異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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9章 異邦人が生きるために

327 職人として、女性として

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 マーサの発言で空気が完全に凍り付いてしまった。
 だというのにマーサ本人は、まるで俺に挑むかのような眼差しを向けてくる。
 いやもう何から何まで意味分からねぇっての。


「あー……。悪いマーサ。唐突過ぎて全く意味が分からない。今の話の流れで、どうしてその結論に辿り着いたわけ?」


 まずは話を聞いてみないと始まらない。
 本人だけ納得顔で居られても困る。


「ああ、トーマの装備品を完成させるためにゃあよ。もっと深くトーマを理解する必要があると思うんだよな。
 ――――職人としてこんなこたぁ言いたかねぇけど、見本まで作ってもらっておきながら、トーマの装備製作が全然上手くいってねぇんだよ。
 これからまたランドビカミウリみてぇなバケモンと、人数を欠いた状態で戦わなきゃいけねぇって時に、自分の職人としての未熟さが悔しくて悔しくて堪らねぇ……!
 幸い私は女だからよ。トーマと肌を重ねれば、より深いところまでお前を理解出来るんじゃねぇかと思うんだ!」

「ハイ却下。馬鹿も休み休み言ってくれ。そんな理由でお前を抱いたり出来ねぇっつの」

「トーマならそう言うと思ったけどよ! こっちはこっちで切羽詰ってんだよ!
 私を助けると思って抱いてくれ!」


 いやいや。絶対肌を重ねたって装備製作の役に立たないから。
 愛の力で最強装備完成! なんてなったら職人要らないだろ、全く。


「ん~……。流石にそんな理由じゃ認められないかなー? 装備製作のために私のトーマに抱かれたいなんて、そんなの許可できませーん!」

「ですね。リーネの時と違って、今回はちょっと譲れませんねぇ。
 私の夫をそんなに安売りするわけにはいきません」


 リーンとトルネが抱きついてくる。あ~俺の嫁は可愛いなぁ。

 ふとハルを見ると、アサヒとカンナと一緒にニヨニヨしながらこっちを見てやがる。
 完全に対岸の火事ですね君ら。


「ねぇマーサ。トーマに抱かれたいと思ったのは、本当に装備品製作のためなの……? 本当にそんな理由だったら、私だってトーマを譲るわけにはいかないよ……?
 良く考えて……? マーサがトーマに抱かれたいと思ったのは、本当に職人として必要だと思ったからなの……?」


 対岸の3人を見ていたら、いつの間にかリーネがマーサの正面に立っていた。


「は、はぁ……? そりゃ職人として必要だからに決まってんじゃん! 他にどんな理由があるって……」

「マーサ。自分に真剣に向き合わなかったせいで、ミルズレンダで何が起こったのか、もう忘れちゃったの……?
 貴方に必要なのは、自分の心に正面から向き合うことなんじゃない……?」

「……リーネェ。いくらお前でも、言っていい事と悪い事ってのが……」

「だから、そうやって誤魔化すのをやめろって言ってるの……!
 マーサはいつもそう……! 人生の大切な選択を人に委ねてしまう……! 自分で選ぶ事を避けて、流される事を選んでしまう……!
 そんな人にトーマを譲ってあげるわけにはいかないよ……! トーマに抱いて欲しいっていうなら、職人なんて言い訳しないで、マーサルシリルとしての本心を聞かせてよっ……!」


 ……驚いたな。
 いつも通り俺の意思は全く考慮されてないのはもう慣れたけど、いつの間にリーネもこんなに強く自己主張できるようになっていたんだろう。
 何気に沢山の修羅場も経験してきたしな。
 もう全てに絶望していたリーネの面影はどこにもない。


「女としての本心を口に出来ないマーサになんて、負けてあげるつもりはないよ……!
 貴方がトーマの装備を作れないのは、貴方が自分の気持ちに向き合ってないからじゃないの……!?
 どうしてトーマに抱いて欲しいと思ったのか、自分の想いから目を逸らさずに、始めから思い返すの……!」

