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2章 強さへの道標
037 それぞれの成長と4階層に向けて
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「うううううくやしいくやしいくやし~い!ちょっとくらい私に斬られてくれてもいいでしょっ」
「アホ言ってねぇで続けるぞ。相手からの反撃も忘れんじゃねぇ」
オーサンとリーンが模擬戦中である。
まだまだ5等級のオーサンの実力の底すら見えてこない。リーンの素早い動きを全て見切るなんて芸当、俺にはまだまだ出来そうにない。
「3階層で戦闘訓練を積んだ成果は出てる。前回より思い切りも良くなってるし、攻撃動作の無駄も減ってる」
オーサンの反撃がリーンの防具にヒットし、リーンが派手に吹っ飛んだ。
「けど逆に無駄がなさ過ぎて読みやすいんだよ。レッサーゴブリンみたいにたやすく急所を晒す相手ばっかりじゃねぇんだ。
俺が相手してんだから格上相手の戦い方を考えて試せ」
そう言ってシンに手招きしてくる。選手交代だ。
「シンも3階層で戦ってる成果は出てる。以前指摘した思い切りが足りないってのは良くなってると思うぞ。前回より腕力もついてきたな」
「そりゃあ、どうも……!」
シンの鋭い剣撃が幾度も風を斬る。オーサンはその剣を受けることすらなく、最小限の動きで躱し続けている。
「リーンにも言ったが急所狙いがバレバレだ。頭を使って相手を出し抜けって言っただろうが。
魔物が素直に斬られてくれるヤツばかりなら、冒険者に等級なんて必要ねぇんだよ」
シンの横薙ぎの一撃をダッキングで回避、そのまま懐に潜り込んで左のボディブロー。
「ごぇ……」っと一言、シンの体が一瞬宙に浮く。
そしてそのままシンは地面に沈んだ。
あ、あれは喰らいたくねぇな……。
「シンは戦闘経験の少なさをカバー出来る頭はあるはずだ。戦闘経験を積むだけじゃなく色々な想像をして、あらゆる場面を想定しておけ。
究極的には個人の基礎戦闘能力こそが戦場を支え、戦局を変える力になるんだ。
シンには剣術のセンスがある。基本の技術を伸ばしつつ、立ち回りを工夫することを常に忘れるな」
そしてシンがダウンしてしまったので俺の番がやってくる。
「……トーマよぅ。お前、俺になんか恨みでもあんのか?お前本気で俺を殺しに来てない?殺意に本気を感じるんだが?」
「うっせぇ!どうせ当たる気もないくせに贅沢言ってんじゃねぇ!」
2人よりも攻撃速度が遅い俺の攻撃なんてどうせ当たらん。
なら殺す気で襲い掛かっても問題ないだろオーサンが相手だしぃ!
石斧はリーチ的にオーサンとは多少離れて闘うことが出来るのだが、どうせオーサンが本気で攻撃に転じれば一瞬で詰められるだろう。
石斧は本気で振っているけれど、あくまで布石だ。
「っらぁ!」
大上段からの石斧の一撃。こんなのは勿論当たらないのは分かってる。
振り下ろす途中で石斧を手放し、振り下ろした動作の流れで両足の短剣を握る。
両手で短剣を抜きつつ、石斧を回避したばかりのオーサンに斬りつける!死ねぇこの既婚者がっ!!!
って両方ともあっさり躱されましたけどねー知ってた!けどここで下がっても意味がない。
ここは更に踏み込み攻撃を続ける場面だ。
「まぁやりたいことはわかった」「ぐぼ!?」
突然腹に激痛が走る!
息が、出来ない……!
動きは全く見えなかったが、オーサンの右ひざが俺の腹に突き刺さっていた。
シンに続いて俺も地面に崩れ落ちる。
「地力の差を認めて、俺の意表を突くことに要点を置いたのは正解だ。ただ狙ってるのがあからさま過ぎてバレバレだ。
それと武器の持ち換えと、そこからの攻撃の流れが遅すぎる。複数の武器を活用して戦いたいならそこでモタついてんじゃねぇ。
あと本気で俺を殺しにきたのは絶対忘れねぇから」
テメーだって毎回俺の扱い雑だろうが!
