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とある鬼人の戦記 16 王と宰相1
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討伐軍を撃破後、休養と部隊の再編を済ませるとツェンダフ軍は王都へ向けて北上を開始した。王国領土の端にあるツェンダフ領から、ほぼ中央部の王都まではかなりの距離があり、途中の貴族の領地は敵味方モザイクのような状態だから、戦闘を回避しツェンダフ領との連絡線を維持しつつ進むには、慎重な根回しと交渉をしながら進むしか無い。戦闘こそは起きていないもののかなりの時間が掛かることとなった。言うなれば戦争のフェーズが武力を用いた戦いから、手紙と交渉による多数派工作に移ったともいえる。
グリフとマーキス卿は、王都前で最後の決戦があるものと予想し、参戦する敵勢力を少しでも減らそうと街道以外の貴族の切り崩しにも力を入れている。ダハルマ卿率いる討伐軍の敗北は衝撃をもって受け止められ、幸いにと言うべきか日和見の貴族家が増えていた。王都を護るはずの王の直臣達ですら、戦意が上がらず姿を消す兵も多いという。ブレス王が王のみに権限を集中させ家臣たちを遠ざけた事は、ここにきて致命的な事態になりつつあった。
だが、まだ気を抜く訳にはいかない、王を護る近衛が無傷で健在なのだ。かつては家柄の良いボンボンを集めただけのお飾りに成り果てていた近衛は、ダハルマ卿が根本から叩き直して文字通りの精鋭となっていた。グリフと同じように、実力と忠誠心のみの基準として人員をごっそり入れ替えたのだ。近衛もまた王により遠ざけられていたが、その忠誠心は未だ変わらずブレス王がどんな道を選ぼうともその供をする覚悟なのだという。
いよいよ明日には王都を目の前にという、野営の準備が整うと軍議が開かれた。
グリフは、自分の手で王城への道を切り開くため遠征に自ら参加していた。さすがにマーキス卿とマーシアは、王都での状況を見てから動く事になっている、その間は貴族家宛てへの手紙攻勢に力を入れていた。代わりにツェンダフ領軍からは領軍指揮官のダイオス卿が部隊を率いて参戦している。討伐軍を打ち破ったあと部隊は再編されたが、対討伐軍戦から引き続き、グリフの騎士達が前線指揮官としてツェンダフ兵の一部を率いていた。
「さすがに…近衛相手ではいくらソルメトロが脅しても降伏はせんだろうな」
「俺は別に脅したりしてませんよ、石を投げただけです」
「まぁ、そういう事にしておこう、ハイリ卿の名誉のためにもな」
軍議はグリフの軽口から始まった。王都の商会からは、頻繁に情報が寄せられている。ツェンダフ軍が目前に迫っているにも関わらず、王都騎士は参集すら出来ていないという。王都での大規模な戦闘は回避される公算が高いと思われた。
「近衛は出て来るかな?」
「密偵の情報では、王はゴージを討った鬼人殿に怒り狂い、呼び戻したダハルマ卿に近衛を率いさせ鬼人を討伐させようとしていたそうです。それもダハルマ卿の戦死により沙汰止みとなり、以降はなんの動きも無いというのが現状のようです」
ダイオス卿が密偵からの情報を報告した。商会…というより獣人の傭兵はツェンダフが雇い主となっている。いかにグリフに期待しているとはいえその軽重を蔑ろにする事は無く、報告は必ず雇い主に入れてくる。
「では…」
「いえ、近衛は王が人事不詳であっても、戦いが終わり無事が保証されない限りは戦い続けます。王が命令を出せる状態でなくても…王の命令が無くとも独自に動くのです、王を護るためならば。王に近衛を動かす気が無くとも、おそらく戦いは避けられないものかと…」
「できれば王都には被害を出したくない。王都民を巻き添えの市街戦を選ぶほど、王も近衛も正気を失っていない事を願うのみだな」
「はい」
近衛の役目は王城の守りである。もとより王都外で野戦を行う程の戦力は有していない。当然、近衛と戦うなら、王都内という事になる。それだけはなんとか避けたい所だった。近衛は王の命しか聞かない、もし戦闘になれば全滅させるしかないだろう。王都民に被害を出さぬよう、王城外での戦闘を決意してくれれば良いのだが…
王都での戦いで重視すべきは被害を最小限に抑えることである。自分が治めるべき民の屍を積み上げて、どんな顔をして城に入れるというのだ。もし王が王都の住民を盾にして抵抗するならば、その事実を非難し宣伝戦に移行するつもりだ。それでも王が変わらぬのなら……ゴージが居ない今、獣人の刃は王にも届くだろう。
