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3章 別れと出会い

058 突然の来客

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 衣料品店に寄って俺の着ている服と同じ、蜘蛛の魔物の糸で作られているらしいスカーフを2つ購入する。
 この世界には動物に首輪をする文化が無いので、首輪代わりのスカーフというわけだ。大きくなっても巻き直せば良いだけだし。


「あぁ?犬猫にそんな高ぇもん買うなんて、テメェバカなのか?」


 バカで結構。可愛いの前に人類は等しくバカになるしかないのだよホムロくん。


 昨日の模擬戦でボッコボコにされたので、装備一式メンテに出す。今日も潜るつもりだし、準備は万全にしておかないとね。
 加えて、このタイミングで防具一式も、ダーティ素材を卒業する。
 ダーティ素材防具だと魔装術を纏えないから、これからの階層では少し不安だったからな。


 相変わらずオーサンには手も足も出ないけど、立っていられる時間は長くなってきたように思う。少なくとも一撃で沈むことはなくなった。


 この世界はスキルと魔法の力で魔物に対抗すると言われているけれど、オーサンと手を合わせていると、積み重ねて洗練された戦闘技術こそが、本当の意味での力なのだと思い知らされる。
 例えば俺が大火力チート魔法を貰ってこの世界に訪れたとしても、近接戦闘力がなければ暗殺されてゲームオーバーだ。
 才能の無いものが強くなりたいなら、歯を食いしばって苦痛に耐えながら、努力を積み重ねるしかないのだ。


「ま、まぁ確かに可愛いことは可愛いじゃねぇか」


 どうやらホムロもバカの仲間入りを果たしたようだ。今日は訓練日明けなので、木箱に入れて2匹も一緒にベイクを見て回っている。
 しっかし木箱だと持ち歩きにくいな!


 雑貨屋を覗いて、バスケット的な、なにか動物を連れて持ち運べる籠のようなものはないかと聞いてみると、リンカーズでは愛玩動物は家の中で飼うのが主流で、外に出すのが珍しいという話だった。つまりは移動用の道具なんてないって話らしい。
 ふむ、無いなら作ってもらうしかないな!


 雑貨屋さんに話をしてみたところ「自分はそんな意味の分からない話に付き合ってる暇はないので、商工ギルドで依頼を出して、暇してる職人を報酬で釣って話してみれば良いんじゃないですか」と言われた。
 この雑貨屋さんって辛辣で毒舌だよね。


 商工ギルドに向かい、ポポリポさんにも相談しながら依頼内容を決めていく。作るものは職人からしたら簡単なものだから、報酬さえあれば受けてくれる人もいるだろうって話。


 ついでにポポリポさんに、ベイクで一軒家を買う場合と、借りる場合と、建てる場合の相場について聞いてみた。

 まぁ返答は「そんなのピンキリだよ」と一刀両断されたわけだが、ペットと一緒に住むと考えると借家だと問題が起こる可能性があるので、自分の家を持つべきだろうと勧められる。

 建てるのはもう幅が広すぎるので、買う場合に限って話をしてもらったところ、ペット2匹とおっさん1人が暮らす家なら、ベイクなら安くて20万リーフから、高くても80万リーフあれば問題なく買えるであろうという話だった。

 20万リーフ、つまり金板2枚なんてもう全然手が届く範囲だからな。
 現状スキルも装備も不満が無いので、今のうちにマイホーム資金を貯めておくのが良さそうだな!2匹との幸せな結婚生活のために!
 徳を積むために、訓練明けの日は救貧院に寄付をすることも忘れない。銀板5枚。



 この日は8階層に2回ほど潜り、翌日9階層にあがることにした。

 9階層の魔物は『魔獣人コボルト』だ。レッサー種はいないのかな?
 レッサーゴブリンの完全上位互換で、二足歩行の犬のような外見、獣のような身体能力、成人男性並みの体躯、連携を理解する知能、一撃で皮膚を切り裂く爪と牙、常に集団で行動する警戒心の強さ、などなど。聞けば聞くほど厄介な相手らしい。
 ドロップアイテムは『コボルトの毛皮』で、単価80リーフ。断熱材や絨毯、防寒具や防具の素材にもなるアイテムらしい。


 で実際に戦ってみたところ、今までで一番強力な魔物だってのは間違いなかった。
 動きも素早く、嗅覚でも優れているのかこちらに気付くのも早い。こちらに気付くとすぐに散らばって包囲してくるあたり頭も良さそうだった。

