異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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5章 カルネジア・ハロイツァ

閑話006 私の生まれた意味 ※とある女視点

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「ああ、別に怖かったら逃げても構わねぇから好きにしろ。
 俺から逃げ切る自信があるならなぁ」


 その言葉を最後に、目の前のドアが閉められた。

 頭が割れるように痛い。
 旦那様から散々痛めつけられた全身から、悲鳴が聞こえるかのよう。
 しかし、ここでまた旦那様の視界に入るようなことがあれば、今度こそ処分されてしまうかも。

 私は痛む体に鞭打って、どうにかこの場を離れた。





「はぁ…………」


 思わずため息が漏れてしまう。

 旦那様には目標の即時確保を命じられたものの、事はそう単純なものじゃない。
 確かに今のままでは旦那様に殺されてしまうのは間違いないけど、仮に目標の確保に成功しても、カルネジア家になんらかの疑いが向いてしまうようであれば、当代様に処分されてしまうのは目に見えている。

 当代様はなによりもお家の繁栄を尊ばれるお方だという。カルネジア家の名に泥を塗るような相手に、容赦などしないだろう。
 
 
 ……むしろ事を公にして、旦那様、ハロイツァを巻き込んで破滅しても良いかも知れない。そんな考えが頭をよぎる。
 ハロイツァの女遊びが見逃されているのは、結局のところ血統と、ハロイツァ個人の戦闘力によるところが大きい。
 火のカルネジア家は、なによりも強さを重んじる家柄だから。

 それでも最近のハロイツァの問題行動には本家も流石に困っているらしく、当代様からお目付け役が送られてくるほどだ。
 ここで大きな問題を起こせば、流石のハロイツァもそれなりの処分が下されるのは間違いない。

 でもその場合、私は間違いなく殺されてしまう。そしてハロイツァの処分は殺されるほどではないだろう。そう考えると全く割に合わない。

 私が生き延びるためには、誰の目にも留まることなく、速やかに目標の少女を確保する必要がある。
 そんなことができるかどうかなんてわからない、出来なければ殺される、それだけだ。


 ……はぁ。私の人生って一体なんなんだろう。
 私の生まれて意味ってなんだったの?

 最近は特に、こんなことばかり考えるようになってしまった。



 私の母は、カルネジア家の当代様『カルネジア・ブルガーゾ』様の愛妾の1人だった。

 当代様は愛を多く知る方ではあったものの、1人1人を蔑ろにすることなく、全員に分け隔てなく目をかけてくれる人だった。
 実際に、母がぞんざいに扱われていたことなど一度も目にしたことは無かった。

 当代様は立派な方であるのだけど、当代様の悪い部分だけを濃縮したかのようなハロイツァのことだけは、どうしても許すことが出来ない。

 アイツと私は同じ母を持つ実の兄妹だっていうのに、ハロイツァを慕う心など一片たりともありはしない。
 いや、むしろ兄妹だからこそ、憎しみばかりが募っていく。


 私が10歳の時に母がこの世を去った。
 元々気性の荒かったハロイツァではあったが、母の死をきっかけに、手がつけられないほど荒れ狂ってしまった。

 元々私の存在が疎ましかったらしいハロイツァは、以前にも増して私の待遇を劣悪なものに変えていった。

 激しい戦闘訓練という名の虐待に始まり、何日も迷宮に篭らされたり、カルネジア家の令嬢として振舞うことを禁じたり、ありとあらゆる無理難題を押し付け、その度に私を甚振ってみたり。

 祝福の儀を受けることも許されず、部下を持つことも許されていない。
 今回すぐに報告に戻ったのだって、以前『不測の事態が起こったら自分で判断せずにまずは俺に報告しろ』と言われたがゆえに、報告を最優先したっていうのに。
 結局あの男は、自分が言った言葉すら自分に都合の良いようにしか覚えられないのだ。
 私にたった1人でも人をつければ、報告と調査を同時に行うことも出来たのに。結局はあの男こそが一番の無能者だ。

 それでも逆らうことは恐ろしくて出来ない。
 残念ながらあの男の戦闘力だけは優秀なのだ。26歳で3等級まで至れる冒険者は、歴史上でもそれほど多くない。

 そして最早嫌悪感しか抱けない事実ではあるが、私とあの男は兄妹なのだ。
 もし私が逃げ出し、身を隠したとしても、あの男が私を見つけるのは非常に容易いことだろう。


 あの男に狙われた少女には同情を禁じえない。だからと言って私だって死にたくない。
 死んだ方がマシだと思えるような日々でしかないけど、だからって死にたくなんかないんだ。

 その日のうちにベイクに戻った。
 任務の事を考えると気は休まらないけど、あのじごくに居続けるよりはまだマシだ。


 ベイクで調査を始めると、目標の所在は簡単に分かった。
 目標を購入したのは最近になってベイクで活動し始めた冒険者らしく、それなりに優秀なペースで昇級している有望株のようだった。

 優秀とはいえ7等級に上がったばかりならば、強引な手段を使っても成功する可能性は高い。
 彼らは毎日のように、長時間迷宮に潜り続けているようなので、襲撃も簡単そうだった。


