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10章 壁外世界
閑話033 暗躍 ※アンジェ視点
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王国中をゲートで飛び回って色々な話を聞いて回る。
そもそも異風の旋律が活動していない場所では、異風の旋律の名前すら知らない人が多いみたい。
単純に、立ち寄ったことがないから支援していない? いいえそんなはずはない。彼らは王国中の至る所で様々な活動を行っている。独立支援、都市間移動馬車、これらを行っている都市全てに実際に訪れたことがあるとは、少し考えにくいと思う。
それにしても金板3枚ものゲート利用料を、こうも気兼ねなく使えるようになるとはね。
お金を稼いでくれるアラタと、スキップオーブを普及させてくれた異風の旋律には感謝しないとね。
標的にはしてるけど、別に彼らに個人的な恨みがあるわけじゃないし。むしろ感謝していることが多いくらいだ。
他の都市では感じなかった違和感を、ミルズレンダで抱く。
他の場所の住民は、異風の旋律の名前に全く反応を示さなかったのだけど、ミルズレンダで異風の旋律の名前を出すと、多くの住人が話題を変えたがった。
ふぅん。ここは他の都市と違って、異風の旋律が実際に訪れた上で支援をしていない都市ってことになるのか。これは調査が必要ねぇ。
ミルズレンダに何度か足を運んでいると、街中に少しずつ変なところがあることに気付く。
職人の工房が閉鎖されている場所が何箇所かあるが、そのいずれもがあまり時間が経っていないように見える。
まるで最近同時期に、大量の職人が居なくなってしまったかのように。
そして取引できない物件が何件もある事に気付いた。
全く使われている形跡のない建物のことが気になって商工ギルドに問い合わせると、その物件は取引できないの一点張りで、詳しい話を聞くことも出来ない。
これは……、かなり怪しいんじゃないかしら。
各地で異風の旋律の活動を確認してみると、彼らはまず最初に大量の物件を用意して、救貧院のキャパシティを遥かに超えてしまっていた貧困者を受け入れる場所を作る傾向がある気がする。
もしも彼らが実際にミルズレンダを訪れていたとしたら、大量の物件を購入しようとしたはず。
そこまで考えて思い当たった。そうだ、救貧院に行ってみないとダメじゃない!
彼らは多くの街で、救貧院に多額の寄付をしていたわ。ボールクローグでもそうだったじゃない。
彼らが実際に訪れた場所なら、必ず救貧院に寄付をしに訪れたはず……!
ミルズレンダの救貧院に赴き、私も寄付金を奮発して話を聞いてみると、とても面白い話が聞けた。
異風の旋律はやはりミルズレンダを訪れていて、ここでも活動を開始しようとしていた。
しかし職人都市ミルズレンダで職人連中を敵に回してしまい、活動を断念した、と。
救貧院の職員はそれ以上の事は知らないようだったけど、異風の旋律が今も普通に活動していて、ミルズレンダでその名がタブー視されている理由は1つでしょう。
異風の旋律はミルズレンダを敵に回し、正面から打ち倒してしまった。新しく見えるのに潰れた工房が多かったのは、恐らくトラブルのときに、多くの職人が失われてしまったから……。
少しこじつけが過ぎるかもしれないけれど、大筋は外していないと思う。
重要なのは、ミルズレンダの住人の多くは、異風の旋律に対して敵愾心を持っているだろうということ。
これはこれは、利用しないわけには行かないわねぇ?
「あはははは! 最近アンジェ、凄い楽しそうにしてるねぇ? 何か面白いこと考え付いたの?」
「そういうアラタこそ、随分楽しそうにしてるじゃないの。何かいいことがあったんでしょ?」
ボールクローグの冒険者ギルドでアラタと雑談中。
戦闘力はアラタに任せっきりではあるけど、私がスキルを取得しないことで足手纏いになるわけにはいかない。
それにアラタはあまり長生きできない。20歳を迎えられるかどうかも確実じゃないんだ。
アラタが居るうちに、私自身も少しでも戦えるようになっておかないと先がない。
「あっはっは! さっすがアンジェにはお見通しかぁ!
いやぁ実は武器を更新したんだよ! すっごい高かったんだけどさ! その分凄い性能でね! もうシルバーライトには戻れないよ!」
「へぇ? シルバーライトの武器って最高級品なんじゃなかったっけ? それ以上の武器なんて、よく手に入ったわねぇ」
「へっへっへー! グリーンドラゴンって魔物の素材で出来た武器でね、魔力の伝達効率がすっごくいいんだよ!
