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9章 異邦人が生きるために
309 ベイク迷宮卒業
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起床。身支度を済ませ迷宮へ。
64階層を2周ほどして朝食の時間。
「んー。多分俺らって、もう89階層もヌルいよな?
王都に行く前に、一気に攻略しちゃわない?」
「そうだねぇ……。トーマは1等級冒険者を瞬殺しちゃうし、ランドビカミウリどころか、カラードラゴンだってベイクの迷宮には出ないらしいし。
1日1階層って探索速度を律儀に守る意味は、もうないかもね」
「でも今日もトーマは色んな場所に行くんだよねー? 探索時間はいつもより短くないー?」
「それなら地図を買って、最短距離で突っ切りましょうか。
トーマの今日の予定はどうなってます?」
「んー。まずはリーネをボールクローグに送ったら迷宮探索、陽天の報せが鳴ったらシャンダリアに行こうかな」
「うん。じゃあ私たちは狩人ギルドに行って、都市間輸送馬車の計画について少し話し合うのがいいかな?
昨晩の計画を考えると、ウィルスレイアにも拠点を作っておいたほうがいい?」
「それならハルと兄さんで狩人ギルド。私とトルネでウィルスレイアの拠点探しに行こー。
ガンガンお金使っちゃうよー!」
「それ以上に稼げてしまいそうですけどね……。予定は了解しましたよリーン」
予定も決まったところで、リーネをゲートでボールクローグに送り出し、ついでに武器屋で装備品を受け取ってくる。
その間に皆には冒険者ギルドに地図買いに行ってもらう。
あ、ストレージが装備品いっぱいの状態で迷宮の探索に行くわけにはいかないか。
先にシャンダリアに向かい、カンパニー宿舎に装備品を放り出し、急いでベイクに戻る。
「探索前に3回もゲート使って大丈夫なの? これからスキップも使うのに」
「あー、少なくとも魔力切れの兆候はないかな? スキップ使っても問題ないとは思う」
「うん。トーマがまたおかしいことになってきてるね。
とりあえずトーマ本人が問題ないっていうなら、早速探索に行こうよ。
待ってる間に、ある程度ルートの厳選も終えてあるからさ」
おお、流石に話が早い。
さてさて、今日はどこまで進めるだろうな。
「う~ん。まさかここまでとは、想像してなかったかなー?」
「驚きますね。私たちって、こんなに強くなってたんですか」
現在ベイクの迷宮75階層。しかも1回の探索で、である。
全くなんの問題もなく、というよりも簡単すぎるのが問題って感じだ。
大型の魔物が出ようが、素早い魔物が出ようが、硬い魔物が出ようが、今の俺たちにはなんの問題もなく瞬殺出来た。
こりゃあ確かに邪推されるのも頷ける。
リヴァーブ王国の基準だと、30~50人規模の冒険団を組んで攻略する場所だもんなぁ……。
異風の旋律は、過剰戦力過ぎるわ。
「……深階層域を1日で10階層も進める奴なんざ、聞いたことがないんだが?」
「そんなこと言われても知らないよ。これからは頻繁に聞くようになるんじゃないの?」
冒険者ギルドに換金に行くと、案の定オーサンに絡まれる。
こりゃあ今日中にクリアしてしまいたくなってきたなぁ。
「っていうか、ベイクの攻略を進めてるって事は、お前ら仕事が終わったってことだよな!?
もうトーマは諦めたから、他のメンバーは昇級試験受けてくれんだよな!?」
「ああ。もしかしたら呼び出しがかかるかも知れないけれど、今のところ大丈夫だと思うよ。
ちなみに3等級とか2等級でも受かると思うけど、4等級受けないとダメなんかな?」
「ああ。昇給は1等級ずつしか認められてないな。
だが自信があるなら、同じ日に上位等級の試験を追加で受ける事は可能だ。
それを実行したって話は聞いたことないがな」
「そんじゃ4等級以上の全部の試験受けられるようにしてもらえる?
その場合って、何等級の試験まで受けられるんだ?」
「正気の沙汰じゃねぇけど、最高は2等級試験までだな。1等級はなんらかの実績があって、初めて認定されるもんだからよ。試験では上がれねぇんだ」
何らかの実績、ねぇ……。
なんか物凄く、1等級に上がりそうな気がしてきたんだが……。
俺以外が。
2度目の探索で、82階層まで進んで荷物がいっぱいになった。
間もなく陽天の報せが鳴るはずなので、タイムアップだ。
「ん~、せっかくだし、今日中に踏破しちまうか?