 でもこちとら9階層では完全にオーバースペックの、金貨単位の装備なんだよなぁ。彼らの爪で俺の装備を抜くことは出来ず、逆に俺の装備はコボルトを簡単に仕留めることができた。

 しかもなー、せっかく包囲してるのに、襲ってくる時「ギャーー!」とか叫びながら来るからモロバレなんだよなぁ。
 最近は音魔法と魔装術の同時使用にも大分慣れたし、視界外から襲ってくる相手に対して、音魔法の感知術はなかなか使い勝手が良い。

 最初のうちは小回りの効くダガーと片手メイスで立ち回っていたのだが、段々慣れてきたので新兵器のロングソードで立ち回ってみた。
 
 これはホムロの用意してくれた装備の中でも最も高額で、金貨8枚もした。用意したホムロも「まさか本当に買えるとは……」とか言っててふざけんなって思いましたね。

 迷宮も10階層、20階層と進んでいくと大型の魔物も増えてくるのだそうだ。このロングソードは、少なくとも20階層以下の魔物に通じないことはないくらいの性能らしい。

 反りの無い片刃の剣で、刃渡りは90センチくらい?1メートルは無いと思う。メイスとダガーに比べてミスリルの含有量が多く、魔装術を使うと相乗効果で性能が上がる武器なんだそうな。

 9階層は3日ほど、9回ほど探索して、4日目にはとっとと10階層に上がってしまう。
 
 10階層で出てくるのは『毒魔蜘蛛ポイズンスパイダー』。名前通りに毒をもっている。また口から糸を吐き出して獲物を拘束してくるとか。
 ドロップアイテムは『毒の牙』。俺が来ている服の素材はもっと深いところに出てくる蜘蛛の素材らしい。毒の牙ではあるが薬の材料になるらしく、単価は100リーフとなかなかの高額だった。

 正直結構警戒していたのだが、こいつらはでかいのでとにかく目立つ。見落とす方が難しいレベルだ。見つけたら最優先で落とすことを心がければそこまで脅威ではなかった。

 一応他の魔物を殲滅しきってから、糸による拘束攻撃というのも確認してみたが、網状の糸ではなく、糸の塊をそのまま飛ばしてくるだけで、回避はさほど難しくなく、射程も速度も大したことがなかった。

 集団戦で意表を突かれてこの攻撃を受けると、少しずつ動きが制限されて危険なんだろうが、泣く子も黙るソロ冒険者の俺には大した脅威ではないな。
 ただ、でかい図体だったので、ロングソードで大物と戦う練習にはなった。


 そんな感じで3日間で9回の探索を終えるともう、一軒家を買えるお金が貯まってしまった。ある程度の戦闘水準に達するまでが長かったけれど、最近は順調すぎて逆に怖い。

 スキルを取得したあの日以来祝福の儀は受けていないので、所持SPが89まで貯まってしまった。
 でもなぁ別に今苦戦してないから、このまま貯められるだけためてしまうのも良いかもなぁ。神殿利用料くっそ高いし。


 ふわわとつららのお出かけ用アイテムの製作依頼は、既に発注済みである。

 材料費はこちらが負担。納期は出来るだけ早い方が嬉しいけど特になし。前金で銀板3枚。成功報酬で金貨2枚を設定したらすぐに職人さんが請け負ってくれた。

 出来るだけ軽くて、ある程度の強度を持ち、取っ手をつけて欲しいとか具体的な大きさとかの希望を伝えて、既に製作がスタートしている。
 まぁ大きくなったら普通に一緒に歩いて回れるようになるのかもしれないけれどね。


 そんなこんなで順調すぎる日々を過ごしていたのだが、オーサンとの訓練日の前日、俺に客が来た。


「アンタがトーマさんで間違いないか?」


 相手は今まで会った覚えのない、年配の男だった。


「ああ、俺がトーマだ。お宅はどちら様かな?」

「これはこれは申し遅れた。私は『スレイ』。奴隷商を営んでいるものだ」


 奴隷商が俺を訪ねてくる理由って何だ……?


「奴隷商人のアンタが俺なんかに何の用があるんだ?お互い初対面だよな?」


 厄介ごとの気配がする。出来れば関わりたくない所だ。などと思っていたわけだが、スレイの持ってきた話は、俺の想定外の衝撃的な話だった。


「アンタのことはシンから聞いたんだ。
 トーマさん。良かったらシンとリーンの2人を買ってくれる気はないかい?」
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