翌日、ツェンダフの軍勢の先触れが王都の南門前に到着した時、事前の予測通り王都の前には迎え撃つ王都騎士は一人も居なかった。マーキス卿達の工作が功を奏したという事だろう。軍使は、グリフとマーキス卿が軍を起こした目的を堂々と宣言し、ブレス王の退位を要求した。
南門の衛兵は、軍使に罵声を浴びせた。これは戦の前段階のお約束のようなもので、言うなれば開戦を意味する。だが、城門の兵はまだ楽観的だった。貴族の日和見により迎撃の軍が編成できずとも、王都は王国最大級の城塞都市である。城門を閉ざせばそう易々と突破する事はできない。長引けば、根拠地を遠く離れたツェンダフ側が不利になるし、グリフが不利になれば日和見の貴族が王に再度なびく可能性も高い。
だが、そうはならなかった。軍使の口上を合図のように、門の内側で騒ぎが起きたからだ。突然現れた鬼人が門の衛兵を制圧したのである。
ゴージとの一戦以降鬱屈していたステレは、何かで発散させないと爆発する寸前になっていた。今のステレならソルメトロと互角のド突き合いができるだろう。だが、マーシアからはなるべく死人を出すなと言われている。そして『只人のステレ』も、できれば要らぬ殺しはしたくは無かった。ステレは困った挙句に、手近にあったほうきを武器にして真正面から門の南門にカチコミをかけた。正直殺さないように手加減する方が困難な闘いを終えた時、なんとか死人を出さずに衛士は全員掃き出されていた。もっとも、途中からは相手がゴージを斬った鬼人であるという恐怖が伝わり、衛兵たちはほとんど逃げ腰だったのだが。
ステレは巨大な二重の門を押し開けて固定すると、門の上の胸壁に陣取って動かない。相変わらず武器はほうきしか持たないたった一人の鬼人を、武装した大勢の王国兵が遠巻きにするが、南門を奪還しようという度胸のある衛兵は一人も居なかった。
この事態が報告されると、ブレス王は露骨に苦い顔をした。カーラ夫人もほうきで暴徒を追い払った武勇伝があるからだ。同じことを衛兵を相手にやってのけ、死人を出さなかった鬼人の行動は、「カンフレーなら殺さずに済ます事ができるぞ」と、カンフレーを滅ぼした自分を非難する行為に思えたのだ。もちろんステレにはそんな気は全く無く、単なる偶然ではある。…というか、母の記憶は霧の彼方で、そんな母の武勇伝すら思い出す事が出来なかった。
いずれにしろ、王都への入り口はたった一人の鬼人によって制圧され、門が開け放たれた。この情報は瞬く間に王都中に広がり、ちょっとしたパニックを引きおこす事となったのだった。
ブレス王は、グリフ達が危惧した王都住民を巻き込んで最後の決戦を挑む…などと言う愚行を犯さないだけの理性が残っていた。いや、むしろそこまでするような気力がもう残っていなかったのだ。あれほど憎んだ鬼人が…半身の仇が姿を現したというのに、ブレス王は動こうとしなかったのではなく動けなかったのだ。
ダハルマ卿戦死の報は、ブレス王を折ってしまっていた。何しろ、王都に向かう途中を補足され討たれたというのだ。ゴージもダハルマも、全て自分の判断が元で死んだという事になる。二人を失ったいま、もう信じられるのは自分しかいない。だが、二人が死んだのは皆自分の判断の結果だというのに、どうして自分を信じられるというのだ。
王は本当の意味で一人になってしまっていた。信頼できるものすべてを失ったブレス王は、敗北を悟っていた。
城で王に味方しようとする貴族は驚くほど少なかった。兵馬相が王都騎士をまとめ、防戦しようとしたが、戦意の低い騎士達をまとめ上げる事ができないでいる。例え無理やりに出兵させたとしても間に合う訳もない。余計な事を何もいわず、命令通りに黙々と仕事をこなす男だったから登用したが、平時はともかく今のような緊急事態で対応できる力量ではなかった。
しばらくの間自室に籠っていた王は、久々に朝議の間に現れた。玉座に腰を下ろして見渡すが、この緊急事態に席にはだれもいない。鬼人により王都の門が制圧されたという情報が広がると、貴族は屋敷に引き籠り、中には逃げ支度を始める者までいる始末だ。これはグリフ達の作戦の一つで、情報が十分に広がり、逃亡を企てる貴族が出るよう、本隊到着に合わせてではなく先触れの口上の段階で門を制圧したのだ。
だが、ただ一人。玉座の脇の宰相の定位置に、いつもと変わらず宰相のキーリング卿が立っていた。
王がいくら遠ざけても、この男は自分の職務を果たそうとし続けた。自分は王ではなく王国に仕えている…と公言して憚らない男だ。キブト王からブレス王に代が変わっても、彼の態度は全く変わらなかった。おそらく、グリフの治世でもその辣腕を発揮するのだろう。
無言のまま時が過ぎ、やがて王がぽつりとつぶやいた。
