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8章 異風の旋律
282 おとり作戦⑤ 裏側の動き ※シン視点
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「シンにはアイソレーションをかけるからさ。護送する馬車から大きめに距離を取りつつ追いかけて欲しいんだ」
タケルを連れて戻ってきたトーマに、僕の動きを指示される。
っておっと。タケルじゃなくてオーサンだったね。くく……。
「襲撃者対策ってことだよね。その動きに異論はないんだけど、でもそこまでする必要はあるのかな?
あの4人が揃っていれば、2等級以上の冒険者が来ても撃退できるよ?
恐らくブルガーゾくらいの実力者が混じっていても、問題ないと思うし」
「シン。これは確定じゃなくて俺の考えすぎかもしれない。だから女性陣には言ってないんだけどさ。
行方不明者ってオーサン以外にも見つかってない奴いるだろ? それがどうにも不安なんだよな」
「……言われてみれば確かに。むしろみんなに伝えなくていいのそれ? 伝えるだけでも伝えたほうがいいんじゃないの?」
ヴェルトーガでチート能力者と戦ってから、僕達はチート能力者に対抗する手段を良く話し合っている。
特にトーマは熱心で、もしも速水級の能力者と自分たちだけで向き合う場合、どうやって対抗すべきかをいつも考えている。それほどに速水の能力に脅威を感じたんだろう。
「いやぁさ。チート能力って何でもありだから不安なんだよね。
あいつらに今の話をすれば、まず確実に警戒心を持ってくれるとは思うんだけどさ。その警戒心を読み取る能力者、なんてのがいないとも断言できないのがチート能力なんだよ。
もしこちらが過剰に警戒していることを悟られれば、下手すると襲撃をやめて街に潜伏し続けるかもしれないからな。シンにだけ伝える事にしたんだ」
警戒心を読み取る能力、か……。
そんなことを言われても、全くピンとこない能力だ。
でもチート能力の非常識さは、身を持って体験してきているからね……。
リーンたちが出発する。トーマに言われたとおりに大きく距離を取って馬車を追う。
伐採が済んでいない区域に入ったら森に入り、目で追えるギリギリの距離を意識する。馬車が通る道は街道しかないので、仮に見失ってもすぐに追いつけるし。
そんなことを思っていると、どうやらリーンたちの馬車が止まってしまったみたいだ。
様子を見ていると、馬車の後ろから20人前後の集団が現れた。
どうやら釣り出し作戦には成功したようだね。
あとは問題なく撃退できるかどうか。
……だけどトーマの不安が的中してしまった。
相手に新たなチート能力者が紛れ込んでいたなんて……。
どうやらハルには能力の検討が付いているらしいけど、電気なんて聞いたこともない能力、どうやって掻い潜ればいいんだ……!?
チート能力者と対峙した場合、一番重要なのが先手必勝。相手に能力を使わせることなく制圧してしまうのが最も安全だと、トーマはよく言っている。
だけど毎回都合よく先手が取れるわけじゃない。相手に能力を使われた場合、どうするか。
トーマが言うには、チート能力そのものの性能と、チート能力を使用しない状態の相手の戦闘力を、正確に見抜くことが重要なのだそうだ。
まずは相手にこちらを殺せるだけの攻撃力はあるのか。瞬殺されないと分かったのなら、時間を稼ぎながら能力の詳細を把握していく。
どうやら今回の能力者は、身体能力や反応速度が凄まじいけど、その分攻撃力は大したことがないらしい。それでもスキルとリペアの重ねがけがあってこそ耐えられているんだけど……!
みんなが耐えながら、ハルが上手く誘導して相手の能力の詳細を聞き出していく。
レーダーっていうのが何かは分からないけれど、きっとトーマが使っている複合センサーって呼んでいる能力と似たようなものだと仮定する。
トーマ曰く、複合センサーが機能しないアイソレーションという魔法は、トーマからすると本当に恐ろしい魔法らしい。
スキルや魔法に感知を頼りきっている相手ほど、アイソレーションの有用性は跳ね上がると。
あの男ははっきりと言った。本来ありえないことを、魔法を使って実現しているのだと。
つまりあの男の感知能力は、アイソレーションを捉えることは出来ないはず。
僕たちにしか分からない合図。ふわわとつららを地面に下ろしてハルたちに見せる。
これで僕の位置がハル達に伝わるはずだ。
トーマみたいに、器用に音魔法を使えれば話は早いんだけど……!
2匹を下ろしてから、少しずつ戦闘の音がこちらに近づいてきているのが分かる。僕の位置は間違いなく伝わったらしい。
2匹ともお疲れ様。そのまま少し隠れててね。
勝機は一度きり……。僕が失敗すれば、僕たちの全滅は免れない。
絶対に、失敗するわけにはいかない……!
ハルと男の会話が続く。みんなは上手く、男が僕に背を向けるように誘導してくれた。
後は僕が覚悟を決めるだけだ……!
「じゃ、さよならだ」
「うん。さよならレンジさん」
会話が終わる。相手がみんなにトドメを刺そうと動き出す。
く、ここで行くしかないっ!
