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王の手1
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ステレの目当ての人物は、アルカレル・シュライサーという、60を過ぎた老人である。
シュライサー家は、王国の東のグリンドを領有する貴族で、アルカレルは今の当主の叔父に当たる。当主からは距離を置き、領地の片田舎で隠居生活をしているとのことだった。仕事のせいで、妻は娶れなかったとのことで、幾人かの従僕と暮らしているという。
グリンドには、エイレンからは陸路で10日ほどかかった。
ステレが監視されていることが明らかだったので、出立には特別に気を使った。商会員総出で同じ姿の囮を大量に出したのだ。数度に渡って魔の森にも隊を出し、実際に森に入ってもいる。トレハンは、魔の森に向かう一行を重点監視せざるをえず、対処しきれなかった。トレハンが「森番」の所在を見失ったことに気づくのは、少し先の話になる。
既に商会から紹介状を出してもらっており、グリンドでの宿を確保する頃には、老人にどうにか面会の約束を取り付けることができたと報告が届いていたのだった。
約束の日、ステレは只人の商会員と二人でアルカレルの屋敷を訪れた。屋敷は、平屋の建物を繋いださほど大きくも無い建物だった。裏手は畑になっているが、納屋や庭の様子からは大勢の小作人が居るようには見えない。地区内の農民に貸しているのだろう。
ステレ達は出迎えた従僕に、一旦待合に通された。簡単に身辺を検査されたが、事前に予想していたから武器の類はまったく持って来ていない。待っていると、家令と思しき壮年の男が現れ、応接間らしい部屋に通された。わざわざ家令が…と思ったが、案内する物腰に隙がない。胡散臭い客を直に見に来たということだろう。案内した従僕も家令も、室内でもフードを被ったままのステレを、咎めるような目で見ている。
アルカレルは椅子に掛けたまま客を迎えた。あまり気乗りしない要請である。この程度で腹を立てるようならそれまでだと思っている。だが、入室した客は、全く気にもせず老人の前に進み出ると一礼して跪いた。わずかに遅れて店員も同様に跪く。
「先代の<王の手>アルカレル殿でしょうか」
「いかにもアルカレルだ。お主は?」
ステレは部屋の端に控える家令をちらりと見た。
「その者には、いやこの屋敷の者には儂が全幅の信頼を置いている。儂が命じぬ限り、見聞きしたこと一切口外せぬ」
ステレのしぐさに気づいたアルカレルが、そう告げた。初対面で人払いなど要求できる訳も無い。信頼する以外に無いだろう。
「名乗らぬ無礼をお許し下さい。私は幸運により獣人の好意を得ることができた鬼人です。故あって魔人を斬る剣を模索しております。是非一手ご指南いただきたい」
「鬼人に魔人だと?」
老人は胡散臭そうにステレを見た。
獣人の手紙に『只人では無い』とあったが、まさか鬼人だとは思わなかった。
ステレはゆっくりとかぶっていたフードを取り、帽子と眼鏡も外した。額に小さな角、炎のごとき真紅の髪に金色の目。確かに伝承にある鬼人の姿だった。
剣人一筋に生きてこの年齢に達したアルカレルは、もはや生死に無頓着な域に達している。鬼人の姿を見ても、僅かに眉を動かしただけだ。一方で、屋敷と主人を守ることを誇りとしてきた家令は、息を呑み明らかに緊張しているのが判る。
(表情を変えないことから『石像』とも呼ばれるこの男を動揺させるとは大した物だ……)アルカレルは、鬼人の脅威を再認識した。只人にとり、鬼人はそれだけ恐れられる存在なのだ。だが、それだけ恐れられる戦闘力を持つ鬼人が、何故わざわざ只人の老人を訪れる必要がある?。
「鬼人が只人に剣の教えを請うというのか」
「今まで、剣を十分に学ぶことができませんでした。今の私は鉄の棒です。頑丈で、当たれば大概の物を壊せますが、それだけです。魔人には到底及びませんでした」
