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9章 異邦人が生きるために
347 魔物の生態
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「興奮して済まない。年甲斐もなくはしゃいでしまったよ。失礼した」
院長は咳払いをして格好を正した。
「確かにトーマさんの言うとおり、アサルトドラゴンでもデューンサラマンダーでも、エリアキーパーの居る場所まで行くのは難しいだろうな。
迷宮研究院で研究しているのは、その名の通り迷宮で出現する魔物が殆どだからね。迷宮と外では魔物の生態も変わることがあるから、下手な事を言うわけにもいかん。
現地の狩猟ギルド員ですら心当たりがないのだとしたら、自分で見つけて捕らえるしかない。しかし砂漠地帯の魔物は待ち伏せ型が多くて調査も捗らない、か。
改めて整理してみると、中々の難題を持ち込んでくれたようだ」
難題か。ここでも難しいなら、後は手探りでやるしかない。
それにしても、迷宮と外では同じ魔物でも行動パターンが変化するんだな。
マッドスライム先生も、外で出るならもうちょっと強い魔物なんだろうか?
「魔物に心当たりがないなら、調査や捕獲を効率的に行う方法は何かないですかね?
ボールクローグの大森林地帯では、魔物は山にように襲ってきたんですけどね。砂漠地帯の魔物は遭遇するところから難しくて、魔物の捜索をするのから時間がかかって効率が悪いんです」
「ふむ。確かに砂漠の魔物はかなり特殊だとは思う。魔物というのは何故だか人に対して、絶対的な敵愾心を持っているからね。憎悪と言っても良いくらいだ。
だから魔物は人を積極的に襲うし、国境壁付近は普通激戦区になるのだがね。砂漠地帯の魔物は積極的に行動せんのだよなぁ」
「そもそも魔物って、人と魔物をどうやって区別してるんですかね?
ボールクローグでの迷宮の氾濫の時も思ったんですけど、最も近くに人が多く集まっている場所を目指して、一直線に向かってきたんですよ。
五感で捉えているにしてはボールクローグと氾濫迷宮には距離があったのに、全く分散せずにボールクローグに来たんです。魔物たちはどうやって人間を感知しているんでしょう?」
四方に拡散して、目に付いた人間を襲うのなら分かるけど、ボールクローグに一直線でやってきたからな。そのおかげで被害が出なかったのだから文句はないんだけど、よくよく考えるとおかしい話ではあるんだよ。
誘導するように仕向けた部分もあるけれど、それでも被害無しって事は一切拡散しなかったってことだろう。氾濫を知っていた奴等も、魔物の動きに疑問を持っていなかったし。
「魔物がなぜ人を憎んでいるのかは分かっていないが、どうやって人を感知しているかにはいくつか説がある。
個人的に私が有力だと思っているのは、魔物は人の魔力を感知して追ってくるというものだ。
そしてこの能力は、迷宮の外の魔物ほど強くなっていると考えられているね」
「人の魔力、ですか。正直言うとピンと来ません。魔力感知で魔力を捉えても、人と魔物の魔力に違いがあるようには思えなかったです」
「だがねトーマさん。『探知』と呼ばれる支援魔法で、個人を捜索することが可能だろう? それを踏まえると、魔力には個人間で差があるはずなのだよ。
恐らく魔物の魔力感知能力は我々人よりも優れていて、私達よりも広範囲を高い精度で感知できるのではないかと考えられているのだ」
ん~どうなんだろう? ちょっとこじつけ臭い気はするが……。
「つまりその理論が正しいと仮定するんであれば、広範囲に魔力を放てば、魔物の方から襲ってきてくれるということですよね。
その説は検証されているんでしょうか?」