「余が宰相の進言を入れていれば、このような事態は避けられたであろうか…」
それは下問というほど明確な声ではなかった。ただの愚痴だったのかもしれない。
「古来より、戦いは数…と申します。臣がお諫めしても陛下にお味方を増やそうという意思が無ければ結果は変わりますまい」
キーリング卿は真面目に、そして辛辣に答えた。答えを期待していなかった王は、意外そうな顔で宰相を見た。
宰相の態度は、意見が衝突した末に目の前から下がれと命じた以前と何も変わっていなかった。そしてブレス王は理解した。この男は、言葉通りの男だった。ブレス王をないがしろにしたのではないのだ、王がどういう王でも、どういう態度でも意に介さない。それだけなのだ。好きも嫌いもない、王は政策を決断し自分が王の決断を実行する。王の決断が王国のためにならぬなら諫言はするが、諫言が効かないなら損害が最小になるよう自分が調整して実行する。そして王が代替わりしても自分は変わらず同じ仕事を続ける。行政の長として、王国の歯車として、王のためではなく王国のために。
そう考えれば、宰相を少しは信用する事ができる。
「余の戦力はグリフを上回っていたが負けたぞ?」
「必要なのは兵の数ではございません。味方の数です。陛下のために身命を尽くして働いてくれるお味方でなければ、ものの役にも立ちませぬ。戦だけでなく政でもモノをいうのは味方の数でございます。貴族にも王城にも、王のお味方はまだまだ居りました。陛下はそれを全て退けてしまわれた」
ブレス王は、ようやく得心がいったというように頷いた。とはいえ全てに納得した訳ではない。ブレス王には、同じように行動し、そして成功しつつあった手本が居たのだから。
「先王陛下は…父上は味方を作らず一人で勝ち続けていた」
「あのお方は、一人で万の戦力でございますから。そして、なんでも一人で片付けているように見えて、あちこちに味方を作っておいででした。臣も信頼はされておりませんでしたが、信用はされておりました」
王は危うく噴き出すところだった。全く同じことを考えていたからだ。確かにこの男も王の力を誘導しようとする。だが、アルデ卿のように貴族の権益や自信の利のためには動かない。王国の利益だけは決して裏切らないのだ。その一点について信用すれば良かった。主従の間の全幅の信頼などそうそう得られないのだから、こういう人物こそを重用すべきだったのだ。
「加えて…大変に不敬で、申し上げにくい事ですが……」
「まだあるのか?もう今更だ、好きに言え」
「……先王陛下は確かに敵も多うございましたが、それらを察知し抑えつけることが巧みでした。ですが先王陛下を模倣する陛下は、同じように敵を作ってしまわれましたが、それを抑えつける事は…」
「……そうだな、敵意に気付きもしなかった…か」
面従腹背の貴族に気づきもせず、貴族は王の意向に従うと思っていた。自らの目で選び、言葉をかけて集め、亡命にすら志願するほどの味方を増やし続けたグリフに勝てる道理も無かった。
王は改めて周りを見渡す、律儀なのかこの事態でも部屋の隅に侍女が一人控えていた。王はしばらく外すよう命じた。彼女に頼む訳には行かないし、巻き込む事もしたくない。この状況で頼めるのは宰相だけだろう。自分で遠ざけておきながら頼らざるを得ないのは腹立たしいが、この命令なら宰相も快く引き受けるだろう。
「宰相……」
「は」
「最近眠れん。よく眠れる酒を用意してくれ」
キーリング卿は僅かに眉を動かす。そんな事は、使用人に命じれば済む話である。侍女を退席させわざわざ宰相に求めたのは、所望したのが特別な酒…『よく眠れて、二度と目覚めない酒』だからに他ならない。こんなものを使用人に頼む訳にはいかない。いかに王の命令とて、下手をしたら一族連座で斬罪になりかねない。
キーリング卿は一礼して下がると、しばらくして年代物のワインの瓶を持ってきた。どうやら、秘蔵の1本で送ってくれるらしい。
「宰相…王妃と王女の行く末を任せる事はできるか?」
王は宰相に家族の後事を託そうとした。王国のためなら王でも駒にする男だが、今は頼れるのはこの男しか居ない。なにより、兄弟の争いに二人を巻き添えにすれば、グリフも王国も非難を受けるであろうから、悪い事にはならないだろう…と宰相を『信用』していた。
だが、キーリング卿の答えは予想外なものだった。
「差し出がましいかと思いましたが、太后殿下以下既に皇国の公館にお移りいただいております」
「なに?」
太后…ブレス王の生母は皇国の出だ。だから、皇国のへの亡命は考えの中にあった。だが、あまりにも手回しが良すぎる。キーリング卿は更に思いもよらない事を言い出した。
