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8章 異風の旋律
284 開戦の狼煙
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……ん、気付いたら眠っていたようだ。
魔物の氾濫なんて大事の前だから緊張して寝れないかもなんて思ってたけど、我ながら図太くなったもんだ。
いや、寝ながらも抱きついたままの3人のおかげかな?
なんて思ってたら、ふわわとつららと一緒に寝ているタケルの姿が目に入る。
駄目だ。コイツの図太さには敵う気がしねぇ……。
タケルが寝ているうちに3人を起こして、それぞれと長く強めの口付けを交わす。
続きは氾濫を乗り切ってからな、と約束する。
なんかフラグっぽく感じるけれど、生きるための希望って大事だよね。
タケルは部屋の外では仮面を外せないので、ストレージを使って人数分の食事を部屋に運ぶ。
戦わないタケルは、氾濫が終わるまではこれ以降食事を取る機会はないかもしれない。
戦う者達は氾濫中も休めるタイミングで、軽い食事が用意されるんだけどね。
食事を済ませて外に出ると夕方だった。もうちょっと寝てても良かったかな?
非戦闘員の人たちは、最後の追い込みとばかりに忙しく動き回っている。
逃げ場がないと分かってからのみんなの協力ぶりは、本当に凄まじいものがあると思う。
これもある意味自力救済主義が生み出した行動なのかもしれないな。生き残るために、自分自身が最善を尽くす、みたいな。
冒険者ギルドの会議室に行き、作戦の最終打ち合わせをする。
打ち合わせというよりも確認かな? ここまで来たら、新しく出来ることもないし。
今回が終われば迷宮の氾濫なんて体験する機会はないだろう。せっかくド派手な演出が起こるらしいし、みんなで城壁の上に登って見学することにした。
緊張感どこいった? ま、いまさらジタバタしたってどうにもならないよな。
「トーマ! 探したぜ! 見つかって良かった!」
城壁に向かって歩いていると、なんとマーサが現れた。
「はぁ!? なんでマーサがここにいるんだよ!? 間もなくここは戦場になるんだぞ!?」
「はっ! 私はもうトーマたちと一蓮托生だからよ! 腹括って、お前らの戦いぶりをここで見させて貰おうってな!
ああ、勿論ここに来た理由はそれだけじゃないぜぇ?」
そう言って、マーサは一振りの剣を差し出した。
「心核武器、完成させてやったぜ! 銘を付けるなら『心緑の流刃』って所かな!
今回想定したのはシンの武器だぜ。トーマの武器は、悪いけど私にはまだ明確に想像出来なくてな。
剣ってのは全ての基本だし、私にとっても一番身近な装備品でもあるからよ。絶対に失敗できない今回の装備品は、基本に立ち返って、私の全身全霊を込めた一振りの剣を打つ事に決めたんだ。
受け取ってくれシン! これはお前が使うためにこの世に生まれた剣なんだ!」
そう言ってマーサはシンに心緑の流刃を差し出す。
「………………。
ありがとうマーサ。大切に使わせてもらうよ。トーマを差し置いて、僕がこんな武器を貰っていいのかって想いもあるけど、今は素直に受け取ることにする」
シンはマーサの手から恭しく剣を受け取る。
「気にすんなよシン。俺の分はまた改めて作ってもらえばいいだけだしな。
マーサ。俺って魔力成型持ってるんだけどさ。武器の見た目とか俺が見本を設計してみてもいいかな?」
「あぁ? なんでトーマがそんなスキル持ってんだよ? マジで鍛冶も始める気なのかお前?
っていうか、俺の分を改めて、ってのはどういう意味だよ? 心核はもう使っちまったぜ?」
「ああ、今回は迷宮殺しが仕事だったって言ったろ? マーサには言ってなかったけど、もう少し心核が手に入ったんだよね。
だからこの騒動が終わったら、全員分の武器を作るつもりでいて欲しいんだよね」
今何個あるんだっけ? 確か57個くらいか。
「ほ、本気かよ……!? メンバー全員が心核武器持ちのパーティなんざ、歴史上でも存在したことないハズだぜ……!?」
「今までの歴史でこれからを語っても仕方ないぜマーサ。実際、1等級冒険者のレベルも、俺から見たら思ったよりも低かったからな。
これだと5年もしたら、今の常識は全然通用しなくなるんじゃねぇかな」
これから、か。
魔物の氾濫が起きたら街が滅亡するってのも、今までの常識と言えなくもないな。
それじゃあこの騒動を犠牲なく終わらせることができれば、新しい時代の到来を予感させる最高の出来事になりうるかもしれない。
「そんでマーサ。戦いを見届けていくって事はベイクに戻る気はないんだろ?
それじゃマーサも後方支援を手伝ってくれないか? 戦闘が開始した後、装備の補修とか必要になると思うんだよね」
「ああ、そりゃ勿論構わねぇぜ! 私も役に立てるなら願ったりってもんだ!
