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9章 異邦人が生きるために
318 国王
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玉座に座っているのは初老の男だった。
少なくとも、あまり戦えるようには見えないな。
ディオーヌ様が俺達から離れ、玉座の横に移動する。
「皆の者、良く来てくれた。私はリヴァーブ王国現国王の『リヴァーブ・ガルドニル』だ。
まずはこちらの不手際で、諸君に大層な失礼をしてしまったこと謝罪する。
他の者に唆されたとはいえ、先陣を切って騒動を起こしたのは、我が娘のシルヴァールであったと聞いておる。
国王として、父として、本当に申し訳なかった」
まさか初っ端に国王の謝罪から始まるとは。
安易に判断は出来ないけれど、俺達に誠意を表してるんだろうな。
王の許可もなく発言していいのかも分からないので、黙って次の言葉を待っていると、何か誤解を与えてしまったようで、王が慌てて言葉を続けた。
「謝罪だけでは不服であろうか!? 今回関わったもの全員には、相応の罰を与えると約束しよう! 勿論我が娘のシルヴァールにもだ!
もしなにか望みがあるのであれば、賠償も兼ねて聞き入れる準備もある! 遠慮なく申してみよ!」
「あっと、済みません。許可なく発言していいものか分からなかっただけです。
謝罪は受け入れますし、特に重罪として扱って欲しいわけではないです。相手は子供でしたしね。
今回関わった相手の名前と家と領地さえ教えてもらえれば、別に処分してもらわなくてもいいくらいです」
「ほ、本当であるか!? 我が娘は死罪も有り得ると言われておったのだが……!
寛大な扱いに感謝しようぞ!」
まぁ元凶はアリスだからな。
他の令嬢は、アリスに唆された被害者みたいなもんだ。
「――――トーマさん? 名簿を手に入れてどうなさるおつもりです?
まさかとは思いますが、武力制圧など考えているわけではないですよね?」
「まさか、そんなことしませんよ。
ただ今回の令嬢とその家族には関わりたくないので、その領地ではうちのカンパニーは手を引こうかと思っただけです」
「……そういうこと、ですか。今回の騒動を起こされたお家には同情いたしますわ。
名簿は後で私が間違いなくお渡ししましょう。
王女殿下が関わっていた件については、どのような扱いになりますでしょう?」
「ああ、リヴァーブ王国全体から手を引いたりはしませんよ。
王女様が粗相をされたのですから、王都と直轄領を避けるくらいですかね。
あまり苛烈な処分はこちらも望みませんし、お互い不干渉でいられれば充分です」
既に手を広げすぎているくらいだしなぁ。
どこかでブレーキをかけないと、際限なく仕事が増え続けてしまう。
そう思えば、今回の件は良い指標になりそうだ。
「ふん。話は済んだか? 王よ。今はこのような事を話している時ではなかろう? 早く本題に移るべきだ」
「あ、ああ。ブルガーゾの言う通りだな。それではこの件については終わりにして、本題に入らせてもらおう」
王はブルガーゾに促され、ようやく本題を語ってくれた。
「異邦人の存在と危険性については、以前ヴェルトーガで起こった騒動の頃より報告されておった。だが今まではどこか半信半疑な部分も多かった。
しかし今回のボールクローグでの1件で、異邦人の存在と危険性が疑いようもない事実であると証明されてしまった。そして、今後も異邦人は現れ続けるという話も聞いている。
王国としては、未だ異邦人に対する知識や認識は甘く、充分な対応が出来るとは言いがたい状況だ。
そこで自身も異邦人であり、異邦人事件との関わりも深い諸君にも、王国と異邦人との今後の付き合い方について意見を聞かせてもらいたいのだよ」
ふむ。腰が低く頼りなさげに見えて、あっさりと自分たちの非を認めて、身分を問わずに助けを求める姿勢、なかなか侮れない人物のようだな。
やっぱり娘に厳罰とか求めなくて良かった。
「私達に協力できることであれば、可能な限り尽力させて頂きます。
