異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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8章 異風の旋律

閑話027 新しい時代④ ※マーサルシリル視点

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 私はまず、トーマとハルの弓から作ることにした。
 この2人の弓だけ、明らかに品質が劣っているからな。
 全体の戦力強化を考えれば、弓から手をつけるのがいいと思った。

 まさか私が、グリーンドラゴンの素材を扱える日が来るなんてな……!
 あいつらが歩む新しい時代に相応しい、最高の武器を作り出してやるぜっ!

 ジーンさんに言われたように最高の設備も整えた。最早トレポール工房以上の設備と言っても過言じゃねぇ。
 まだまだ全体の増築は終わってないが、製作には何の支障もねぇ!

 異風の旋律はしばらく違う都市で活動することになったらしい。
 5日後にベイクに顔を出すと言われた。
 だったらその日までに、この弓は完成させてやらぁ!


 私の全身全霊をかけて、私の最高傑作と呼んでも差し支えない、美しい緑色の弓が完成した。
 自分で見ても惚れ惚れするような美しい弓だった。
 これなら異風の旋律に使ってもらっても恥ずかしくない出来だろうぜ!

 ……って思ってたのによぉ!!!


「ふざけんなよお前ええええええ!!!
 たった今最高傑作の装備品を作ったつもりだったってのに、あっさりそれ以上の素材を持ち込みやがってえええええ!!!
 バカなのか!!?お前バカなんだろトーマァッ!!!」


 こいつらの事は、すげぇすげぇと思っちゃいたけどよ。まさか心核を持ち込むとは思って無かったぜ……!

 しかも心核を使って武器を作れと言いやがる……!
 心核を使った装備品なんて、歴史上に何点か存在するってくらいの、伝説級の装備だってのによぉ……!


「俺からの要望はただ1つ。マーサが心核を使って作りたい装備を作ってみて欲しい。
 生きるミルズレンダと言われたマーサに出来る、最高の一品を作ってくれ」


 心核を使った装備品を作る。それがどんな意味を持つのか、多分トーマは分かってねぇ。
 心核装備を作れって事は、リヴァーブ王国の歴史に挑めってこと、神々の時代に生み出された装備品を作れと言っているのと変わらないんだぜ……!

 失敗しても咎めない? 馬鹿を言うんじゃねぇよ。
 ここまでの条件で失敗しちまうようなら、私が自分で両腕を切り落としてやりたくなるだろうぜ……!


 心核武器を使って、私に作れる最高の装備品を。
 そう言われて私が真っ先に思いついたのは、やはり剣だった。

 最も使用者が多く、それ故に常に最高品質を追求される武器。
 何のクセもなく、ただ最高品質のひと振り。私が求めたのはそんな剣だ。

 正直トーマには似合わないな。アイツ普通の武器を使ってるところが想像できねぇし。
 誰用の武器でも構わないと言われた。
 ならこれは、基本に忠実で真っ当な剣士であるシンが使う事を想定しよう。


 工房に篭っている私に、リンシアさんが夕食を運んできてくれる。
 その時に聞いた。これから異風の旋律は、迷宮の氾濫に立ち向かおうとしていると。

 アイツ……! さっき来た時にはそんなこと、一言も言わなかったじゃねぇか……!
 冒険者が力を必要としている時に、職人が力になってやれなくてどうすんだ!
 心核武器、絶対に間に合わせてみせらぁっ!


 一心不乱に鎚を振るい続け、魔力が切れたら眠り、起きたらまた鍛冶を再開する。
 時間の感覚がない。一刻も早く、最高の武器を届けねぇと……!


 そして出来上がったのは、透き通るような緑色の刃をした、美しさすら感じる剣だった。
 これを私が作り上げたなんて、信じられないくらいだぜ……。

 急いで工房を出ると、もうすぐ日没になろうという時間だった。
 氾濫が起こるのは夜とは聞いているが、渡せなかったら意味がねぇ……!

 1度自宅に寄って、ボールクローグに行ってくることをジーンさんたちに伝える。
 するとなんとリンシアさんが、ゲートの予約をしていてくれたらしい。

 恐らくマーサちゃんならそうするんじゃないかって思った、だってさ。やっぱりベイクの人たちにゃあ敵わねぇなぁ……。


 ボールクローグで運良くトーマたちと合流出来て、心緑の流刃を渡すことが出来た。
 これで異風の旋律の鍛冶師としての仕事は一旦終了だ。ここまで来たからには、ボールクローグ防衛戦の手伝いをしないとな!