「陛下もお仕度ください。この酒は、陛下に召し上がっていただく物ではなく皇国大使への手土産でございます。我が領地で、近年一番葡萄の出来の良かった年に仕込みました。12年物になります。大使は王国のワインには目が無いと聞いております。これの他に一箱ございますから、お持ちください」
「馬鹿を言え。今更どのような顔をして皇国に行けというのだ」
表立った援助こそしなかったものの、皇国はクヴァルシルに対するブレス王の言動を遺憾としてグリフを庇護したのだ。太后はともかく自分の亡命が受け入れられるとは思えない。
「皇国からは、陛下が行く末に困るようであれば、太后殿下共々皇国に向かわせよとのお話が届いております」
「聞いておらんぞ!」
「もしもに備えて、臣の心の内に留めておけと誓わされておりましたゆえ」
全く悪びれもせず言うキーリング卿に呆れたか、王は玉座に身体を預けるとため息をついた。
「……母上はともかく、今更余を亡命させたとしても、邪魔にしかなるまいに」
「皇国も、王女殿下にはまだ父親が必要と判断したかと存じます。王位は捨てても父親であることも投げ捨てる事はございますまい。孫の顔を見るのを楽しみにしながら未だ叶わぬ臣は、王女殿下には随分と心和ませていただきました。王女殿下のためにも後押ししとうございます」
確かに、キーリング卿の嫡男は妻を娶ってだいぶ経つが、今だ子が無いという。そんな宰相が好々爺の目で王女を見ていた事も確かにあった。とはいえ、この古狸の言葉をそのまま受け取る事などできようはずもない。
「心にもないことを…」
「あっさりと見破られましたか。日頃の行いのせいでしょうか…」
ほとんど鼻で笑う勢いのブレス王の言葉を、キーリング卿はケロリと受け流す。
「……おそらくは、グリフ殿下が勝ちすぎた…という事かと。絶対的な不利からの大逆転劇ですから、殿下が皇国の後押しで陛下を討ったように見えかねない事を危惧したのかと思われます。だからこそ、グリフ殿下を支援した貸しを早めに取り立てたいと考えたのでございましょうな。皇国の民の子である陛下を見逃す事で、グリフ殿下は皇国への借りを返し、皇国は陛下を受け入れる事で殿下に一方的に肩入れする訳ではない…と内外に示す。将来に禍根を残さないための配慮かと」
ブレス王は僅かに首をひねる。自分の命にそれほどの価値があるとは思えなかった。
「皇国がグリフへの…我が国への貸しを、余の命で清算するというのか?。グリフは義理堅い男だ。いくらでも恩を着せられるだろうに…」
「皇国の恐ろしい所はこいう所でございます。皇国としては、この一件は美談で終わった方が後々得と考えたのでございましょう。貸し借りの関係を残すには、皇国もわが国も大きすぎます。実際皇国がしたことと言えば、殿下の自由な移動を認めた程度でございます。ですが、その結果生まれた成果が大きいために、貸しの査定が難しい。皇国が下手に明確な利益を取り立てようとすれば、王国民の心象は一気に悪化する事も有りえます。亡命公子の貴種流離譚が大団円を迎え、その熱狂が冷めやらぬうちに精算を終えてしまえば、後になって無粋な貸し借りを持ち出す者は少ない…そう考えたのでございましょう。そしておっしゃる通り、グリフ殿下は義理堅いお方、いかに貸し借りは清算済みと言っても、皇国への恩義は忘れぬでしょうから」
ブレス王は苦虫を噛み潰した表情を隠さない。
「余の言動は皇国民の不興を買っておろう、王国への貸しの代金としては安すぎると思われぬか」
「さようでございましょうな、しばらくは針の筵をお覚悟下さい。ですがそこで先ほどの、王女殿下の父親…という立場が生きる事になります。できる限りしおらしく、『叔父により国を追われた愛らしい王女のために、恥を忍んで亡命した父親』を演じて下さいませ。1年もすれば同情の方が上回るでしょう」
ブレス王は、身も蓋も無い宰相の言葉にめまいを感じた。同じく皇国に亡命したグリフと異なり、再起への可能性は皆無だ。皇国での生には、王の誇りも騎士の誇りも無い。だが…
だが、それが今の自分には似合っている。そうも思えた。
とはいえ、問題はまだある。その叔父…グリフが一番の難物なのだ。
「…グリフは手ぶらの勝利では納得しまい」
「だからこそ、貸しの取り立ての意味がございます。殿下は断腸の思いで陛下の首を諦めねばなりませんからな」
「どうやってグリフを納得させる」
「何、王国には責任を取るべき人間は他にいくらでもおりますゆえ、ご心配めさるな」
悪い笑顔の宰相を、ブレス王はこれ以上無いというほど胡散臭いものを見る目で見た。
だが何も言う事は無かった。王は決心のためか、しばらく無言のままだった。
