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5章 カルネジア・ハロイツァ
閑話007 変わった冒険者 ※オーサン視点
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「済みません。身分証と探索許可証の発行をお願いしたいんですけどー」
ある日、変なヤツが冒険者になりに来た。
俺と同世代と思われる年齢で、武器どころか荷物も持ってない。
読み書きすら出来ないってんだから、じゃあ逆に何ができるのか聞いてやりたくなるぜ。
どうやら、何らかの事情で財産を失ってしまったようだな。
高齢になって冒険者を始める奴は大抵訳ありだ。珍しくもない。
冒険者にしては、人の話を素直に聞くやつだなと思った。
すぐ死んでしまいそうだと思ってたが、コイツは無理せず俺に言われた通りに、1階層を回り続けた。
ベイクで1階層を回るやつなんていないから、俺は少しだけ驚いた。
2階層に進む判断を俺に尋ねてきたのも、変わっていると思った。
冒険者ってのは基本的に、人の話を聞かねぇからな。
年取ってから冒険者になった分、慎重なのかも知れない。
ギルドの戦闘技術指導について聞かれた翌日、子供2人と共に現れた。一緒に指導を受けると言う。
この2人は覚えている。駆け出しの割に良い装備だったから印象に残っていた。
でも余裕の無さそうな以前と違って、雰囲気が明るくなっていた。
実際3人になってから、明らかに収入が増えたようだった。
指導訓練日になった。俺にとっても久しぶりだ。少し張り切っちまうな。
3人とも駆け出しだけあって、目も当てられないほどの実力だった。
それでも3人は、終始文句を言いながらも真面目に訓練をこなし、俺の話に耳を傾けた。
久しぶりの夕食会。クリリクの口数も多い。どうやらクリリクも3人を気に入ったようだ。
また来て欲しいわねぇ。クリリクは名残惜しそうに呟いた。
3人の迷宮攻略は順調のようだ。買取を担当していなかったとしても、3人の表情を見れば分かる。
2度目の指導訓練日。
3人とも真面目に鍛えていたことが確認できた。こいつらは強くなるだろうな。
4階層、5階層と順調に攻略を進めていた3人に、転機が訪れた。
子供2人の都合で、パーティを解散することになったらしい。
一瞬、自分の我侭で解散してしまったかつてのパーティを思い出して、嫌な気分になった。
でも俺と違って、3人は笑顔で別れていた。再会を誓って。
その時から、コイツは俺とは違う道を歩む冒険者なのだと思うようになった。
1人になったあとも、コイツは平気な顔して迷宮に潜り続けた。
1人だってのに、3人の頃と変わらない階層で探索することを、コイツはなんとも思ってねぇようだ。
それだけの実力があるくせに、こっちから発破をかけないと先に進む気も全然ない。
本当に変なやつだと思う。
先に進めと言ったあとのコイツは、本当に何の障害もないように攻略を進め始めた。
日に日に装備も良くなっていく。というか装備が良すぎないか?
駆け出しのクセにどれほど稼いでいるんだコイツは。
絶対に無理はするなと諭していた頃が、なんだか懐かしく感じられた。
そんな順調すぎるような日々だったが、ある日凄まじい雰囲気でギルドに現れ、いきなりとんでもない内容のクエストを出したいと言いやがる。
事情を聞くと、別れた2人が犯罪奴隷になってしまい、2人を購入するために4日後の朝までに白金貨3枚が必要になった、と。
犯罪奴隷に未来はない。どうにかしてやりたいが、ギルド員の俺が動くわけにはいかなかった。
俺の苦悩など歯牙にもかけず、コイツは必要なことを済ませて、さっさとギルドを出て行った。
奴隷の救済。かつて俺も体験したことだ。
当時の俺は正しいことだと信じていたし、それが縁でクリリクと一緒になることも出来た。
しかし当時の仲間達への後悔と、懺悔の念は尽きない。
アイツが今しようとしているのは、当時の俺よりも無茶な課題だった。
身の丈に合わない望みは、周囲を巻き込んで不幸にしちまう。
俺はアイツになんて言うべきなんだ……?
そんな、後悔に囚われた俺に見せ付けるかのように、アイツは動き続けた。
ポーターとして雇われた子供達は、救貧院に寝泊りしている迷宮孤児たちで、いつも余裕がない表情をしている。
始めは怯えていた子供達が、1度迷宮に潜った後は、様子が一変していた。
夢に満ちたような、憧れを見つけた子供の目の輝きをしていた。
アイツは一体、何をしたんだ……?
見る見る金が積み上げられていく。途中でアイツは7等級に昇級した。
頭がおかしくなりそうだ。
だってアイツが8等級に上がったのは、本当に最近なんだ。
俺が手続きをしたんだから、間違いない。
身の丈に合わない望みは、周囲を巻き込んで不幸にしてしまう。
俺の我侭のせいで仲間に迷惑をかけ、結果パーティの解散を招いてしまった。
だから、無茶なことはするな。こんなことができるはずがない。
そう思っていた俺の目の前で、コイツはその無茶をやってのけた。
誰かに迷惑をかけるどころか、困窮していた迷宮孤児たちすら救ってみせた。
解散を招くどころか、別れて窮地に陥っていた仲間を、己の手で救ってみせたのだ。
俺は震えが止まらなかった。
まるで過去の俺が今の俺に見せてくれた、理想の冒険者のように思えた。
全てを終らせた後も、コイツは変わらなかった。
あの日、冒険者ギルドに登録しにきた日と、なにも変わっていないのだ。
誰もが奇跡と思うようなことをやってのけたのに、本人は「やってみたら出来た」くらいに思っているのが丸分かりだ。
クリリクは奴隷になった2人を家に預かった後、独り言のように呟いた。
「あの時、もしも彼が居てくれたら、私達の、貴方のその後も、変わっていたのかしらねぇ……」
俺は返事をしなかった。
……できなかったのかもしれない。
全てが終わったと思ったのも束の間、アイツはすぐに別の問題に巻き込まれたようだ。
3等級冒険者で、しかも貴族相手に目をつけられてしまったらしい。
よくよく問題に巻き込まれるヤツだ。
どう考えても絶望的な状況のはずなんだが、俺は不思議と不安には思わなかった。
きっとコイツなら何とかしちまうんだろう。
なんの根拠もないが、そう思っちまったんだ。
孤児たちと一緒の指導日に、本気の手合わせを申し込まれる。
相手は3等級。俺如きに負けているようでは話にならない。
卒業試験のような気持ちで、本気の手合わせを引き受ける。
俺との模擬戦の前に、パーティメンバー同士で行っていた模擬戦の様子を見ると、正直俺はこいつらを見縊っていたと思わされた。
走り込みで倒れていた姿も見ている。
武器の扱い方も全く知らずに迷宮に潜っていた姿だって見てきた。
こいつら、いつの間にここまで腕を上げたんだ?
新しく入った女もかなりの腕だ。
正直、現時点で30階層を越えていても不思議じゃない。
なんで10階層で止まってんだこいつら……?
そして俺との模擬戦が始まった。
恐ろしいほどに腕を上げたもんだ。軽くあしらっていた頃が懐かしい。
俺の得意技の、飛込みからの膝蹴りも難なく回避し、即座に反撃までしてくる始末だ。
まったく、可愛げがなくなっちまったもんだぜ。
両手持ちの木剣では受けきれないと判断。
懐に忍ばせてあった、片手で扱える木剣に持ち替え、反撃に出る。
くそっ。俺は受けきれないと思って武器を変えたってのに、コイツと来たら、両手持ちのまま凌ぎやがる。
意表を突いた蹴りや頭突きにも、難なく反応し、対応してくる。
まったく、参っちまうな。
その時突然、何かが弾けたような音が響く。
魔法を使ったようには見えなかったが、こいつが音魔法を使えるのは知っている。こんなもので怯むはずが。
そう思った瞬間、木剣が風を切る音が聞こえる。
流石に攻撃を諦め、大きく後方に回避するが、肝心の木剣が見当たらない。
今のは一体?
俺の困惑を見逃すことなく、攻勢に出てきやがった。
俺も対応するが、なぜかなにもないところから風を切る音が聞こえてきて、どうしても体が反応してしまう。
コイツ、一体なにをしやがってるんだ?
このままでは不味い!