って言い返してやりたかったけど腹の痛みで動けませんでした……。
そのあとも3人で仲良くボコられ続けて、なんとか訓練が終了したのだった。
「クリリクには話してあるから先に家に行ってて良いぞ。
俺が帰る前に食事してたら許さねぇけどなぁ?」
ちっ、全力で釘を刺してきやがった。大人しくオーサンの帰宅を待つことにしようか。
言われたとおり、先にオーサン宅に向かう。
「3人ともいらっしゃい。どうぞ中に入ってねぇ。
訓練がない日でも遊びに来てくれていいのよぉ?」
「クリリクさんこんばんは。またお世話になります」
「こんばんはー。遊びにくる時はオーサンがいないときにするねー」
リーンパイセン容赦ねぇな。
「うんうん、いつでも来ていいからねぇ。
さぁさぁ主人はもう少ししないと戻ってこないでしょうし、中でゆっくりしててねぇ」
「おじゃましまーす」
中に入ってとりあえず座らせてもらう。
前回の訓練の日よりはマシな気がするけど、やっぱり疲労困憊で動きたくない。2人を見ると、すぐにこっくりこっくりと舟を漕ぎ始めた。
正直俺も寝たいところだけれど、今のうちに魔力制御の練習をしておく。
ううう、全然集中できねぇ……。気付いたらまぶた下りてくるぅぅ……。
耐えろ、耐えるんだ俺!ここで寝たらまた殴り起こされる未来しかない!
ふと気付くとクリリクさんが食器の準備を始めていたので、手伝いを申し出た。座ってると意識が保てなさそうだ。
準備が終った後は、2人の寝顔を見ながらクリリクさんと雑談してオーサンの帰宅まで乗り切った。
「お前らは、単純な戦闘力なら5階層を回ってるパーティに混ざっててもおかしくねぇ」
夕食を食べながらオーサンの話を聞く。
「正直な話、お前らがこのまま3階層を回り続けるのはヌルすぎるんじゃねぇかと思う。
最終的な判断は委ねるが、今日は4階層の話をしておきたい」
あら、当分は3階層で足踏みすると思ってたんだけど、まさかオーサンのほうから先に進むよう言ってくるとは思わなかったな。
「4階層に出てくるのは暗闇猪って魔物で、ドロップアイテムは食用肉だ。シャドウボアの肉は1つ60リーフで買い取って街に卸している。まぁベイクで食事すればまず口にする肉だな」
「あのお肉は安くて好きー」
リーンセンパイの好物らしい肉がドロップするようだ。迷宮のドロップシステムのおかげで解体作業をしなくて済むのは普通に有り難い。
って、迷宮の外の魔物はどうなんだろう?
