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8章 異風の旋律
閑話023 スタンピード③ ボールクローグの守護者達 ※とある狩人視点
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「いよいよだな。死ぬんじゃねぇぞ?」
「へっ、誰に言ってやがる。お前こそヘマすんなよな」
目の前で夜空が明るく照らされる。魔物の氾濫が始まったんだ。
今ボールクローグは未曾有の危機に瀕している。
迷宮5箇所の同時氾濫。悪い冗談にも程がある。下手をすればリヴァーブ王国全土に危険が及ぶ。
俺は先日狩人になったばかりのぺーぺーも良い所だ。それでも冒険者等級は5等級。狩人としては駆け出しでも、魔物との生活で飯を食ってきたんだ。俺だって戦えらぁ!
俺はまだ狩猟団に入ってなくて、普段1人で活動している。
でも今回の防衛戦では、必ず20~30人規模の集団に属さないといけなかった。
俺のように人と組んでいない奴や、小規模の狩猟隊を寄せ集めたような、なんとも頼りない集団に参加することになってしまった。
勿論1人でいるよりもずっと安全だけどよ、こんな即席パーティで連携なんかできるのかね?
「カルネジア家のカルマと申します。皆さんの補助をさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願いします」
流石にこの集団が戦力的に厳しいと判断されたのか、カルネジア家から戦士が派遣されてきた。ありがてぇ。カルネジア家の使用人は、全員が3等級冒険者以上だという話だからな。
全員が配置に付く。
間もなくだ。間もなく万を優に超える魔物の波が押し寄せる。
正直6000人もの戦力が集まるとは思って無かった。カルネジア家も全面的に支援してくれてる。大丈夫、大丈夫だ……!
前方に照明魔法の光が打ち上げられる。地面の振動が強くなっていく。
リヴァーブ王国最大の災害、魔物の氾濫に、俺は間もなく真っ向から立ち向かうことになるんだ……。
逃げ場なんてない。戦わなきゃ殺されるだけだ。分かってる。そんなの分かってんだけどよ!
手が震える。体が強張る。汗が噴き出す。自分の心臓の音が煩すぎる……!
まるで魔物がこの鼓動に引き寄せられているんじゃねぇか、そんな妄想まで頭に湧いてきやがる……!
これから訪れる明確な死の気配に、全身から血の気が引いていく。奥歯がカチカチと音を立てる。
死にたくねぇ……。
こんなところで死にたくなんかねぇよ……!
その時、聞いたことないような、綺麗で澄んだ音が鳴り響く。
そしてその音は様々な音と重なり、1つの旋律を紡いでいく。
なんだ? この音はどこから鳴っている?
『この音は戦う者のために!』
『この歌は前に進むもののために!』
『この調べは守り助ける者のために!』
『勇気を!』
聞いたことがない女の声だった。
そして奇妙な事に、周りの人間全てにこの声は届いているようだった。
こんなでかい声の女なんているのか……?
女の声は続いていく。
段々と重ねられる音が増え、女の声も力を増していく。
この声が何を意味しているのかは分からない。
でも、この声は俺達に語りかけていることだけは、直感で分かった。
そう、この声は俺たちを鼓舞してくれている。
そして同時に、俺達に助けを求める声でもあるんだ。
共に、戦おうと……!
気付くと震えは止まっていた。
音が鳴る度、声が届く度に、俺の腹の底から何かが湧きあがってくる。
この声がなんなのかはわからねぇが、1つだけ分かることがある。
この声の主は、全然絶望なんてしてねぇってことが、音から、声から、明確に伝わってくる。
その時突然防衛線の中央付近から、眩い緑の光が放たれる。
どこか暖かく優しい、それなのに強さを感じる緑の煌き。
「お前らの背中には、ボールクローグの存亡がかかってるぜ!
これから押し寄せる魔物どもを蹴散らして、ボールクローグを守る英雄は他でも無い、お前ら自身だ!」
女の声と入れ替わりに、これまた聞いたことのない男の声が戦場に鳴り響く。
「前線都市ボールクローグの力を見せてやれ! 魔物なんかにゃ負けねぇってな!」
そうだ。俺だってボールクローグで生きてきた狩人なんだよ!
魔物を狩って飯を食ってきたんだ!
その俺が、魔物なんかに負けるわけがねぇんだよぉ!
「家族のため、友人のため、愛する人のために戦える事を誇りに思え!
行くぜみんな! 誰1人欠けることなく、明日の夜明けを拝もうじゃねぇかぁっっ!!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」
気付くと俺は叫んでいた。
声が枯れんばかりに、喉が潰れんばかりに、まるで腹の底に太陽が生まれたみてぇな気分だ!