(ふむ)と、アルカレルは、ステレを値踏みするように見た。魔人の伝承が話半分としても、さしもの鬼人でも荷が重いということか。
「……だが、儂の剣はただ罪人を斬るだけの剣だ、人に教えるようなものではない」
「あなたの許に来たのは、私が知る中で一番速いのがあなたの剣だからです。魔人は素手で剣士と闘い、数百年無敗の怪物です。魔人を斬るには何より剣の速さが要ります」
惚けて見たが、鬼人はアルカレルの剣の腕に確信があるようだった。
「どこでそんな話を聞いた?鬼人に剣を見せた覚えは無いが」
「私もあなたの剣を直に目にしてはおりません。ですが、私が最も速いと思う剣の使い手が、確かにあなたが師だと言っていました」
「ではその者から学べばよい」
「既にこの世の者ではありません」
アルカレルは、溜息を付くと傍らの杖をステレに放り投げた。ステレは戸惑いながらも目の前に転がった杖を見る。
「構えてみよ」
技がどの程度のものか見せろということか…。ステレは杖を拾うと立ち上がった。片手剣程度の長さしかない。
ふぅと息を吐くと、老人を軸から外して横を向く。壁に向かい、両手で握った杖をゆっくりと上げ、構えた。
アルカレルはステレの構えをじっと見極めていた。両手持ちの長剣の構えだ。知らなければあの長さの杖を渡されてこの構えは取らないだろう。何より、我流が混じっているが確かに自分の剣の構えだ。鬼人の言ったことは嘘では無いようだった。
「良い、判った」
ステレは杖を後ろに控えた店員に渡すと、すぐまた跪いた。店員は疑念を招かないよう、ゆっくりとした動きで杖を捧げ持ち、家令に手渡す。
「その構えを誰から学んだ?」
「ガランドという男から見取りました」
「ヤツか……」
言った言葉には苦々しさが混じっている。
熱心に請われて剣技を伝授した。あえて見せていなかった技に感づいた若者に見込みを感じたからだった。だが、筋は良かったがガランドは壊れた人間だった。何度か行状を改めさせようとしたものの、結局師の許を出奔し、傭兵を率いて荒っぽい仕事を請け始めた。しかも、身代金にも興味を示さず、捕らえた相手も気分次第で簡単に首を落としてしまうことから<首取>の異名で恐れられるようになっていた。<王の手>アルカレルにとっては拭い難い失態だった。その男の一味だというなら、この鬼人に剣技など伝授できない。
しかし、この鬼人は……。鬼人というのも意外だったが、鬼人の構える様を観てそれ以上に意外な事に気が付いた。だから尚更鬼人とガランドの関係に想像がつかない。
「鬼人は女も剣士になるのか」
老人のつぶやきにステレはギクりとする。一目で女と見破られたのは初めてだ。
保守的なこの国で、女が剣を学ぶことなどほとんど無い。だからステレは、それを理由に師事を断られることを恐れた。エイレンで男装に自信が付いこともあり、問われぬなら男で通そうを思っていたのだ。
「同族には会ったことが無いので、他の鬼人のことは知りません。私は私がしたいことをしているだけです」
「それが魔人との決闘か…」
ステレは黙って頷く。
「私の剣は全く通じませんでした。ですが、ガランドの剣で魔人に一太刀返すことができました」
『獣人と親しい鬼人』が、『素手で剣士と闘って無敗の魔人』と決闘か…。しかもこの鬼人は、この国での礼儀をわきまえ、この国の貴族のような言い回しをする。
アルカレルはいくつかの手がかりから、目の前の鬼人の素性にたどり着いていた。
「お主は<鬼人卿>と呼ばれている鬼人だな?」
「……はい」
一瞬、躊躇ったが、嘘はつかない方が良い、と判断した。
いや、この老人に嘘は通じない。そんな気がする。
「聞くところによれば、お主が陛下の臣下となったのは、ガランドが死んだ後のはずだ。それまではお主の噂一つ聞かない。お主は何処から来て、一体どこでヤツと出会った?」