「3階層は弱くて数の多い魔物を相手取る場所だったが、4階層はその逆だ。
シャドウボアは体も大きく動きも素早い。最高速度で体当たりされると、当たり所によっては即死してもおかしくない相手だ。体が大きい分、仕留めるのも難しくなるしな」
「特にリーンは気をつけなきゃいけないね。攻撃よりも回避優先で」
「はーい。そもそも私の短剣はあまり役に立てない気がするなー」
確かに、体の小さなリーンが猪の体当たりなんて食らったら本当に致命傷になりかねない。
「いや、お前らなら油断さえしなければ4階層でも問題なく立ち回れるだろうよ。万全な状態で戦えるなら、の話だが」
オーサンが不穏なことを言ってくる。
「ま、お前らだって分かってるだろうが、4階層からは視界がかなり悪くなる。そしてシャドウボアは名前通りの真っ黒な外見をしているうえに、4階層を常に走り回ってる。
本格的に視界確保の対策が必要になってくる階層なんだよあそこは」
3階層ですら薄暗いと感じるからな。4階層は対策なしで戦える場所じゃないのか。
「視界さえ確保できれば、お前らなら4階層も5階層も戦えるだろう。3人で相談して、4階層へ進むことも検討してみて欲しい。
お前らがこのまま3階層で活動し続けるのは、ちと勿体無いと俺は思ってる。金稼ぎ目的なら3階層のままでも良いと思うんだがな」
んー、当分先だと思っていた4階層の探索が急に降って湧いてきた。
明日は訓練明けで3人ともゾンビだろうし、探索をやめて話し合ってもいいかもしれないな。
「アホ言ってねぇで続けるぞ。相手からの反撃も忘れんじゃねぇ」
オーサンとリーンが模擬戦中である。
まだまだ5等級のオーサンの実力の底すら見えてこない。リーンの素早い動きを全て見切るなんて芸当、俺にはまだまだ出来そうにない。
「3階層で戦闘訓練を積んだ成果は出てる。前回より思い切りも良くなってるし、攻撃動作の無駄も減ってる」
オーサンの反撃がリーンの防具にヒットし、リーンが派手に吹っ飛んだ。
「けど逆に無駄がなさ過ぎて読みやすいんだよ。レッサーゴブリンみたいにたやすく急所を晒す相手ばっかりじゃねぇんだ。
俺が相手してんだから格上相手の戦い方を考えて試せ」
そう言ってシンに手招きしてくる。選手交代だ。
「シンも3階層で戦ってる成果は出てる。以前指摘した思い切りが足りないってのは良くなってると思うぞ。前回より腕力もついてきたな」
「そりゃあ、どうも……!」
シンの鋭い剣撃が幾度も風を斬る。オーサンはその剣を受けることすらなく、最小限の動きで躱し続けている。
「リーンにも言ったが急所狙いがバレバレだ。頭を使って相手を出し抜けって言っただろうが。
魔物が素直に斬られてくれるヤツばかりなら、冒険者に等級なんて必要ねぇんだよ」
シンの横薙ぎの一撃をダッキングで回避、そのまま懐に潜り込んで左のボディブロー。
「ごぇ……」っと一言、シンの体が一瞬宙に浮く。
そしてそのままシンは地面に沈んだ。
あ、あれは喰らいたくねぇな……。
「シンは戦闘経験の少なさをカバー出来る頭はあるはずだ。戦闘経験を積むだけじゃなく色々な想像をして、あらゆる場面を想定しておけ。
究極的には個人の基礎戦闘能力こそが戦場を支え、戦局を変える力になるんだ。
シンには剣術のセンスがある。基本の技術を伸ばしつつ、立ち回りを工夫することを常に忘れるな」
そしてシンがダウンしてしまったので俺の番がやってくる。
「……トーマよぅ。お前、俺になんか恨みでもあんのか?お前本気で俺を殺しに来てない?殺意に本気を感じるんだが?」
「うっせぇ!どうせ当たる気もないくせに贅沢言ってんじゃねぇ!」
2人よりも攻撃速度が遅い俺の攻撃なんてどうせ当たらん。
なら殺す気で襲い掛かっても問題ないだろオーサンが相手だしぃ!
石斧はリーチ的にオーサンとは多少離れて闘うことが出来るのだが、どうせオーサンが本気で攻撃に転じれば一瞬で詰められるだろう。
石斧は本気で振っているけれど、あくまで布石だ。
「っらぁ!」
大上段からの石斧の一撃。こんなのは勿論当たらないのは分かってる。
振り下ろす途中で石斧を手放し、振り下ろした動作の流れで両足の短剣を握る。
両手で短剣を抜きつつ、石斧を回避したばかりのオーサンに斬りつける!死ねぇこの既婚者がっ!!!
って両方ともあっさり躱されましたけどねー知ってた!けどここで下がっても意味がない。
ここは更に踏み込み攻撃を続ける場面だ。
「まぁやりたいことはわかった」「ぐぼ!?」
突然腹に激痛が走る!
息が、出来ない……!
