも。旅に比べりゃ短い間だけど、改めてよろしくな」
「うんっ! またよろしくね、ソイルっ!」
まったく、ちょっとの間はゆっくりしようと思ってたのにな。えらく騒がしくなりそうだぜ。
でも思いがけずミシェルの笑顔を見ることが出来て、なんだか俺も嬉しくてしょうがない。
休暇中のコイツらに、思いっきりイコンの街を楽しんでいってもらわねぇとなっ。
ネクスで挨拶が出来なかったこと、自分で思った以上に後悔していたみたいだ。
「ミシェル!? なんでお前がここに……」
「おおっと、お嬢様だけでなくて悪いな!」
興奮しながらミシェルに問いかけると、ミシェルの背後の壁から更に人影が現れた。
ミシェルに続いてすっかり見知った顔が2人、冒険者ギルドに入ってくる。
「スティーブ! グリッジ! お前らも!? ははっ、なんでイコンに居るんだよ?」
数ヶ月苦楽を共にしたメンバーの突然の登場に、俺は思わず嬉しくなって3人に駆け寄ってしまった。
そんな俺に、興奮冷めやらずといった様子のミシェルが怒りをぶつけてくる。
「なんでも何もないわよっ! なんで朝起きたらパーティ解散して、パメラもソイルも帰っちゃってるのよーっ! ひと晩くらい待ってくれてもいいじゃないっ! ソイルの馬鹿ーっ!」
「え、えぇ……?」
俺もパメラも、速やかに帰るように言われたから従っただけなんだが……。
ま、まぁいいや。余計な事は言うまい。せっかく会いにきてくれたんだから。
「俺も3人と挨拶できなかったのが気になってたんだ。あのままお別れにならずに済んで良かったぜ」
「だったら1日くらいネクスで待ちなさいよっ! なんで帰還したその日に解散して、みんな帰っちゃうわけーっ!?」
「お嬢様。話が進みませんから落ち着いて。ソイルさん済みません。この街の宿を紹介してもらえますか。ソイルさんと同じ宿でいいので」
興奮して話が進まないミシェルを宥めながら、グリッジが割って入ってくる。
ミシェルを止めてくれたのはありがたいけど……、お前のセリフも大概不穏なんだけど?
「そりゃ構わないけど、俺が泊まってる宿なんて安宿だぞ? そんなところにミシェルを……、っていうかお前らイコンに泊まってくの?」
「うむ! ソイルのおかげで我らの旅は予定より早く終わったであろう? 数日程度の休暇を貰っても問題ないのだ!」
確かにスティーブの言う通り、俺達の予定は半分くらい短縮されたわけだからな……。
新たに予定を組みなおすにしても、数日間は予定が白紙の状態というわけだ。
「それにお嬢様が屋敷を飛び出してしまってな。お1人で出歩いてもらうわけにも行かぬので、引き続き護衛任務中なのだ! ガッハッハ!」
任務中だと言いながらも最低限の装備しか身に着けていないスティーブが、豪快に笑いながら説明してくれる。
休暇を貰って任務続行って、なに言ってるのか分からねぇなもう。
「お嬢様も安宿で大丈夫ですよ。これでも旅をやり遂げたお方なのはソイルさんもご存知でしょう?」
グリッジの言う通り、旅の後半はミシェルにも安宿に泊まってもらっていたのだ。だから俺が泊まっている宿でも問題ないっていう理屈は分かるんだけど……。
「……? なによっ。言いたいことがあるなら言いなさいよっ」
「いやぁ……。俺が取った宿が酷すぎて、流石にミシェルに申し訳が無くってさぁ……」
いざこうして任務が終わってみると、ミシェルはどこからどう見ても貴族令嬢にしか見えなくて、そんな彼女を安宿に泊めるのは罪悪感みたいなものが湧いてくるんだよなぁ。
宿の紹介に迷う俺に、グリッジはいつも通り飄々と告げてくる。
「ソイルさん。こちらで騒いでいるとギルドの迷惑になりますし、まずは宿を紹介して頂けますか?」
「あー……だな。これじゃ初めてグリッジがここに来た時くらい迷惑をかけちまってるな」
「……ほらお嬢様。話は後にしてまずは宿を確保しますよ。旅で学んだでしょう」
「うっ、そ、そうね。まずは宿の確保が大切なのよね」
俺の言葉を意図的にスルーしたグリッジがミシェルを諭してくれたおかげで、ミシェルも少し頭を冷やしてくれたようだ。
出先で拠点を築かずに行動する危険性を思い出してくれたらしい。
「じゃあソイルっ、宿に案内してちょうだい。別の宿を紹介したら許さないからねっ!」
「え~、マジで安宿なんだけどな……」
安宿を紹介しなきゃ許さないって意味が分からねぇよ……。
ミシェル。お前は正真正銘の貴族令嬢だろうが。らしくなさ過ぎるぞ?