「………」
しばらく迷った末に、ステレは全てを明かすことにした。この老人は多くの事を知っている。取り繕ろうとしても、簡単に嘘を見破られるだろう。
「ガランドとは皇国領内の田舎町で出会って気に入られ、食事に誘われました。あなたが師であることはそこで聞きました」
「ヤツが?鬼人を?」
以外な話を聞いた。老人が知るガランドの好みは、庇護欲をそそられるような女性だったはずだ。鬼人の女など正反対だ。逆に、剣の技量がガランドに及ばないようでは、剣士としてもガランドが興味を引くとも思えない……。
「そのせいで彼の懇意と思われたのか、彼を狙うゴロツキに目を付けられ人質にされました。ガランドは私を救うためにゴロツキ全員を斬りました。彼の剣をそこで見ました」
「ん?、待て、お前は何を言って、、、、」
突然、理屈に合わないことを言い出す鬼人に、アルカレルは困惑して口を挟もうとした。
只人に対する鬼人の力は圧倒的だ。鬼人を人質にしようなどと思う只人がいるずがない。只人に拘束される鬼人が居るはずがない。居たとしても、そんな腑抜けた鬼人をガランドが助ける訳がない。
だが、ステレは構わず話を続ける。
「その後、ガランドと彼の傭兵隊が陛下を襲撃しました。私は食い止めるために闘い、ガランドを斬りました。ですが私も深手を負い、人としての命を終えました。秘術を使い、鬼人になることで今こうしてここにいます」
アルカレルとステレは黙ってしばらく互いを凝視していた。アルカレルにも、今全てが判った。
「私は、ステレ・カンフレーです」
ステレの言葉はあくまで静かだった。
アルカレル自身もそうであることに気づいていた。
だがそれでも、ステレの口からその名を聞いて、アルカレルは落雷に打たれたかのような衝撃を感じていた。立ち直るのに、アルカレルはしばしの時間を必要とした。
「カンフレー家の娘か…」
ようやく、絞り出すように呟く。
アルカレルは先代の<王の手>。すなわち王の代理人として貴族に死を与える、王直属の処刑人だった。
そして<首取ガランド>の剣の師であり……
王命によりステレの母、カンフレー男爵夫人・カーラを処刑した男なのだ。
役目とはいえ母親の首を落とした男を剣の師に…と平然と言ったステレを、ドルトンが危惧したのも当然の話だった。
シュライサー家は、王国の東のグリンドを領有する貴族で、アルカレルは今の当主の叔父に当たる。当主からは距離を置き、領地の片田舎で隠居生活をしているとのことだった。仕事のせいで、妻は娶れなかったとのことで、幾人かの従僕と暮らしているという。
グリンドには、エイレンからは陸路で10日ほどかかった。
ステレが監視されていることが明らかだったので、出立には特別に気を使った。商会員総出で同じ姿の囮を大量に出したのだ。数度に渡って魔の森にも隊を出し、実際に森に入ってもいる。トレハンは、魔の森に向かう一行を重点監視せざるをえず、対処しきれなかった。トレハンが「森番」の所在を見失ったことに気づくのは、少し先の話になる。
既に商会から紹介状を出してもらっており、グリンドでの宿を確保する頃には、老人にどうにか面会の約束を取り付けることができたと報告が届いていたのだった。
約束の日、ステレは只人の商会員と二人でアルカレルの屋敷を訪れた。屋敷は、平屋の建物を繋いださほど大きくも無い建物だった。裏手は畑になっているが、納屋や庭の様子からは大勢の小作人が居るようには見えない。地区内の農民に貸しているのだろう。
ステレ達は出迎えた従僕に、一旦待合に通された。簡単に身辺を検査されたが、事前に予想していたから武器の類はまったく持って来ていない。待っていると、家令と思しき壮年の男が現れ、応接間らしい部屋に通された。わざわざ家令が…と思ったが、案内する物腰に隙がない。胡散臭い客を直に見に来たということだろう。案内した従僕も家令も、室内でもフードを被ったままのステレを、咎めるような目で見ている。
