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5章 カルネジア・ハロイツァ
閑話009 納得できない婚約解消 ※?視点
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「これは、これは一体どういうことなのだっ!!」
思わず持っていた書簡を投げ捨ててしまう。
私のあまりの剣幕に、部屋の隅で控えている侍女が「ひっ」と小さく悲鳴を上げたのが聞こえる。
「旦那様!?いかがされました!?一体どのような内容が……!」
書簡を部屋まで届けてくれた執事が驚いている。
「……内容を確かめることを許す。読んでみるが良い」
く、ついカッとなってしまったが、ここで喚いていても仕方がない。
まずは何が起こったのか、事実確認をしなければ……!
くそっ!一体なにが起きたというのだ!?
「こ、これは……、婚約解消!?
そそ、それに、理由がなにも書かれておりません……!」
「その通り。当家の都合によるとの一点張りだ。
直接出向いて話をしにいくしかあるまい。
先触れと外出の準備を頼む」
書簡などで煩わしいやり取りをしている場合ではない!
なにが当家の都合だ!こんな紙切れで、納得できるものか!
外出の準備をしながら、彼女を初めて目にした日のことを思い出す。
私が彼女を見初めて、もう3年ほどになる。
初めて見たとき彼女にはまだ幼さが残っていたが、母親譲りの美貌は、既に花開いていた。
その頃から婚約を打診していたのだが、年齢差もあってか、なかなか色よい返事を貰えなかった。
それでも私は諦めず、あらゆる手を尽くして彼女を求めた。
私はかつて、彼女の母親のことが好きだった。
幼い頃から家族ぐるみで付き合いのあった私達は、一緒にいるのが自然だと感じられるほど、お互いが大切な存在だった。
このまま2人で生涯を共に歩んでいくのだと、信じて疑わなかった。
だがしかし、そんな未来はある日突然奪われた。
私達が13歳になったとき、彼女の美しさに目を留めたとある貴族が、彼女との婚約を求めたのだ。
私と彼女は、何度も両親を説得した。
この話は断るべきだと。
彼女の幸せを願うなら断って欲しい!と。
しかし私達の願いも空しく、彼女は嫁いでいってしまった。
翌年に彼女が出産したと聞いたときは、気が触れるかと思うほどの怒りを覚えた。
私達の両親がこの婚約を断れなかったのは、今考えれば仕方ない。
なにせ相手は精霊家の1つだ。
我が家のような弱小貴族が、不興を買うわけにはいかなかったのだろう。
それでも私は、私の両親のことも、彼女の両親のことも、彼女を奪い去っていった相手も、それを止めることが出来なかった無力な私自身のことも、何一つ許すことが出来なかった。
彼女を奪っていった相手は、まるで賠償でもするかのように、私達の家に様々な便宜を図るようになった。
くだらない。くだらないくだらないくだらない!
僕が求めていたのは彼女との未来だけだ!
これではまるで、彼女は売られていったかのようではないか!
怒りで頭がおかしくなりそうではあったが、それでも何とか正気を保ち、私は相手のこの計らいを利用することにした。
何年かかってでも、既に私のものでなかったとしても。
せめて彼女をあの家から、救い出してみせる!
気がつけば10代はとうに過ぎ、20代も彼女の居場所を探っているうちに、過ぎ去っていった。
両親を含めた家中の者は、私に縁談などを持ってくることが増えたが、そのあまりの馬鹿馬鹿しさに、いちいち取り合うことすら面倒になっていった。
私が24の時、またしても彼女が子供を産んだと伝え聞いた。
私のせいだ。
私が早く彼女を連れ出せていれば、2度も彼女に、あの家の子供などを産ませずに済んだのに……。
気付くと私は30歳を超えていた。
もし彼女を取り戻しても、もう子供を作れる歳ではないかも知れない。
それでもいい。彼女と共に歩めるだけでいいんだ。
そんな私を嘲笑うかのように、私が34歳になったとき、彼女の両親から、彼女の訃報が届けられた。
もう彼女がこの世にいない。
その現実が……、受け入れられなかった。
私の両親は、彼女の死をきっかけに、私に縁談を勧め続けてきたが、私には彼女以外の相手など考えられない。
私が不満なら養子でも取れと、両親とはそれきり会っていない。
私に残されたのは、彼女を奪った相手に対する復讐だけだった。
彼女を探し、相手に信用されるためだけに私は仕事に打ち込み、家は大きくなっていた。
家の繁栄など、私には何の価値もないが。
私が37になったとき、ようやく彼女が囚われていた家を見つけることが出来た。
もう彼女はこの世にいない。
それでも彼女の何かが残っていればと、私はその家に用事を作り、行ってみることにした。
その家で私は運命と出会った。
まるで私から去った当時の彼女が、そこに立っているかのようだった。
聞けばこの娘は、今は亡きこの家の女主人の第二子であり、長女だという。
……間違いない。彼女の娘だ!