魔物を殲滅するペースが明らかにあがっちゃって、めっちゃ快適なのさ!」
こんなに上機嫌のアラタは久しぶり……、でもないわね。
スキップオーブが出回った時も凄く嬉しそうにしてたっけ。
ふふ。異風の旋律には感謝しかしようがないのに、私はいったいなにをしてるのかしらねぇ。
異風の旋律に感謝の念を抱くほどに、彼らを屈服させてみたくなって仕方ないわ……!
その時冒険者ギルドが騒がしくなる。
周囲の冒険者達の話を聞いてみると、どうやら異風の旋律のリーダーがボールクローグに顔を出したみたいだ。
「へぇ。異風の旋律のリーダーだってさ。どうする? 見に行ってみるかい? アンジェ」
「そう、ね。別に現時点では全く敵対してないし、1度姿を見ておいた方が相手をイメージしやすそうね。行ってみましょうか」
異風の旋律はボールクローグでは英雄扱いされている。
だからどこにいるのか、人の流れを見ればすぐに判断が付く。
実際に話しかける人こそ居ないけど、英雄を一目見よう、英雄とお近づきになりたいと考える冒険者は少なくない。
そして黒髪の冒険者を見つけた。彼に違いない。
思ったよりも年齢は高そう。容姿はそこまで良くはないかな?
でも全体的に均整が取れていて、戦う体をしているのがここからでも分かる。
この男が異風の旋律のリーダー……!
この男が私の敵なのね……!
「きゃっ!?」
その時後ろの冒険者にぶつかられて、地面に突っ伏してしまう。
完全に前に集中していたから、まったく反応できなかったじゃないの!
って、あれ?
急いで立ち上がろうとしたのに、アラタに服を踏まれてしまって立ち上げれない?
アラタを見ると、笑顔で手を振っている。恐らく異風の旋律のリーダーに向けて。
アラタは意味のない事をする人じゃない。
私の服を踏みつけているのも、あの男の気を引いているのもわざとなのだろう。
ならば私は邪魔しないよう、アラタから何かを言われるまでは、このまま動かないほうが良いはず。
「ごめんねアンジェ。ちょっと説明する余裕がなくてさ」
男が間違いなく去った後、宿まで戻ってからアラタに話を聞く。
「いやぁアレはヤバイね。まだまだ僕じゃ勝てそうもないよ。
あの人、あの距離からアンジェの視線に気付いたみたいだよ? そして手を振っている僕が視線の主でないこともわかっていたみたい。
恐らく地面に蹲ってたアンジェには気付かなかったと思うけど」
数十メートルは離れていた人ごみに紛れていたっていうのに、私1人の視線に気付いたっていうの……?
じゃああの時私が地面に倒されたのって……。
「うん。恐らくアンジェの能力が発動したんだと思うよ。今認識されたら、警戒されて手も足も出なくなりかねないもん」
「……そっか。アラタごめん。はっきり言って舐めてた。異邦人って結局日本人のことだし、そこまでの相手だと思ってなかったよ。
うん。今日見に行って良かった。さっきまでの私じゃ、あの人を上回ることは出来なかったと思う」
「僕は舐めているつもりはなかったんだけどなぁ……。単純に、僕の想像以上の人物だったってことかぁ。
間もなくここの迷宮は踏破出来そうなんだけど、その程度じゃあの人には勝てそうもないね。まだまだ鍛えないと」
アラタと違って、私は元々正面から戦うつもりなんて全くなかったけれど、圧倒的な戦力差の前には、奇策も奇襲も意味を成さないからね。
王国の調査を進めつつも、私自身も更に強くならないといけないわ……!