「…いつからだ?」
「最初からでございます。王国のため、万が一を考えてあらゆる手を尽くしております…。陛下のためではございません、全ては王国のためでございます」
「……判った、そなたの進言に従おう。それが王国のためになるのだな?」
「はい」
宰相は恭しく…それはいつもと変わらずという意味だが…礼をした。
グリフとマーキス卿は、王都前で最後の決戦があるものと予想し、参戦する敵勢力を少しでも減らそうと街道以外の貴族の切り崩しにも力を入れている。ダハルマ卿率いる討伐軍の敗北は衝撃をもって受け止められ、幸いにと言うべきか日和見の貴族家が増えていた。王都を護るはずの王の直臣達ですら、戦意が上がらず姿を消す兵も多いという。ブレス王が王のみに権限を集中させ家臣たちを遠ざけた事は、ここにきて致命的な事態になりつつあった。
だが、まだ気を抜く訳にはいかない、王を護る近衛が無傷で健在なのだ。かつては家柄の良いボンボンを集めただけのお飾りに成り果てていた近衛は、ダハルマ卿が根本から叩き直して文字通りの精鋭となっていた。グリフと同じように、実力と忠誠心のみの基準として人員をごっそり入れ替えたのだ。近衛もまた王により遠ざけられていたが、その忠誠心は未だ変わらずブレス王がどんな道を選ぼうともその供をする覚悟なのだという。
いよいよ明日には王都を目の前にという、野営の準備が整うと軍議が開かれた。
グリフは、自分の手で王城への道を切り開くため遠征に自ら参加していた。さすがにマーキス卿とマーシアは、王都での状況を見てから動く事になっている、その間は貴族家宛てへの手紙攻勢に力を入れていた。代わりにツェンダフ領軍からは領軍指揮官のダイオス卿が部隊を率いて参戦している。討伐軍を打ち破ったあと部隊は再編されたが、対討伐軍戦から引き続き、グリフの騎士達が前線指揮官としてツェンダフ兵の一部を率いていた。
「さすがに…近衛相手ではいくらソルメトロが脅しても降伏はせんだろうな」
「俺は別に脅したりしてませんよ、石を投げただけです」
「まぁ、そういう事にしておこう、ハイリ卿の名誉のためにもな」
軍議はグリフの軽口から始まった。王都の商会からは、頻繁に情報が寄せられている。ツェンダフ軍が目前に迫っているにも関わらず、王都騎士は参集すら出来ていないという。王都での大規模な戦闘は回避される公算が高いと思われた。
「近衛は出て来るかな?」
「密偵の情報では、王はゴージを討った鬼人殿に怒り狂い、呼び戻したダハルマ卿に近衛を率いさせ鬼人を討伐させようとしていたそうです。それもダハルマ卿の戦死により沙汰止みとなり、以降はなんの動きも無いというのが現状のようです」
ダイオス卿が密偵からの情報を報告した。商会…というより獣人の傭兵はツェンダフが雇い主となっている。いかにグリフに期待しているとはいえその軽重を蔑ろにする事は無く、報告は必ず雇い主に入れてくる。
「では…」
「いえ、近衛は王が人事不詳であっても、戦いが終わり無事が保証されない限りは戦い続けます。王が命令を出せる状態でなくても…王の命令が無くとも独自に動くのです、王を護るためならば。王に近衛を動かす気が無くとも、おそらく戦いは避けられないものかと…」
「できれば王都には被害を出したくない。王都民を巻き添えの市街戦を選ぶほど、王も近衛も正気を失っていない事を願うのみだな」
「はい」
近衛の役目は王城の守りである。もとより王都外で野戦を行う程の戦力は有していない。当然、近衛と戦うなら、王都内という事になる。それだけはなんとか避けたい所だった。近衛は王の命しか聞かない、もし戦闘になれば全滅させるしかないだろう。王都民に被害を出さぬよう、王城外での戦闘を決意してくれれば良いのだが…
王都での戦いで重視すべきは被害を最小限に抑えることである。自分が治めるべき民の屍を積み上げて、どんな顔をして城に入れるというのだ。もし王が王都の住民を盾にして抵抗するならば、その事実を非難し宣伝戦に移行するつもりだ。それでも王が変わらぬのなら……ゴージが居ない今、獣人の刃は王にも届くだろう。
翌日、ツェンダフの軍勢の先触れが王都の南門前に到着した時、事前の予測通り王都の前には迎え撃つ王都騎士は一人も居なかった。マーキス卿達の工作が功を奏したという事だろう。軍使は、グリフとマーキス卿が軍を起こした目的を堂々と宣言し、ブレス王の退位を要求した。
南門の衛兵は、軍使に罵声を浴びせた。これは戦の前段階のお約束のようなもので、言うなれば開戦を意味する。だが、城門の兵はまだ楽観的だった。貴族の日和見により迎撃の軍が編成できずとも、王都は王国最大級の城塞都市である。城門を閉ざせばそう易々と突破する事はできない。長引けば、根拠地を遠く離れたツェンダフ側が不利になるし、グリフが不利になれば日和見の貴族が王に再度なびく可能性も高い。
