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大きな依頼
27 ソイル⑤ (改)
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最後は少しヒヤリとさせられたが、何とか無事に渦の破壊を遂行することが出来たようだ。
森から魔力を奪っていた渦が消失したことで、膨大な魔力が森へと還っていく。
「あ……っと。しまったな……」
魔力の流れに違和感の無くなった森の中で、消失したショートソードが借り物であった事を思い出す。
しかし壊してしまったものは仕方ない。素直に謝って弁償するしかないか。俺に買える金額だといいんだが。
「ダニー済まない。ショートソードが壊れて……」
「バッカ野郎! 今更ショートソードなんかどうだって良いんだよぉっ!」
「……ダニー?」
「ソイル! お前なんなんだっ! なんなんだってんだよっ! アーッハッハッハッハー!」
大笑いしながら俺に抱きついてくるダニー。
大喜びしているダニーの様子に面食らってしまう。
武器がダメになってしまったのに、なんでダニーはこんなに上機嫌なんだ? こんな姿、酒の席でも見たことがないんだが。
「ソイルー! 貴方大丈夫なの!? 渦を剣で殺してしまうなんて……、体に痛みや違和感は無い!?」
最後尾にいたミシェルが、俺なんかのことを心配しながら駆け寄ってくる。
ミシェルにウソの報告をするわけにはいかないから、改めて自分の体と魔力を確認した。
「……ん、大丈夫。体に違和感は無いよ」
「ソイル。お前いったい何をしたっ……!?」
ミシェルに問題無いと報告する俺に、凄い剣幕で詰め寄ってくるパメラ。
「聖騎士として黒い渦の事はよく調べてきたつもりだが、剣で渦を破壊した例など聞いたことがないぞ……!?」
あの渦を剣で破壊した前例は無いのか。我ながらちょっと迂闊だったか。
しかし本来なら渦の破壊に近寄る必要すらないんだ。そんな記録が残っていないのは当然じゃないのか?
「そりゃ普段はミシェルみたいな大魔法使いが1発で消し去ってしまうからだろ。剣で切りかかる馬鹿なんていないってだけだ」
「い、いや……! 絶対にそんな問題では……!」
納得いかない様子のパメラだったが、しかし俺に告げる言葉が見つからないようでもどかしそうにしている。
そんなパメラを見ていたら、先ほどの行為が指示されていない俺の独断で行なってしまった行為であったことを思い出してしまった。
「済まないミシェル。指示も無いのに勝手に動い……」
「凄い凄い凄いっ! すっごいよソイルーっ!」
「……ミシェル?」
「まさか呪文詠唱以外で渦を消す方法があるなんて、思ったこともなかったーーっ!」
頭を下げようとした俺に、ミシェルは満面の笑みを浮かべて抱き付いてきた。
勝手に動いてまた悲しませてしまうと思ったが……。ミシェルのこの様子からすると、どうやら迷惑をかけずに済んだのかもしれない。
「ありがとうソイル! 貴方が居なかったら、きっとみんなここで殺されていたわっ!」
……ああ良かった。ミシェルが笑っている。
なんだか久しぶりに見た気がするな。こいつが笑っているところ……。
「……ミシェルが笑ってくれて良かった。いつも俺と居て辛そうだったから、またお前の笑顔が見れて嬉しいよ」
「な、ななななーっ!? い、いきなりなに言ってるのソイルー!?」
余計なことを考える余裕なんて残って無くて、ただ素直に頭に浮かんだことを口にし、思いついたことを実行する。
「あっ……」
赤くなってバタバタしているミシェルが嬉しくて、ついその頭を撫でてしまった。
動きが止まってしまったミシェルに、俺は少しだけ冷静さを取り戻す。
「っと、悪い。なんかつい……」
「……ううん。少しの間でいいから、そのまま続けてくれるかな……」
離そうとした俺の右手に、ミシェルの両手が重ねられる。
