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5章 カルネジア・ハロイツァ
103 持ち込まれた提案
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「ご無沙汰しておりますトルネ様。
順調に腕を磨かれているようで、私も嬉しく思います」
「は、はい。カルマさんもお元気そうで何よりです……?」
「ふふ、トルネ様は相変わらずのご様子。
一介の使用人に過ぎない私のことなど、呼び捨てて頂いても構わないのですが」
カルマさん、ね。一介の使用人にしては、随分と腕が立ちそうだ。
敵意や戦意はおろか、こちらを警戒しているそぶりすら見せない。
恐らく常在戦場が定着しすぎて、臨戦態勢が自然体になっちゃってる系の人だなこれは。
「カルマさん、で良かったか?
俺の名はトーマ。7等級冒険者だ。知ってるだろうけどな。
アンタの言う提案ってヤツが、物騒な内容でないことを願いたいところだ」
「これはこれは。私としたことが、挨拶が遅れてしまい申し訳御座いません。
はい。私、カルネジア家の当代様にお仕えさせて頂いております、『カルマ』と申します。
皆様の事はお察しの通り、既に存じておりますゆえ、自己紹介の必要は御座いませんぞ」
などと言いながら、俺にウィンクを飛ばしてくる。
こっちにもウィンクの文化あるのか。
ふむ、抜かりなく仕事が出来て、頼まれた以上の成果を出しつつも、親しみやすさや気楽さも感じるような、まさに理想の執事像って感じの人だな。
敵対関係にさえなければ、素直にそう思うんだけど。
「ふふ、そう警戒なさらずとも大丈夫です。私は皆様と敵対する意思は御座いません。
ただ、このまま話を続けていると、流石にカルネジアの血を色濃く継いだハロイツァ様といえども、命を落としかねません。
どうか話より先に、ハロイツァ様に治療を施させて頂けませんでしょうか?」
ハロイツァの治療か。
……かなりリスキーな内容ではあるが、余力のない俺たちでは、カルマさん1人にすら蹴散らされることだろう。
俺たちの事を無視して治療しても良い場面で、わざわざ俺たちにお伺いを立てている。
敵対の意思は無いという言葉に、ある程度信憑性は感じられる……、か?
1度カルマさんから視線を外し、仲間達と目を合わせる。
みんなが小さく頷く。俺に任せるってことでいいのかな?
「見てたのなら分かると思うけど、俺たちにはもう全く余力がないんだ。
治療するのは構わないけど、ハロイツァを俺たちに嗾けるのは勘弁してくれるかな?」
「勿論で御座います。当家カルネジアでは、何よりも強者こそが優先されます。
真っ向勝負でカルネジアの戦士を下した皆様に、敬意を払うことはあれど、無礼を働くことは許されません。
四大精霊家、火のカルネジアの名に誓って、皆様の安全をお約束致します」
家名に誓って、か。この世界の価値観は分からないけれど、軽い言葉ではないだろう。
大きく横に移動して、カルマさんの前から避ける。みんなも俺に続いて、俺の傍に移動してくる。
「有難う御座います。
それでは少々失礼致しますね」
カルマさんは特に急ぐこともなく、落ち着いた歩調でハロイツァに近寄り、恐らく魔法薬であろう液体を飲ませている。
うおお……、袈裟切りにしてやった傷が、みるみる塞がっていく……。
流石に傷跡までは消せないみたいだけど。
俺が見ているのに気付いたのだろう。
カルマさんは「こちらは上級の回復ポーションになります」と、一言添えてくれた。
はえ~、すっごい効果だわ。カズラさんが作れないだけの事はある。
「良くやった!良くやったぞカルマ!これでテメェらも終りだぁ!
改めてぶち殺してやらぁ!」
怪我が治ったら元気百倍。ハロイツァくんがぎゃーぎゃー喚き散らしている。
殺しても意味ないけど、生かしておくといつまでも絡んでくるタイプだよなコイツ。
ハロイツァの声を喧しいなぁと思いつつ聞き流していると、カルマさんが不機嫌そうにハロイツァの方を見る。
「……旦那様?私とトーマ様のお話、聞こえていたはずですよね?
もう勝負は決しました。旦那様の敗北にございます。
負けを認めず勝者を称えないなど、カルネジアの名において許されませんぞ?」
「俺は負けてねぇ!こうして生きている!まだ勝負はついてねぇ!
トドメも刺さずに勝った気でいるとか、舐めたこと言ってんじゃぐぇ」
喚き散らしていたハロイツァの鳩尾に、カルマさんの右腕が深々と突き刺さっている。
うーんやべぇな。まったく動きが感知できない。
「敗者の言葉に意味などない、それがカルネジアですよ旦那様。
旦那様が口を開くと話が進みません。少し黙っていて頂けますか?」
右手を引き抜きつつ、俺たちに向き直るカルマさん。どこまでも自然体なのが、逆に怖すぎるんだが?
「まず始めに皆様には、ハロイツァ様が多大なる迷惑をおかけしてしまった事を、心よりお詫び申し上げます。
信じてもらえないとは思いますが、今回の騒動に、当代様はとても心を痛めていらっしゃいます」
暗に、今回の件は全てハロイツァの暴走であって、カルネジア家は関与していないと言っているのか?
それが本当かどうかは重要じゃない。重要なのはこの後だろう。
「まずは結論から先に申し上げます。もしハロイツァ様を穏便に引き渡していただけるのであれば、ハロイツァ様が行った不正を公表し、シン様、リーン様、そしてお2人のご両親の冤罪を、我がカルネジア家が、責任を持って証明させて頂きます」
「「「「……はぁ!?」」」」
順調に腕を磨かれているようで、私も嬉しく思います」
「は、はい。カルマさんもお元気そうで何よりです……?」
「ふふ、トルネ様は相変わらずのご様子。
一介の使用人に過ぎない私のことなど、呼び捨てて頂いても構わないのですが」
カルマさん、ね。一介の使用人にしては、随分と腕が立ちそうだ。
敵意や戦意はおろか、こちらを警戒しているそぶりすら見せない。
恐らく常在戦場が定着しすぎて、臨戦態勢が自然体になっちゃってる系の人だなこれは。
「カルマさん、で良かったか?
俺の名はトーマ。7等級冒険者だ。知ってるだろうけどな。
アンタの言う提案ってヤツが、物騒な内容でないことを願いたいところだ」
「これはこれは。私としたことが、挨拶が遅れてしまい申し訳御座いません。
はい。私、カルネジア家の当代様にお仕えさせて頂いております、『カルマ』と申します。
皆様の事はお察しの通り、既に存じておりますゆえ、自己紹介の必要は御座いませんぞ」
などと言いながら、俺にウィンクを飛ばしてくる。
こっちにもウィンクの文化あるのか。
ふむ、抜かりなく仕事が出来て、頼まれた以上の成果を出しつつも、親しみやすさや気楽さも感じるような、まさに理想の執事像って感じの人だな。
敵対関係にさえなければ、素直にそう思うんだけど。
「ふふ、そう警戒なさらずとも大丈夫です。私は皆様と敵対する意思は御座いません。
ただ、このまま話を続けていると、流石にカルネジアの血を色濃く継いだハロイツァ様といえども、命を落としかねません。
どうか話より先に、ハロイツァ様に治療を施させて頂けませんでしょうか?」
ハロイツァの治療か。
……かなりリスキーな内容ではあるが、余力のない俺たちでは、カルマさん1人にすら蹴散らされることだろう。
俺たちの事を無視して治療しても良い場面で、わざわざ俺たちにお伺いを立てている。
敵対の意思は無いという言葉に、ある程度信憑性は感じられる……、か?
1度カルマさんから視線を外し、仲間達と目を合わせる。
みんなが小さく頷く。俺に任せるってことでいいのかな?
「見てたのなら分かると思うけど、俺たちにはもう全く余力がないんだ。
治療するのは構わないけど、ハロイツァを俺たちに嗾けるのは勘弁してくれるかな?」
「勿論で御座います。当家カルネジアでは、何よりも強者こそが優先されます。
真っ向勝負でカルネジアの戦士を下した皆様に、敬意を払うことはあれど、無礼を働くことは許されません。
四大精霊家、火のカルネジアの名に誓って、皆様の安全をお約束致します」
家名に誓って、か。この世界の価値観は分からないけれど、軽い言葉ではないだろう。
大きく横に移動して、カルマさんの前から避ける。みんなも俺に続いて、俺の傍に移動してくる。
「有難う御座います。
それでは少々失礼致しますね」
カルマさんは特に急ぐこともなく、落ち着いた歩調でハロイツァに近寄り、恐らく魔法薬であろう液体を飲ませている。
うおお……、袈裟切りにしてやった傷が、みるみる塞がっていく……。
流石に傷跡までは消せないみたいだけど。
俺が見ているのに気付いたのだろう。
カルマさんは「こちらは上級の回復ポーションになります」と、一言添えてくれた。
はえ~、すっごい効果だわ。カズラさんが作れないだけの事はある。
「良くやった!良くやったぞカルマ!これでテメェらも終りだぁ!
改めてぶち殺してやらぁ!」
怪我が治ったら元気百倍。ハロイツァくんがぎゃーぎゃー喚き散らしている。
殺しても意味ないけど、生かしておくといつまでも絡んでくるタイプだよなコイツ。
ハロイツァの声を喧しいなぁと思いつつ聞き流していると、カルマさんが不機嫌そうにハロイツァの方を見る。
「……旦那様?私とトーマ様のお話、聞こえていたはずですよね?
もう勝負は決しました。旦那様の敗北にございます。
負けを認めず勝者を称えないなど、カルネジアの名において許されませんぞ?」
「俺は負けてねぇ!こうして生きている!まだ勝負はついてねぇ!
トドメも刺さずに勝った気でいるとか、舐めたこと言ってんじゃぐぇ」
喚き散らしていたハロイツァの鳩尾に、カルマさんの右腕が深々と突き刺さっている。
うーんやべぇな。まったく動きが感知できない。
「敗者の言葉に意味などない、それがカルネジアですよ旦那様。
旦那様が口を開くと話が進みません。少し黙っていて頂けますか?」
右手を引き抜きつつ、俺たちに向き直るカルマさん。どこまでも自然体なのが、逆に怖すぎるんだが?
「まず始めに皆様には、ハロイツァ様が多大なる迷惑をおかけしてしまった事を、心よりお詫び申し上げます。
信じてもらえないとは思いますが、今回の騒動に、当代様はとても心を痛めていらっしゃいます」
暗に、今回の件は全てハロイツァの暴走であって、カルネジア家は関与していないと言っているのか?
それが本当かどうかは重要じゃない。重要なのはこの後だろう。
「まずは結論から先に申し上げます。もしハロイツァ様を穏便に引き渡していただけるのであれば、ハロイツァ様が行った不正を公表し、シン様、リーン様、そしてお2人のご両親の冤罪を、我がカルネジア家が、責任を持って証明させて頂きます」
「「「「……はぁ!?」」」」
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