だが、そうはならなかった。軍使の口上を合図のように、門の内側で騒ぎが起きたからだ。突然現れた鬼人が門の衛兵を制圧したのである。
ゴージとの一戦以降鬱屈していたステレは、何かで発散させないと爆発する寸前になっていた。今のステレならソルメトロと互角のド突き合いができるだろう。だが、マーシアからはなるべく死人を出すなと言われている。そして『只人のステレ』も、できれば要らぬ殺しはしたくは無かった。ステレは困った挙句に、手近にあったほうきを武器にして真正面から門の南門にカチコミをかけた。正直殺さないように手加減する方が困難な闘いを終えた時、なんとか死人を出さずに衛士は全員掃き出されていた。もっとも、途中からは相手がゴージを斬った鬼人であるという恐怖が伝わり、衛兵たちはほとんど逃げ腰だったのだが。
ステレは巨大な二重の門を押し開けて固定すると、門の上の胸壁に陣取って動かない。相変わらず武器はほうきしか持たないたった一人の鬼人を、武装した大勢の王国兵が遠巻きにするが、南門を奪還しようという度胸のある衛兵は一人も居なかった。
この事態が報告されると、ブレス王は露骨に苦い顔をした。カーラ夫人もほうきで暴徒を追い払った武勇伝があるからだ。同じことを衛兵を相手にやってのけ、死人を出さなかった鬼人の行動は、「カンフレーなら殺さずに済ます事ができるぞ」と、カンフレーを滅ぼした自分を非難する行為に思えたのだ。もちろんステレにはそんな気は全く無く、単なる偶然ではある。…というか、母の記憶は霧の彼方で、そんな母の武勇伝すら思い出す事が出来なかった。
いずれにしろ、王都への入り口はたった一人の鬼人によって制圧され、門が開け放たれた。この情報は瞬く間に王都中に広がり、ちょっとしたパニックを引きおこす事となったのだった。
ブレス王は、グリフ達が危惧した王都住民を巻き込んで最後の決戦を挑む…などと言う愚行を犯さないだけの理性が残っていた。いや、むしろそこまでするような気力がもう残っていなかったのだ。あれほど憎んだ鬼人が…半身の仇が姿を現したというのに、ブレス王は動こうとしなかったのではなく動けなかったのだ。
ダハルマ卿戦死の報は、ブレス王を折ってしまっていた。何しろ、王都に向かう途中を補足され討たれたというのだ。ゴージもダハルマも、全て自分の判断が元で死んだという事になる。二人を失ったいま、もう信じられるのは自分しかいない。だが、二人が死んだのは皆自分の判断の結果だというのに、どうして自分を信じられるというのだ。
王は本当の意味で一人になってしまっていた。信頼できるものすべてを失ったブレス王は、敗北を悟っていた。
城で王に味方しようとする貴族は驚くほど少なかった。兵馬相が王都騎士をまとめ、防戦しようとしたが、戦意の低い騎士達をまとめ上げる事ができないでいる。例え無理やりに出兵させたとしても間に合う訳もない。余計な事を何もいわず、命令通りに黙々と仕事をこなす男だったから登用したが、平時はともかく今のような緊急事態で対応できる力量ではなかった。
しばらくの間自室に籠っていた王は、久々に朝議の間に現れた。玉座に腰を下ろして見渡すが、この緊急事態に席にはだれもいない。鬼人により王都の門が制圧されたという情報が広がると、貴族は屋敷に引き籠り、中には逃げ支度を始める者までいる始末だ。これはグリフ達の作戦の一つで、情報が十分に広がり、逃亡を企てる貴族が出るよう、本隊到着に合わせてではなく先触れの口上の段階で門を制圧したのだ。
だが、ただ一人。玉座の脇の宰相の定位置に、いつもと変わらず宰相のキーリング卿が立っていた。
王がいくら遠ざけても、この男は自分の職務を果たそうとし続けた。自分は王ではなく王国に仕えている…と公言して憚らない男だ。キブト王からブレス王に代が変わっても、彼の態度は全く変わらなかった。おそらく、グリフの治世でもその辣腕を発揮するのだろう。
無言のまま時が過ぎ、やがて王がぽつりとつぶやいた。
「余が宰相の進言を入れていれば、このような事態は避けられたであろうか…」
それは下問というほど明確な声ではなかった。ただの愚痴だったのかもしれない。
「古来より、戦いは数…と申します。臣がお諫めしても陛下にお味方を増やそうという意思が無ければ結果は変わりますまい」
キーリング卿は真面目に、そして辛辣に答えた。答えを期待していなかった王は、意外そうな顔で宰相を見た。
