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6章 波乱のヴェルトーガ
124 タイデリア・ディオーヌ
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「それではお呼びするまでこちらでお寛ぎください」
ああこれ見たことある。自分が呼びつけておいて待たされる奴だ。
現代日本人的に考えると、いくらお偉いさんでも時間くらい守れよと思わなくもないが、そもそも時計すらないリンカーズでは時間を合わせるのは難しいんだよな。
約束をしても、基本的にどっちかは待たなきゃいけないのが面倒なところだ。
「お嬢様がお会いになるそうです。どうぞこちらへ」
1時間くらい待たされて、ようやくお呼びがかかった。
っていうか自分が呼びつけといて、お会いになるもないと思うんだけどなぁ。
それにしても、当主なのにお嬢様って呼ばれてるのか。
まぁ当主は20代とか言ってたし、この人は古くから仕えてる人なんだろきっと。
「こちらで御座います。お嬢様、お客様をお連れしました」
「お通ししなさい」
案内された部屋の中から若い女性の声で返事が聞こえた。
普通に考えて、今のが当主の声だろう。いよいよご対面か。
部屋に通されると、正面に若い女性が立っていた。
髪は透き通るような空色、いやこの場合は水の色と言うべきか。
冗談みたいな美人ではあるが、獣人や亜人のような特徴は見られない。人種なのか?
「この度は急な招待に応じて頂き感謝します。
私が四大精霊家が一つ、水のタイデリア家当主、『タイデリア・ディオーヌ』です。
初めまして。異風の旋律のみなさん」
ディオーヌは微笑んでいる。カーテシーみたいなのは無いのかな?
まぁ6等級冒険者なんて敬意を払う相手でもないか。
「初めまして。俺は異風の旋律のリーダーみたいなことをさせてもらっているトーマと言います。
何分貴族の方と話す機会など無いもので、多少の礼儀知らずには目を瞑って貰えると助かります」
「ええ、勿論構いません。むしろトーマさんは冒険者にしては礼儀を弁えているほうだと思いますよ。
さぁ立ち話もなんですしこちらへどうぞ」
ディオーヌに促されてソファまで移動する。
ディオーヌが先に座って「どうぞ」と声をかけられてから座ったが、他の皆は誰も座らなくてちょっと焦る。
……もしかして俺、やっちゃいました?
「どうぞ皆さんもお掛けになって」
再度ディオーヌが着席を促し、みんなも座った。いやぁ地味にビビった。
どうやら俺、やってなかったっぽい。
「さて、早速私が皆さんをお招きした理由を語らせてもらって良いですか」
「お願いします。当主様とは誰もお会いしたことはなかったはずですが」
単刀直入に切り込んできたな。
まぁ長話する価値なんてお互いにないだろう。
「私のことはどうぞディオーヌとお呼び下さい。
先日の話になりますが、私はベイクにて哀れな犯罪奴隷が販売されるという話を耳にして、ベイクに使いを出しました。
願わくば、私が彼に救いの手を差し伸べてあげられたら、と」
…………やっぱりここに来たのは迂闊だったか?
シンとリーンを買いに来た、ハロイツァとは別の勢力ってタイデリア家だったのか。
「ですが私の想いも空しく、彼はもう売却されたと聞きました。
そこでどんな人が購入したのか調べさせたところ、トーマさんに辿り着きました」
「……そう、ですね。私が二人を購入しました」
返答することで先を促す。
「勝手ではありましたが、その後皆さんを遠くから見守らせていただきました。
犯罪奴隷に対して冷遇することもなく、人として誠意ある扱いをしていたと報告を受けております」
「は、はぁ。ありがとうございます……?」
「その後、あのカルネジア家の馬鹿息子が襲ってきた時も、奴隷を守ってハロイツァを退けてしまったと聞いたときは興奮しましたわ。あの馬鹿はいい気味というものです」
なんかハロイツァっていっつも嫌われてんな。
「ハロイツァを退けたことで、彼は犯罪奴隷からは解放され、また冒険者として活動できるようになったと聞いております。
そうして結成されたのが異風の旋律だと」
「そうですね。間違ってないです」
「こうして哀れな犯罪奴隷は解放され、新たな道を歩むことが出来たのです。
私が手を差し伸べるべき哀れな少年は、トーマさんの手によって救われた。
私が手を差し伸べて救わなければいけない少年はいなくなりました」
「……そ、そうですね?」
なんか雲行きが怪しくなってきたような……。
「トーマさん。私は少年が好きなのです。少年にしか欲情しないと言ってもいい。
だからたとえもう救いの手は必要ないとしても、私は私の衝動に従って、彼に問います!」
あ、この人ヤベーヤツだ。お巡りさんこの人です。
「シンくん!貴方はもう救われてしまったかもしれません!