「始めから……。始めって、いつからだっけ……?」


 リーネに問い質され、マーサは考え込んでいる。
 その空ろになった瞳は、まるで自分の内面の何かを探しているかのようだ。


「始め……。始めはただ、面白い考え方をする奴だと思ったんだよ。だから、こいつについていけば、私も面白いもんが作れるんじゃねぇかって、ただそれだけだった……はず。
 そのあとはもうぐちゃぐちゃでさ。ミルズレンダでは私の信じていたもの全てが嘘だったし、トーマの作る新しい時代も一緒に見てみたかったし、そう思ってたらアルも師匠も死んじまうし、しかも殺したのはトーマだって言うし、マジで頭ん中ぐっちゃぐちゃになっちまったんだよな……」

「うん。聞いてるよ。それから……?」

「それから……。ベイクに来て、私が如何に甘ったれてたのかを痛感してさ。ホムロにも、リーネにも……、そしてトーマにも負けないように、職人として腕を振るおうって決めたんだよ。
 私に技術を叩き込んでくれたミルズレンダの職人達のために、私を育ててくれた師匠と、私を好きだと言ってくれたアルの死を無駄にしないために、私は職人として強くなろうって決めたんだ」


 初めてマーサの心のうちを聞いた気がする。
 マーサはローサルとアルの死を、そんな形で受け入れていたのか。


「グリーンドラゴンの素材も貰ってよ。心核武器まで作らせて貰ってよ。こんな幸せな職人、王国中探したって他に居る訳ねぇんだよ。
 だからせめてもの恩返しに、俺が作れる最高の装備品を用意してやろうと思った。シンにもリーンにもトルネにもハルにも、作りたい装備はもう固まってるんだ。
 だけどトーマの装備だけは、どれだけ考えてもダメなんだ。こんなんじゃダメだ。もっとトーマの事を理解しないと。もっとトーマの事を知りたいって。そう思うようになっていったんだよ」

「うん。知ってたよ……。だからマーサ。その気持ちに、ちゃんと向き合ってあげて……?
 マーサは装備品が作りたいから、トーマの事をもっと知りたいって思ったの……?」

「――――そうか。そういうことだったのか。自分の気持ちに向き合うって、こういうことだったんだな」


 マーサの目に光が戻ってくる。
 探していた何かは、どうやら無事に見つかったようだ。


「トーマ。職人としても、女としても、このマーサルシリルはお前に惚れたんだ! だから抱いて欲しい!
 装備品なんかとは関係なく、私はお前に抱かれたい。私はトーマのことが好きだったんだ!
 でも、やっぱり職人としての私も捨て切れねぇ。私は女だけど、職人でもあるんだ。
 女として抱かれて、職人としてお前と触れ合って、お前を想いながらトーマの装備を作りあげてぇ!
 お前に惚れた女として、惚れた男に抱かれてぇと思ってる!
 トーマ! 私の事を貰ってくれ!」


 ……これがマーサの本音、か。

 リーネは凄く優しい表情でマーサを見ている。
 まるで娘の成長を喜ぶ母親みたいな顔してるなぁ。


「あー。マーサのことは俺も思うところがあるからな。マーサの一生を引き受ける覚悟はしてあったよ。
 マーサが望むなら貰ってやるさ。ミルズレンダであったことなんか忘れるくらい、全力で幸せにしてやる。
 ……ってことで宜しいですかね? リーンさんトルネさん?」

「んー……、まぁ仕方ないかなぁ? 今回はリーネにしてやられたって感じだよー!
 マーサ。トーマを選ぶってのは思ってるより大変だと思うからね? 覚悟決めなさいっ!」

「リーンの言うとおり、仕方ないですね。装備品のためなんて理由は受け入れられませんけど、トーマを真剣に愛しているなら受け入れますよ。トーマを愛する女としてね」

「うん。マーサに関しては、トーマは人生に踏み込みすぎてるからね。妥当な結果じゃないかな?
 でもトーマについていくってすっごく大変だと思う。マーサ、頑張ってね!」

「いやぁガチのプロポーズとか、良いもの見せてもらったっすわ~。
 そうっすねぇ、女から迫るってのも悪くないっすねぇ」

「あはは! 確かにいい話だったわ。
 私の将来にも大いに参考にさせてもらうとするわね? あははは!」


 ま、3人も4人も変わらないわもう。
 別に嫁にしなくても、マーサのことを見捨てる気なんてなかったしな。幸せにしようって動機付けが、より強固になったってだけだ。

 エリアキーパーなんかに怯んでる場合じゃねぇな。
 もっともっと強くなって、みんなまとめて幸せになってもらわないとね。
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