全身に力が漲る! もう抑えきれないほどに、体が熱くて仕方ねぇ!
ギャギャギャギャギャ!!!
ようやくお出ましかぁ! レッサーゴブリンとか舐めんじゃねぇ! こちとらこれでも5等級、テメェらなんざ、何百来ようと敵にもならねぇんだよぉぉぉ!!
「うらあああああ!!」
全ての部隊が敵に向かって走り出す。
テメェらなんかに、ボールクローグを滅ぼされて堪るかよぉぉぉ!!
「っらぁぁ!!」
目に付いた魔物から手当たり次第に殺していく。
迷宮と違って死体が融けたりしねぇから、外の魔物は確実に止めを刺すことが重要だ。
たとえそれが手間であっても、実は生きていたって状況が一番危険だからな。
少しずつ違う魔物も混ざりだす。
けっ! 舐めんじゃねぇってんだ。今じゃ狩人やってっけど、こちとら20階層以上に潜った経験があるんだよぉ!
「危ないぞ! 前に出すぎるな!」
俺の最後から迫っていた魔物を、今回一緒になっただけの奴が倒してくれた。
そうだ。今の俺は1人じゃねぇ。俺もコイツも、ボーグクローグを守る戦士の1人だ。
そう思った途端、助けてもらった感謝と申し訳なさ、そしてコイツのことも絶対に死なせたくないと思えてきた。
そうだよ。俺たちは全員で生き残って明日の夜明けを向かえるんだよぉ!
「助かった! 背中を任せてもいいか!? 俺もアンタの背中を守ってみせっからよ!」
「はっ! そいつは頼もしいな! お互い生き残ったら、潰れるまで飲み明かそうぜ!」
少しずつ混ざりだした大型の魔物も、1人じゃなければ倒すのなんざ簡単だ。
ボールクローグを舐めんじゃねぇっ! 魔物なんざ逆に皆殺しにしてやらぁ!
「勝利の美酒って奴か! そいつは旨そうじゃねぇか! こりゃあ意地でも死んでやれねぇなぁ!?」
「魔物なんざ、俺たちの酒代にしてやるぜ!」
こんなに長く戦い続けたことなんてないのに、全然疲れを感じない。
今の俺は今までで一番強いって確信が持てる!
うだつの上がらねぇ狩人生活だったけど、俺、ボールクローグの狩人で良かった……!
俺が育ったボールクローグを、テメェらなんかに蹂躙されて、堪るかよぉっ!!
「へっ、誰に言ってやがる。お前こそヘマすんなよな」
目の前で夜空が明るく照らされる。魔物の氾濫が始まったんだ。
今ボールクローグは未曾有の危機に瀕している。
迷宮5箇所の同時氾濫。悪い冗談にも程がある。下手をすればリヴァーブ王国全土に危険が及ぶ。
俺は先日狩人になったばかりのぺーぺーも良い所だ。それでも冒険者等級は5等級。狩人としては駆け出しでも、魔物との生活で飯を食ってきたんだ。俺だって戦えらぁ!
俺はまだ狩猟団に入ってなくて、普段1人で活動している。
でも今回の防衛戦では、必ず20~30人規模の集団に属さないといけなかった。
俺のように人と組んでいない奴や、小規模の狩猟隊を寄せ集めたような、なんとも頼りない集団に参加することになってしまった。
勿論1人でいるよりもずっと安全だけどよ、こんな即席パーティで連携なんかできるのかね?
「カルネジア家のカルマと申します。皆さんの補助をさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願いします」
流石にこの集団が戦力的に厳しいと判断されたのか、カルネジア家から戦士が派遣されてきた。ありがてぇ。カルネジア家の使用人は、全員が3等級冒険者以上だという話だからな。
全員が配置に付く。
間もなくだ。間もなく万を優に超える魔物の波が押し寄せる。
正直6000人もの戦力が集まるとは思って無かった。カルネジア家も全面的に支援してくれてる。大丈夫、大丈夫だ……!
前方に照明魔法の光が打ち上げられる。地面の振動が強くなっていく。
リヴァーブ王国最大の災害、魔物の氾濫に、俺は間もなく真っ向から立ち向かうことになるんだ……。
逃げ場なんてない。戦わなきゃ殺されるだけだ。分かってる。そんなの分かってんだけどよ!
手が震える。体が強張る。汗が噴き出す。自分の心臓の音が煩すぎる……!
まるで魔物がこの鼓動に引き寄せられているんじゃねぇか、そんな妄想まで頭に湧いてきやがる……!
これから訪れる明確な死の気配に、全身から血の気が引いていく。奥歯がカチカチと音を立てる。
死にたくねぇ……。
こんなところで死にたくなんかねぇよ……!