何も考えずに自然と手を伸ばしてしまったけど、ミシェルはそのまま俺の手を受け入れてくれた。
「……ミシェルが嫌でなければ、お安い御用だ」
俺に抱きついたままのミシェルの頭を撫でる。
先ほど見た呪文詠唱を思い出す。まるでこの世界そのものに祝福されているかのようなこの少女を守ることが出来て、本当に良かった。
俺に抱き付いているせいでミシェルの顔が見れないのが、なんだか少し残念に思えた。
「えっと……。お2人共そのままでいいので、少しお話させてください」
俺の胸に顔を埋めながら抱きついてくるミシェルと、そんなミシェルの頭を優しくなで続けている俺。
そんな俺達に、少し遠慮がちにグリッジが話しかけてくる。
「ソイルさん。貴方、今どうやって渦を破壊したのか教えてもらえますか?」
「ん? ああ。渦の中心目掛けて剣を突き立てただけだよ」
……今にして思えば軽率だったな、破壊できる確証も無いのに。
でも破壊できる確信はあったのかもしれない。なんとなく、ミシェルを守るためにはああするしかないって思えたんだ。
グリッジは俺の言葉に釈然としないような表情を浮かべたものの、それ以上は追求してこなかった。
「……それでは次の質問です。お嬢様の呪文詠唱の後、渦が死んでいないと分かったのは何故ですか?」
「あ? そりゃあ……」
「思い返してみれば、2度の呪文詠唱の両方で、ソイルさんは誰よりも早く反応していましたよね? 何か確信が?」
「いやいや、確信もなにも渦の魔力が消失していないんだ。魔力が消えてないなら死んでるわけないだろ」
あの黒い渦に実体があるのかどうかは良く分からないけれど、少なくとも高濃度の魔力の結晶のようなものだってことは間違いないと思う。
あの渦の破壊の成否は魔力反応を確認すればまさに一目瞭然なのだ。
「あの渦は森中の魔力を吸っていたからな。渦が魔力を吸引している歪な魔力の流れが消えていなければ、渦が生きてるのは分かるだろ?」
「それです。魔力の流れってなんですか?」
「……はぁ?」
「今回の渦を発見したのもソイルさんでしたよね? 魔力の流れって、いったい何のことです?」
いつもの飄々とした雰囲気と違って、本当に真剣な様子で問い詰めてくるグリッジ。
なんだか会話が噛み合わないな? 魔力感知なんて誰にでも出来る技術のはずだろ? それに今回の渦の発見だって、事前にダニーが確認してあったんじゃないのかよ?
……でも今はミシェルの頭を撫でることがなんだか心地良くて、些細な疑問が気にならない。
今は俺の腕の中にいるこの少女のこと以外、全てがどうでもいい事のように思えた。
「魔力の流れは魔力の流れだよ。それ以上の説明のしようなんかないだろ?」
「魔力の流れって意味自体は分かりますけど……。森の中の魔力の流れってなんなんです?」
「それもそのまんまの意味だってば。お前らだって戦闘の時は体に魔力を走らせてるだろ? あれと同じだろうが。……なんで今さらそんなこと聞いてくるんだ?」
「……ねえソイル。貴方はグリッジたちが戦闘中に体に走らせている魔力も、この森に流れる魔力も同じように知覚出来ているって事?」
未だ俺にしがみ付いているミシェルが、顔を上げて俺に確認してくる。
ミシェルだって同じことが出来るはずだよな……って、俺がミシェルと同じことが出来るようになったのかを確認しているのかな?
「おかげさまでね。優秀なミシェル先生のおかげだよ」
「え、えへへ……。そうかなぁ……?」
抱き付いたままで俺を見上げ、照れたように笑うミシェル。
こいつ、本当に美人だよなぁ。
「ミシェル先生も認めてくれたんだ。お前もいい加減認めてくれよグリッジ」
「大気中の魔力を感じ取れるって、お嬢様がやっているレベルの技術じゃないですか……!」
「ああ。ミシェルのおかげで、俺もやっと人並みの魔力操作が出来るようになったみたいだよ」
「っていうかソイルさんって、私たちが戦闘中に走らせている魔力も感知出来てるんですか……!?」
さっきからなにをこんなに驚いてるんだコイツは?