「凄いよアンジェ! この『精神安定』ってスキル、色んなスキルの前提条件になってるみたいだ!」
またしても異風の旋律は新しい情報の開示を行ってきた。
私はまだ取得していないけれど、アラタが言うにはかなり重要なスキルらしい。
そんな情報を開示しても、自分達の優位性は揺らがないと信じているのか。
それとも、本当に王国民を強くするためだけを考えて情報を開示したのか。
私にはまだまだ推し量ることすら出来ていない。それほどの実力差……。
自分の無力を思い知るのが戦う前で良かったわ。
まだ私達は敗北を喫したわけじゃないもの。
今回の邂逅は私達の不戦敗みたいなものだったけど、実際に戦う前ならいくらでも取り返しがつくわ。
気合を入れなさい私。
アレは今まで私が屈服させてきた、どんな相手よりも強大な存在なのよ。
簡単にどうにか出来るなんて自惚れは捨てなきゃ勝てないわ。
ふふ。だからこそ、勝利の価値は高まるというものなのだけど、ね。
そもそも異風の旋律が活動していない場所では、異風の旋律の名前すら知らない人が多いみたい。
単純に、立ち寄ったことがないから支援していない? いいえそんなはずはない。彼らは王国中の至る所で様々な活動を行っている。独立支援、都市間移動馬車、これらを行っている都市全てに実際に訪れたことがあるとは、少し考えにくいと思う。
それにしても金板3枚ものゲート利用料を、こうも気兼ねなく使えるようになるとはね。
お金を稼いでくれるアラタと、スキップオーブを普及させてくれた異風の旋律には感謝しないとね。
標的にはしてるけど、別に彼らに個人的な恨みがあるわけじゃないし。むしろ感謝していることが多いくらいだ。
他の都市では感じなかった違和感を、ミルズレンダで抱く。
他の場所の住民は、異風の旋律の名前に全く反応を示さなかったのだけど、ミルズレンダで異風の旋律の名前を出すと、多くの住人が話題を変えたがった。
ふぅん。ここは他の都市と違って、異風の旋律が実際に訪れた上で支援をしていない都市ってことになるのか。これは調査が必要ねぇ。
ミルズレンダに何度か足を運んでいると、街中に少しずつ変なところがあることに気付く。
職人の工房が閉鎖されている場所が何箇所かあるが、そのいずれもがあまり時間が経っていないように見える。
まるで最近同時期に、大量の職人が居なくなってしまったかのように。
そして取引できない物件が何件もある事に気付いた。
全く使われている形跡のない建物のことが気になって商工ギルドに問い合わせると、その物件は取引できないの一点張りで、詳しい話を聞くことも出来ない。
これは……、かなり怪しいんじゃないかしら。
各地で異風の旋律の活動を確認してみると、彼らはまず最初に大量の物件を用意して、救貧院のキャパシティを遥かに超えてしまっていた貧困者を受け入れる場所を作る傾向がある気がする。
もしも彼らが実際にミルズレンダを訪れていたとしたら、大量の物件を購入しようとしたはず。
そこまで考えて思い当たった。そうだ、救貧院に行ってみないとダメじゃない!
彼らは多くの街で、救貧院に多額の寄付をしていたわ。ボールクローグでもそうだったじゃない。
彼らが実際に訪れた場所なら、必ず救貧院に寄付をしに訪れたはず……!
ミルズレンダの救貧院に赴き、私も寄付金を奮発して話を聞いてみると、とても面白い話が聞けた。
異風の旋律はやはりミルズレンダを訪れていて、ここでも活動を開始しようとしていた。
しかし職人都市ミルズレンダで職人連中を敵に回してしまい、活動を断念した、と。
救貧院の職員はそれ以上の事は知らないようだったけど、異風の旋律が今も普通に活動していて、ミルズレンダでその名がタブー視されている理由は1つでしょう。
異風の旋律はミルズレンダを敵に回し、正面から打ち倒してしまった。新しく見えるのに潰れた工房が多かったのは、恐らくトラブルのときに、多くの職人が失われてしまったから……。
少しこじつけが過ぎるかもしれないけれど、大筋は外していないと思う。
重要なのは、ミルズレンダの住人の多くは、異風の旋律に対して敵愾心を持っているだろうということ。
これはこれは、利用しないわけには行かないわねぇ?
「あはははは! 最近アンジェ、凄い楽しそうにしてるねぇ? 何か面白いこと考え付いたの?」
「そういうアラタこそ、随分楽しそうにしてるじゃないの。何かいいことがあったんでしょ?」
ボールクローグの冒険者ギルドでアラタと雑談中。
戦闘力はアラタに任せっきりではあるけど、私がスキルを取得しないことで足手纏いになるわけにはいかない。
それにアラタはあまり長生きできない。20歳を迎えられるかどうかも確実じゃないんだ。
アラタが居るうちに、私自身も少しでも戦えるようになっておかないと先がない。
「あっはっは! さっすがアンジェにはお見通しかぁ!
いやぁ実は武器を更新したんだよ! すっごい高かったんだけどさ! その分凄い性能でね! もうシルバーライトには戻れないよ!」
「へぇ? シルバーライトの武器って最高級品なんじゃなかったっけ? それ以上の武器なんて、よく手に入ったわねぇ」
「へっへっへー! グリーンドラゴンって魔物の素材で出来た武器でね、魔力の伝達効率がすっごくいいんだよ!
魔物を殲滅するペースが明らかにあがっちゃって、めっちゃ快適なのさ!」
こんなに上機嫌のアラタは久しぶり……、でもないわね。
スキップオーブが出回った時も凄く嬉しそうにしてたっけ。
ふふ。異風の旋律には感謝しかしようがないのに、私はいったいなにをしてるのかしらねぇ。
異風の旋律に感謝の念を抱くほどに、彼らを屈服させてみたくなって仕方ないわ……!
