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6章 波乱のヴェルトーガ
148 異風の旋律の初依頼⑦ 後始末
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後から来た警備隊の人と協力して、被害者を救出する。
被害者は直ぐに魔法治療院に送られたが、回復は行われていたようなので、肉体的には怪我は見受けられなかった。
勿論、精神的は負担は計り知れないだろうけど。
転移者の女は直ぐにスキル神殿に送られ、識別を受けさせられた。
彼女のスキルは『事象復元』。
怪我をしたという事実に干渉し、怪我をした事実をなかったことにさせるという、頭のおかしい回復チートだ。
残念ながら干渉できるのは肉体のみで、被害者の記憶ごと復元したりは出来ないらしいが。
その後、ディアーヌ様も立ち会って、女への取調べが行われた。出来れば解放してほしかったけど、これも依頼のうちだと言われると、断りようがない。
女の名前は『岸本 愛莉栖』。18歳で、今年大学生になったばかり。彼女は通学中に交通事故により死亡し、ここに送られたようだ。
他の転移者とはそれまで面識はなく、転移する時に、全員初めて出会ったらしい。
転移能力者の久我。加速能力者の速水。刃物さえあれば何でも切断できる、絶対切断能力者、桐谷。空間歪曲の絶対防御能力者、渡。遠距離から消滅魔法を放つ内田。隠密能力の小木。そして事象復元の岸本の7名が、ヴェルトーガに一緒に送られてきた転移者だ。
アイテムボックス持ちや鑑定能力は居なかったか。まぁ、転移能力さえあれば、荷物持ちは必要ないと判断したのかもな。
つうか、なんでも切断できるとか、消滅魔法とか、物騒すぎて今更になって怖いわ。もし戦闘経験を積んでいたら、手がつけられなかったかもなぁ。
アジトは、内田の消滅魔法で大雑把にくりぬいて、桐谷の絶対切断で調整したらしい。
今後岸本、いやアリスは、ディオーヌ様の監視下に置かれることになった。
アリス自身には戦闘能力も野心もないが、持っている回復能力が強力すぎるのが問題だ。
今回の騒動の顛末が広まれば、身を守る術を持たないアリスは、多くの人間に狙われてしまうだろう。
ディオーヌ様も監視とは言っていたけど、実質は保護に近いだろう。アリスも犯人グループの一員ではあったが、被害者のために回復スキルを使い続けていた事は、被害者自身の口から報告されている。
そのため、ディオーヌ様も邪険に扱うのを良しとしなかったのだ。戦闘能力がないというのも大きいだろうが。
「トーマさんにお聞きします。事実ではなく、貴方個人の予想で構いません。
今回のようなことは、これで終わりだと思いますか?それとも、これは始まりに過ぎないですか?依頼主として、正直に答えるよう要求しますわ」
「……言いたくありませんが、今後起こり続けると思います。
加えて言うなら、恐らくあっちからの来訪者は、ヴェルトーガ以外の場所に、もう既に存在していると思うべきでしょうね。俺が来たのはベイク近郊でしたし、今回の転移者グループとは別に、ハルも送られて来てますし。
ヴェルトーガに来た8名が、今回リヴァーブ王国に送られた全員なのか、送られた中のヴェルトーガに送られた一部なのかは、正直判断できません」
「そして、その来訪者の殆どが、この世界では考えられない異常な能力を有しているということですね。
これは……。ヴェルトーガの騒動は治めることに成功しましたが、事はヴェルトーガだけの問題では済まないようですね。リヴァーブ王国全体が危機的な状況であると、言わざるを得ません」
だろうねぇ。勿論まともな生き方するやつだってくるだろうけど、チートを付与されるってのは本当に厄介だ。俺だって、もし始めにチートを付与されていれば、能力に溺れなかった自信はないよなぁ。