「検証に使用しているのは迷宮の魔物ではあるが、検証自体は何度も行われている。魔物のスキルを見れたら手っ取り早いのだが、そうもいかないから検証するしかない。
検証の結果は、魔力感知説がやや優勢といったところだな。五感を全て封じて検証しているわけではないからね」
検証がどこまで信用できるかは微妙だけど、魔力を感知して襲ってくるなら、音魔法先生に頑張ってもらえば、効率的に魔物を狩ることができそうではあるな。
音魔法の効果範囲がアホみたいに広くなってるのは、迷宮の氾濫の時に実証済みだし。
「魔物とは魔力から生まれ、魔力を求めて生きる生物だからね。彼らにとって魔力とは、私達にとっての呼吸や食事に等しいと言える。だから魔力を感知する器官が我々よりも優れていても、全く不思議ではないだろう? 魔物にとっては文字通り、死活問題なのだから」
「なるほど。魔物の起源と生存に関わる部分が魔力なのだから、それに特化した能力を持っていても、不思議ではないような気がしてきますね。
これは試してみようと思います。広範囲に魔力を巡らせる方法は、少し心当たりがありますし」
良かった。完全に無駄足にはならなかった。
魔物の認識が魔力による感知に頼っていると仮定するなら、アイソレーションの価値が爆上がりするな。五感は騙せなくても、感知は騙せそうだ。
通常戦闘ぐらいでは使う必要はないだろうが、エリアキーパークラスの魔物と戦う際には、常にアイソレーションを使用しておくのは大切かも知れない。
「力になれたようなら何よりだよ。
それで、君の方の用件は済んだかな? 出来ればランドビカミウリについて、詳しく聞きたいのだが……」
有益な情報が得られたお礼も兼ねて了承したのはいいが、ランドビカミウリとの戦闘を根掘り葉掘り問い詰められて、流石に疲れ切ってしまった。
ただ院長的には、ボールクローグに出現した魔物がランドビカミウリであるという結論に至ったらしく、鼻歌まで歌いだすほどご機嫌だった。
心核魔獣として出現する可能性があるのなら、ランドビカミウリの戦闘データを後世に伝えるのは非常に重要なことなんだと言われてしまうと、断るのもおかしくなるし。
でも院長。絶対趣味で聞いてるよな?
後世に伝える情報を聞き取りしている割には、目が輝き過ぎなんだよ全く。
院長は咳払いをして格好を正した。
「確かにトーマさんの言うとおり、アサルトドラゴンでもデューンサラマンダーでも、エリアキーパーの居る場所まで行くのは難しいだろうな。
迷宮研究院で研究しているのは、その名の通り迷宮で出現する魔物が殆どだからね。迷宮と外では魔物の生態も変わることがあるから、下手な事を言うわけにもいかん。
現地の狩猟ギルド員ですら心当たりがないのだとしたら、自分で見つけて捕らえるしかない。しかし砂漠地帯の魔物は待ち伏せ型が多くて調査も捗らない、か。
改めて整理してみると、中々の難題を持ち込んでくれたようだ」
難題か。ここでも難しいなら、後は手探りでやるしかない。
それにしても、迷宮と外では同じ魔物でも行動パターンが変化するんだな。
マッドスライム先生も、外で出るならもうちょっと強い魔物なんだろうか?
「魔物に心当たりがないなら、調査や捕獲を効率的に行う方法は何かないですかね?
ボールクローグの大森林地帯では、魔物は山にように襲ってきたんですけどね。砂漠地帯の魔物は遭遇するところから難しくて、魔物の捜索をするのから時間がかかって効率が悪いんです」
「ふむ。確かに砂漠の魔物はかなり特殊だとは思う。魔物というのは何故だか人に対して、絶対的な敵愾心を持っているからね。憎悪と言っても良いくらいだ。
だから魔物は人を積極的に襲うし、国境壁付近は普通激戦区になるのだがね。砂漠地帯の魔物は積極的に行動せんのだよなぁ」
「そもそも魔物って、人と魔物をどうやって区別してるんですかね?