……まぁいいや。ミシェルが認めてくれたんだからグリッジが信じてくれなくても、そんなことはどうでもいい。
「……ありがとうなミシェル。俺なんかに根気強く教えてくれて。これでなんとか俺も人並みの……」
「ううんっ! 私こそありがとうソイル! 貴方はいつも私の事を助けてくれるわねっ!」
ミシェルが俺の言葉を遮って、飛び切りの笑顔と感謝の言葉を向けてくれた。
それを見た時、まるで俺の世界が色づいたように感じられた。
音と色が戻った世界で、しがみ付いているミシェルの体温が伝わってきているのに今さら気付いて少し慌てる。
「っとミシェル……。ちょっと離れ……」
「ソイル! お嬢様! まずは森を抜けましょう!」
動揺しながらミシェルから離れようとしたとき、ダニーから緊張感に満ちた警告が寄せられる。
「ソイルの分の新たな剣もありませんし、俺達も万全な状態じゃありません。渦を破壊したと言ってもまだまだ危険な状況には変わりありませんよ!」
「あっ、そっそうよねっ! まずは村に戻らないと危険ねっ!」
ダニーの言葉に慌てた様子で俺から離れてしまったミシェル。
「あっ……」
ついさっき自分から離れようとしたくせに、ミシェルから伝わってきていた熱が名残惜しくて、つい反射的に手を伸ばしてしまう俺。
「くくく。ソイル。しつこい男は嫌われるぞ?」
そんな俺の肩を掴み、なんだかからかうように微笑むパメラ。
「まだ危険領域は出ていないんだ。悪いが気を引き締めてくれ」
「あ、悪いパメラ。なんかつい手を伸ばしちまった」
そうだ。ダニーとパメラの言う通り、ここはまだモンスターの領域だ。森を抜けるまで決して気を抜くわけにはいかない。
まして今の俺には武器が無い。スティーブに体術も教わりはしたが、何処までモンスターに通用するかは未知数だ。
「……もう大丈夫だ。戻ろう」
自分の状態を自覚し気を引き締めなおす。
ミシェルを中心に隊列を組み、案内役のダニーが先頭に立って武器を持たない俺が最後尾を務め、魔力に満ちた森を脱出する為に移動を開始した。
何度かモンスターとは遭遇したが、単体のモンスターなどこのメンバーには何の障害にもならなかった。
おかげで俺が武器を持っていないことは何の問題にもならず、全員無事に拠点にしていた村に戻ってくることが出来た。
その日、終始上機嫌のミシェルの笑顔を見ながら食べた夕食は、なんだか久しぶりに旨いと思える食事だった。
森から魔力を奪っていた渦が消失したことで、膨大な魔力が森へと還っていく。
「あ……っと。しまったな……」
魔力の流れに違和感の無くなった森の中で、消失したショートソードが借り物であった事を思い出す。
しかし壊してしまったものは仕方ない。素直に謝って弁償するしかないか。俺に買える金額だといいんだが。
「ダニー済まない。ショートソードが壊れて……」
「バッカ野郎! 今更ショートソードなんかどうだって良いんだよぉっ!」
「……ダニー?」
「ソイル! お前なんなんだっ! なんなんだってんだよっ! アーッハッハッハッハー!」
大笑いしながら俺に抱きついてくるダニー。
大喜びしているダニーの様子に面食らってしまう。
武器がダメになってしまったのに、なんでダニーはこんなに上機嫌なんだ? こんな姿、酒の席でも見たことがないんだが。
「ソイルー! 貴方大丈夫なの!? 渦を剣で殺してしまうなんて……、体に痛みや違和感は無い!?」
最後尾にいたミシェルが、俺なんかのことを心配しながら駆け寄ってくる。
ミシェルにウソの報告をするわけにはいかないから、改めて自分の体と魔力を確認した。
「……ん、大丈夫。体に違和感は無いよ」
「ソイル。お前いったい何をしたっ……!?」
ミシェルに問題無いと報告する俺に、凄い剣幕で詰め寄ってくるパメラ。
「聖騎士として黒い渦の事はよく調べてきたつもりだが、剣で渦を破壊した例など聞いたことがないぞ……!?」
あの渦を剣で破壊した前例は無いのか。我ながらちょっと迂闊だったか。
しかし本来なら渦の破壊に近寄る必要すらないんだ。そんな記録が残っていないのは当然じゃないのか?
