上 下
314 / 580
8章 異風の旋律

284 開戦の狼煙

しおりを挟む
 ……ん、気付いたら眠っていたようだ。

 魔物の氾濫なんて大事の前だから緊張して寝れないかもなんて思ってたけど、我ながら図太くなったもんだ。
 いや、寝ながらも抱きついたままの3人のおかげかな?

 なんて思ってたら、ふわわとつららと一緒に寝ているタケルの姿が目に入る。
 駄目だ。コイツの図太さには敵う気がしねぇ……。


 タケルが寝ているうちに3人を起こして、それぞれと長く強めの口付けを交わす。
 続きは氾濫を乗り切ってからな、と約束する。

 なんかフラグっぽく感じるけれど、生きるための希望って大事だよね。


 タケルは部屋の外では仮面を外せないので、ストレージを使って人数分の食事を部屋に運ぶ。
 戦わないタケルは、氾濫が終わるまではこれ以降食事を取る機会はないかもしれない。

 戦う者達は氾濫中も休めるタイミングで、軽い食事が用意されるんだけどね。


 食事を済ませて外に出ると夕方だった。もうちょっと寝てても良かったかな?

 非戦闘員の人たちは、最後の追い込みとばかりに忙しく動き回っている。
 逃げ場がないと分かってからのみんなの協力ぶりは、本当に凄まじいものがあると思う。
 これもある意味自力救済主義が生み出した行動なのかもしれないな。生き残るために、自分自身が最善を尽くす、みたいな。

 
 冒険者ギルドの会議室に行き、作戦の最終打ち合わせをする。
 打ち合わせというよりも確認かな? ここまで来たら、新しく出来ることもないし。


 今回が終われば迷宮の氾濫なんて体験する機会はないだろう。せっかくド派手な演出が起こるらしいし、みんなで城壁の上に登って見学することにした。
 緊張感どこいった? ま、いまさらジタバタしたってどうにもならないよな。


「トーマ! 探したぜ! 見つかって良かった!」


 城壁に向かって歩いていると、なんとマーサが現れた。


「はぁ!? なんでマーサがここにいるんだよ!? 間もなくここは戦場になるんだぞ!?」

「はっ! 私はもうトーマたちと一蓮托生だからよ! 腹括って、お前らの戦いぶりをここで見させて貰おうってな!
 ああ、勿論ここに来た理由はそれだけじゃないぜぇ?」


 そう言って、マーサは一振りの剣を差し出した。


「心核武器、完成させてやったぜ! 銘を付けるなら『心緑しんりょく流刃りゅうじん』って所かな!
 今回想定したのはシンの武器だぜ。トーマの武器は、悪いけど私にはまだ明確に想像出来なくてな。
 剣ってのは全ての基本だし、私にとっても一番身近な装備品でもあるからよ。絶対に失敗できない今回の装備品は、基本に立ち返って、私の全身全霊を込めた一振りの剣を打つ事に決めたんだ。
 受け取ってくれシン! これはお前が使うためにこの世に生まれた剣なんだ!」


 そう言ってマーサはシンに心緑の流刃を差し出す。


「………………。
 ありがとうマーサ。大切に使わせてもらうよ。トーマを差し置いて、僕がこんな武器を貰っていいのかって想いもあるけど、今は素直に受け取ることにする」


 シンはマーサの手から恭しく剣を受け取る。


「気にすんなよシン。俺の分はまた改めて作ってもらえばいいだけだしな。
 マーサ。俺って魔力成型持ってるんだけどさ。武器の見た目とか俺が見本を設計してみてもいいかな?」

「あぁ? なんでトーマがそんなスキル持ってんだよ? マジで鍛冶も始める気なのかお前?
 っていうか、俺の分を改めて、ってのはどういう意味だよ? 心核はもう使っちまったぜ?」

「ああ、今回は迷宮殺しが仕事だったって言ったろ? マーサには言ってなかったけど、もう少し心核が手に入ったんだよね。
 だからこの騒動が終わったら、全員分の武器を作るつもりでいて欲しいんだよね」