「トーマさん。事件は無事解決しましたが、もう少しだけご協力願います。
今回の件は、すぐにでも王家に報告し、王国全体で共有せねばなりません。王への謁見までさせるわけにはいきませんが、王家への報告の作成にご協力ください。今回の顛末と、今後予想される事態。そしてどう対応すべきかを、早急に話し合う必要があります。
トーマさん自身はチート能力はお持ちで無いようですので、実際に王に謁見させるのは、アリスで良いでしょう。事象復元を見せれば、チート能力がどれほどの能力か、想像しやすくなります。
アリスの身に危険が及ぶ可能性もありますが、その程度の協力はしてもらいますよ。王家に献上したりはしません。タイデリアの総力を挙げて護衛しますので、アリスも心配しないでいいわ」
「はい……。宜しくお願いします」
あー……、謁見まで求められなくて済んでラッキーだと思おう。
アリスはご愁傷様だな。でもディオーヌ様に保護してもらえたのは幸運だろう。
「あーっと、その協力は俺1人で大丈夫ですよね?異風の旋律の他のメンバーは、別行動しても構いませんか?」
「そうですね。戦闘するわけでもないし、構いませんよ」
「つうことでみんな。俺はちょっとの間、動けなくなりそうだ。出来ればその間に、ハルを鍛えておいてやってくれないかな?ハルに余裕があれば、読み書きも合わせて教えて欲しい。
俺がいない間はシン、お前にリーダー任せていいか?」
「わかった。ハルの事は僕たちに任せて。
1階層か2階層で、ハルが戦闘に慣れることを目的として潜るとするよ」
「うん。今回の件で私も、自衛の力が必要だって痛感したわ。
そんなに簡単に変われないと思うけど、それでも時間は無駄にできないよね」
俺が動けないだけで、みんなに付き合わせる必要はない。
あー、今回送られてきた奴は、ヴェルトーガにいるので全員だと良いんだけどなぁ。悪意を持った奴が、この世界の知識と力を得てしまったらと思うと、震えが止まらない。
そう意味でも、ディオーヌ様への協力は、せざるを得ないか。
なかなか厄介事ってのはなくならないね。まったくもう!
被害者は直ぐに魔法治療院に送られたが、回復は行われていたようなので、肉体的には怪我は見受けられなかった。
勿論、精神的は負担は計り知れないだろうけど。
転移者の女は直ぐにスキル神殿に送られ、識別を受けさせられた。
彼女のスキルは『事象復元』。
怪我をしたという事実に干渉し、怪我をした事実をなかったことにさせるという、頭のおかしい回復チートだ。
残念ながら干渉できるのは肉体のみで、被害者の記憶ごと復元したりは出来ないらしいが。
その後、ディアーヌ様も立ち会って、女への取調べが行われた。出来れば解放してほしかったけど、これも依頼のうちだと言われると、断りようがない。
女の名前は『岸本 愛莉栖』。18歳で、今年大学生になったばかり。彼女は通学中に交通事故により死亡し、ここに送られたようだ。
他の転移者とはそれまで面識はなく、転移する時に、全員初めて出会ったらしい。
転移能力者の久我。加速能力者の速水。刃物さえあれば何でも切断できる、絶対切断能力者、桐谷。空間歪曲の絶対防御能力者、渡。遠距離から消滅魔法を放つ内田。隠密能力の小木。そして事象復元の岸本の7名が、ヴェルトーガに一緒に送られてきた転移者だ。
アイテムボックス持ちや鑑定能力は居なかったか。まぁ、転移能力さえあれば、荷物持ちは必要ないと判断したのかもな。
つうか、なんでも切断できるとか、消滅魔法とか、物騒すぎて今更になって怖いわ。もし戦闘経験を積んでいたら、手がつけられなかったかもなぁ。
アジトは、内田の消滅魔法で大雑把にくりぬいて、桐谷の絶対切断で調整したらしい。
今後岸本、いやアリスは、ディオーヌ様の監視下に置かれることになった。
アリス自身には戦闘能力も野心もないが、持っている回復能力が強力すぎるのが問題だ。
