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11章 新たな都市の建設

451 フィールダー

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 まさかの1発ツモか。幸先良すぎ。
 いや、やっぱりふわわとつらら、そしてガルムを連れて来たおかげかな。

 『遠目』で見ている感じ、こちらを警戒した様子はない。
 全身は薄い紫っぽい色をしていて、首の鬣だけが白くて鮮やかな印象を受ける。
 頭の2本の角は短く、カモシカを彷彿とさせるな。でも全体の見た目は完全に馬だ。


「リーネ。恐らくフィールダーを発見したよ。この3人のおかげだね」
 
「ほ、ほんとっ……!? やっぱりみんなすごいねっ」

「さてここからどうしようか? 普通に声かけて大丈夫かな? 動物って俺達の言葉理解できてる場合が多いし」

「う~ん……。いきなり姿も見えない相手から声をかけられたらびっくりしないかな……?
 仮に逃げられてもガルムなら追いかけられるとは思うけど。出来ればびっくりさせたくないよ……」


 確かにリーネの言う通り、姿の見えない相手から声をかけられたらビビるだろうな。
 かと言って近付いても平気かどうかはちょっと分からない、と。

 ん~、悩んでも仕方ないかな?


「ガルム。出来るだけ相手を刺激しないくらいの速さで近付いてくれる? 難しい注文でごめん。
 ふわわとつららも、声をかけられそうだったら声かけてあげてくれ」


 ガルムは1度俺の顔を見た後、ゆっくりと歩き出した。


「ねっ、ねっ、トーマ! フィールダーってどんな姿なのか教えて……?」

「んーと、4本足で歩いてて、全身引き締まってる感じだな。紫っぽい色をしているけど、首の後ろに生えた鬣は真っ白だよ。首はすらりと長く伸びていて、頭の上には短い2本の角が生えてるね。体毛はそんなに長くないかなぁ」

「へ~! へ~! 早く見たいなぁ~……!」


 リーネはワクワクが抑えきれないといった様子で、両足をパタパタと動かしている。
 今日も俺の嫁は可愛いなぁ。

 リーネは最年長なんだけど、最年少みたいなリアクションするから可愛いわ。


 暫くガルムが歩いて近付いていると、相手が草を食べるのを止めて俺達がやってくるほうをしきりに見るようになった。
 すげぇな。まだ俺の目じゃスキルなしには影すら見えないってのに、この距離で俺達を認識してんのか。


「逃げられたら追いかけて欲しいけど、とりあえずは今の速度維持で頼むよ。
 ふわわ、つらら。他に何かいい案があったら、俺に噛み付くなり引っかくなりして教えてくれ」


 リーネの膝の上の2匹からも特にリアクションが無いので、まずはノープランでこのまま接近、接触を試みてみよう。

 ずっと『遠目』を使って観察しているけど、警戒はしているけれど逃げそうな感じはしないなぁ。引け越しにもなってないし。


「わぁ……。あれがフィールダー……?」


 結局肉眼で姿が確認できる距離になっても、相手が逃げる事はなかった。
 俺達人間相手にも、大型肉食獣であるガルムが近付いてきても、興味以上の視線を投げかけてくる感じじゃないな。

 なんで今まで目撃情報が少なかったんだろう?

 そのまま普通に接近して、会話が出来るくらいの距離まで近付いて馬車を降りる。


「初めまして。俺はトーマだ。隣いいかな?」


 声をかけながら歩み寄っても、特に逃げる素振りも見せない。


「あ、トーマずるいっ……!
 えと、こんにちはっ……。私はリーネって言うの、よろしくね……?」


 俺に続いてリーネと2匹もやってくる。


「えっと、体を撫でてもいいかな? もし嫌だったら避けてくれていいから」


 一言断ってから手を伸ばす。
 その手は空を切ることなく、無事に相手の体に触れることが出来た。

 う~ん。なんとも気持ち良い手触り。
 なんだろう? 絹を触ってるみたいだ。

 でもその下は筋肉質でがっちりしてるな。


「凄い……。なんだかつやつやっとした触り心地だね……。触ってて気持ちいい……」


 俺の隣りでリーネも肌を撫でているが、気にもせずに草を食べ始めた。

 うーん、馬っぽいなぁ。でもちょっと小柄かも? 競走馬とか時代劇とかでしか、馬見たことないけどさ。


「う~ん。普通に触れているし、幻の魔物って感じは全然しないな。
 触らせてくれてありがとう。果物とか野菜とか食ってみる?」


 ストレージには前もって、焼いた肉と野菜、果物をある程度持ってきている。
 ウミガメさんが草食だったからな。

 フィールダーは差し出された野菜や果物を興味深そうに見た後、熱心に匂いをかいでから齧りついた。

 欠片も残さず食べてしまったので、どうやら気に入ってくれたらしい。

 野菜と果物では、意外な事に野菜のほうが好みみたいかな。あまり味が濃いモノは良くないんだろうか。


 追加の野菜を出してやると、もはや逃げる気など全くなくなって、膝を折りたたんで地面に座り込んで野菜を齧っている。


「かわいいねぇ……。私たちを襲ってくる気も全然ないみたいだし、やっぱり魔物とは思えないかなぁ……?」

「それにしても、こんなに人懐っこいなのに、なんで幻の魔物扱いなんだろうな? 狩人が近付いてきた場合はすぐに逃げちゃってたんだろ? 俺達との違いってなんだろう?」

「う~ん……。あれじゃない? 狩人ってこの子を魔物としてしか見れないから、敵意とか危険をを察知して逃げちゃってたんじゃないかなぁ……。
 私達は始めからお話しするのが目的で近付いてたけど、普通の狩人は狩ることが目的だからね……」


 なるほどね。敵意の有無か。
 敵意を感知できるなら、逃走の判断を間違えることもないもんな。


「なぁ。食べ物はまだあるんだけど、家族とか仲間が近くにいるなら呼んできてくれないかな? 一緒に食べようぜ」


 自分で言っててなんだけど、これって完全に誘拐犯の語り口だよな。

 俺の言葉を聞いたフィールダーは、立ち上がってどこかに駆けていった。
 速いな。かなり速い。スキル取得前のペルよりも早かったかも。

 そのままリーネにくっついたまま待っていると、先ほどの個体を含めた14頭のフィールダーが、俺達の前に姿を現したのだった。
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