170 / 580
6章 波乱のヴェルトーガ
閑話013 夢の異世界と、現実の異世界③ ※ハル視点
しおりを挟む
「俺がいない間はシン、お前にリーダー任せていいか?」
トーマがディオーヌ様の依頼の延長で、数日間パーティを抜けることになった。残ったメンバーで、私の教育を重視して過ごすことになった。
魔装術やダガーの扱いを重点的に教わり、先日覚えさせてもらった音魔法の使い方もレクチャーしてもらった。
「でも生活魔法は、正直トーマに教えてもらった方がいいと思う。僕たちとトーマの魔法の使い方は違いすぎてね。全然真似できないんだ」
いや、それはトーマがおかしいんであって、私も同じこと出来るとは思えないよ?
宿に戻り夕食を食べ、みんな一緒の部屋で宿泊するのは継続する。トーマが居なければ、部屋を分ける必要はないもんね。
今晩から早速、リーンセンパイの読み書き講座が始まるみたい。
「ふふ。こうしてると、トーマに読み書き教えてたことを思い出すよー。トーマも読み書き出来なかったから、先輩の私が教えてあげたんだよー?」
「ま、その頃はまだ僕らは正式なパーティを組んでなかったから、ちゃんとお金を貰って、仕事として教えてたんだけどね」
「へぇ。ハルの話を聞いた今となっては納得ですけど、あのトーマが読み書きも出来なかった頃があったんですねぇ」
「うん。トーマが色々出来なかった頃って、今のトーマを見るとちょっと想像できないよね」
「トーマは本当に変わった冒険者だったよ。別の世界から来たって聞いて、逆に納得してしまったくらいにね。
僕やリーンに教えを乞うことも躊躇わないし、人と深く関わらないようにしてるみたいなのに、危なっかしくて周りの人がついつい気にしちゃうんだよね」
「そうそう!会ったばかりの私達に、自分の武器を渡しちゃったりするのよー?私と兄さんの2人がかりで襲ったらどうするつもりだったの、っていうねー」
みんなとお喋りしながらの読み書きの授業は、すっごく楽しかった。まるで、同級生と他愛もないことで盛り上がる、私の夢見ていた青春そのものだ。
その夜、トーマは宿に戻ってこなかった。おつかれさまですリーダー。
でもそのおかげで、みんなと一緒に寝るまでお喋りできて楽しかった。
次の日からはトーマ抜きで迷宮に潜って、2階層で探索を行う。
レッサーゴブリン相手に単独で戦えるようにと、何度も何度も戦わされた。でも、スキルのおかげか移動が辛くない。そして魔装術の効果が想像以上で驚いた。
魔装術無しでレッサーゴブリンにダガーを突き入れたときは、肉に刃を入れる感触が生々しく伝わってきたのに、魔装術を使って攻撃すると、まるでバターでも切るように、殆ど力も入れずに切り裂くことが出来た。
「ハルも少しずつではあるけど、戦えるようになってきたね!
