異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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8章 異風の旋律

300 愛しのトルネ

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 扉を開ける。
 離れの小屋は1部屋しかなく、ベッドやテーブルなど、最低限の家具しか用意されていないようだ。
 部屋に1脚だけの椅子に男が座り、俺たちを見ている。


「ああ、愛しのトルネ……! ようやく、ようやく会うことが出来た……!」


 男は勢いよく立ち上がり、こちらに駆け出そうとしたけど、すぐに足を止めて首を傾げた。


「ふむ? なんだか余計な客も一緒のようだな。
 異邦人も思ったより役に立たんな。簡単なお使いすらまともにこなせんのか……」


 男は深く落胆したような表情をしながら吐き捨てる。
 なんとも勝手な言い分だな。


「初めまして。貴方がロンメノ殿で間違いないですか?
 俺は冒険者パーティ『異風の旋律』のトーマと言います」

「トーマ……? 貴様があの、トーマとかいう男だというのか……!
 人の婚約者を横から連れ去っておきながら、よくもまぁ私の前に顔を出せたものだなぁ……? 大した面の皮じゃないか」

「面の皮の厚さならお互い様でしょ?
 30年前の初恋を拗らせて、会ったこともない若い娘にご執心とか、同じ男として軽蔑しますよ。
 残念ですけどトルネはもう俺の嫁ですから、手を引いてもらえますかね?」


 ロンメノの視線を遮るようにトルネの前に移動する。


「手を引くのは貴様だ下郎。私とトルネは運命で結ばれているのだ。貴様如きが入り込む余地など微塵も無い。
 ……ネリーのことは無念だった。当時の私は無力で、ネリーをブルガーゾから守ることができなかった……!
 だが今の私は無力ではない! ネリーの生き写しのトルネを守り、愛し抜く力がある! 誰が相手であろうと、生涯トルネと寄り添うことが出来るのだ!
 さぁトルネ、私の手を取りなさい。 ネリー……、いやネリレイジュを守れなかった償いをさせてくれ。君の母親を守れなかった分、私は君を2人分愛すると誓おう」


 なに1人で盛り上がってんだコイツは。

 それにしても、強気な態度を崩さないな。
 他にも異邦人がいるのか、何らかの切り札があるのか……。


「トーマ。私に少しお話させてもらえませんか?」


 トルネが背後から声をかけてくる。


「話すのはいいけど大丈夫? かなり気持ち悪がってなかった?」

「ええ、それはそうなんですけど、それでも私が当事者ですから。いつまでも蚊帳の外に置かれたくないですよ」


 トルネは落ち着いているように見える。そこに特別な感情は見て取れない。
 ふむ、今のトルネがこの程度で揺らいだりしないか。
 道を譲るように、トルネの前から横に移動する。


「おおトルネ……! ずっと、ずっと会いたかったよ……!
 さぁもっと近くに来なさい。話したいことが沢山あるんだ……」

「いえ、こちらで結構です。
 初めましてロンメノさん。ご存知かと思いますが、カルネジア・ネリレイジュの長女、トルネと申します。
 父からは婚約の話も、貴方の話も、一切聞かされていませんから、運命などと言われても困惑してしまいますね」


 どちらかというと感情豊かなトルネが、こうも淡々と話すのは新鮮だな。
 困惑しているなどと言ってるけど、言葉にも態度にも困惑している様子は見られない。


「私は3年前から君への婚約を打診していたんだよ。なかなか受け入れてもらえなかったがね。ようやくこの前婚約が正式に成立した途端に、一方的に反故にされたんだよ。まったく、カルネジア家は相変わらずで反吐が出る……!
 3年前のあの日、君を一目見たときから、私は運命を感じていたんだよ。きっとネリーが私を、君の元へ導いてくれたんだとね」

「……その3年前の日に、私を見かけて運命を感じたと言うのなら、なぜその時に私に声をかけなかったのでしょう?
 その時であれば、私は迷いなく貴方の手を取っていたかもしれないというのに。
 なぜ私に直接会わずに、ブルガーゾと交渉しようなどと思ったのか、聞かせてもらえませんか?」

「それは勿論、君をカルネジア家から解放するためだよ。ネリーと時とは違って、今の私にはカルネジア家すら無視出来ないほどの影響力があるからね。
 カルネジア・ブルガーゾに余計な横槍を入れさせないために、真っ向から君との人生を歩むために、あえて私はブルガーゾに会い、君との婚約を迫ったのだよ」