宰相の態度は、意見が衝突した末に目の前から下がれと命じた以前と何も変わっていなかった。そしてブレス王は理解した。この男は、言葉通りの男だった。ブレス王をないがしろにしたのではないのだ、王がどういう王でも、どういう態度でも意に介さない。それだけなのだ。好きも嫌いもない、王は政策を決断し自分が王の決断を実行する。王の決断が王国のためにならぬなら諫言はするが、諫言が効かないなら損害が最小になるよう自分が調整して実行する。そして王が代替わりしても自分は変わらず同じ仕事を続ける。行政の長として、王国の歯車として、王のためではなく王国のために。
そう考えれば、宰相を少しは信用する事ができる。
「余の戦力はグリフを上回っていたが負けたぞ?」
「必要なのは兵の数ではございません。味方の数です。陛下のために身命を尽くして働いてくれるお味方でなければ、ものの役にも立ちませぬ。戦だけでなく政でもモノをいうのは味方の数でございます。貴族にも王城にも、王のお味方はまだまだ居りました。陛下はそれを全て退けてしまわれた」
ブレス王は、ようやく得心がいったというように頷いた。とはいえ全てに納得した訳ではない。ブレス王には、同じように行動し、そして成功しつつあった手本が居たのだから。
「先王陛下は…父上は味方を作らず一人で勝ち続けていた」
「あのお方は、一人で万の戦力でございますから。そして、なんでも一人で片付けているように見えて、あちこちに味方を作っておいででした。臣も信頼はされておりませんでしたが、信用はされておりました」
王は危うく噴き出すところだった。全く同じことを考えていたからだ。確かにこの男も王の力を誘導しようとする。だが、アルデ卿のように貴族の権益や自信の利のためには動かない。王国の利益だけは決して裏切らないのだ。その一点について信用すれば良かった。主従の間の全幅の信頼などそうそう得られないのだから、こういう人物こそを重用すべきだったのだ。
「加えて…大変に不敬で、申し上げにくい事ですが……」
「まだあるのか?もう今更だ、好きに言え」
「……先王陛下は確かに敵も多うございましたが、それらを察知し抑えつけることが巧みでした。ですが先王陛下を模倣する陛下は、同じように敵を作ってしまわれましたが、それを抑えつける事は…」
「……そうだな、敵意に気付きもしなかった…か」
面従腹背の貴族に気づきもせず、貴族は王の意向に従うと思っていた。自らの目で選び、言葉をかけて集め、亡命にすら志願するほどの味方を増やし続けたグリフに勝てる道理も無かった。
王は改めて周りを見渡す、律儀なのかこの事態でも部屋の隅に侍女が一人控えていた。王はしばらく外すよう命じた。彼女に頼む訳には行かないし、巻き込む事もしたくない。この状況で頼めるのは宰相だけだろう。自分で遠ざけておきながら頼らざるを得ないのは腹立たしいが、この命令なら宰相も快く引き受けるだろう。
「宰相……」
「は」
「最近眠れん。よく眠れる酒を用意してくれ」
キーリング卿は僅かに眉を動かす。そんな事は、使用人に命じれば済む話である。侍女を退席させわざわざ宰相に求めたのは、所望したのが特別な酒…『よく眠れて、二度と目覚めない酒』だからに他ならない。こんなものを使用人に頼む訳にはいかない。いかに王の命令とて、下手をしたら一族連座で斬罪になりかねない。
キーリング卿は一礼して下がると、しばらくして年代物のワインの瓶を持ってきた。どうやら、秘蔵の1本で送ってくれるらしい。
「宰相…王妃と王女の行く末を任せる事はできるか?」
王は宰相に家族の後事を託そうとした。王国のためなら王でも駒にする男だが、今は頼れるのはこの男しか居ない。なにより、兄弟の争いに二人を巻き添えにすれば、グリフも王国も非難を受けるであろうから、悪い事にはならないだろう…と宰相を『信用』していた。
だが、キーリング卿の答えは予想外なものだった。
「差し出がましいかと思いましたが、太后殿下以下既に皇国の公館にお移りいただいております」
「なに?」
太后…ブレス王の生母は皇国の出だ。だから、皇国のへの亡命は考えの中にあった。だが、あまりにも手回しが良すぎる。キーリング卿は更に思いもよらない事を言い出した。
「陛下もお仕度ください。この酒は、陛下に召し上がっていただく物ではなく皇国大使への手土産でございます。我が領地で、近年一番葡萄の出来の良かった年に仕込みました。12年物になります。大使は王国のワインには目が無いと聞いております。これの他に一箱ございますから、お持ちください」
「馬鹿を言え。今更どのような顔をして皇国に行けというのだ」
表立った援助こそしなかったものの、皇国はクヴァルシルに対するブレス王の言動を遺憾としてグリフを庇護したのだ。太后はともかく自分の亡命が受け入れられるとは思えない。