まぁ、お前らしいと言えばお前らしいのかもしれないけどさ。
「まぁいいや……。んじゃ部屋が埋まる前に行こうか」
「あ、ちょっ……」
ミシェルの肩を回して反転させ、その背中を押しながらトゥムちゃんに頭だけ振り返る。
「トゥムちゃん、騒がしくして悪かった。今日はこれで失礼するよ」
「はーい。お疲れ様でした。数日はゆっくりお休みになったらいかがですかね? ではでは~」
「押さなくたって歩くってばっ! んも~っ!」
興奮冷めやらぬミシェルの背中を押しながらトゥムちゃんに挨拶し、冒険者ギルドを後にした。
「ソイル~? 随分と受付嬢と親しげだったじゃない~?」
「ん? そりゃトゥムちゃんがギルド員になる前から冒険者やってんだ。それなりに付き合いは長いんだよ」
不服そうに膨れているミシェルはとりあえず放っておいて、安宿で新たに3人の部屋を追加で取る。部屋が空いてて助かったぜ。
さて、今日はそのまま休むつもりだったが……。3人を放置して寝るわけにもいかないよな。
「宿も取れたし夕飯でもどうだ? わざわざイコンに来てくれた事だし俺が出すからよ。お前らがここに居る理由もゆっくり聞きたいし」
「そうですね。お言葉に甘えましょうか。食事しながらならお嬢様も落ち着きを取り戻すでしょうし」
「人を食いしん坊みたいに言わないでっ! もうっ!」
話しかけたグリッジからプイっと顔をそむけるミシェル。
ミシェルは別に食いしん坊ってわけじゃないけど、好奇心が旺盛なんだよな。小食の癖に色んな料理を食べたがるっていうか。
「ソイル! 早く行こっ! 美味しいところに案内してよねっ!」
「あ、ああ。でも俺がいく水準の店だからな? ミシェルに満足してもらえるかは自信ねぇぞ?」
カンカンに怒ってたと思ったが、今はニコニコと笑っているミシェル。
俺の先生は、本当にコロコロと表情を変えるもんだよ。
俺は3人を連れていつもの安い酒場……ではなく。ちょっとだけ値の張る、普段なら絶対に利用しない、個室が利用できる食堂に向かった。
料理を頼み、飲み物が運ばれてきたので、とりあえず乾杯することにした。
「改めて、渦の破壊の旅、お疲れ様だったぜ!」
「「「お疲れ様~っ!」」」
俺の音頭で酒の入ったコップをぶつけ合う。
ははっ。いっつもはガンツのしけた面ばかり見ながら打ち上げしてたから、なんか新鮮だなっ。
「3人がイコンに来てくれて嬉しいよ。俺もあのままさよならは残念だと思ってたからさ」
「うむ! 我も再会できて嬉しく思っているぞ」
裏表の無いスティーブが、俺に真っ直ぐに再会の喜びを伝えてくれる。
って、もう1杯目を空けてやがるっ……!?