トーマ! 大口叩いたんだからよぉ、これからを見る前に私の事を死なせるんじゃねぇぞぉ?」
「はっ、上等だよ。寿命以外で死ねると思うんじゃねぇぞ?
こんな氾濫余裕で乗り切って、新しい時代の幕開けを感じさせてやんよ」
マーサが来たのはちょっと言いたいことがなくもないが、心核武器を届けてくれたのは有り難い。
それにマーサが危険に晒されるかどうかは結局俺たち次第なわけだから、マーサに文句を言うのもお門違いか。文句があるなら俺たちが踏み止まって魔物を食い止めれば良いだけだ。
日が沈み、辺りが暗闇に包まれる。
暗視があるから問題なく視界を確保できているけど、これって一体どう言う原理なんだろうな。魔法って凄い。
静かにその時が訪れるのを待つ。
自然と会話は止まり、城壁の下の喧騒と頬を撫でる夜風の音だけが耳に届く。
そろそろかな、なんて考えていると、地面が大きく振動し、視界の先が明るく光った。
光の糸は遠見を使わないと分からない細さだったのだが、この距離から見えるくらいにはっきりと、夜空から魔力の光が輝きを持って氾濫迷宮に流れ込んでいるのが分かった。まるで光の柱だな。
これが氾濫開始の合図か。
確かにド派手で、見落とす心配はないな。
「さて、みんな頼りにさせてもらうぜ」
「心核武器なんて受け取っちゃったし、この心緑の流刃に恥じない戦いをしてみせるよ」
「先輩の私も頑張るから、みんなもがんばろうねっ」
「ふふ、今のほうがずっと絶望的な状況なのに、ハロイツァと対峙した時よりもずっと落ち着いている自分がおかしいです」
「うん。不安がないわけじゃないんだけど、みんなと一緒だからか落ち着けてるよ。
みんなが一緒でも乗り切れなかったのなら、もう仕方ないのかなって感じ?」
「ちょっと前まで、食べる事にも困ってた私が、まさかこんな場所に立っているなんて……。
怖いことは怖いけど、私でも誰かのために戦うことができるなんて、凄く嬉しいよ……!」
「はっはっはぁー! こりゃ新しい時代の幕開けに相応しい、ド派手な戦いになりそうじゃねぇか!
乗り切って見せろよトーマ? ここに居る全ての人間に、新しい時代の幕開けって奴を感じさせてくれよなぁ!」
1等級冒険者も圧倒した。迷宮殺しも達成した。
これで魔物の氾濫も乗り切れれば、リヴァーブ王国内に主だった脅威はなくなるはず。
そうなったらとうとう王国外に目を向けることが出来るようになりそうだ。
なら、こんなところで躓いちゃあいられないぜ。
魔物の氾濫なんて大事の前だから緊張して寝れないかもなんて思ってたけど、我ながら図太くなったもんだ。
いや、寝ながらも抱きついたままの3人のおかげかな?
なんて思ってたら、ふわわとつららと一緒に寝ているタケルの姿が目に入る。
駄目だ。コイツの図太さには敵う気がしねぇ……。
タケルが寝ているうちに3人を起こして、それぞれと長く強めの口付けを交わす。
続きは氾濫を乗り切ってからな、と約束する。
なんかフラグっぽく感じるけれど、生きるための希望って大事だよね。
タケルは部屋の外では仮面を外せないので、ストレージを使って人数分の食事を部屋に運ぶ。
戦わないタケルは、氾濫が終わるまではこれ以降食事を取る機会はないかもしれない。
戦う者達は氾濫中も休めるタイミングで、軽い食事が用意されるんだけどね。
食事を済ませて外に出ると夕方だった。もうちょっと寝てても良かったかな?
非戦闘員の人たちは、最後の追い込みとばかりに忙しく動き回っている。
逃げ場がないと分かってからのみんなの協力ぶりは、本当に凄まじいものがあると思う。
これもある意味自力救済主義が生み出した行動なのかもしれないな。生き残るために、自分自身が最善を尽くす、みたいな。
冒険者ギルドの会議室に行き、作戦の最終打ち合わせをする。
打ち合わせというよりも確認かな? ここまで来たら、新しく出来ることもないし。
今回が終われば迷宮の氾濫なんて体験する機会はないだろう。せっかくド派手な演出が起こるらしいし、みんなで城壁の上に登って見学することにした。
緊張感どこいった? ま、いまさらジタバタしたってどうにもならないよな。
「トーマ! 探したぜ! 見つかって良かった!」
城壁に向かって歩いていると、なんとマーサが現れた。
「はぁ!? なんでマーサがここにいるんだよ!? 間もなくここは戦場になるんだぞ!?」
「はっ! 私はもうトーマたちと一蓮托生だからよ! 腹括って、お前らの戦いぶりをここで見させて貰おうってな!
ああ、勿論ここに来た理由はそれだけじゃないぜぇ?」
そう言って、マーサは一振りの剣を差し出した。
「心核武器、完成させてやったぜ! 銘を付けるなら『心緑の流刃』って所かな!