俺のシャンダリアでの用事は日没まではかからないし、そこからウィルスレイアでリーンとトルネを拾って、リーネを回収したら、89階層まで進んでしまうってのはどうだろう?」
「……スキルの取得はまだ必要だけど、資金的にも訓練的にも、もうベイクの迷宮では僕たちの成長は見込めなそうだから、踏破してしまうべきかもね」
迷宮を踏破する事に決め、予定通り各地に散らばる。
俺はシャンダリアで新たな30人を冒険者にし、商工ギルドで職人の出稼ぎ依頼を出し、訓練指導をつけてくれる冒険者と、屋敷で働いてくれる人をそれぞれ面接、採用して、シャンダリアでの用件を終える。
ゲートを使ってウィルスレイアに。
既にターミナル広場にいたリーンとトルネを拾う。
2人が購入した拠点の確認は後日に回して、ボールクローグでリーネを回収。
4人でベイクに帰還した。
ゲートを複数人で、3連続使っても大丈夫か。
狩人ギルドでシンとハルを拾って、そのまま迷宮に突撃する。
『五感精度上昇』スキルのおかげか、以前は分かりにくかったトラップの位置もはっきりと視認できる。
っていうかやっぱり他のメンバーって、俺より五感が優れていたんじゃないのか?
ただ真っ直ぐに、最短距離を通って進んでいく。
道中の魔物の情報なんて分からない。見かけたら即斬り捨てるだけ。
89階層に到着する。
ボールクローグで何度も見た、最下層の景色だった。
1本道を進んで行き、最深部前のガーディアンが出現する。
全長20メートルクラスの、無数の頭部を持つドラゴンっぽい魔物だったが、心緑の流刃の一閃で片付いた。
最深部の中に入り、迷宮神像ダンゲルスヌーマを確認する。
「みんなお疲れさん。これで文句なしに、ベイクの迷宮を卒業できるわ」
「はぁ~。まさか私が迷宮踏破する日が来るなんて、思ってもみなかったなー。
これでも、行商人になるつもりだったんだけどねー」
「うん。私もびっくりしてる。
でもガーディアン含めて、全然手応えなかったかな……」
「本当ですよねぇ……。今なら全員が、ハロイツァを子供扱い出来てしまいますね。
そんなに時間が経ったわけでもないのに、凄い速度で成長したものですよ」
「ベイクの迷宮も踏破したし、これで心置きなく外の世界に目を向けられる。
いつかベイクを出て行商人になるつもりではいたけど、まさか王国の外に出ることになるなんてね。トーマと出会う前の僕に教えてあげたい気分だよ」
俺の冒険者生活は、ベイクの迷宮のマッドスライム狩りから始まったんだよなぁ。
俺を強くしてくれたのは、間違いなくベイクの迷宮だった。
ダンゲルスヌーマ様、今までありがとうございました。
これからもベイクの皆を宜しくお願いします。
64階層を2周ほどして朝食の時間。
「んー。多分俺らって、もう89階層もヌルいよな?
王都に行く前に、一気に攻略しちゃわない?」
「そうだねぇ……。トーマは1等級冒険者を瞬殺しちゃうし、ランドビカミウリどころか、カラードラゴンだってベイクの迷宮には出ないらしいし。
1日1階層って探索速度を律儀に守る意味は、もうないかもね」
「でも今日もトーマは色んな場所に行くんだよねー? 探索時間はいつもより短くないー?」
「それなら地図を買って、最短距離で突っ切りましょうか。
トーマの今日の予定はどうなってます?」
「んー。まずはリーネをボールクローグに送ったら迷宮探索、陽天の報せが鳴ったらシャンダリアに行こうかな」
「うん。じゃあ私たちは狩人ギルドに行って、都市間輸送馬車の計画について少し話し合うのがいいかな?
昨晩の計画を考えると、ウィルスレイアにも拠点を作っておいたほうがいい?」
「それならハルと兄さんで狩人ギルド。私とトルネでウィルスレイアの拠点探しに行こー。
ガンガンお金使っちゃうよー!」
「それ以上に稼げてしまいそうですけどね……。予定は了解しましたよリーン」
予定も決まったところで、リーネをゲートでボールクローグに送り出し、ついでに武器屋で装備品を受け取ってくる。
その間に皆には冒険者ギルドに地図買いに行ってもらう。
あ、ストレージが装備品いっぱいの状態で迷宮の探索に行くわけにはいかないか。
先にシャンダリアに向かい、カンパニー宿舎に装備品を放り出し、急いでベイクに戻る。
「探索前に3回もゲート使って大丈夫なの? これからスキップも使うのに」
「あー、少なくとも魔力切れの兆候はないかな? スキップ使っても問題ないとは思う」
「うん。トーマがまたおかしいことになってきてるね。
とりあえずトーマ本人が問題ないっていうなら、早速探索に行こうよ。
待ってる間に、ある程度ルートの厳選も終えてあるからさ」
おお、流石に話が早い。
さてさて、今日はどこまで進めるだろうな。
「う~ん。まさかここまでとは、想像してなかったかなー?」
「驚きますね。私たちって、こんなに強くなってたんですか」
現在ベイクの迷宮75階層。しかも1回の探索で、である。
全くなんの問題もなく、というよりも簡単すぎるのが問題って感じだ。
大型の魔物が出ようが、素早い魔物が出ようが、硬い魔物が出ようが、今の俺たちにはなんの問題もなく瞬殺出来た。
こりゃあ確かに邪推されるのも頷ける。
リヴァーブ王国の基準だと、30~50人規模の冒険団を組んで攻略する場所だもんなぁ……。
異風の旋律は、過剰戦力過ぎるわ。
「……深階層域を1日で10階層も進める奴なんざ、聞いたことがないんだが?」
「そんなこと言われても知らないよ。これからは頻繁に聞くようになるんじゃないの?」
冒険者ギルドに換金に行くと、案の定オーサンに絡まれる。
こりゃあ今日中にクリアしてしまいたくなってきたなぁ。
「っていうか、ベイクの攻略を進めてるって事は、お前ら仕事が終わったってことだよな!?