「っ!? なに!?」
僕が飛び出そうと思った瞬間、男の足元に矢が1本突き立っていた。
思わず笑みが零れる。
まったく、最高のタイミングだよ。
「うっわびびった~! どっから飛んできたんだよコレ!?
ま、残念だったねハルちゃん。かなりいい線いってたけどさ。君らの最後の切り札も」
矢を避けたと安心しきった、隙だらけの背中に瞬間加速と深層集中の同時使用で近付き、一刀で首を刎ねる。
チート能力は1人に1つだけ。そして異邦人も僕たちと体の作りは変わらない。
確実に仕留めるならば、首を刎ねるのが一番だ。
「みんな遅くなってごめんね。でも敵が森のほうに背を向けてくれるように誘導してくれて助かったよ」
みんなが散々殴られている時に、1人で隠れていたことが少し心苦しい。
「さっすが兄さん! 助かったよーっ! 私達だけだったら負けてたかなー」
「全くですよ。まさか相手に異邦人が混ざっているとは、全然想定してませんでしたね」
「うん! さっすがシン! 最高にかっこよかったよー!
なにはともあれ、ヴェルトーガの時と違って、私達の力だけでチート能力者を退けられたね!」
「え、え、ええええ~~~!!? ど、どこからが狙い通りだったの……!? いつから狙ってたの……!?
わ、私全然気付かなかったよ……!?」
「ふふふー。これが戦闘経験の差って奴だよリーネ!
先輩として、ちょっとはかっこいいところを見せられたかなー?」
「ま、最後は結局トーマに頼っちゃったけどね。
異風の旋律が一丸となって掴んだ勝利ってことで、とりあえず満足しておくことにするよ」
「……やっぱりあの矢ってトーマが放ったんですか?」
「遠見と翠緑の風の合わせ業だろうねー。
ふふ、最後まで城壁でお留守番してたんだねー。なんだかんだ言って、信用してくれたのかなっ。ふふ」
「うん。信じられない遠距離狙撃だったね……。
言っておくけど、異邦人ってトーマみたいな非常識の塊みたいな人ばっかりじゃないからね?」
「流石に音魔法で会話が拾えていたとは思えないから、恐らく僕の動きを見て矢を射ったんだろうね。
外したのも恐らくわざとだと思うよ。相手の反応速度は見えてただろうし」
「えええっ!? トーマまで連携してたの……!? もうみんな凄すぎて、私の理解が追いつかないよ……!」
トーマもふわわとつららも参加して、まさに異風の旋律の総力戦だったな。
なんとか勝利を収めることが出来て、本当に良かった。
ハルが殴られていた時は平静を保つのが辛かったけど、それでも落ち着いて行動できたのは、『精神安定』のおかげだったのかなぁ?
これで後顧の憂いは断った。
あとは魔物の氾濫を全力で叩き潰すだけだ!
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っておっと。タケルじゃなくてオーサンだったね。くく……。
「襲撃者対策ってことだよね。その動きに異論はないんだけど、でもそこまでする必要はあるのかな?
あの4人が揃っていれば、2等級以上の冒険者が来ても撃退できるよ?
恐らくブルガーゾくらいの実力者が混じっていても、問題ないと思うし」
「シン。これは確定じゃなくて俺の考えすぎかもしれない。だから女性陣には言ってないんだけどさ。
行方不明者ってオーサン以外にも見つかってない奴いるだろ? それがどうにも不安なんだよな」
「……言われてみれば確かに。むしろみんなに伝えなくていいのそれ? 伝えるだけでも伝えたほうがいいんじゃないの?」
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特にトーマは熱心で、もしも速水級の能力者と自分たちだけで向き合う場合、どうやって対抗すべきかをいつも考えている。それほどに速水の能力に脅威を感じたんだろう。
「いやぁさ。チート能力って何でもありだから不安なんだよね。
あいつらに今の話をすれば、まず確実に警戒心を持ってくれるとは思うんだけどさ。その警戒心を読み取る能力者、なんてのがいないとも断言できないのがチート能力なんだよ。
もしこちらが過剰に警戒していることを悟られれば、下手すると襲撃をやめて街に潜伏し続けるかもしれないからな。シンにだけ伝える事にしたんだ」
警戒心を読み取る能力、か……。
そんなことを言われても、全くピンとこない能力だ。
でもチート能力の非常識さは、身を持って体験してきているからね……。
リーンたちが出発する。トーマに言われたとおりに大きく距離を取って馬車を追う。
伐採が済んでいない区域に入ったら森に入り、目で追えるギリギリの距離を意識する。馬車が通る道は街道しかないので、仮に見失ってもすぐに追いつけるし。
そんなことを思っていると、どうやらリーンたちの馬車が止まってしまったみたいだ。
様子を見ていると、馬車の後ろから20人前後の集団が現れた。
どうやら釣り出し作戦には成功したようだね。
あとは問題なく撃退できるかどうか。
……だけどトーマの不安が的中してしまった。
相手に新たなチート能力者が紛れ込んでいたなんて……。
どうやらハルには能力の検討が付いているらしいけど、電気なんて聞いたこともない能力、どうやって掻い潜ればいいんだ……!?