私はこれを運命だと信じて疑わなかった。
彼女を助ける事は出来なかったが、彼女の娘をこの家から解放することこそが、私の使命なのだと。
彼女の長男も見るには見たが、まるで相手の血だけを受け継ぎ、彼女の血が一切入っていないのではないかと疑ってしまうような、あまりにも醜い生き物だった。
たとえ彼女の子供であろうと、こんな男に関わる義理はない。
私は20年あまりをかけてカルネジア家に取り入り、もはや精霊家ですら無視できない影響力を持つに至った。
そうして得た力を全て使って、私は彼女の娘をこの家から解放しようと、婚約を打診し続けた。
お前が彼女を奪ったように、この娘は俺がお前から奪い取って見せる。
数年の交渉が実を結び、とうとうカルネジア家のほうが折れることになった。
ここに至るまで、決して短い道のりでもなかった。苦難の連続だった。
それがついに報われたのだ。私はついに、カルネジア家に勝利することが出来たのだ!
それを今更、なんの理由も告げずに解消だと?
たとえ四大精霊家であろうと、やって良い事と悪い事はある。
2度も私から彼女を奪うような真似は、絶対に、許さない……。
カルネジアを滅ぼしてでも、私は彼女を手に入れてみせる。
待っていてくれ。私の愛しいトルネ。
カルネジアなど瞬く間に捻じ伏せて、君をカルネジアの家から救い出してみせるよ。
君のお母さんに届けられなかった分、君を2人分愛すると誓う。
……そのためにはカルネジア家、邪魔だよなぁ?
思わず持っていた書簡を投げ捨ててしまう。
私のあまりの剣幕に、部屋の隅で控えている侍女が「ひっ」と小さく悲鳴を上げたのが聞こえる。
「旦那様!?いかがされました!?一体どのような内容が……!」
書簡を部屋まで届けてくれた執事が驚いている。
「……内容を確かめることを許す。読んでみるが良い」
く、ついカッとなってしまったが、ここで喚いていても仕方がない。
まずは何が起こったのか、事実確認をしなければ……!
くそっ!一体なにが起きたというのだ!?
「こ、これは……、婚約解消!?
そそ、それに、理由がなにも書かれておりません……!」
「その通り。当家の都合によるとの一点張りだ。
直接出向いて話をしにいくしかあるまい。
先触れと外出の準備を頼む」
書簡などで煩わしいやり取りをしている場合ではない!
なにが当家の都合だ!こんな紙切れで、納得できるものか!
外出の準備をしながら、彼女を初めて目にした日のことを思い出す。
私が彼女を見初めて、もう3年ほどになる。
初めて見たとき彼女にはまだ幼さが残っていたが、母親譲りの美貌は、既に花開いていた。
その頃から婚約を打診していたのだが、年齢差もあってか、なかなか色よい返事を貰えなかった。
それでも私は諦めず、あらゆる手を尽くして彼女を求めた。
私はかつて、彼女の母親のことが好きだった。
幼い頃から家族ぐるみで付き合いのあった私達は、一緒にいるのが自然だと感じられるほど、お互いが大切な存在だった。
このまま2人で生涯を共に歩んでいくのだと、信じて疑わなかった。
だがしかし、そんな未来はある日突然奪われた。
私達が13歳になったとき、彼女の美しさに目を留めたとある貴族が、彼女との婚約を求めたのだ。
私と彼女は、何度も両親を説得した。
この話は断るべきだと。
彼女の幸せを願うなら断って欲しい!と。
しかし私達の願いも空しく、彼女は嫁いでいってしまった。
翌年に彼女が出産したと聞いたときは、気が触れるかと思うほどの怒りを覚えた。
私達の両親がこの婚約を断れなかったのは、今考えれば仕方ない。
なにせ相手は精霊家の1つだ。
我が家のような弱小貴族が、不興を買うわけにはいかなかったのだろう。
それでも私は、私の両親のことも、彼女の両親のことも、彼女を奪い去っていった相手も、それを止めることが出来なかった無力な私自身のことも、何一つ許すことが出来なかった。
彼女を奪っていった相手は、まるで賠償でもするかのように、私達の家に様々な便宜を図るようになった。
くだらない。くだらないくだらないくだらない!