その時、聞いたことないような、綺麗で澄んだ音が鳴り響く。
そしてその音は様々な音と重なり、1つの旋律を紡いでいく。
なんだ? この音はどこから鳴っている?
『この音は戦う者のために!』
『この歌は前に進むもののために!』
『この調べは守り助ける者のために!』
『勇気を!』
聞いたことがない女の声だった。
そして奇妙な事に、周りの人間全てにこの声は届いているようだった。
こんなでかい声の女なんているのか……?
女の声は続いていく。
段々と重ねられる音が増え、女の声も力を増していく。
この声が何を意味しているのかは分からない。
でも、この声は俺達に語りかけていることだけは、直感で分かった。
そう、この声は俺たちを鼓舞してくれている。
そして同時に、俺達に助けを求める声でもあるんだ。
共に、戦おうと……!
気付くと震えは止まっていた。
音が鳴る度、声が届く度に、俺の腹の底から何かが湧きあがってくる。
この声がなんなのかはわからねぇが、1つだけ分かることがある。
この声の主は、全然絶望なんてしてねぇってことが、音から、声から、明確に伝わってくる。
その時突然防衛線の中央付近から、眩い緑の光が放たれる。
どこか暖かく優しい、それなのに強さを感じる緑の煌き。
「お前らの背中には、ボールクローグの存亡がかかってるぜ!
これから押し寄せる魔物どもを蹴散らして、ボールクローグを守る英雄は他でも無い、お前ら自身だ!」
女の声と入れ替わりに、これまた聞いたことのない男の声が戦場に鳴り響く。
「前線都市ボールクローグの力を見せてやれ! 魔物なんかにゃ負けねぇってな!」
そうだ。俺だってボールクローグで生きてきた狩人なんだよ!
魔物を狩って飯を食ってきたんだ!
その俺が、魔物なんかに負けるわけがねぇんだよぉ!
「家族のため、友人のため、愛する人のために戦える事を誇りに思え!
行くぜみんな! 誰1人欠けることなく、明日の夜明けを拝もうじゃねぇかぁっっ!!」
「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」
気付くと俺は叫んでいた。
声が枯れんばかりに、喉が潰れんばかりに、まるで腹の底に太陽が生まれたみてぇな気分だ!
全身に力が漲る! もう抑えきれないほどに、体が熱くて仕方ねぇ!
ギャギャギャギャギャ!!!
ようやくお出ましかぁ! レッサーゴブリンとか舐めんじゃねぇ! こちとらこれでも5等級、テメェらなんざ、何百来ようと敵にもならねぇんだよぉぉぉ!!
「うらあああああ!!」
全ての部隊が敵に向かって走り出す。
テメェらなんかに、ボールクローグを滅ぼされて堪るかよぉぉぉ!!
「っらぁぁ!!」
目に付いた魔物から手当たり次第に殺していく。
迷宮と違って死体が融けたりしねぇから、外の魔物は確実に止めを刺すことが重要だ。
たとえそれが手間であっても、実は生きていたって状況が一番危険だからな。
少しずつ違う魔物も混ざりだす。
けっ! 舐めんじゃねぇってんだ。今じゃ狩人やってっけど、こちとら20階層以上に潜った経験があるんだよぉ!
「危ないぞ! 前に出すぎるな!」
俺の最後から迫っていた魔物を、今回一緒になっただけの奴が倒してくれた。
そうだ。今の俺は1人じゃねぇ。俺もコイツも、ボーグクローグを守る戦士の1人だ。
そう思った途端、助けてもらった感謝と申し訳なさ、そしてコイツのことも絶対に死なせたくないと思えてきた。
そうだよ。俺たちは全員で生き残って明日の夜明けを向かえるんだよぉ!
「助かった! 背中を任せてもいいか!? 俺もアンタの背中を守ってみせっからよ!」
「はっ! そいつは頼もしいな! お互い生き残ったら、潰れるまで飲み明かそうぜ!」
少しずつ混ざりだした大型の魔物も、1人じゃなければ倒すのなんざ簡単だ。
ボールクローグを舐めんじゃねぇっ! 魔物なんざ逆に皆殺しにしてやらぁ!
「勝利の美酒って奴か! そいつは旨そうじゃねぇか! こりゃあ意地でも死んでやれねぇなぁ!?」
「魔物なんざ、俺たちの酒代にしてやるぜ!」
こんなに長く戦い続けたことなんてないのに、全然疲れを感じない。
今の俺は今までで一番強いって確信が持てる!
うだつの上がらねぇ狩人生活だったけど、俺、ボールクローグの狩人で良かった……!
俺が育ったボールクローグを、テメェらなんかに蹂躙されて、堪るかよぉっ!!
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