相手の視界を遮るように攻撃を仕掛けて、左手を隠す。
「フラッシュ!」
所詮目晦ましでしかないが、これで仕切り直すことが……、そう思った瞬間、なぜか俺の照明魔法の光が消える。
驚いて固まった俺の首元には、相手の木剣が寸止めされていた。
「……参った。俺の負けだぁ」
本当に参った。
俺は間違いなく全力だった。
それを正面からねじ伏せられたのだ。
寂しいような悔しいような、清々しいような感慨深いような、不思議な気持ちになる。
やっぱりコイツは俺なんかとは違う。
どこまでも上り詰めていく奴ってのは、こういうヤツなんだろう。
「俺を鍛えてくれて、感謝してる」
だってのによぉ。
勝った相手が苦しげに俺に感謝を述べてくるようじゃ、しまらねぇじゃねぇか。
まったく、本当にコイツは変わりモンだ。
ある日、変なヤツが冒険者になりに来た。
俺と同世代と思われる年齢で、武器どころか荷物も持ってない。
読み書きすら出来ないってんだから、じゃあ逆に何ができるのか聞いてやりたくなるぜ。
どうやら、何らかの事情で財産を失ってしまったようだな。
高齢になって冒険者を始める奴は大抵訳ありだ。珍しくもない。
冒険者にしては、人の話を素直に聞くやつだなと思った。
すぐ死んでしまいそうだと思ってたが、コイツは無理せず俺に言われた通りに、1階層を回り続けた。
ベイクで1階層を回るやつなんていないから、俺は少しだけ驚いた。
2階層に進む判断を俺に尋ねてきたのも、変わっていると思った。
冒険者ってのは基本的に、人の話を聞かねぇからな。
年取ってから冒険者になった分、慎重なのかも知れない。
ギルドの戦闘技術指導について聞かれた翌日、子供2人と共に現れた。一緒に指導を受けると言う。
この2人は覚えている。駆け出しの割に良い装備だったから印象に残っていた。
でも余裕の無さそうな以前と違って、雰囲気が明るくなっていた。
実際3人になってから、明らかに収入が増えたようだった。
指導訓練日になった。俺にとっても久しぶりだ。少し張り切っちまうな。
3人とも駆け出しだけあって、目も当てられないほどの実力だった。
それでも3人は、終始文句を言いながらも真面目に訓練をこなし、俺の話に耳を傾けた。
久しぶりの夕食会。クリリクの口数も多い。どうやらクリリクも3人を気に入ったようだ。
また来て欲しいわねぇ。クリリクは名残惜しそうに呟いた。
3人の迷宮攻略は順調のようだ。買取を担当していなかったとしても、3人の表情を見れば分かる。
2度目の指導訓練日。
3人とも真面目に鍛えていたことが確認できた。こいつらは強くなるだろうな。
4階層、5階層と順調に攻略を進めていた3人に、転機が訪れた。
子供2人の都合で、パーティを解散することになったらしい。
一瞬、自分の我侭で解散してしまったかつてのパーティを思い出して、嫌な気分になった。
でも俺と違って、3人は笑顔で別れていた。再会を誓って。
その時から、コイツは俺とは違う道を歩む冒険者なのだと思うようになった。
1人になったあとも、コイツは平気な顔して迷宮に潜り続けた。
1人だってのに、3人の頃と変わらない階層で探索することを、コイツはなんとも思ってねぇようだ。
それだけの実力があるくせに、こっちから発破をかけないと先に進む気も全然ない。
本当に変なやつだと思う。
先に進めと言ったあとのコイツは、本当に何の障害もないように攻略を進め始めた。
日に日に装備も良くなっていく。というか装備が良すぎないか?
駆け出しのクセにどれほど稼いでいるんだコイツは。
絶対に無理はするなと諭していた頃が、なんだか懐かしく感じられた。
そんな順調すぎるような日々だったが、ある日凄まじい雰囲気でギルドに現れ、いきなりとんでもない内容のクエストを出したいと言いやがる。
事情を聞くと、別れた2人が犯罪奴隷になってしまい、2人を購入するために4日後の朝までに白金貨3枚が必要になった、と。
犯罪奴隷に未来はない。どうにかしてやりたいが、ギルド員の俺が動くわけにはいかなかった。
俺の苦悩など歯牙にもかけず、コイツは必要なことを済ませて、さっさとギルドを出て行った。
奴隷の救済。かつて俺も体験したことだ。
当時の俺は正しいことだと信じていたし、それが縁でクリリクと一緒になることも出来た。
しかし当時の仲間達への後悔と、懺悔の念は尽きない。
アイツが今しようとしているのは、当時の俺よりも無茶な課題だった。
身の丈に合わない望みは、周囲を巻き込んで不幸にしちまう。
俺はアイツになんて言うべきなんだ……?
そんな、後悔に囚われた俺に見せ付けるかのように、アイツは動き続けた。
ポーターとして雇われた子供達は、救貧院に寝泊りしている迷宮孤児たちで、いつも余裕がない表情をしている。
始めは怯えていた子供達が、1度迷宮に潜った後は、様子が一変していた。
夢に満ちたような、憧れを見つけた子供の目の輝きをしていた。
アイツは一体、何をしたんだ……?