トーマが初めてスキルを取ったのって、この世界にきてから50日くらい経った後みたいなんだよー。それを考えると、ハルのほうが全然成長早いよー!」
チートもなく、若返りもせず、スキルもなく、仲間も無しに、50日間もどうやって生きてたのあの人?トーマみたいな人は、日本にだってなかなか居ないはず。
その日もトーマは帰ってこなかった。缶詰めにされてるみたい。
次の日は、チャンスがあればレッサーゴブリン以外の魔物とも戦うことになった。
アーマーラットの装甲も、魔装術があれば問題なく貫けるし、みんなの動きを見ていれば、2階層の魔物の動きなんて全然遅い。
まだまだみんなのフォローが無いと戦えないけれど、魔物の命を奪うことには、あまり抵抗を感じなくなってきた気がする。
その日の夕食後、リーンセンパイの読み書き講座を受講していると、ようやくトーマが帰ってきた。
「ごめん……!とりあえず一旦寝させて……!」
そう言ってベッドに沈んでいった。お勤めご苦労様です。
リーンは読み書き講座を中断することこそなかったけど、なんだかずっとソワソワしていた。トルネを見ても同じようにソワソワしていて、なんだかおかしかった。
授業を終えるや否や、2人ともすぐにトーマのベッドに潜りこんだ。トーマを起こすわけじゃなくて、ただ一緒にいたいだけなんだろうなぁ。
なんだか2人の邪魔をしたくなくて、シンを誘って部屋を出た。
「シン。ありがとうね。みんなが居なかったら、私どうなっていたかわからないよ。もしかしたら奴隷になったり、犯罪者になっていた未来もあったかもしれない」
「いやいや。お礼をならトーマに言ってよ。ハルを助けると決めたのも、その後ハルを守ると決めたのも、全部トーマだよ。
僕は同じパーティの仲間に力を貸しただけさ」
謙遜じゃなくて、本気で言っているように見える。シンってトーマの事、大好きだもんね。
「そうかな?私が久我に捕まったときも、あいつらと戦ったときも、私を守ってくれたのはシンだったよ?訓練場で戦い方を教えてくれたのも、悩みを聞いてくれたのもシンだった。だからありがとう。
うん。なにも間違ってないよ?」
「あはは。どういたしまして。なんだかトーマと初めて会った時を思い出したよ。
僕とリーンがもう少しで命を落すところを、トーマに助けてもらったんだけどさ。トーマは『大人しく俺に奢られろ』なんて言うんだよ?
まったく、トーマやハルが居た世界は、とっても優しい人が多かったんだろうなって思ってるよ」
どうなのかな。優しい人は多かったかもしれない。でもこの世界だって、優しい人ばかりだと思う。
シンはトーマのことを話すとき、本当に嬉しそうな顔をする。
ああ、やだなぁ。なんで私は、あんな中年のおっさんに、嫉妬しちゃってるんだろう。
ふふ、嫉妬。嫉妬か。なんだか私、恋する少女みたい。
これが青春ってことなのかな?今まで体験してきてないから、良く分からない。
ただ1つ言える事は、私はシンをトーマになんかあげたくないってことだ。
「ねぇシン。私、シンのことが好きだよ」
トーマがディオーヌ様の依頼の延長で、数日間パーティを抜けることになった。残ったメンバーで、私の教育を重視して過ごすことになった。
魔装術やダガーの扱いを重点的に教わり、先日覚えさせてもらった音魔法の使い方もレクチャーしてもらった。
「でも生活魔法は、正直トーマに教えてもらった方がいいと思う。僕たちとトーマの魔法の使い方は違いすぎてね。全然真似できないんだ」
いや、それはトーマがおかしいんであって、私も同じこと出来るとは思えないよ?
宿に戻り夕食を食べ、みんな一緒の部屋で宿泊するのは継続する。トーマが居なければ、部屋を分ける必要はないもんね。
今晩から早速、リーンセンパイの読み書き講座が始まるみたい。
「ふふ。こうしてると、トーマに読み書き教えてたことを思い出すよー。トーマも読み書き出来なかったから、先輩の私が教えてあげたんだよー?」
「ま、その頃はまだ僕らは正式なパーティを組んでなかったから、ちゃんとお金を貰って、仕事として教えてたんだけどね」
「へぇ。ハルの話を聞いた今となっては納得ですけど、あのトーマが読み書きも出来なかった頃があったんですねぇ」
「うん。トーマが色々出来なかった頃って、今のトーマを見るとちょっと想像できないよね」
「トーマは本当に変わった冒険者だったよ。別の世界から来たって聞いて、逆に納得してしまったくらいにね。
僕やリーンに教えを乞うことも躊躇わないし、人と深く関わらないようにしてるみたいなのに、危なっかしくて周りの人がついつい気にしちゃうんだよね」
「そうそう!会ったばかりの私達に、自分の武器を渡しちゃったりするのよー?私と兄さんの2人がかりで襲ったらどうするつもりだったの、っていうねー」
みんなとお喋りしながらの読み書きの授業は、すっごく楽しかった。まるで、同級生と他愛もないことで盛り上がる、私の夢見ていた青春そのものだ。
その夜、トーマは宿に戻ってこなかった。おつかれさまですリーダー。
でもそのおかげで、みんなと一緒に寝るまでお喋りできて楽しかった。
次の日からはトーマ抜きで迷宮に潜って、2階層で探索を行う。
レッサーゴブリン相手に単独で戦えるようにと、何度も何度も戦わされた。でも、スキルのおかげか移動が辛くない。そして魔装術の効果が想像以上で驚いた。
魔装術無しでレッサーゴブリンにダガーを突き入れたときは、肉に刃を入れる感触が生々しく伝わってきたのに、魔装術を使って攻撃すると、まるでバターでも切るように、殆ど力も入れずに切り裂くことが出来た。
「ハルも少しずつではあるけど、戦えるようになってきたね!