僕が求めていたのは彼女との未来だけだ!
これではまるで、彼女は売られていったかのようではないか!
怒りで頭がおかしくなりそうではあったが、それでも何とか正気を保ち、私は相手のこの計らいを利用することにした。
何年かかってでも、既に私のものでなかったとしても。
せめて彼女をあの家から、救い出してみせる!
気がつけば10代はとうに過ぎ、20代も彼女の居場所を探っているうちに、過ぎ去っていった。
両親を含めた家中の者は、私に縁談などを持ってくることが増えたが、そのあまりの馬鹿馬鹿しさに、いちいち取り合うことすら面倒になっていった。
私が24の時、またしても彼女が子供を産んだと伝え聞いた。
私のせいだ。
私が早く彼女を連れ出せていれば、2度も彼女に、あの家の子供などを産ませずに済んだのに……。
気付くと私は30歳を超えていた。
もし彼女を取り戻しても、もう子供を作れる歳ではないかも知れない。
それでもいい。彼女と共に歩めるだけでいいんだ。
そんな私を嘲笑うかのように、私が34歳になったとき、彼女の両親から、彼女の訃報が届けられた。
もう彼女がこの世にいない。
その現実が……、受け入れられなかった。
私の両親は、彼女の死をきっかけに、私に縁談を勧め続けてきたが、私には彼女以外の相手など考えられない。
私が不満なら養子でも取れと、両親とはそれきり会っていない。
私に残されたのは、彼女を奪った相手に対する復讐だけだった。
彼女を探し、相手に信用されるためだけに私は仕事に打ち込み、家は大きくなっていた。
家の繁栄など、私には何の価値もないが。
私が37になったとき、ようやく彼女が囚われていた家を見つけることが出来た。
もう彼女はこの世にいない。
それでも彼女の何かが残っていればと、私はその家に用事を作り、行ってみることにした。
その家で私は運命と出会った。
まるで私から去った当時の彼女が、そこに立っているかのようだった。
聞けばこの娘は、今は亡きこの家の女主人の第二子であり、長女だという。
……間違いない。彼女の娘だ!
私はこれを運命だと信じて疑わなかった。
彼女を助ける事は出来なかったが、彼女の娘をこの家から解放することこそが、私の使命なのだと。
彼女の長男も見るには見たが、まるで相手の血だけを受け継ぎ、彼女の血が一切入っていないのではないかと疑ってしまうような、あまりにも醜い生き物だった。
たとえ彼女の子供であろうと、こんな男に関わる義理はない。
私は20年あまりをかけてカルネジア家に取り入り、もはや精霊家ですら無視できない影響力を持つに至った。
そうして得た力を全て使って、私は彼女の娘をこの家から解放しようと、婚約を打診し続けた。
お前が彼女を奪ったように、この娘は俺がお前から奪い取って見せる。
数年の交渉が実を結び、とうとうカルネジア家のほうが折れることになった。
ここに至るまで、決して短い道のりでもなかった。苦難の連続だった。
それがついに報われたのだ。私はついに、カルネジア家に勝利することが出来たのだ!
それを今更、なんの理由も告げずに解消だと?
たとえ四大精霊家であろうと、やって良い事と悪い事はある。
2度も私から彼女を奪うような真似は、絶対に、許さない……。
カルネジアを滅ぼしてでも、私は彼女を手に入れてみせる。
待っていてくれ。私の愛しいトルネ。
カルネジアなど瞬く間に捻じ伏せて、君をカルネジアの家から救い出してみせるよ。
君のお母さんに届けられなかった分、君を2人分愛すると誓う。
……そのためにはカルネジア家、邪魔だよなぁ?
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