今回の騒動の顛末が広まれば、身を守る術を持たないアリスは、多くの人間に狙われてしまうだろう。
ディオーヌ様も監視とは言っていたけど、実質は保護に近いだろう。アリスも犯人グループの一員ではあったが、被害者のために回復スキルを使い続けていた事は、被害者自身の口から報告されている。
そのため、ディオーヌ様も邪険に扱うのを良しとしなかったのだ。戦闘能力がないというのも大きいだろうが。
「トーマさんにお聞きします。事実ではなく、貴方個人の予想で構いません。
今回のようなことは、これで終わりだと思いますか?それとも、これは始まりに過ぎないですか?依頼主として、正直に答えるよう要求しますわ」
「……言いたくありませんが、今後起こり続けると思います。
加えて言うなら、恐らくあっちからの来訪者は、ヴェルトーガ以外の場所に、もう既に存在していると思うべきでしょうね。俺が来たのはベイク近郊でしたし、今回の転移者グループとは別に、ハルも送られて来てますし。
ヴェルトーガに来た8名が、今回リヴァーブ王国に送られた全員なのか、送られた中のヴェルトーガに送られた一部なのかは、正直判断できません」
「そして、その来訪者の殆どが、この世界では考えられない異常な能力を有しているということですね。
これは……。ヴェルトーガの騒動は治めることに成功しましたが、事はヴェルトーガだけの問題では済まないようですね。リヴァーブ王国全体が危機的な状況であると、言わざるを得ません」
だろうねぇ。勿論まともな生き方するやつだってくるだろうけど、チートを付与されるってのは本当に厄介だ。俺だって、もし始めにチートを付与されていれば、能力に溺れなかった自信はないよなぁ。
「トーマさん。事件は無事解決しましたが、もう少しだけご協力願います。
今回の件は、すぐにでも王家に報告し、王国全体で共有せねばなりません。王への謁見までさせるわけにはいきませんが、王家への報告の作成にご協力ください。今回の顛末と、今後予想される事態。そしてどう対応すべきかを、早急に話し合う必要があります。
トーマさん自身はチート能力はお持ちで無いようですので、実際に王に謁見させるのは、アリスで良いでしょう。事象復元を見せれば、チート能力がどれほどの能力か、想像しやすくなります。
アリスの身に危険が及ぶ可能性もありますが、その程度の協力はしてもらいますよ。王家に献上したりはしません。タイデリアの総力を挙げて護衛しますので、アリスも心配しないでいいわ」
「はい……。宜しくお願いします」
あー……、謁見まで求められなくて済んでラッキーだと思おう。
アリスはご愁傷様だな。でもディオーヌ様に保護してもらえたのは幸運だろう。
「あーっと、その協力は俺1人で大丈夫ですよね?異風の旋律の他のメンバーは、別行動しても構いませんか?」
「そうですね。戦闘するわけでもないし、構いませんよ」
「つうことでみんな。俺はちょっとの間、動けなくなりそうだ。出来ればその間に、ハルを鍛えておいてやってくれないかな?ハルに余裕があれば、読み書きも合わせて教えて欲しい。
俺がいない間はシン、お前にリーダー任せていいか?」
「わかった。ハルの事は僕たちに任せて。
1階層か2階層で、ハルが戦闘に慣れることを目的として潜るとするよ」
「うん。今回の件で私も、自衛の力が必要だって痛感したわ。
そんなに簡単に変われないと思うけど、それでも時間は無駄にできないよね」
俺が動けないだけで、みんなに付き合わせる必要はない。
あー、今回送られてきた奴は、ヴェルトーガにいるので全員だと良いんだけどなぁ。悪意を持った奴が、この世界の知識と力を得てしまったらと思うと、震えが止まらない。
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