 そして、魔物の氾濫が始まった。
 ボールクローグから見ていても分かるほどの量の魔物が、最前線の冒険者達に襲い掛かっているのが見えた。
 私は迷宮で戦った経験すらないから、遠くの戦いの気配にすら恐怖を感じてしまう。

 あらゆる人がスキルを覚えるために、嫌でも魔物と闘わなければならないこの世界で、魔物と戦わずに必要なスキルを取得してしまった私は、やはりズルをしていると言われても仕方ないと思う。
 戦いを知らない私を、偽物だと罵ったミルズレンダの職人達の気持ちが、少しだけ理解出来た気がする。


 どれ程の時間が経ったのか分からねぇが、魔物の波が途切れた。
 氾濫を乗り切ったのか?
 それとも、まだ何か起こるのか……?

 信じられねぇことに、ここまで死亡者が1人も居ないらしい。
 万を超える魔物に襲われて、死者が出ないなんて、あり得るのか……?
 また1つ、私の常識というものが覆されていくのを感じる。


 終わったのか、そう思い始めた時に異変が起こる。
 5つの氾濫が融合して、1体の途轍もねぇ化け物が出現しやがった……!

 リヴァーブ王国の歴史を学んだことがあれば、誰もが知るであろう伝説の魔物、白の竜王ランドビカミウリが出てきやがった……。

 全ての戦士が帰還し、街の入り口が閉ざされる。
 当然だ。あんなバケモノに対抗する手段なんてない……。


 どれくらいの時間が経ったのか、ずっと同じ場所に留まっていたランドビカミウリが、ある一点に急降下していった。
 そして一瞬空中で止まったかと思った次の瞬間、地面に墜落していった。

 ……いったい、何が起こったんだ?


 ボールクローグからでは何が起こっているのかはっきりとはわからねぇけど、どうやら誰かがランドビカミウリと交戦しているようだった。
 そして、ランドビカミウリがこちらに向かって来ていないということは、まだ戦いが続いているということだ。

 伝説上の竜王相手に、戦える奴なんて存在するのかよ……!?

 気付くと城壁の上には凄い人数がいた。
 みんな、戦いの様子を固唾を呑んで見守っている……。


 突如、夜の闇に緑の閃光が走る。
 あの緑には見覚えがある。私が打ったんだから間違いねぇ。あれは心緑の流刃の光だ。

 ……つまり、ランドビカミウリと戦っていたのは、異風の旋律だったってことか!?

 そう思い当たった瞬間、街からでもはっきり見えるほど巨大な光の帯が、天に昇っていくのが見えた。


「あれは……! あれは迷宮を殺した時に起こる、魔力還元現象だ! 間違いねぇ!
 つまり、つまり勝ったんだ!! 迷宮の氾濫は終わったんだよぉ!!!」


 どこかで冒険者が叫んでいるのが聞こえた。

 勝った……? 氾濫は終わった……?

 神々がその身を投じて封じたと言われる神代の魔物、白の竜王ランドビカミウリを、倒しちまったってのか……?


 少しずつ、まるで波紋が広がるように、街は歓声で包まれていった。
 生き残ったんだ! 助かったんだ! 勝ったんだ!

 街のあらゆる所から喜びの声が聞こえてくる。
 私はなんだか現実感がなくて、ただ呆けて光の帯を見続けるだけだった。


 爆発するような歓声がして我に帰る。
 黒い巨大な猫に引かれた馬車が、ボールクローグに帰還してきた。
 つまり、アレに乗っている奴等が、ランドビカミウリを殺した奴等だってことか……!

 街に近付いてくるにつれて、荷台のような馬車に乗っている奴等の姿も見えてくる。

 ああ、そんな予感はしてた。
 あの緑の閃光を見たときから分かっちゃいたんだけどよぉ!
 異風の旋律、お前らどんだけ私の想像を超えてくるパーティなんだよ……!!

 その時城壁の上からは、ちょうど朝日が昇ってきて、長い長い夜の終わりが告げられた。

 夜明けを見たボールクローグの住人は、耳が潰れそうなほどの喜びの声をあげた。

 万雷の喝采を浴びながら、朝日に照らされている異風の旋律を見て、私は時代が変わる瞬間に立ち会っていると確信した。

 歴史上最強とも言われる、ランドビカミウリすら退けてしまう。
 今までの常識は、木っ端微塵に粉砕されてしまった。

 爆発するような歓声が、まるで新しい時代の産声のように思えた。
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