ボールクローグでの迷宮の氾濫の時も思ったんですけど、最も近くに人が多く集まっている場所を目指して、一直線に向かってきたんですよ。
五感で捉えているにしてはボールクローグと氾濫迷宮には距離があったのに、全く分散せずにボールクローグに来たんです。魔物たちはどうやって人間を感知しているんでしょう?」
四方に拡散して、目に付いた人間を襲うのなら分かるけど、ボールクローグに一直線でやってきたからな。そのおかげで被害が出なかったのだから文句はないんだけど、よくよく考えるとおかしい話ではあるんだよ。
誘導するように仕向けた部分もあるけれど、それでも被害無しって事は一切拡散しなかったってことだろう。氾濫を知っていた奴等も、魔物の動きに疑問を持っていなかったし。
「魔物がなぜ人を憎んでいるのかは分かっていないが、どうやって人を感知しているかにはいくつか説がある。
個人的に私が有力だと思っているのは、魔物は人の魔力を感知して追ってくるというものだ。
そしてこの能力は、迷宮の外の魔物ほど強くなっていると考えられているね」
「人の魔力、ですか。正直言うとピンと来ません。魔力感知で魔力を捉えても、人と魔物の魔力に違いがあるようには思えなかったです」
「だがねトーマさん。『探知』と呼ばれる支援魔法で、個人を捜索することが可能だろう? それを踏まえると、魔力には個人間で差があるはずなのだよ。
恐らく魔物の魔力感知能力は我々人よりも優れていて、私達よりも広範囲を高い精度で感知できるのではないかと考えられているのだ」
ん~どうなんだろう? ちょっとこじつけ臭い気はするが……。
「つまりその理論が正しいと仮定するんであれば、広範囲に魔力を放てば、魔物の方から襲ってきてくれるということですよね。
その説は検証されているんでしょうか?」
「検証に使用しているのは迷宮の魔物ではあるが、検証自体は何度も行われている。魔物のスキルを見れたら手っ取り早いのだが、そうもいかないから検証するしかない。
検証の結果は、魔力感知説がやや優勢といったところだな。五感を全て封じて検証しているわけではないからね」
検証がどこまで信用できるかは微妙だけど、魔力を感知して襲ってくるなら、音魔法先生に頑張ってもらえば、効率的に魔物を狩ることができそうではあるな。
音魔法の効果範囲がアホみたいに広くなってるのは、迷宮の氾濫の時に実証済みだし。
「魔物とは魔力から生まれ、魔力を求めて生きる生物だからね。彼らにとって魔力とは、私達にとっての呼吸や食事に等しいと言える。だから魔力を感知する器官が我々よりも優れていても、全く不思議ではないだろう? 魔物にとっては文字通り、死活問題なのだから」
「なるほど。魔物の起源と生存に関わる部分が魔力なのだから、それに特化した能力を持っていても、不思議ではないような気がしてきますね。
これは試してみようと思います。広範囲に魔力を巡らせる方法は、少し心当たりがありますし」
良かった。完全に無駄足にはならなかった。
魔物の認識が魔力による感知に頼っていると仮定するなら、アイソレーションの価値が爆上がりするな。五感は騙せなくても、感知は騙せそうだ。
通常戦闘ぐらいでは使う必要はないだろうが、エリアキーパークラスの魔物と戦う際には、常にアイソレーションを使用しておくのは大切かも知れない。
「力になれたようなら何よりだよ。
それで、君の方の用件は済んだかな? 出来ればランドビカミウリについて、詳しく聞きたいのだが……」
有益な情報が得られたお礼も兼ねて了承したのはいいが、ランドビカミウリとの戦闘を根掘り葉掘り問い詰められて、流石に疲れ切ってしまった。
ただ院長的には、ボールクローグに出現した魔物がランドビカミウリであるという結論に至ったらしく、鼻歌まで歌いだすほどご機嫌だった。
心核魔獣として出現する可能性があるのなら、ランドビカミウリの戦闘データを後世に伝えるのは非常に重要なことなんだと言われてしまうと、断るのもおかしくなるし。
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