それではまず、現在の王国の認識と、今後予定されている異邦人への対応を伺ってもよろしいですか?」
「うむ。諸君の忌憚の無い意見を期待しているぞ。
ではファーガロン。説明を頼む」
玉座の横に立っていた男が、説明のために一歩前に出る。
かなり若い男だな。ディオーヌ様と同じで20代の半ばくらいに見える。
「お初にお目にかかる。僕は『シルグリイド・ファーガロン』。ウィルスレイアでの貴方達の活動は聞いているよ」
シルグリイド。風のシルグリイド家の当主ってことか。
「現時点での多数派を占めているのは、異邦人は見つけ次第に捕縛、処分してしまうという意見だね。
異邦人本人にその気はなくても、扱い次第で王国を滅亡させかねないのが今回証明されてしまった。異風の旋律のような力を持ってしまう前に、見つけ次第殺してしまうのが手っ取り早い、ということだよ」
そりゃそうだよなぁ。
特にアリスの能力なんか、その最たる例と言ってもいい。
本人も頭軽くて利用するの簡単そうだし。
「一方で、異邦人達と手を取り合うべきだという声も上がっている。個人的には僕もこの意見に賛成だ。
旋律の運び手の活動によって活性化している地域は多いし、我がウィルスレイアもその恩恵を少なからず受けているからね。
異邦人たちは強力な存在であるからこそ、王国の発展にとっても重要な存在になりうるはずだ、という意見だね。
それに異邦人たちがこの王国にくる仕組みも、いまいち分かっていない。一過性のものであるなら殺してしまうのもアリだけど、今後王国が続く限り異邦人も現れるとするなら、殺し続けるのはあまり現実的ではないだろう?」
そうなんだよな。現時点で異邦人がどれだけいるかも不明だし、どの程度の間隔で、どの程度の人数が、どこに送られてくるかとか、詳しい事は一切わかってない。
下手に異邦人狩りなんかしてしまうと、弾圧された異邦人が地下に潜って牙を研ぎ、その強力な能力を持って王国に仇為す可能性も出てくるのだ。
「異邦人に対する利点と危険性はみんな理解し始めている。利益を捨ててでも危険性を排除するか、危険性を孕んでいても利益を取るか、結局はその2つのどちらかを選ぶだけなんだけどね。
君たちの意見で、この天秤をどちらに傾けるか。発言は慎重に頼むよ」
平和的な関係を望むのであれば、如何に異邦人が安全で有益であるかを示す必要があるわけだ。
さてさて、俺の話で納得してもらえると良いんだけどな。
王国と対立してもメリットなんてないだろうし。
少なくとも、あまり戦えるようには見えないな。
ディオーヌ様が俺達から離れ、玉座の横に移動する。
「皆の者、良く来てくれた。私はリヴァーブ王国現国王の『リヴァーブ・ガルドニル』だ。
まずはこちらの不手際で、諸君に大層な失礼をしてしまったこと謝罪する。
他の者に唆されたとはいえ、先陣を切って騒動を起こしたのは、我が娘のシルヴァールであったと聞いておる。
国王として、父として、本当に申し訳なかった」
まさか初っ端に国王の謝罪から始まるとは。
安易に判断は出来ないけれど、俺達に誠意を表してるんだろうな。
王の許可もなく発言していいのかも分からないので、黙って次の言葉を待っていると、何か誤解を与えてしまったようで、王が慌てて言葉を続けた。
「謝罪だけでは不服であろうか!? 今回関わったもの全員には、相応の罰を与えると約束しよう! 勿論我が娘のシルヴァールにもだ!
もしなにか望みがあるのであれば、賠償も兼ねて聞き入れる準備もある! 遠慮なく申してみよ!」
「あっと、済みません。許可なく発言していいものか分からなかっただけです。
謝罪は受け入れますし、特に重罪として扱って欲しいわけではないです。相手は子供でしたしね。
今回関わった相手の名前と家と領地さえ教えてもらえれば、別に処分してもらわなくてもいいくらいです」
「ほ、本当であるか!? 我が娘は死罪も有り得ると言われておったのだが……!
寛大な扱いに感謝しようぞ!」
まぁ元凶はアリスだからな。
他の令嬢は、アリスに唆された被害者みたいなもんだ。
「――――トーマさん? 名簿を手に入れてどうなさるおつもりです?