「そりゃ普段はミシェルみたいな大魔法使いが1発で消し去ってしまうからだろ。剣で切りかかる馬鹿なんていないってだけだ」
「い、いや……! 絶対にそんな問題では……!」
納得いかない様子のパメラだったが、しかし俺に告げる言葉が見つからないようでもどかしそうにしている。
そんなパメラを見ていたら、先ほどの行為が指示されていない俺の独断で行なってしまった行為であったことを思い出してしまった。
「済まないミシェル。指示も無いのに勝手に動い……」
「凄い凄い凄いっ! すっごいよソイルーっ!」
「……ミシェル?」
「まさか呪文詠唱以外で渦を消す方法があるなんて、思ったこともなかったーーっ!」
頭を下げようとした俺に、ミシェルは満面の笑みを浮かべて抱き付いてきた。
勝手に動いてまた悲しませてしまうと思ったが……。ミシェルのこの様子からすると、どうやら迷惑をかけずに済んだのかもしれない。
「ありがとうソイル! 貴方が居なかったら、きっとみんなここで殺されていたわっ!」
……ああ良かった。ミシェルが笑っている。
なんだか久しぶりに見た気がするな。こいつが笑っているところ……。
「……ミシェルが笑ってくれて良かった。いつも俺と居て辛そうだったから、またお前の笑顔が見れて嬉しいよ」
「な、ななななーっ!? い、いきなりなに言ってるのソイルー!?」
余計なことを考える余裕なんて残って無くて、ただ素直に頭に浮かんだことを口にし、思いついたことを実行する。
「あっ……」
赤くなってバタバタしているミシェルが嬉しくて、ついその頭を撫でてしまった。
動きが止まってしまったミシェルに、俺は少しだけ冷静さを取り戻す。
「っと、悪い。なんかつい……」
「……ううん。少しの間でいいから、そのまま続けてくれるかな……」
離そうとした俺の右手に、ミシェルの両手が重ねられる。
何も考えずに自然と手を伸ばしてしまったけど、ミシェルはそのまま俺の手を受け入れてくれた。
「……ミシェルが嫌でなければ、お安い御用だ」
俺に抱きついたままのミシェルの頭を撫でる。
先ほど見た呪文詠唱を思い出す。まるでこの世界そのものに祝福されているかのようなこの少女を守ることが出来て、本当に良かった。
俺に抱き付いているせいでミシェルの顔が見れないのが、なんだか少し残念に思えた。
「えっと……。お2人共そのままでいいので、少しお話させてください」
俺の胸に顔を埋めながら抱きついてくるミシェルと、そんなミシェルの頭を優しくなで続けている俺。
そんな俺達に、少し遠慮がちにグリッジが話しかけてくる。
「ソイルさん。貴方、今どうやって渦を破壊したのか教えてもらえますか?」
「ん? ああ。渦の中心目掛けて剣を突き立てただけだよ」
……今にして思えば軽率だったな、破壊できる確証も無いのに。
でも破壊できる確信はあったのかもしれない。なんとなく、ミシェルを守るためにはああするしかないって思えたんだ。
グリッジは俺の言葉に釈然としないような表情を浮かべたものの、それ以上は追求してこなかった。
「……それでは次の質問です。お嬢様の呪文詠唱の後、渦が死んでいないと分かったのは何故ですか?」
「あ? そりゃあ……」
「思い返してみれば、2度の呪文詠唱の両方で、ソイルさんは誰よりも早く反応していましたよね? 何か確信が?」
「いやいや、確信もなにも渦の魔力が消失していないんだ。魔力が消えてないなら死んでるわけないだろ」
あの黒い渦に実体があるのかどうかは良く分からないけれど、少なくとも高濃度の魔力の結晶のようなものだってことは間違いないと思う。
あの渦の破壊の成否は魔力反応を確認すればまさに一目瞭然なのだ。
「あの渦は森中の魔力を吸っていたからな。渦が魔力を吸引している歪な魔力の流れが消えていなければ、渦が生きてるのは分かるだろ?」
「それです。魔力の流れってなんですか?」
「……はぁ?」
「今回の渦を発見したのもソイルさんでしたよね? 魔力の流れって、いったい何のことです?」
いつもの飄々とした雰囲気と違って、本当に真剣な様子で問い詰めてくるグリッジ。
なんだか会話が噛み合わないな? 魔力感知なんて誰にでも出来る技術のはずだろ? それに今回の渦の発見だって、事前にダニーが確認してあったんじゃないのかよ?
