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12章 俺が望んだ異世界生活

閑話042 エリアキーパーを目にして ※タケル視点

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「どうせだからみんなで行こうぜ?」


 トーマのその一言で、変なメンバーでエリアキーパーグラメダワルケアを見にいく事になった。
 実際に道を作ったトーマが案内してくれるのはありがてぇけど、なんでこんなメンバーなんだよ?
 ソリスタはいいとして、他の4人は全員トーマに敵対した奴等じゃねぇか。

 ……しかも全員、微妙にトーマを怖がってるのはなんなんだ?


「このメンバーなら馬車を使う必要もないだろ。帰りはゲートも使えるし走っていくぞ。
 疲れてもリカバーがあるから何の心配も要らない。日没前に到達するからそのつもりでな」


 その宣言に声なき悲鳴が上がった気がしたが、トーマは全く気にせず走り出した。
 まぁまぁのペ-スだけど、114階層到達者にはそこまでキツいペースでもないな。

 ルルとアンジェの2名が遅れる度に、トーマが笑顔でリカバーを使ってるのが微妙に怖ぇけど。


「着いたぞー。大した距離でもなかったろ? 目的地はこの上だ。とっとと行くぞー」


 目の前に突如現れた階段の意味が分からないんだが……?
 これってトーマが自分で整備したってことか? どんだけの手間をかけてんだよ?

 紹介しただけで休憩も取らずに登っていくトーマ。
 俺だって体力にはまだ余裕があるが、トーマはそもそも体力消費してるように見えねぇんだけど。

 ……っつうか、なんだこれ?
 一定距離には休憩スペースもあるし、トイレまで設置してやがる。

 秘密の迷宮作りでも一端に触れたが、トーマのクラフトスキルって強力すぎねぇ?


「タケル。迷宮のほうはどうよ? 問題なさそう?」

「ん、ああ問題ないぜ。まだまだ浅い迷宮だからな。危険を伴うのはまだまだ後だろ」

「そうなんだよなぁ。出来ればエリアキーパーの前哨戦として、カラードラゴンが群れで襲ってくるようになるか、カラードラゴンよりも強い魔物が出るところまで育てたいところではあるんだよな。
 流石にエリアキーパークラスが出てくるまで育てんのは無理だけどさ」

「そんな迷宮トーマ以外に踏破出来る奴いねぇっての。
 ちなみにここって何段くらいあるんだ?」

「ああ、8000段ちょいって言ってたぜ。頂上は雲の上だからまだ先は長いんだけどな。
 このメンバーなら日没前までに到着余裕だろ」


 頂上は雲の上なのかよ。確かに下からは確認できなかったけど。


 7000段を過ぎたところで小休止。トイレと食事タイムだ。
 疲労自体はリカバーで全部吹っ飛ばされてしまっているので、食事が終われば即出発だ。

 アンジェとルルの2人がかなり不満そうな顔をしているが、トーマに口答えをすることは決してなかった。

 なんなんだこいつら?
 トーマの方はまったく気にしてないみたいなんだけどな。


「さて、もうすぐ拝めるぜ。
 リンカーズ最強の存在、エリアキーパーのご尊顔をな」


 トーマはそんなことを言いながら、ここに来て登山ペースを一気に落とした。
 それはまるで俺たちが心の準備をする為の時間のようだと思えた。

 メンバー全員に緊張感が漂う。
 ただ1人、トーマを除いて。


「お、頂上が見えてきたな。
 頂上はまぁまぁ広くしたから全員が乗れるぜ」


 トーマ、お前絶対現地ガイド気取ってんだろ?
 お前はこういう時、絶対1人で遊び出すことは分かってんだよ。

 そんなくだらない考えは、頂上からの景色を見た瞬間に吹っ飛ばされた。


「さぁ全員よく見ておけよ。
 あれが山岳エリアのエリアキーパー、グラメダワルケアの寝顔だ」


 雲の上まで登ってきたっていうのに、それを遥かに超える大きさの巨人……。

 エリアキーパーがどれ程常識外れの存在であるか、何度も耳にしてきたけれど、これは……。

 これは常識外れなんて言っていい存在なのか……?
 こんなの、反則じゃねぇのかよ……?


「あれでもまだ眠ってる状態だからな? 『遠見』は絶対使うなよ。気付かれたらここまで一瞬で来るぞ」


 整った寝顔はある種の美しささえ感じられる。
 だがあの目が見開いて、俺達を敵として認識したら……。
 
 俺の体は、俺の意思に反して震え出した。


「さてアラタ、如何かな? あれがお前が倒さなきゃいけないエリアキーパーって存在だ。
 ま、登山道を整備した身としちゃあ、別のエリアキーパーを狙って欲しいところだけどな」

「――――冗談、だろっ!? あんな存在、どうやって倒せって言うんだよ!?
 あんなの、あんなの人が相手していい存在じゃないだろうがっ!!」


 アラタがトーマに食って掛かる。

 ……正直アラタの気持ちは理解できる。
 俺だってあんなのを倒さなきゃいけねえ状況になったら、冷静でいられる自信はない……。

 だけど。


「人間の相手していい存在じゃないってぇ?
 そんじゃ今回連れて来た馬鹿4名に改めて言ってやるか。
 お前らと敵対した相手は、あいつと同格の存在を3体殺した相手なんだぜ?」


 そう、トーマは既にエリアキーパーが人の手で倒せることを証明済みなんだ。

 トーマに敵対したこいつらが、エリアキーパーと戦えないなんて甘えは、許されるはずがない。
 エリアキーパーを殺したトーマと、彼らは戦ったのだから。


「大丈夫だ。エリアキーパーなんて、お前らが喧嘩を吹っ掛けてきた俺程度に3体も殺されてるような雑魚だよ。お前らに挑めない道理なんて何処にも無い。
 どうやって倒せ? そんなの自分で考えろよ。実際に倒した人間がいるんだから、可能な事は証明済みだろ?
 ソリスタ。こいつらと関係を持つってのはあんな化け物と敵対しなきゃいけないってことだ。覚悟は出来てるか?」

「――――く!
 確かに覚悟が足りなかったのは認める! だがここまで来て背を向けられるものかよっ!!」

「……即答か。やっぱお前はすげぇな。今さら誰に喧嘩売ったか気付いて震えてる馬鹿共とは大違いだ。
 まぁ頑張れよ。実際にエリアキーパーを倒せれば、お前らは罪人から英雄になれる。それでもお前らのしでかしたことがなくなる事はないだろうが、周囲の評価くらいは変わるだろ」


 ……トーマはこの4人をどうしたいのか、いまいちよく分からない。
 絶望させたいのか、それとも成長させたいのか。

 トーマのことだから、どっちに転んでも良いと思っているのかもしれないが。


「アラタのタイムリミットって見れないんだろ? じゃあお前らはもっと焦らなきゃダメだろ。
 主戦力であるアラタがこんなヘタレなんだぜ? そんなアラタに巻き込まれて、自分たちも死ななきゃならなくなるんだぞ?
 全員がもっと死に物狂いになるんだな。ボールクローグでランドビカミウリと戦った時なんか突発エンカウントだったんだ。こうして相手の情報が知れて充分に準備が出来るだけ、お前らは圧倒的に恵まれてんだよ」


 エリアキーパーを倒さなければいけない彼らのことすら、生温いと切り捨てることが出来る生活を送ってきたトーマ。
 トーマの強さの秘密の一端に触れたような気がした。

 トーマの言葉に誰も返事を返すこともできず、ただグラメダワルケアの横顔を見詰め続けるのだった。
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