上 下
406 / 580
10章 壁外世界

367 ディオーヌ様との交渉

しおりを挟む
 目が覚める。一緒に寝ているみんなの左手の薬指を見て、改めてにやけてしまう。
 今までだってずっと嫁のつもりだったけど、こうして目に見える形になっていると実感が違うもんだなぁ。
 それと改めて俺の口からプロポーズ出来て良かった。出来レースも良いところだけれど、俺の口からみんなに想いを告げられたのは嬉しくて仕方がない。


 シンと2人で迷宮に向かう。
 シンの指輪にはスキップが付加されていて、ゲートとスキップの魔法効果は昨晩検証済みだが、88階層に行くのは初めてなのだ。今回は俺がスキップを使用する。


「トーマ。ありがとう。この指輪、凄く良いと思うよ。
 ハルと一緒の指輪をつけてるって思ったら、嬉しくて堪らないんだ」

「わかるわー。俺も今朝起きたらニヤニヤしっぱなしでさ。ああ、俺たち夫婦なんだなって思ったよ。
 因みに純粋な好奇心で聞くけど、シンはハル以外の女性を嫁に迎える気ってないのか?」

「あー、可能であれば複数の女性を囲いたいって男は多いけど、僕はあまりそういうこと考えたことがないんだ。
 ずっとリーンを幸せにしようって思って生きてきてさ、周りを見る余裕がなかったんだよね。
 僕はきっと1人の女性しか目に入れられない性分なんだと思うよ」

「なるほどね。じゃあお互い頑張ってエリアキーパーぶっ倒して、昨日の話とおりに結婚式を挙げようぜ。
 ま、俺もあんま詳しくないけど、異邦人組の3人が張り切って考えてくれると思うからさ」


 なんか死亡フラグっぽいこと言っちゃったけど、フラグなんて実力でへし折ってやれば良いだけだ。
 

 リーネが1人でウィルスレイアとベイクを行き来出来る様になったので、俺が送り迎えをする必要がなくなった。凄く負担が軽減されるんだけど、ちょっとだけ寂しいと思うのは我侭かな。


「ホムロー。依頼したいんだけど大丈夫?
 物は持ってきたから、任意吸引型でリピートの術式付与を頼みたいんだ。数は70。納期は決めないけど、30個は早めに欲しい。1日何個できる?」

「テメェ久しぶりに顔出したと思ったら、めちゃくちゃ言うじゃねぇか。
 1日貰えば30個は約束してやる。70個納品には3日もらいてぇかな」

「それで頼んだよ。報酬は白金貨7枚くらいでいい?」

「テメェ馬鹿じゃねぇのか? 相場なら……、金板9枚くらいだと思うぜ。いくらなんでも払いすぎだろ」

「それがさぁ。付加するのがちょっとヤバいシロモノでさ。ホムロも覚悟しとけよ? 多分冒険者達、一気にシルバーライトまで買えるようになっちゃうから」

「あー……。笑い飛ばしてやりてぇところだが、トーマの言う事だからなぁ……。分かった、覚悟しといてやらぁ。
 テメェんところのカンパニーのおかげで、めちゃくちゃ儲けさせてもらってっからな。これ以上の儲け話があるってんなら乗らねぇ手はねぇってもんよ」


 ストレージから水晶じゃない水晶玉を70個を取り出して、報酬も前払いする。今さら後払いするような仲でもない。

 ヴェルトーガに向かい、冒険者ギルドでピリカトさんに、タイデリア家への連絡をお願いする。
 1回探索行ってくるので、戻ってきたら対応してほしいと。

 18階層なんて誰もいないので、音魔法で釣りまくって虐殺する。迷宮内ならスナネコみたいな生物も居ないし、本当に誰にも迷惑はかからないはずだ。
 開放型迷宮はめちゃくちゃ広いので、魔物が枯渇する心配もあまりない。


 探索から戻ってくるとスカーさんが待っていて、ディオーヌ様の屋敷に直行する。
 今回はディオーヌ様のご機嫌取りにシンにも同行してもらった。


「トーマさん。また何か大きい案件を持ってきたと聞きましたけど?
 複数術式付与と空間魔法付加だけでは足りなかったのですか?
 シンくん相変わらず素敵ですね。とても良い眼の保養になりますわ」

「シンが素敵なのは同意しますよ。それで、まさに空間魔法付加の延長線上の話なんです。
 実は、ゲートとスキップの魔導具が作れました。それで」

「――――なんですってっ!? 今の言葉、もう1度言ってみなさい!」


 ディオーヌ様が声を荒げるなんて、アリスの事象復元の時以来じゃないかな。それほどまでに、空間魔法の魔導具の存在は、ヴェルトーガへの影響が大きいのだろう。


「はい。ゲートとスキップの魔導具の製作に成功しました。が、まだどこにも伝えていません。
 まずはヴェルトーガの領主である、ディオーヌ様に報告するのが筋だと思いましたので」

「本当、なのですね……。
 はぁ……。トーマさんと知り合ってから、本当に気が休まる暇もありませんわ……。
 それでも、まずは私に報告してくれたことには感謝致します」

「はい。空間魔法の出やすいというヴェルトーガでは、空間魔法の魔導具の影響は1番大きいかと思いましたので。
 ですが、どうかスキップの魔導具の普及を認めていただきたいと思いまして、今日は訪問させていただきました」

「ええ。そこまで理解した状態で、なお普及を求める理由を述べなさい」

「単純な話なんですけど、スキップのあるなしで、冒険者の成長速度が違いすぎるんですよ。俺たちがその良い例です。
 ベイクの迷宮では20階層に行くまででも、相当な移動時間が必要でした。ディオーヌ様にスキップを頂いていなかったら、俺たちはまだ50階層にも到達出来ていなかったかも知れません。
 これからの冒険者の育成に、スキップの魔導具は必要不可欠だと思うんです。現状、俺しか作れませんから、量の調整は簡単ですし」

「量の調整、ですか? トーマさんのことですから、また安価でばら撒くものかと思っていましたけど」

「それは将来、新しい職人たちが育った時に行えばいいんですよ。
 俺が想定しているのは、ギルドか領主が魔導具を管理し、迷宮入り口で冒険者を送るか、ギルドで魔導具を貸し出す形にするかですね。
 ディオーヌ様もご存知とは思いますが、空間魔法の消費魔力はかなりの量です。安易にばら撒くと、魔力切れを起こした冒険者が危険に晒されますから。
 冒険者ギルドで管理すれば、身分証と紐付けて管理しやすいかなと」

「現在想定している流通量は?」

「はい。ヴェルトーガに30。ボールクローグとウィルスレイアとネヴァルドとベイクに10個を予定しています」

「……その10倍用意しなさい。そうね、全部で1000個用意すること。たった70個では、冒険者の育成には全く足りません。納期は決めませんから、スキップの魔導具は1000個用意すること。それともう1つ」


 すげぇなマジで。ヴェルトーガのアドバンテージを1つ失う覚悟で、冒険者全体の育成を優先するか。
 もう1つの条件くらい喜んで引き受けるべきだろうな。


「トーマさんはユリバファルゴアの討伐を目指しておりますよね? ユリバファルゴアの討伐が終わった後で構いません。このヴェルトーガの西に巣食うエリアキーパー、深遠の邪眼ザルトワシルドア。どうか討伐していただけませんか? 魔導具の流通は先んじてもらって構いませんので」


 前言撤回。核爆弾級の依頼を持ってきやがった……!
 ユリバファルゴアを倒せれば理論上は倒せるんだろうけど、戦場が海ってのが厄介すぎる。

 でも断れないよなぁ。
 この世界でディオーヌ様よりお世話になってる人って、多分居ないし……。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

処理中です...