……でも今はミシェルの頭を撫でることがなんだか心地良くて、些細な疑問が気にならない。
今は俺の腕の中にいるこの少女のこと以外、全てがどうでもいい事のように思えた。
「魔力の流れは魔力の流れだよ。それ以上の説明のしようなんかないだろ?」
「魔力の流れって意味自体は分かりますけど……。森の中の魔力の流れってなんなんです?」
「それもそのまんまの意味だってば。お前らだって戦闘の時は体に魔力を走らせてるだろ? あれと同じだろうが。……なんで今さらそんなこと聞いてくるんだ?」
「……ねえソイル。貴方はグリッジたちが戦闘中に体に走らせている魔力も、この森に流れる魔力も同じように知覚出来ているって事?」
未だ俺にしがみ付いているミシェルが、顔を上げて俺に確認してくる。
ミシェルだって同じことが出来るはずだよな……って、俺がミシェルと同じことが出来るようになったのかを確認しているのかな?
「おかげさまでね。優秀なミシェル先生のおかげだよ」
「え、えへへ……。そうかなぁ……?」
抱き付いたままで俺を見上げ、照れたように笑うミシェル。
こいつ、本当に美人だよなぁ。
「ミシェル先生も認めてくれたんだ。お前もいい加減認めてくれよグリッジ」
「大気中の魔力を感じ取れるって、お嬢様がやっているレベルの技術じゃないですか……!」
「ああ。ミシェルのおかげで、俺もやっと人並みの魔力操作が出来るようになったみたいだよ」
「っていうかソイルさんって、私たちが戦闘中に走らせている魔力も感知出来てるんですか……!?」
さっきからなにをこんなに驚いてるんだコイツは?
……まぁいいや。ミシェルが認めてくれたんだからグリッジが信じてくれなくても、そんなことはどうでもいい。
「……ありがとうなミシェル。俺なんかに根気強く教えてくれて。これでなんとか俺も人並みの……」
「ううんっ! 私こそありがとうソイル! 貴方はいつも私の事を助けてくれるわねっ!」
ミシェルが俺の言葉を遮って、飛び切りの笑顔と感謝の言葉を向けてくれた。
それを見た時、まるで俺の世界が色づいたように感じられた。
音と色が戻った世界で、しがみ付いているミシェルの体温が伝わってきているのに今さら気付いて少し慌てる。
「っとミシェル……。ちょっと離れ……」
「ソイル! お嬢様! まずは森を抜けましょう!」
動揺しながらミシェルから離れようとしたとき、ダニーから緊張感に満ちた警告が寄せられる。
「ソイルの分の新たな剣もありませんし、俺達も万全な状態じゃありません。渦を破壊したと言ってもまだまだ危険な状況には変わりありませんよ!」
「あっ、そっそうよねっ! まずは村に戻らないと危険ねっ!」
ダニーの言葉に慌てた様子で俺から離れてしまったミシェル。
「あっ……」
ついさっき自分から離れようとしたくせに、ミシェルから伝わってきていた熱が名残惜しくて、つい反射的に手を伸ばしてしまう俺。
「くくく。ソイル。しつこい男は嫌われるぞ?」
そんな俺の肩を掴み、なんだかからかうように微笑むパメラ。
「まだ危険領域は出ていないんだ。悪いが気を引き締めてくれ」
「あ、悪いパメラ。なんかつい手を伸ばしちまった」
そうだ。ダニーとパメラの言う通り、ここはまだモンスターの領域だ。森を抜けるまで決して気を抜くわけにはいかない。
まして今の俺には武器が無い。スティーブに体術も教わりはしたが、何処までモンスターに通用するかは未知数だ。
「……もう大丈夫だ。戻ろう」
自分の状態を自覚し気を引き締めなおす。
ミシェルを中心に隊列を組み、案内役のダニーが先頭に立って武器を持たない俺が最後尾を務め、魔力に満ちた森を脱出する為に移動を開始した。
何度かモンスターとは遭遇したが、単体のモンスターなどこのメンバーには何の障害にもならなかった。
おかげで俺が武器を持っていないことは何の問題にもならず、全員無事に拠点にしていた村に戻ってくることが出来た。
その日、終始上機嫌のミシェルの笑顔を見ながら食べた夕食は、なんだか久しぶりに旨いと思える食事だった。
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