トーマが初めてスキルを取ったのって、この世界にきてから50日くらい経った後みたいなんだよー。それを考えると、ハルのほうが全然成長早いよー!」
チートもなく、若返りもせず、スキルもなく、仲間も無しに、50日間もどうやって生きてたのあの人?トーマみたいな人は、日本にだってなかなか居ないはず。
その日もトーマは帰ってこなかった。缶詰めにされてるみたい。
次の日は、チャンスがあればレッサーゴブリン以外の魔物とも戦うことになった。
アーマーラットの装甲も、魔装術があれば問題なく貫けるし、みんなの動きを見ていれば、2階層の魔物の動きなんて全然遅い。
まだまだみんなのフォローが無いと戦えないけれど、魔物の命を奪うことには、あまり抵抗を感じなくなってきた気がする。
その日の夕食後、リーンセンパイの読み書き講座を受講していると、ようやくトーマが帰ってきた。
「ごめん……!とりあえず一旦寝させて……!」
そう言ってベッドに沈んでいった。お勤めご苦労様です。
リーンは読み書き講座を中断することこそなかったけど、なんだかずっとソワソワしていた。トルネを見ても同じようにソワソワしていて、なんだかおかしかった。
授業を終えるや否や、2人ともすぐにトーマのベッドに潜りこんだ。トーマを起こすわけじゃなくて、ただ一緒にいたいだけなんだろうなぁ。
なんだか2人の邪魔をしたくなくて、シンを誘って部屋を出た。
「シン。ありがとうね。みんなが居なかったら、私どうなっていたかわからないよ。もしかしたら奴隷になったり、犯罪者になっていた未来もあったかもしれない」
「いやいや。お礼をならトーマに言ってよ。ハルを助けると決めたのも、その後ハルを守ると決めたのも、全部トーマだよ。
僕は同じパーティの仲間に力を貸しただけさ」
謙遜じゃなくて、本気で言っているように見える。シンってトーマの事、大好きだもんね。
「そうかな?私が久我に捕まったときも、あいつらと戦ったときも、私を守ってくれたのはシンだったよ?訓練場で戦い方を教えてくれたのも、悩みを聞いてくれたのもシンだった。だからありがとう。
うん。なにも間違ってないよ?」
「あはは。どういたしまして。なんだかトーマと初めて会った時を思い出したよ。
僕とリーンがもう少しで命を落すところを、トーマに助けてもらったんだけどさ。トーマは『大人しく俺に奢られろ』なんて言うんだよ?
まったく、トーマやハルが居た世界は、とっても優しい人が多かったんだろうなって思ってるよ」
どうなのかな。優しい人は多かったかもしれない。でもこの世界だって、優しい人ばかりだと思う。
シンはトーマのことを話すとき、本当に嬉しそうな顔をする。
ああ、やだなぁ。なんで私は、あんな中年のおっさんに、嫉妬しちゃってるんだろう。
ふふ、嫉妬。嫉妬か。なんだか私、恋する少女みたい。
これが青春ってことなのかな?今まで体験してきてないから、良く分からない。
ただ1つ言える事は、私はシンをトーマになんかあげたくないってことだ。
「ねぇシン。私、シンのことが好きだよ」
1
お気に入りに追加
394
あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。


Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる