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2章 強さへの道標

038 初めての魔力切れ体験

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 オーサンの話を踏まえて、明日はギルドで相談することを決めてこの日は解散する。

 クリリクさんの料理はとても美味しいので有り難いのだが、訓練が地獄過ぎて辛い。
 訓練の有用性は理解してるし、既に次の訓練も10日後に申し込み済みだけどねぇ。訓練が地獄過ぎて辛い。



 夕食後、今日も部屋で音魔法の練習をする。練習するほど成長、上達するらしいって話だし、これから毎日練習だな。

 今日の練習の目的は、魔法の使用に慣れることと、魔力切れを体験することである。
 意識がなくなるけれど死んだりしないし、自然に回復して目が覚めるということなので、安心して意識をトバしてみようではないか。

 
 ベッドに腰掛け、まずは体内の魔力の流れを感じ取る。

 昨日発生と操作を試してみた感じ、操作の方が使用魔力が多いと体感できたので、効率よくぶっ倒れるために、今日は操作をメインに練習していこう。

 魔力の流れを意識しながら、指でヘッドボードをこつこつと叩く。この小さくて短い音を操作で操れるかを試してみる。


 ……やっぱり難しい。
 一瞬で消えるような音を魔力で捉えるのは、なかなか難易度が高そうだ。

 しかも魔法の使用に集中したくても、指で音を出すことをやめるわけにもいかないため、どうしても意識がそちらの行為に割かれてしまう。音魔法の自主練習って協力者がいた方が効率良さそう。

 ただ魔法で音を捉えることこそ出来ていないものの、順調に魔力を消費し続けているのを感じる。訓練疲れと合わせて、段々気持ち悪くなってくる。

 我慢しろ。今日は魔力切れを起こすことが目的なんだ。


 気持ち悪い。吐き気がする。なんか寒気までしてきた。集中力が持たない。魔力切れさんそろそろ起こってくれませんかね。眩暈を覚える。あ、なんか貧血起こしそう。耐えろ。耐えるんだ……。




「気持ちわる……」


 気付いたらすっかりお馴染みになった天井が目に入る。
 どうやら無事に魔力切れを起こした模様。おかげさまで気持ち悪さとダルさで起き上がる気にすらなれない。


 どうやらまだ夜のようだ。意識が無い時間は長くはなかったのだろうか。
 こんなことならランプを点けておけば良かったな。集中の邪魔になりそうだったからと明かりを点けずに練習していたのが仇となった。

 
 ……あーだめだ。体調の悪さで思考が纏まらない。今日はこのまま寝てしまおう。




 翌朝目が覚めるといつもの時間だった。習慣って凄い。

 訓練明けの疲労感のせいで、魔力がどの程度回復したのかいまいちはっきりしない。んー、吐き気や寒気は収まってるし、結構回復したんだろうか。
 オーサンも、寝るのが一番回復効率がいいって言ってたしな。



 冒険者ギルドでシンとリーンに合流する。周りから見たらゾンビがパーティ組んでるように見えることだろうな。


「うううぅぅ。訓練の次の日はやっぱりきついねー……」

「全くだ。10日後にまた申し込んだのを既に後悔しそうだわ」

「まぁまぁ。必要なことだから仕方ないよ……」


 まずは今日の予定を大まかに決める。
 とりあえず陽天の報せお昼の鐘までは休憩がてら、昨日オーサンに言われたことを相談。

 午後、っていう言い方が適当かは分からないけれど、陽天の報せが鳴ったあとは、一度3階層に潜って、体調が万全でない状況での戦闘を経験してみることにした。
 3人とも今日は4階層に進む気はない。ゾンビだし。



「まぁ結局は暗視の代わりにどういった対策を行うかって話だね。戦闘自体は実際に潜って試してみるしかないわけだし」


 そうだな。戦闘能力だけで言うなら5階層でも戦えると言われたわけだし。


「あー悪い。俺はその辺の知識全然ないから、知っていること教えてもらって良いかな」

「ふふんっ。だと思ったよートーマだもんね。ちゃーんと先輩の私が教えてあげるからよーく聞いてねっ」


 リーン先輩。宜しくお願い致します。


「暗闇の中でも日中と変わらず眼が見えるようになる『暗視』スキル。これと同じことが出来るようになる方法は、大きく分けて3つあるんだよー。
 1つ目は『干渉型』『支援』魔法で『暗視』効果をかけてもらうこと。
 2つ目は暗視効果の得られる魔導具を用意すること。
 3つ目は暗視効果のある魔法薬を使うこと。
 先に結論から言ってしまうと、私たちに取れる方法は3つ目の魔法薬だけなんだけどねー」


 ほうほう、支援魔法に魔導具、それと魔法薬キマシタワー!
 マジックポーションと言えばファンタジーの王道ですよ。お、う、ど、う!


「あ、リーンごめん。トーマにちょっとだけ補足させてね。
 一応言っておくけど、松明やランプなどの照明器具を持ち込んだり、照明の魔法を使うって手はないからね?
 迷宮で普通に活動している魔物にとって、照明の明かりなんて的にしかならないし、照明を持ったまま激しい戦闘を行うのは、はっきり言って無理だ。
 照明の魔法は設置するごとに魔力を消費するからあまり有用ではないし、そもそも暗視の代案として取得するには高すぎるしね」


 そりゃそうか。襲ってくださいって言ってるようなもんだわな。
 暗視スキルが得られたら用済みになるであろう照明の魔法を買うのも勿体無い。設置型だから融通きかなそうだし。

「割り込んでごめんねリーン。続きお願い」

「はーい。暗視スキルの代案は大きく分けて3つ、その中で私たちが採用できるのは魔法薬だけだってところまで話したんだっけー。
 まずは魔法と魔導具を採用できない理由だけど、これは想像つくかなー?不採用の理由は、単純にお金が足りないから!」


 まぁそれは想像に難くないわな。魔導具の相場は知らないけど。


「支援系の魔法なんて白金貨レベルだし、暗視効果の魔導具なんかも金板くらいはかかっちゃうだろうからねー。
 魔導具の中でも、簡単に作れて沢山普及してるようなものは値下がりしたりもするんだけど、暗視の魔導具なんて使いどころも少ないし、支援魔法と同じ効果が得られる上に何度も使える魔導具なんて、安くなろうはずはないのだー」

「ということで僕たちが検討すべきは魔法薬による対策ということになるわけだね。
 正直魔法薬も、他と比べれば比較的安いというだけであって、高価な買い物には違いないんだけどね。
 しかも消耗品だから、常に経費として織り込まないといけないわけだし」

「安定して稼げるようになってきたってのに、また経費が嵩むようになるわけか。全く迷宮ってのは金食い虫で敵わねぇなぁ」


 装備品の品質が上がるに連れて経費が増えるってのはよくある話だけれど、必要な消耗品にかかる経費が増えるってのはきついなぁ。いつまで必要になるかも読めないわけだし。


「それじゃこれから魔法薬屋を覗きに行こうか。魔法薬の説明をするにしても、実物見ながらのほうがイメージしやすいでしょ。実際の売値も確認すべきだしね」

「はーい。それじゃお店まで案内するから、トーマは迷子にならないようにちゃーんと付いてきてねー」


 魔法薬屋かー。単純な回復アイテムだけを扱ってるってわけじゃあなさそうだな。
 安い買い物じゃないらしいけど、どんなものが売ってるのか楽しみだ。


 先に動き出した2人に続いて冒険者ギルドを後にしたのだった。
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