ですがそれとは関係なく、私の元に来て私に愛されてくれませんか!?」
「いえお気持ちだけで充分です」
一刀両断かよ!シン容赦ないな!
ってか大貴族からの求愛ってこんな簡単に断っていいもんなの?
「はぁ~~~~~~………………。
まぁ……、そうなりますよね……。もう不幸じゃないんだから……。
犯罪奴隷から救った恩を盾に、絶望の淵にいるシンくんを慰めて愛してあげたかったのに……」
なんか微妙に怖いこと言ってる。
「まぁ仕方ありませんね。本人の意思を無視するわけにはいきませんし、愛すべき少年を自らの手で不幸にするわけにもいきません。
シンくんのことは残念ですが、縁がなかったと思いましょう」
あ、あれ?意外と話が分かる人?
紳士なの?変態という名の紳士なの?
「無理矢理お呼び立てしてしまったことですし、ヴェルトーガを案内させましょう。
流石に屋敷にお泊めする事は出来ませんが、街の宿を用意します。
皆さんは冒険者ですし、ヴェルトーガの迷宮にも入ってみては如何かしら。
ここの迷宮は、比較的空間魔法のスクロールが出現しやすいと言われていますの。
ベイクへお帰りの際は、また当家の冒険者に送らせますので」
シンの貞操の危機かと思ったら一転、ただの旅行になってしまった。
一発逆転にも程がある。
ディオーヌ様も、貴族家だけあって?大分ぶっ飛んだ方ではあったものの、ハロイツァのアホと違って相手を思いやれる変態で良かった。
どんな変態でも、他人様に迷惑をかけなければ許される……はず。多分。
ああこれ見たことある。自分が呼びつけておいて待たされる奴だ。
現代日本人的に考えると、いくらお偉いさんでも時間くらい守れよと思わなくもないが、そもそも時計すらないリンカーズでは時間を合わせるのは難しいんだよな。
約束をしても、基本的にどっちかは待たなきゃいけないのが面倒なところだ。
「お嬢様がお会いになるそうです。どうぞこちらへ」
1時間くらい待たされて、ようやくお呼びがかかった。
っていうか自分が呼びつけといて、お会いになるもないと思うんだけどなぁ。
それにしても、当主なのにお嬢様って呼ばれてるのか。
まぁ当主は20代とか言ってたし、この人は古くから仕えてる人なんだろきっと。
「こちらで御座います。お嬢様、お客様をお連れしました」
「お通ししなさい」
案内された部屋の中から若い女性の声で返事が聞こえた。
普通に考えて、今のが当主の声だろう。いよいよご対面か。
部屋に通されると、正面に若い女性が立っていた。
髪は透き通るような空色、いやこの場合は水の色と言うべきか。
冗談みたいな美人ではあるが、獣人や亜人のような特徴は見られない。人種なのか?
「この度は急な招待に応じて頂き感謝します。
私が四大精霊家が一つ、水のタイデリア家当主、『タイデリア・ディオーヌ』です。
初めまして。異風の旋律のみなさん」
ディオーヌは微笑んでいる。カーテシーみたいなのは無いのかな?
まぁ6等級冒険者なんて敬意を払う相手でもないか。
「初めまして。俺は異風の旋律のリーダーみたいなことをさせてもらっているトーマと言います。
何分貴族の方と話す機会など無いもので、多少の礼儀知らずには目を瞑って貰えると助かります」
「ええ、勿論構いません。むしろトーマさんは冒険者にしては礼儀を弁えているほうだと思いますよ。
さぁ立ち話もなんですしこちらへどうぞ」
ディオーヌに促されてソファまで移動する。
ディオーヌが先に座って「どうぞ」と声をかけられてから座ったが、他の皆は誰も座らなくてちょっと焦る。
……もしかして俺、やっちゃいました?