見る見る金が積み上げられていく。途中でアイツは7等級に昇級した。
頭がおかしくなりそうだ。
だってアイツが8等級に上がったのは、本当に最近なんだ。
俺が手続きをしたんだから、間違いない。
身の丈に合わない望みは、周囲を巻き込んで不幸にしてしまう。
俺の我侭のせいで仲間に迷惑をかけ、結果パーティの解散を招いてしまった。
だから、無茶なことはするな。こんなことができるはずがない。
そう思っていた俺の目の前で、コイツはその無茶をやってのけた。
誰かに迷惑をかけるどころか、困窮していた迷宮孤児たちすら救ってみせた。
解散を招くどころか、別れて窮地に陥っていた仲間を、己の手で救ってみせたのだ。
俺は震えが止まらなかった。
まるで過去の俺が今の俺に見せてくれた、理想の冒険者のように思えた。
全てを終らせた後も、コイツは変わらなかった。
あの日、冒険者ギルドに登録しにきた日と、なにも変わっていないのだ。
誰もが奇跡と思うようなことをやってのけたのに、本人は「やってみたら出来た」くらいに思っているのが丸分かりだ。
クリリクは奴隷になった2人を家に預かった後、独り言のように呟いた。
「あの時、もしも彼が居てくれたら、私達の、貴方のその後も、変わっていたのかしらねぇ……」
俺は返事をしなかった。
……できなかったのかもしれない。
全てが終わったと思ったのも束の間、アイツはすぐに別の問題に巻き込まれたようだ。
3等級冒険者で、しかも貴族相手に目をつけられてしまったらしい。
よくよく問題に巻き込まれるヤツだ。
どう考えても絶望的な状況のはずなんだが、俺は不思議と不安には思わなかった。
きっとコイツなら何とかしちまうんだろう。
なんの根拠もないが、そう思っちまったんだ。
孤児たちと一緒の指導日に、本気の手合わせを申し込まれる。
相手は3等級。俺如きに負けているようでは話にならない。
卒業試験のような気持ちで、本気の手合わせを引き受ける。
俺との模擬戦の前に、パーティメンバー同士で行っていた模擬戦の様子を見ると、正直俺はこいつらを見縊っていたと思わされた。
走り込みで倒れていた姿も見ている。
武器の扱い方も全く知らずに迷宮に潜っていた姿だって見てきた。
こいつら、いつの間にここまで腕を上げたんだ?
新しく入った女もかなりの腕だ。
正直、現時点で30階層を越えていても不思議じゃない。
なんで10階層で止まってんだこいつら……?
そして俺との模擬戦が始まった。
恐ろしいほどに腕を上げたもんだ。軽くあしらっていた頃が懐かしい。
俺の得意技の、飛込みからの膝蹴りも難なく回避し、即座に反撃までしてくる始末だ。
まったく、可愛げがなくなっちまったもんだぜ。
両手持ちの木剣では受けきれないと判断。
懐に忍ばせてあった、片手で扱える木剣に持ち替え、反撃に出る。
くそっ。俺は受けきれないと思って武器を変えたってのに、コイツと来たら、両手持ちのまま凌ぎやがる。
意表を突いた蹴りや頭突きにも、難なく反応し、対応してくる。
まったく、参っちまうな。
その時突然、何かが弾けたような音が響く。
魔法を使ったようには見えなかったが、こいつが音魔法を使えるのは知っている。こんなもので怯むはずが。
そう思った瞬間、木剣が風を切る音が聞こえる。
流石に攻撃を諦め、大きく後方に回避するが、肝心の木剣が見当たらない。
今のは一体?
俺の困惑を見逃すことなく、攻勢に出てきやがった。
俺も対応するが、なぜかなにもないところから風を切る音が聞こえてきて、どうしても体が反応してしまう。
コイツ、一体なにをしやがってるんだ?
このままでは不味い!
相手の視界を遮るように攻撃を仕掛けて、左手を隠す。
「フラッシュ!」
所詮目晦ましでしかないが、これで仕切り直すことが……、そう思った瞬間、なぜか俺の照明魔法の光が消える。
驚いて固まった俺の首元には、相手の木剣が寸止めされていた。
「……参った。俺の負けだぁ」
本当に参った。
俺は間違いなく全力だった。
それを正面からねじ伏せられたのだ。
寂しいような悔しいような、清々しいような感慨深いような、不思議な気持ちになる。
やっぱりコイツは俺なんかとは違う。
どこまでも上り詰めていく奴ってのは、こういうヤツなんだろう。
「俺を鍛えてくれて、感謝してる」
だってのによぉ。
勝った相手が苦しげに俺に感謝を述べてくるようじゃ、しまらねぇじゃねぇか。
まったく、本当にコイツは変わりモンだ。
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