 金を払えばなんでもやる、そのような素行の悪い冒険者を用意する。
 6等級4人のパーティに仕事を任せることになったが、私にもう少し自由に使える予算があれば、もっとまともな人材を用意したのに、と歯噛みする。
 余計な予算など一切貰えない私は、奴隷購入費用として預かった白金貨1枚を成功報酬として、前金に金板2枚を渡して彼らを雇うしかなかった。

 目標には決して傷をつけないよう厳命しておく。



 依頼してすぐに男達は襲撃することに決めたようだった。
 彼らには黙って、彼らを尾行する。
 流れ次第では、彼らの口も封じる必要があるかもしれない。

 彼らは愚かにも標的に姿を現し、真正面から戦闘する気のようだ。
 数で勝っているのだから、奇襲でも伏兵でも、作戦はいかようにでも立てられるはずなのに。
 相手が7等級に上がったばかり、などという情報は伝えるべきじゃなかった。

 少しの間会話の応酬がされたあと、私に雇われた冒険者達から斬りかかっていった。
 襲われている彼には申し訳ないと思うが、私だって死にたくない。ごめんなさい。

 そんな想いで様子を伺っていたのだが、突然私の雇った方の冒険者の頭部が爆散した。


 ……え?なにが起こった!?
 私が目の前の事態に思考が追いつかないうちに、もう1人の喉にダガーが突き立っていた。


 なんだあの男は!?7等級に上がったばかりなのは間違いないはず!
 それでなぜ6等級を複数相手取って圧倒できるんだ!?

 くっ、だめだ!このままでは失敗する!私にはもう後が無い。私も出るしかない!

 私が覚悟を決めて隠れるのを止めて前に出ると、残ったうちの1人が横薙ぎの一閃で真っ二つにされたところだった。
 なぜ6等級を7等級があんなにあっさり斬り捨てられるんだ!くそっ!

 更には放たれたフレイムアローを危なげなく回避して、反撃の一撃で相手を両断してしまう。
 くっ、まさかここまでの相手とは……!


 くそ、狙うなら今か!
 4人目を殺して、男が武器を下げたタイミングを狙って、ナイフを投擲する。
 完全に意表を突いた一撃にすら反応され、命中はしたが急所は外されてしまった。
 
 体勢の崩れた相手目掛けて躊躇なく斬り込む。
 く、速さは私のほうが上のようだが、相手も手強い!

 男は軽く舌打ちしたかと思うと、持っていたダガーを引き抜きロングソードを手放した。
 私のほうが優位だった速度の差が埋められる。それでもまだ私のほうが速いけど……!


 何度か打ち合っていると恐ろしいことに気付く。
 私の使っているナイフの損傷が激しく、相手のダガーには傷一つ無い!

 これだけ武器の損耗に差が出るというのは、普通では考えられない。まさかこの男、魔装術が使える!?
 先ほどまで我々が見ていた戦闘では、魔装術をあえて使わず手の内を隠していたの!?
 ならば……、襲撃が事前に察知されてしまっていたということ!?

 焦ってしまった私と違い、相手は何処までも冷静に、私の武器を破壊してきた。
 駄目だ勝てない!ここは逃げるしか!

 
 「照明フラッシュ!」


 相手の顔を目掛けて全力の照明魔法。
 あとはもう全力で逃げるだけ……ってあれ?照明魔法の光が消えた?


「えっ?」


 逃げるのも忘れて、思わず後ろを確認してしまう。その時体に軽い衝撃を感じた。
 視線を下げると私のおなかの辺りから、血に濡れた刃が生えていた。


「…………え?」


 なにが起こっているのか、理解が追いつかない。
 そうして呆けている間に刃は引き抜かれ、両足も一度ずつ刺されたらしい。


「あああああああああああああ!?」


 自分の体に穴があけられたことを認識した瞬間、腹と足の激痛が脳に伝えられ、立っていられなくなった。


 お腹と足が熱い。熱いのに全身が寒くて凍えそうだ。
 まるで血と共に、私の命そのものが流れ出していくかのようで、恐怖で頭がいっぱいになる。

 私はこんなところで死ぬの?
 
 私の人生ってなんだったの?

 私が生まれてきた意味ってなんだったの?

 死にたくないよ。こんなところで死にたくないよ。どうしてハロイツァなんかが生きて、私が死ななきゃいけないの。死にたくない死にたくない死にたくない。


「洗いざらい喋るなら、助けてやっても良いけど?」


 …………助けて、くれる?助けてくれるの?
 私死ななくていいの?こんなところで殺されずに済むの?

 喋る?何を?助かるならなんだって喋る。何でも喋るからお願い殺さないで助けてください死にたくないお願いします。


 男が何かを私に飲ませる。
 飲み込む力も入らないけれど、死にたくない一心でなんとか飲み込む。

 なんだかお腹と両足が温かさに包まれる。

 いままで感じていた、命が流出するような喪失感が止まってくれた。
 

 私、助かったの……?
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