その時冒険者ギルドが騒がしくなる。
周囲の冒険者達の話を聞いてみると、どうやら異風の旋律のリーダーがボールクローグに顔を出したみたいだ。
「へぇ。異風の旋律のリーダーだってさ。どうする? 見に行ってみるかい? アンジェ」
「そう、ね。別に現時点では全く敵対してないし、1度姿を見ておいた方が相手をイメージしやすそうね。行ってみましょうか」
異風の旋律はボールクローグでは英雄扱いされている。
だからどこにいるのか、人の流れを見ればすぐに判断が付く。
実際に話しかける人こそ居ないけど、英雄を一目見よう、英雄とお近づきになりたいと考える冒険者は少なくない。
そして黒髪の冒険者を見つけた。彼に違いない。
思ったよりも年齢は高そう。容姿はそこまで良くはないかな?
でも全体的に均整が取れていて、戦う体をしているのがここからでも分かる。
この男が異風の旋律のリーダー……!
この男が私の敵なのね……!
「きゃっ!?」
その時後ろの冒険者にぶつかられて、地面に突っ伏してしまう。
完全に前に集中していたから、まったく反応できなかったじゃないの!
って、あれ?
急いで立ち上がろうとしたのに、アラタに服を踏まれてしまって立ち上げれない?
アラタを見ると、笑顔で手を振っている。恐らく異風の旋律のリーダーに向けて。
アラタは意味のない事をする人じゃない。
私の服を踏みつけているのも、あの男の気を引いているのもわざとなのだろう。
ならば私は邪魔しないよう、アラタから何かを言われるまでは、このまま動かないほうが良いはず。
「ごめんねアンジェ。ちょっと説明する余裕がなくてさ」
男が間違いなく去った後、宿まで戻ってからアラタに話を聞く。
「いやぁアレはヤバイね。まだまだ僕じゃ勝てそうもないよ。
あの人、あの距離からアンジェの視線に気付いたみたいだよ? そして手を振っている僕が視線の主でないこともわかっていたみたい。
恐らく地面に蹲ってたアンジェには気付かなかったと思うけど」
数十メートルは離れていた人ごみに紛れていたっていうのに、私1人の視線に気付いたっていうの……?
じゃああの時私が地面に倒されたのって……。
「うん。恐らくアンジェの能力が発動したんだと思うよ。今認識されたら、警戒されて手も足も出なくなりかねないもん」
「……そっか。アラタごめん。はっきり言って舐めてた。異邦人って結局日本人のことだし、そこまでの相手だと思ってなかったよ。
うん。今日見に行って良かった。さっきまでの私じゃ、あの人を上回ることは出来なかったと思う」
「僕は舐めているつもりはなかったんだけどなぁ……。単純に、僕の想像以上の人物だったってことかぁ。
間もなくここの迷宮は踏破出来そうなんだけど、その程度じゃあの人には勝てそうもないね。まだまだ鍛えないと」
アラタと違って、私は元々正面から戦うつもりなんて全くなかったけれど、圧倒的な戦力差の前には、奇策も奇襲も意味を成さないからね。
王国の調査を進めつつも、私自身も更に強くならないといけないわ……!
「凄いよアンジェ! この『精神安定』ってスキル、色んなスキルの前提条件になってるみたいだ!」
またしても異風の旋律は新しい情報の開示を行ってきた。
私はまだ取得していないけれど、アラタが言うにはかなり重要なスキルらしい。
そんな情報を開示しても、自分達の優位性は揺らがないと信じているのか。
それとも、本当に王国民を強くするためだけを考えて情報を開示したのか。
私にはまだまだ推し量ることすら出来ていない。それほどの実力差……。
自分の無力を思い知るのが戦う前で良かったわ。
まだ私達は敗北を喫したわけじゃないもの。
今回の邂逅は私達の不戦敗みたいなものだったけど、実際に戦う前ならいくらでも取り返しがつくわ。
気合を入れなさい私。
アレは今まで私が屈服させてきた、どんな相手よりも強大な存在なのよ。
簡単にどうにか出来るなんて自惚れは捨てなきゃ勝てないわ。
ふふ。だからこそ、勝利の価値は高まるというものなのだけど、ね。
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第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い
第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚
第4章(全17話)ダンジョン探索
第5章(執筆中)公的ギルド?
※第3章以降は少し内容が過激になってきます。
上記はあくまで予定です。
カクヨムでも投稿しています。
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