動きは全く見えなかったが、オーサンの右ひざが俺の腹に突き刺さっていた。
シンに続いて俺も地面に崩れ落ちる。
「地力の差を認めて、俺の意表を突くことに要点を置いたのは正解だ。ただ狙ってるのがあからさま過ぎてバレバレだ。
それと武器の持ち換えと、そこからの攻撃の流れが遅すぎる。複数の武器を活用して戦いたいならそこでモタついてんじゃねぇ。
あと本気で俺を殺しにきたのは絶対忘れねぇから」
テメーだって毎回俺の扱い雑だろうが!
って言い返してやりたかったけど腹の痛みで動けませんでした……。
そのあとも3人で仲良くボコられ続けて、なんとか訓練が終了したのだった。
「クリリクには話してあるから先に家に行ってて良いぞ。
俺が帰る前に食事してたら許さねぇけどなぁ?」
ちっ、全力で釘を刺してきやがった。大人しくオーサンの帰宅を待つことにしようか。
言われたとおり、先にオーサン宅に向かう。
「3人ともいらっしゃい。どうぞ中に入ってねぇ。
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「クリリクさんこんばんは。またお世話になります」
「こんばんはー。遊びにくる時はオーサンがいないときにするねー」
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「うんうん、いつでも来ていいからねぇ。
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ううう、全然集中できねぇ……。気付いたらまぶた下りてくるぅぅ……。
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ふと気付くとクリリクさんが食器の準備を始めていたので、手伝いを申し出た。座ってると意識が保てなさそうだ。
準備が終った後は、2人の寝顔を見ながらクリリクさんと雑談してオーサンの帰宅まで乗り切った。
「お前らは、単純な戦闘力なら5階層を回ってるパーティに混ざっててもおかしくねぇ」
夕食を食べながらオーサンの話を聞く。
「正直な話、お前らがこのまま3階層を回り続けるのはヌルすぎるんじゃねぇかと思う。
最終的な判断は委ねるが、今日は4階層の話をしておきたい」
あら、当分は3階層で足踏みすると思ってたんだけど、まさかオーサンのほうから先に進むよう言ってくるとは思わなかったな。
「4階層に出てくるのは暗闇猪って魔物で、ドロップアイテムは食用肉だ。シャドウボアの肉は1つ60リーフで買い取って街に卸している。まぁベイクで食事すればまず口にする肉だな」
「あのお肉は安くて好きー」
リーンセンパイの好物らしい肉がドロップするようだ。迷宮のドロップシステムのおかげで解体作業をしなくて済むのは普通に有り難い。
って、迷宮の外の魔物はどうなんだろう?
「3階層は弱くて数の多い魔物を相手取る場所だったが、4階層はその逆だ。
シャドウボアは体も大きく動きも素早い。最高速度で体当たりされると、当たり所によっては即死してもおかしくない相手だ。体が大きい分、仕留めるのも難しくなるしな」
「特にリーンは気をつけなきゃいけないね。攻撃よりも回避優先で」
「はーい。そもそも私の短剣はあまり役に立てない気がするなー」
確かに、体の小さなリーンが猪の体当たりなんて食らったら本当に致命傷になりかねない。
「いや、お前らなら油断さえしなければ4階層でも問題なく立ち回れるだろうよ。万全な状態で戦えるなら、の話だが」
オーサンが不穏なことを言ってくる。
「ま、お前らだって分かってるだろうが、4階層からは視界がかなり悪くなる。そしてシャドウボアは名前通りの真っ黒な外見をしているうえに、4階層を常に走り回ってる。
本格的に視界確保の対策が必要になってくる階層なんだよあそこは」
3階層ですら薄暗いと感じるからな。4階層は対策なしで戦える場所じゃないのか。
「視界さえ確保できれば、お前らなら4階層も5階層も戦えるだろう。3人で相談して、4階層へ進むことも検討してみて欲しい。
お前らがこのまま3階層で活動し続けるのは、ちと勿体無いと俺は思ってる。金稼ぎ目的なら3階層のままでも良いと思うんだがな」
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