「それは貴方とブルガーゾの問題ですよね? 私が聞いているのは、私と婚約したいと言いながら、3年間もあったのに、私に1度も会いに来なかった理由を伺ってるんですよ。
 婚約が成立するかどうかは簡単ではないかもしれませんが、それでも3年ですよ? それに、貴方が私を見かけたときに、なぜ私に声をかけなかったんです? 私の言ってる意味、理解できてますか?」


 トルネは大きくため息をついた。
 まるで、この会話が時間の無駄であるかのように。


「貴方、私の事を愛すると言いながら、私のことなんて一切見てませんよね?
 私と婚約するためにブルガーゾの元へ行き、私に母の面影を見て、私を愛するのは母の導き、ですか。
 馬鹿馬鹿しいですね。自分を見てくれない男の下に嫁ぐ女などいませんよ。現実を見てください」

「そんなことはない! 私はトルネを愛している! それは君をネリーの代わりにしたいわけじゃない! ネリーの分も君を愛そうと思っているという意味だ!
 決して君を蔑ろにしていたわけではない。まずはカルネジア家から君を解放するのが、何よりも優先すべきことだと判断しただけなのだ!」

「私は貴方の事を何も知りません。貴方も私のことなんて、何も知りませんよね?
 貴方が私を見初めたという3年前の日に、貴方が私に声をかけてくれていたら、貴方が私の手を取ってくれていたなら、もしかしたら貴方を愛する未来もあったのかもしれませんね。
 でも今さらノコノコと出てこられても困ります。私はもう、トーマの妻なのですから」

「そんなこと言わないでおくれ! 愛しのトルネ! 私はずっと君の事を想って生きてきた! 君を幸せにすることだけを想って生きてきたのだ!
 そんな冒険者なんぞよりも、王国の誰よりも、君を幸せにしてみせよう!
 お願いだトルネ! 目を覚まして、私の手を取ってほしい! 君をネリーの分まで愛すると誓うよ!」


 流石は拗らせたストーカー。愛しのトルネの話すら聞く気がないらしい。
 トルネの質問には答えずに、ただ自分の要求だけを押し付けてくる、正しくストーカーになってしまったな。


「ロンメノさぁ。どうしてトルネの問いに答えない? お前がトルネに気をやっているのなんて、今さら確認する話じゃねぇんだよ。
 トルネはこう聞いているんだ。どうして3年もの時間があって、トルネをその目で見る機会もあったのに、声すらかけず、会いにも来ずに、トルネ本人を放置したままブルガーゾなんかと交渉していたんだよって。
 トルネを愛しているっていうならさ、トルネの母親がお前を導いたっていうならさ、なんでこの家で冷遇されていたトルネを前にして、手を差し伸べずに悠長に外野と交渉なんてしてたんだよ?」

「喧しい! 部外者が余計な口を挟むな! これは私とトルネの問題だ、引っ込んでいろ!」

「やっぱり愛しのトルネの言った言葉も聞いてないじゃねぇか。悪いけどトルネは俺の嫁だ。部外者ってんならお前のほうが部外者なんだよロンメノさんよ。
 さっきからお前のことなんて、好き嫌い以前に知りもしなかったって、はっきり言われてんじゃん。俺とトルネの夫婦関係に口挟まないでくれる? 引っ込んでろよ部外者」


 ロンメノと話をしながらも警戒しているつもりだが、今のところ誰かが潜んでいる気配もない。
 そもそもロンメノが、元トルネの部屋に他人を入れるとも思えないけど。


「だから先ほどから言っているだろうが! 私はカルネジアからトルネを解放する事を優先したのだと! 決してトルネを蔑ろにしたのではないのだと!
 ネリーを奪われたときの事を繰り返すわけにはいかんのだ! トルネを奪われないように、カルネジア家との話をつけておくのは当たり前のことであろうが!」


 凄いなぁ。ガチストーカーなんて地球でも会ったことがなかったけれど、本当に話が通じないんだな。

 ロンメノさんさぁ。お前がさっきから言っているのは、お前とカルネジア家の問題でしかないんだよ。
 トルネが言いたいのは、どうしてトルネ自身と向き合わないのかってことなんだよ。

 なるほど。テロなんか起こすわけだ。
 コイツはトルネを愛しているんじゃない。
 かつてカルネジア家に奪われた婚約者を、カルネジア家から奪い返したいだけなんだ。

 そんな奴にトルネを渡すワケにはいかないな。
 もうトルネは俺の大切な家族なんだから。
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