もうトーマは諦めたから、他のメンバーは昇級試験受けてくれんだよな!?」
「ああ。もしかしたら呼び出しがかかるかも知れないけれど、今のところ大丈夫だと思うよ。
ちなみに3等級とか2等級でも受かると思うけど、4等級受けないとダメなんかな?」
「ああ。昇給は1等級ずつしか認められてないな。
だが自信があるなら、同じ日に上位等級の試験を追加で受ける事は可能だ。
それを実行したって話は聞いたことないがな」
「そんじゃ4等級以上の全部の試験受けられるようにしてもらえる?
その場合って、何等級の試験まで受けられるんだ?」
「正気の沙汰じゃねぇけど、最高は2等級試験までだな。1等級はなんらかの実績があって、初めて認定されるもんだからよ。試験では上がれねぇんだ」
何らかの実績、ねぇ……。
なんか物凄く、1等級に上がりそうな気がしてきたんだが……。
俺以外が。
2度目の探索で、82階層まで進んで荷物がいっぱいになった。
間もなく陽天の報せが鳴るはずなので、タイムアップだ。
「ん~、せっかくだし、今日中に踏破しちまうか?
俺のシャンダリアでの用事は日没まではかからないし、そこからウィルスレイアでリーンとトルネを拾って、リーネを回収したら、89階層まで進んでしまうってのはどうだろう?」
「……スキルの取得はまだ必要だけど、資金的にも訓練的にも、もうベイクの迷宮では僕たちの成長は見込めなそうだから、踏破してしまうべきかもね」
迷宮を踏破する事に決め、予定通り各地に散らばる。
俺はシャンダリアで新たな30人を冒険者にし、商工ギルドで職人の出稼ぎ依頼を出し、訓練指導をつけてくれる冒険者と、屋敷で働いてくれる人をそれぞれ面接、採用して、シャンダリアでの用件を終える。
ゲートを使ってウィルスレイアに。
既にターミナル広場にいたリーンとトルネを拾う。
2人が購入した拠点の確認は後日に回して、ボールクローグでリーネを回収。
4人でベイクに帰還した。
ゲートを複数人で、3連続使っても大丈夫か。
狩人ギルドでシンとハルを拾って、そのまま迷宮に突撃する。
『五感精度上昇』スキルのおかげか、以前は分かりにくかったトラップの位置もはっきりと視認できる。
っていうかやっぱり他のメンバーって、俺より五感が優れていたんじゃないのか?
ただ真っ直ぐに、最短距離を通って進んでいく。
道中の魔物の情報なんて分からない。見かけたら即斬り捨てるだけ。
89階層に到着する。
ボールクローグで何度も見た、最下層の景色だった。
1本道を進んで行き、最深部前のガーディアンが出現する。
全長20メートルクラスの、無数の頭部を持つドラゴンっぽい魔物だったが、心緑の流刃の一閃で片付いた。
最深部の中に入り、迷宮神像ダンゲルスヌーマを確認する。
「みんなお疲れさん。これで文句なしに、ベイクの迷宮を卒業できるわ」
「はぁ~。まさか私が迷宮踏破する日が来るなんて、思ってもみなかったなー。
これでも、行商人になるつもりだったんだけどねー」
「うん。私もびっくりしてる。
でもガーディアン含めて、全然手応えなかったかな……」
「本当ですよねぇ……。今なら全員が、ハロイツァを子供扱い出来てしまいますね。
そんなに時間が経ったわけでもないのに、凄い速度で成長したものですよ」
「ベイクの迷宮も踏破したし、これで心置きなく外の世界に目を向けられる。
いつかベイクを出て行商人になるつもりではいたけど、まさか王国の外に出ることになるなんてね。トーマと出会う前の僕に教えてあげたい気分だよ」
俺の冒険者生活は、ベイクの迷宮のマッドスライム狩りから始まったんだよなぁ。
俺を強くしてくれたのは、間違いなくベイクの迷宮だった。
ダンゲルスヌーマ様、今までありがとうございました。
これからもベイクの皆を宜しくお願いします。
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