「皇国からは、陛下が行く末に困るようであれば、太后殿下共々皇国に向かわせよとのお話が届いております」
「聞いておらんぞ!」
「もしもに備えて、臣の心の内に留めておけと誓わされておりましたゆえ」
全く悪びれもせず言うキーリング卿に呆れたか、王は玉座に身体を預けるとため息をついた。
「……母上はともかく、今更余を亡命させたとしても、邪魔にしかなるまいに」
「皇国も、王女殿下にはまだ父親が必要と判断したかと存じます。王位は捨てても父親であることも投げ捨てる事はございますまい。孫の顔を見るのを楽しみにしながら未だ叶わぬ臣は、王女殿下には随分と心和ませていただきました。王女殿下のためにも後押ししとうございます」
確かに、キーリング卿の嫡男は妻を娶ってだいぶ経つが、今だ子が無いという。そんな宰相が好々爺の目で王女を見ていた事も確かにあった。とはいえ、この古狸の言葉をそのまま受け取る事などできようはずもない。
「心にもないことを…」
「あっさりと見破られましたか。日頃の行いのせいでしょうか…」
ほとんど鼻で笑う勢いのブレス王の言葉を、キーリング卿はケロリと受け流す。
「……おそらくは、グリフ殿下が勝ちすぎた…という事かと。絶対的な不利からの大逆転劇ですから、殿下が皇国の後押しで陛下を討ったように見えかねない事を危惧したのかと思われます。だからこそ、グリフ殿下を支援した貸しを早めに取り立てたいと考えたのでございましょうな。皇国の民の子である陛下を見逃す事で、グリフ殿下は皇国への借りを返し、皇国は陛下を受け入れる事で殿下に一方的に肩入れする訳ではない…と内外に示す。将来に禍根を残さないための配慮かと」
ブレス王は僅かに首をひねる。自分の命にそれほどの価値があるとは思えなかった。
「皇国がグリフへの…我が国への貸しを、余の命で清算するというのか?。グリフは義理堅い男だ。いくらでも恩を着せられるだろうに…」
「皇国の恐ろしい所はこいう所でございます。皇国としては、この一件は美談で終わった方が後々得と考えたのでございましょう。貸し借りの関係を残すには、皇国もわが国も大きすぎます。実際皇国がしたことと言えば、殿下の自由な移動を認めた程度でございます。ですが、その結果生まれた成果が大きいために、貸しの査定が難しい。皇国が下手に明確な利益を取り立てようとすれば、王国民の心象は一気に悪化する事も有りえます。亡命公子の貴種流離譚が大団円を迎え、その熱狂が冷めやらぬうちに精算を終えてしまえば、後になって無粋な貸し借りを持ち出す者は少ない…そう考えたのでございましょう。そしておっしゃる通り、グリフ殿下は義理堅いお方、いかに貸し借りは清算済みと言っても、皇国への恩義は忘れぬでしょうから」
ブレス王は苦虫を噛み潰した表情を隠さない。
「余の言動は皇国民の不興を買っておろう、王国への貸しの代金としては安すぎると思われぬか」
「さようでございましょうな、しばらくは針の筵をお覚悟下さい。ですがそこで先ほどの、王女殿下の父親…という立場が生きる事になります。できる限りしおらしく、『叔父により国を追われた愛らしい王女のために、恥を忍んで亡命した父親』を演じて下さいませ。1年もすれば同情の方が上回るでしょう」
ブレス王は、身も蓋も無い宰相の言葉にめまいを感じた。同じく皇国に亡命したグリフと異なり、再起への可能性は皆無だ。皇国での生には、王の誇りも騎士の誇りも無い。だが…
だが、それが今の自分には似合っている。そうも思えた。
とはいえ、問題はまだある。その叔父…グリフが一番の難物なのだ。
「…グリフは手ぶらの勝利では納得しまい」
「だからこそ、貸しの取り立ての意味がございます。殿下は断腸の思いで陛下の首を諦めねばなりませんからな」
「どうやってグリフを納得させる」
「何、王国には責任を取るべき人間は他にいくらでもおりますゆえ、ご心配めさるな」
悪い笑顔の宰相を、ブレス王はこれ以上無いというほど胡散臭いものを見る目で見た。
だが何も言う事は無かった。王は決心のためか、しばらく無言のままだった。
「…いつからだ?」
「最初からでございます。王国のため、万が一を考えてあらゆる手を尽くしております…。陛下のためではございません、全ては王国のためでございます」
「……判った、そなたの進言に従おう。それが王国のためになるのだな?」
「はい」
宰相は恭しく…それはいつもと変わらずという意味だが…礼をした。
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