「今回イコンに来たのは、お嬢様の護衛兼休暇だな。我もグリッジも半分は休暇扱いだ」
「そういうことですね。私たちだけでなく、お嬢様の予定も大幅に短縮されて時間が空きましたから」
そりゃあ1年はかかると思っていた旅が半年弱で終わっちまったんだもんなぁ。
苛酷な旅には違いなかったんだし、休暇を与えられるのも頷けるよ。
「さ、お嬢様。お嬢様の方から説明してあげてください」
「う~っ! だってさぁ! せっかくみんなで旅を終わらせて帰ってきたんじゃないっ!」
グリッジに事情説明を任されたミシェルが、ふくれっ面になって喚き始める。思い出し怒りってか?
「だからささやかでも、みんなでお祝いくらいしたかったのっ! なのにパメラもソイルも帰っちゃうし、ダニーは暇を出されているしで、なんなのよもう!」
「いや俺だって挨拶くらいはしようと思ったけどさぁ。ミシェルはもう休んでるって言われたら食い下がるわけにもいかねぇし、大金持ったままぶらつくのも危険だし、仕方ねぇじゃねぇかよぉ」
旅のおかげで多少腕を上げることが出来た自信はあるけど、それだって何処まで通用するかはまだ分からない。金貨狙いのチンピラに囲まれただけであっさり負けちまう可能性だってある。
金貨150枚なんて大金を俺が持ってるとは誰も思わないだろうが、例えばジェシーやステファニーが情報を流す可能性だってゼロではないのだ。
……ダイン家の使用人を疑いたくはないけどなぁ。
「うむ。ソイルの事情はこちらも分かっている。だからこうしてこちらから訪ねさせてもらったのだよ」
「そういうことっ! 貴方がネクスに留まれなかった理由は2人から散々説明されたから、仕方ないから納得してあげるわよっ」
カンカンに怒っていたミシェルだったけれど、実際にはこっちの都合は分かってくれていたみたいだ。
話をしていて落ち着いたのか、ようやくミシェルは怒りの矛を収めてくれた。
「でもあれでお別れなんてイヤだもん……。そこでさっ。ちょうど私たちは予定も空いたばかりだし、ならいっそこっちから押しかけちゃおうって思ったのよっ!」
前半はしおらしい感じだったのに、後半は聞き捨てならねぇぞ? 押しかけちゃおうじゃねぇよ、れっきとした貴族令嬢のくせしやがって……。
「1週間くらいは滞在できると思うから、その間宜しくねっソイル!」
「い、1週間も居るのか……!? いや、滞在するのは構わねぇんだけどよ。流石に俺は丸々1週間も休んでられねぇから、仕事させてもらいてぇんだが」
せっかくイコンにまで来てくれたミシェルたちを放っておくのは申し訳ないが、恐らくミスリルの剣を購入したら俺は全財産の殆どを失う事になるだろう。仕事をしないと宿にも泊まれなくなっちまうのは流石に不味い。
しかし俺の言葉に、ミシェルはふっふーんと不敵に笑う。
「そんなの私たちも同行すればいいだけじゃないっ。実際の依頼に同行するのも勉強になるでしょ。ね? いいでしょグリッジ」
「勿論ですお嬢様」
「許可すんのかよっ!?」
「ということでソイルさん、貴方の都合を優先してもらって大丈夫ですので、1週間ほど宜しくお願いします。旅の延長だと思ってくださればと」
「……ははっ、なんだよそれっ?」
旅の延長か。実際の旅はあっさりと終わっちまったからなぁ。
こんなオマケが付いてるだなんて想像もしてなかったけど……。そう言われると悪い気はしねぇなっ?
「ま、みんながいいって言うなら断る理由も無いよ。3人とも。旅に比べりゃ短い間だけど、改めてよろしくな」
「うんっ! またよろしくね、ソイルっ!」
まったく、ちょっとの間はゆっくりしようと思ってたのにな。えらく騒がしくなりそうだぜ。
でも思いがけずミシェルの笑顔を見ることが出来て、なんだか俺も嬉しくてしょうがない。
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