まさかとは思いますが、武力制圧など考えているわけではないですよね?」
「まさか、そんなことしませんよ。
ただ今回の令嬢とその家族には関わりたくないので、その領地ではうちのカンパニーは手を引こうかと思っただけです」
「……そういうこと、ですか。今回の騒動を起こされたお家には同情いたしますわ。
名簿は後で私が間違いなくお渡ししましょう。
王女殿下が関わっていた件については、どのような扱いになりますでしょう?」
「ああ、リヴァーブ王国全体から手を引いたりはしませんよ。
王女様が粗相をされたのですから、王都と直轄領を避けるくらいですかね。
あまり苛烈な処分はこちらも望みませんし、お互い不干渉でいられれば充分です」
既に手を広げすぎているくらいだしなぁ。
どこかでブレーキをかけないと、際限なく仕事が増え続けてしまう。
そう思えば、今回の件は良い指標になりそうだ。
「ふん。話は済んだか? 王よ。今はこのような事を話している時ではなかろう? 早く本題に移るべきだ」
「あ、ああ。ブルガーゾの言う通りだな。それではこの件については終わりにして、本題に入らせてもらおう」
王はブルガーゾに促され、ようやく本題を語ってくれた。
「異邦人の存在と危険性については、以前ヴェルトーガで起こった騒動の頃より報告されておった。だが今まではどこか半信半疑な部分も多かった。
しかし今回のボールクローグでの1件で、異邦人の存在と危険性が疑いようもない事実であると証明されてしまった。そして、今後も異邦人は現れ続けるという話も聞いている。
王国としては、未だ異邦人に対する知識や認識は甘く、充分な対応が出来るとは言いがたい状況だ。
そこで自身も異邦人であり、異邦人事件との関わりも深い諸君にも、王国と異邦人との今後の付き合い方について意見を聞かせてもらいたいのだよ」
ふむ。腰が低く頼りなさげに見えて、あっさりと自分たちの非を認めて、身分を問わずに助けを求める姿勢、なかなか侮れない人物のようだな。
やっぱり娘に厳罰とか求めなくて良かった。
「私達に協力できることであれば、可能な限り尽力させて頂きます。
それではまず、現在の王国の認識と、今後予定されている異邦人への対応を伺ってもよろしいですか?」
「うむ。諸君の忌憚の無い意見を期待しているぞ。
ではファーガロン。説明を頼む」
玉座の横に立っていた男が、説明のために一歩前に出る。
かなり若い男だな。ディオーヌ様と同じで20代の半ばくらいに見える。
「お初にお目にかかる。僕は『シルグリイド・ファーガロン』。ウィルスレイアでの貴方達の活動は聞いているよ」
シルグリイド。風のシルグリイド家の当主ってことか。
「現時点での多数派を占めているのは、異邦人は見つけ次第に捕縛、処分してしまうという意見だね。
異邦人本人にその気はなくても、扱い次第で王国を滅亡させかねないのが今回証明されてしまった。異風の旋律のような力を持ってしまう前に、見つけ次第殺してしまうのが手っ取り早い、ということだよ」
そりゃそうだよなぁ。
特にアリスの能力なんか、その最たる例と言ってもいい。
本人も頭軽くて利用するの簡単そうだし。
「一方で、異邦人達と手を取り合うべきだという声も上がっている。個人的には僕もこの意見に賛成だ。
旋律の運び手の活動によって活性化している地域は多いし、我がウィルスレイアもその恩恵を少なからず受けているからね。
異邦人たちは強力な存在であるからこそ、王国の発展にとっても重要な存在になりうるはずだ、という意見だね。
それに異邦人たちがこの王国にくる仕組みも、いまいち分かっていない。一過性のものであるなら殺してしまうのもアリだけど、今後王国が続く限り異邦人も現れるとするなら、殺し続けるのはあまり現実的ではないだろう?」
そうなんだよな。現時点で異邦人がどれだけいるかも不明だし、どの程度の間隔で、どの程度の人数が、どこに送られてくるかとか、詳しい事は一切わかってない。
下手に異邦人狩りなんかしてしまうと、弾圧された異邦人が地下に潜って牙を研ぎ、その強力な能力を持って王国に仇為す可能性も出てくるのだ。
「異邦人に対する利点と危険性はみんな理解し始めている。利益を捨ててでも危険性を排除するか、危険性を孕んでいても利益を取るか、結局はその2つのどちらかを選ぶだけなんだけどね。
君たちの意見で、この天秤をどちらに傾けるか。発言は慎重に頼むよ」
平和的な関係を望むのであれば、如何に異邦人が安全で有益であるかを示す必要があるわけだ。
さてさて、俺の話で納得してもらえると良いんだけどな。
王国と対立してもメリットなんてないだろうし。
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