異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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8章 異風の旋律

285 スタンピード① 異風の旋律

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 今まで街の外で伐採による視界確保や櫓の建築などを進めてくれた、いわゆる工兵っぽい働きをしてくれていた非戦闘員の皆さんが街に帰還してくる。
 魔物の到来まではかなり余裕があるという説明を徹底したおかげか、大きな混乱もなく撤収は完了した。
 お疲れ様でした。あとはゆっくり休んでてください。

 
 入れ替わりで前線を支える冒険者や狩人が出発する。特に射手は早めに移動し櫓の上で哨戒の役割りも果たしてもらう。

 悠長に歩いて移動しているが、魔物の到達まではもう少し余裕があると想定されているので、準備で焦って損耗したりすることがないように、意識してゆっくり移動する。

 避難民を入れて5万人近い人口が集まっているが、その中で前線に出て戦えると判断されたのは6000人弱といったところだ。人口比で考えると、戦える人数が予想外に多くて頼もしい。流石は誰もが例外なく迷宮に入って魔物と戦う世界の住人たちである。

 横長に4000人ほどが並び、交代要員の2000人ほどが少し後ろで散開しつつ待機する。
 両翼はブルガーゾを筆頭としたカルネジア家の戦闘部隊が担うことになっていて、担当戦域が広がろうと絶対に後ろに魔物は通すなと厳命してある。
 ま、火のカルネジア家ならそのくらいやってくれるでしょ。
 カルネジア家の戦闘部隊は250人ほどで、75人ずつ両翼に配置し、残りの100人は戦線維持のサポートだ。


 段々地面が揺れてくる。魔物の大群が近付いているんだろうな。

 かなり前方に立てられた櫓から照明魔法が放たれる。
 どうやら魔物が視認できる位置まで迫っているようだ。


 いよいよか。
 深く呼吸を繰り返し、一呼吸ごとに覚悟を決める。


「トーマ。周りの人がちょっと危うい感じだよー? 士気は高そうだけど、緊張してガチガチになっちゃってるように見えるかなー」


 リーンの声に周りを見渡すと、確かに緊張して力が入りすぎているような冒険者が多く見受けられた。
 まぁ無理もない。普段は迷宮で活動している冒険者なんかは、迷宮外での戦闘自体が初めての者も少なくないだろうから。

 とはいえこれは良くないな。普段通りの動きが出来れば問題ない者も、実力が出せずにやられてしまっては元も子もない。
 ふむ。敵の到達前にあまり魔力を消費したくはないけど、必要経費だな。


「あ……。トーマ……?」

 
 戦場に静かに流れ始める旋律。

 音魔法を最大出力。それに合わせて風魔法でも後押しして、可能な限り広範囲に音を届かせる。
 両端のカルネジア家には戦意高揚の必要など無いと信じたい。

『この音は戦う者のために!』
『この歌は前に進むもののために!』
『この調べは守り助ける者のために!』

『勇気を!』


「なんだ……?」

「これ、どっから聞こえてるんだ……?」


『この言葉は先を見据える者のために!』
『この旋律は諦めない者のために!』
『この想いは未来を切り開く者のために!』

『覚悟を!』


 音が増える。音が重なる。
 頼むぜ音楽。リンカーズの人間の心を振るわせてくれ!


『自分の内なる声を聞け』
『自分の奥から湧き上がる偽りのない想いを』
『理不尽に虐げられた痛みと苦しみを』
『これ以上許してはいけない!』


 地面の揺れが増してくる。櫓からの合図も徐々に近付いてきている。


『戦士達よ、隣人達よ』
『大切な物を守るため、私達は手を取り合うんだ』
『力を合わせて立ち向かわなければならない』
『間違った力に心折られる者がいなくなるその時まで!』


 気付くと戦場の喧騒は消え、ただ大地の震動と俺の発する旋律だけが鳴り響いている。


『もはや勝利は約束された』
『手を取り合った我々に、恐れるものなど何もない』
『これは引き裂かれることのない絶対の絆』
『一緒に行こう』
『そして目の前の脅威を打ち砕くんだ!』
『絶望と、理不尽と、自分の無力に嘆くのはもうやめよう!』


 やっぱり音魔法は楽しい。
 全く、異世界まで来てなにやってんだろうな俺は。


『前に! 前に! この先へ!』
『上に! 上に! 更なる高みへ向かって!』
『見送る貴方には分かってもらえないかもしれないけれど』
『それでも貴方を守るために、私達は武器を手に挑むんだ』

『今私達は立ち向かうんだ』
『その先にこそ望む未来があると信じて』
『私達は決して負けるわけにはいかないのだ』
『貴方と歩む、明日を掴み取るために!』


 突然地面の揺れが激しくなる。
 魔物が近付いたのかと思ったら、冒険者たちがその場で地面を蹴りつけている。
 曲を聴きながら、地面がへこむほどに、何度も踵で地面を殴りつけている。


『私達の全てを賭して立ち向かわなければ』
『決して勝利を掴むことは出来ないだろう』
『誰もが心の奥に持っている』
『最も大切な想いを忘れるな!』


「シン。心緑の流刃を思い切り掲げてくれないか」

「……え? あ、うん分かったよ」


 闇夜に在ってもその輝きを失わない、緑の煌き。


『今こそ立ち向かう時だ!』
『自分の心の叫びを信じて』
『背中に残した愛する者のために』

『我が手で勝利を掴み取れ!』


 曲の終わりに合わせて照明魔法を心緑の流刃に当てる。
 闇を切り裂く緑の光が戦場を包み込む。


「さぁ冒険者よ! 狩人よ! 戦士達よ!
 お前らの背中には、ボールクローグの存亡がかかってるぜ!
 これから押し寄せる魔物どもを蹴散らして、ボールクローグを守る英雄は他でも無い、お前ら自身だ!
 前線都市ボールクローグの力を見せてやれ! 魔物なんかにゃ負けねぇってな!
 家族のため、友人のため、愛する人のために戦える事を誇りに思え!
 行くぜみんな! 誰1人欠けることなく、明日の夜明けを拝もうじゃねぇかぁっっ!!」

「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」」


 大地を揺るがすほどの戦士達の咆哮。
 最早恐れも固さも微塵もない。あるのは魔物への闘争心だけだ。

 まるで逸る心を抑えつけるかのように、しきりに地面を蹴りつける戦士達。

 その時切り開いた森林の端から、魔物の波が姿を現した。

 さぁ開戦だ。
 魔物どもよ覚悟しろよ。

 本気になった人間の力を見せてやるぜ。
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