今回想定したのはシンの武器だぜ。トーマの武器は、悪いけど私にはまだ明確に想像出来なくてな。
剣ってのは全ての基本だし、私にとっても一番身近な装備品でもあるからよ。絶対に失敗できない今回の装備品は、基本に立ち返って、私の全身全霊を込めた一振りの剣を打つ事に決めたんだ。
受け取ってくれシン! これはお前が使うためにこの世に生まれた剣なんだ!」
そう言ってマーサはシンに心緑の流刃を差し出す。
「………………。
ありがとうマーサ。大切に使わせてもらうよ。トーマを差し置いて、僕がこんな武器を貰っていいのかって想いもあるけど、今は素直に受け取ることにする」
シンはマーサの手から恭しく剣を受け取る。
「気にすんなよシン。俺の分はまた改めて作ってもらえばいいだけだしな。
マーサ。俺って魔力成型持ってるんだけどさ。武器の見た目とか俺が見本を設計してみてもいいかな?」
「あぁ? なんでトーマがそんなスキル持ってんだよ? マジで鍛冶も始める気なのかお前?
っていうか、俺の分を改めて、ってのはどういう意味だよ? 心核はもう使っちまったぜ?」
「ああ、今回は迷宮殺しが仕事だったって言ったろ? マーサには言ってなかったけど、もう少し心核が手に入ったんだよね。
だからこの騒動が終わったら、全員分の武器を作るつもりでいて欲しいんだよね」
今何個あるんだっけ? 確か57個くらいか。
「ほ、本気かよ……!? メンバー全員が心核武器持ちのパーティなんざ、歴史上でも存在したことないハズだぜ……!?」
「今までの歴史でこれからを語っても仕方ないぜマーサ。実際、1等級冒険者のレベルも、俺から見たら思ったよりも低かったからな。
これだと5年もしたら、今の常識は全然通用しなくなるんじゃねぇかな」
これから、か。
魔物の氾濫が起きたら街が滅亡するってのも、今までの常識と言えなくもないな。
それじゃあこの騒動を犠牲なく終わらせることができれば、新しい時代の到来を予感させる最高の出来事になりうるかもしれない。
「そんでマーサ。戦いを見届けていくって事はベイクに戻る気はないんだろ?
それじゃマーサも後方支援を手伝ってくれないか? 戦闘が開始した後、装備の補修とか必要になると思うんだよね」
「ああ、そりゃ勿論構わねぇぜ! 私も役に立てるなら願ったりってもんだ!
トーマ! 大口叩いたんだからよぉ、これからを見る前に私の事を死なせるんじゃねぇぞぉ?」
「はっ、上等だよ。寿命以外で死ねると思うんじゃねぇぞ?
こんな氾濫余裕で乗り切って、新しい時代の幕開けを感じさせてやんよ」
マーサが来たのはちょっと言いたいことがなくもないが、心核武器を届けてくれたのは有り難い。
それにマーサが危険に晒されるかどうかは結局俺たち次第なわけだから、マーサに文句を言うのもお門違いか。文句があるなら俺たちが踏み止まって魔物を食い止めれば良いだけだ。
日が沈み、辺りが暗闇に包まれる。
暗視があるから問題なく視界を確保できているけど、これって一体どう言う原理なんだろうな。魔法って凄い。
静かにその時が訪れるのを待つ。
自然と会話は止まり、城壁の下の喧騒と頬を撫でる夜風の音だけが耳に届く。
そろそろかな、なんて考えていると、地面が大きく振動し、視界の先が明るく光った。
光の糸は遠見を使わないと分からない細さだったのだが、この距離から見えるくらいにはっきりと、夜空から魔力の光が輝きを持って氾濫迷宮に流れ込んでいるのが分かった。まるで光の柱だな。
これが氾濫開始の合図か。
確かにド派手で、見落とす心配はないな。
「さて、みんな頼りにさせてもらうぜ」
「心核武器なんて受け取っちゃったし、この心緑の流刃に恥じない戦いをしてみせるよ」
「先輩の私も頑張るから、みんなもがんばろうねっ」
「ふふ、今のほうがずっと絶望的な状況なのに、ハロイツァと対峙した時よりもずっと落ち着いている自分がおかしいです」
「うん。不安がないわけじゃないんだけど、みんなと一緒だからか落ち着けてるよ。
みんなが一緒でも乗り切れなかったのなら、もう仕方ないのかなって感じ?」
「ちょっと前まで、食べる事にも困ってた私が、まさかこんな場所に立っているなんて……。
怖いことは怖いけど、私でも誰かのために戦うことができるなんて、凄く嬉しいよ……!」
「はっはっはぁー! こりゃ新しい時代の幕開けに相応しい、ド派手な戦いになりそうじゃねぇか!
乗り切って見せろよトーマ? ここに居る全ての人間に、新しい時代の幕開けって奴を感じさせてくれよなぁ!」
1等級冒険者も圧倒した。迷宮殺しも達成した。
これで魔物の氾濫も乗り切れれば、リヴァーブ王国内に主だった脅威はなくなるはず。
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