「どうぞ皆さんもお掛けになって」
再度ディオーヌが着席を促し、みんなも座った。いやぁ地味にビビった。
どうやら俺、やってなかったっぽい。
「さて、早速私が皆さんをお招きした理由を語らせてもらって良いですか」
「お願いします。当主様とは誰もお会いしたことはなかったはずですが」
単刀直入に切り込んできたな。
まぁ長話する価値なんてお互いにないだろう。
「私のことはどうぞディオーヌとお呼び下さい。
先日の話になりますが、私はベイクにて哀れな犯罪奴隷が販売されるという話を耳にして、ベイクに使いを出しました。
願わくば、私が彼に救いの手を差し伸べてあげられたら、と」
…………やっぱりここに来たのは迂闊だったか?
シンとリーンを買いに来た、ハロイツァとは別の勢力ってタイデリア家だったのか。
「ですが私の想いも空しく、彼はもう売却されたと聞きました。
そこでどんな人が購入したのか調べさせたところ、トーマさんに辿り着きました」
「……そう、ですね。私が二人を購入しました」
返答することで先を促す。
「勝手ではありましたが、その後皆さんを遠くから見守らせていただきました。
犯罪奴隷に対して冷遇することもなく、人として誠意ある扱いをしていたと報告を受けております」
「は、はぁ。ありがとうございます……?」
「その後、あのカルネジア家の馬鹿息子が襲ってきた時も、奴隷を守ってハロイツァを退けてしまったと聞いたときは興奮しましたわ。あの馬鹿はいい気味というものです」
なんかハロイツァっていっつも嫌われてんな。
「ハロイツァを退けたことで、彼は犯罪奴隷からは解放され、また冒険者として活動できるようになったと聞いております。
そうして結成されたのが異風の旋律だと」
「そうですね。間違ってないです」
「こうして哀れな犯罪奴隷は解放され、新たな道を歩むことが出来たのです。
私が手を差し伸べるべき哀れな少年は、トーマさんの手によって救われた。
私が手を差し伸べて救わなければいけない少年はいなくなりました」
「……そ、そうですね?」
なんか雲行きが怪しくなってきたような……。
「トーマさん。私は少年が好きなのです。少年にしか欲情しないと言ってもいい。
だからたとえもう救いの手は必要ないとしても、私は私の衝動に従って、彼に問います!」
あ、この人ヤベーヤツだ。お巡りさんこの人です。
「シンくん!貴方はもう救われてしまったかもしれません!
ですがそれとは関係なく、私の元に来て私に愛されてくれませんか!?」
「いえお気持ちだけで充分です」
一刀両断かよ!シン容赦ないな!
ってか大貴族からの求愛ってこんな簡単に断っていいもんなの?
「はぁ~~~~~~………………。
まぁ……、そうなりますよね……。もう不幸じゃないんだから……。
犯罪奴隷から救った恩を盾に、絶望の淵にいるシンくんを慰めて愛してあげたかったのに……」
なんか微妙に怖いこと言ってる。
「まぁ仕方ありませんね。本人の意思を無視するわけにはいきませんし、愛すべき少年を自らの手で不幸にするわけにもいきません。
シンくんのことは残念ですが、縁がなかったと思いましょう」
あ、あれ?意外と話が分かる人?
紳士なの?変態という名の紳士なの?
「無理矢理お呼び立てしてしまったことですし、ヴェルトーガを案内させましょう。
流石に屋敷にお泊めする事は出来ませんが、街の宿を用意します。
皆さんは冒険者ですし、ヴェルトーガの迷宮にも入ってみては如何かしら。
ここの迷宮は、比較的空間魔法のスクロールが出現しやすいと言われていますの。
ベイクへお帰りの際は、また当家の冒険者に送らせますので」
シンの貞操の危機かと思ったら一転、ただの旅行になってしまった。
一発逆転にも程がある。
ディオーヌ様も、貴族家だけあって?大分ぶっ飛んだ方ではあったものの、ハロイツァのアホと違って相手を思いやれる変態で良かった。
どんな変態でも、他人様に迷惑をかけなければ許される……はず。多分。
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