 今何個あるんだっけ? 確か57個くらいか。


「ほ、本気かよ……!? メンバー全員が心核武器持ちのパーティなんざ、歴史上でも存在したことないハズだぜ……!?」

「今までの歴史でこれからを語っても仕方ないぜマーサ。実際、1等級冒険者のレベルも、俺から見たら思ったよりも低かったからな。
 これだと5年もしたら、今の常識は全然通用しなくなるんじゃねぇかな」


 これから、か。
 魔物の氾濫が起きたら街が滅亡するってのも、今までの常識と言えなくもないな。
 それじゃあこの騒動を犠牲なく終わらせることができれば、新しい時代の到来を予感させる最高の出来事になりうるかもしれない。


「そんでマーサ。戦いを見届けていくって事はベイクに戻る気はないんだろ?
 それじゃマーサも後方支援を手伝ってくれないか? 戦闘が開始した後、装備の補修とか必要になると思うんだよね」

「ああ、そりゃ勿論構わねぇぜ! 私も役に立てるなら願ったりってもんだ!
 トーマ! 大口叩いたんだからよぉ、これからを見る前に私の事を死なせるんじゃねぇぞぉ?」

「はっ、上等だよ。寿命以外で死ねると思うんじゃねぇぞ?
 こんな氾濫余裕で乗り切って、新しい時代の幕開けを感じさせてやんよ」


 マーサが来たのはちょっと言いたいことがなくもないが、心核武器を届けてくれたのは有り難い。
 それにマーサが危険に晒されるかどうかは結局俺たち次第なわけだから、マーサに文句を言うのもお門違いか。文句があるなら俺たちが踏み止まって魔物を食い止めれば良いだけだ。

 日が沈み、辺りが暗闇に包まれる。
 暗視があるから問題なく視界を確保できているけど、これって一体どう言う原理なんだろうな。魔法って凄い。

 静かにその時が訪れるのを待つ。
 自然と会話は止まり、城壁の下の喧騒と頬を撫でる夜風の音だけが耳に届く。

 そろそろかな、なんて考えていると、地面が大きく振動し、視界の先が明るく光った。
 光の糸は遠見を使わないと分からない細さだったのだが、この距離から見えるくらいにはっきりと、夜空から魔力の光が輝きを持って氾濫迷宮に流れ込んでいるのが分かった。まるで光の柱だな。

 これが氾濫開始の合図か。
 確かにド派手で、見落とす心配はないな。


「さて、みんな頼りにさせてもらうぜ」

「心核武器なんて受け取っちゃったし、この心緑の流刃に恥じない戦いをしてみせるよ」

「先輩の私も頑張るから、みんなもがんばろうねっ」

「ふふ、今のほうがずっと絶望的な状況なのに、ハロイツァと対峙した時よりもずっと落ち着いている自分がおかしいです」

「うん。不安がないわけじゃないんだけど、みんなと一緒だからか落ち着けてるよ。
 みんなが一緒でも乗り切れなかったのなら、もう仕方ないのかなって感じ?」

「ちょっと前まで、食べる事にも困ってた私が、まさかこんな場所に立っているなんて……。
 怖いことは怖いけど、私でも誰かのために戦うことができるなんて、凄く嬉しいよ……!」

「はっはっはぁー! こりゃ新しい時代の幕開けに相応しい、ド派手な戦いになりそうじゃねぇか!
 乗り切って見せろよトーマ? ここに居る全ての人間に、新しい時代の幕開けって奴を感じさせてくれよなぁ!」


 1等級冒険者も圧倒した。迷宮殺しも達成した。
 これで魔物の氾濫も乗り切れれば、リヴァーブ王国内に主だった脅威はなくなるはず。

 そうなったらとうとう王国外に目を向けることが出来るようになりそうだ。
 なら、こんなところで躓いちゃあいられないぜ。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

処理中です...