チート能力者と対峙した場合、一番重要なのが先手必勝。相手に能力を使わせることなく制圧してしまうのが最も安全だと、トーマはよく言っている。
だけど毎回都合よく先手が取れるわけじゃない。相手に能力を使われた場合、どうするか。
トーマが言うには、チート能力そのものの性能と、チート能力を使用しない状態の相手の戦闘力を、正確に見抜くことが重要なのだそうだ。
まずは相手にこちらを殺せるだけの攻撃力はあるのか。瞬殺されないと分かったのなら、時間を稼ぎながら能力の詳細を把握していく。
どうやら今回の能力者は、身体能力や反応速度が凄まじいけど、その分攻撃力は大したことがないらしい。それでもスキルとリペアの重ねがけがあってこそ耐えられているんだけど……!
みんなが耐えながら、ハルが上手く誘導して相手の能力の詳細を聞き出していく。
レーダーっていうのが何かは分からないけれど、きっとトーマが使っている複合センサーって呼んでいる能力と似たようなものだと仮定する。
トーマ曰く、複合センサーが機能しないアイソレーションという魔法は、トーマからすると本当に恐ろしい魔法らしい。
スキルや魔法に感知を頼りきっている相手ほど、アイソレーションの有用性は跳ね上がると。
あの男ははっきりと言った。本来ありえないことを、魔法を使って実現しているのだと。
つまりあの男の感知能力は、アイソレーションを捉えることは出来ないはず。
僕たちにしか分からない合図。ふわわとつららを地面に下ろしてハルたちに見せる。
これで僕の位置がハル達に伝わるはずだ。
トーマみたいに、器用に音魔法を使えれば話は早いんだけど……!
2匹を下ろしてから、少しずつ戦闘の音がこちらに近づいてきているのが分かる。僕の位置は間違いなく伝わったらしい。
2匹ともお疲れ様。そのまま少し隠れててね。
勝機は一度きり……。僕が失敗すれば、僕たちの全滅は免れない。
絶対に、失敗するわけにはいかない……!
ハルと男の会話が続く。みんなは上手く、男が僕に背を向けるように誘導してくれた。
後は僕が覚悟を決めるだけだ……!
「じゃ、さよならだ」
「うん。さよならレンジさん」
会話が終わる。相手がみんなにトドメを刺そうと動き出す。
く、ここで行くしかないっ!
「っ!? なに!?」
僕が飛び出そうと思った瞬間、男の足元に矢が1本突き立っていた。
思わず笑みが零れる。
まったく、最高のタイミングだよ。
「うっわびびった~! どっから飛んできたんだよコレ!?
ま、残念だったねハルちゃん。かなりいい線いってたけどさ。君らの最後の切り札も」
矢を避けたと安心しきった、隙だらけの背中に瞬間加速と深層集中の同時使用で近付き、一刀で首を刎ねる。
チート能力は1人に1つだけ。そして異邦人も僕たちと体の作りは変わらない。
確実に仕留めるならば、首を刎ねるのが一番だ。
「みんな遅くなってごめんね。でも敵が森のほうに背を向けてくれるように誘導してくれて助かったよ」
みんなが散々殴られている時に、1人で隠れていたことが少し心苦しい。
「さっすが兄さん! 助かったよーっ! 私達だけだったら負けてたかなー」
「全くですよ。まさか相手に異邦人が混ざっているとは、全然想定してませんでしたね」
「うん! さっすがシン! 最高にかっこよかったよー!
なにはともあれ、ヴェルトーガの時と違って、私達の力だけでチート能力者を退けられたね!」
「え、え、ええええ~~~!!? ど、どこからが狙い通りだったの……!? いつから狙ってたの……!?
わ、私全然気付かなかったよ……!?」
「ふふふー。これが戦闘経験の差って奴だよリーネ!
先輩として、ちょっとはかっこいいところを見せられたかなー?」
「ま、最後は結局トーマに頼っちゃったけどね。
異風の旋律が一丸となって掴んだ勝利ってことで、とりあえず満足しておくことにするよ」
「……やっぱりあの矢ってトーマが放ったんですか?」
「遠見と翠緑の風の合わせ業だろうねー。
ふふ、最後まで城壁でお留守番してたんだねー。なんだかんだ言って、信用してくれたのかなっ。ふふ」
「うん。信じられない遠距離狙撃だったね……。
言っておくけど、異邦人ってトーマみたいな非常識の塊みたいな人ばっかりじゃないからね?」
「流石に音魔法で会話が拾えていたとは思えないから、恐らく僕の動きを見て矢を射ったんだろうね。
外したのも恐らくわざとだと思うよ。相手の反応速度は見えてただろうし」
「えええっ!? トーマまで連携してたの……!? もうみんな凄すぎて、私の理解が追いつかないよ……!」
トーマもふわわとつららも参加して、まさに異風の旋律の総力戦だったな。
なんとか勝利を収めることが出来て、本当に良かった。
ハルが殴られていた時は平静を保つのが辛かったけど、それでも落ち着いて行動できたのは、『精神安定』のおかげだったのかなぁ?
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