アルカレルは椅子に掛けたまま客を迎えた。あまり気乗りしない要請である。この程度で腹を立てるようならそれまでだと思っている。だが、入室した客は、全く気にもせず老人の前に進み出ると一礼して跪いた。わずかに遅れて店員も同様に跪く。
「先代の<王の手>アルカレル殿でしょうか」
「いかにもアルカレルだ。お主は?」
ステレは部屋の端に控える家令をちらりと見た。
「その者には、いやこの屋敷の者には儂が全幅の信頼を置いている。儂が命じぬ限り、見聞きしたこと一切口外せぬ」
ステレのしぐさに気づいたアルカレルが、そう告げた。初対面で人払いなど要求できる訳も無い。信頼する以外に無いだろう。
「名乗らぬ無礼をお許し下さい。私は幸運により獣人の好意を得ることができた鬼人です。故あって魔人を斬る剣を模索しております。是非一手ご指南いただきたい」
「鬼人に魔人だと?」
老人は胡散臭そうにステレを見た。
獣人の手紙に『只人では無い』とあったが、まさか鬼人だとは思わなかった。
ステレはゆっくりとかぶっていたフードを取り、帽子と眼鏡も外した。額に小さな角、炎のごとき真紅の髪に金色の目。確かに伝承にある鬼人の姿だった。
剣人一筋に生きてこの年齢に達したアルカレルは、もはや生死に無頓着な域に達している。鬼人の姿を見ても、僅かに眉を動かしただけだ。一方で、屋敷と主人を守ることを誇りとしてきた家令は、息を呑み明らかに緊張しているのが判る。
(表情を変えないことから『石像』とも呼ばれるこの男を動揺させるとは大した物だ……)アルカレルは、鬼人の脅威を再認識した。只人にとり、鬼人はそれだけ恐れられる存在なのだ。だが、それだけ恐れられる戦闘力を持つ鬼人が、何故わざわざ只人の老人を訪れる必要がある?。
「鬼人が只人に剣の教えを請うというのか」
「今まで、剣を十分に学ぶことができませんでした。今の私は鉄の棒です。頑丈で、当たれば大概の物を壊せますが、それだけです。魔人には到底及びませんでした」
(ふむ)と、アルカレルは、ステレを値踏みするように見た。魔人の伝承が話半分としても、さしもの鬼人でも荷が重いということか。
「……だが、儂の剣はただ罪人を斬るだけの剣だ、人に教えるようなものではない」
「あなたの許に来たのは、私が知る中で一番速いのがあなたの剣だからです。魔人は素手で剣士と闘い、数百年無敗の怪物です。魔人を斬るには何より剣の速さが要ります」
惚けて見たが、鬼人はアルカレルの剣の腕に確信があるようだった。
「どこでそんな話を聞いた?鬼人に剣を見せた覚えは無いが」
「私もあなたの剣を直に目にしてはおりません。ですが、私が最も速いと思う剣の使い手が、確かにあなたが師だと言っていました」
「ではその者から学べばよい」
「既にこの世の者ではありません」
アルカレルは、溜息を付くと傍らの杖をステレに放り投げた。ステレは戸惑いながらも目の前に転がった杖を見る。
「構えてみよ」
技がどの程度のものか見せろということか…。ステレは杖を拾うと立ち上がった。片手剣程度の長さしかない。
ふぅと息を吐くと、老人を軸から外して横を向く。壁に向かい、両手で握った杖をゆっくりと上げ、構えた。
アルカレルはステレの構えをじっと見極めていた。両手持ちの長剣の構えだ。知らなければあの長さの杖を渡されてこの構えは取らないだろう。何より、我流が混じっているが確かに自分の剣の構えだ。鬼人の言ったことは嘘では無いようだった。
「良い、判った」
ステレは杖を後ろに控えた店員に渡すと、すぐまた跪いた。店員は疑念を招かないよう、ゆっくりとした動きで杖を捧げ持ち、家令に手渡す。
「その構えを誰から学んだ?」
「ガランドという男から見取りました」
「ヤツか……」
言った言葉には苦々しさが混じっている。
熱心に請われて剣技を伝授した。あえて見せていなかった技に感づいた若者に見込みを感じたからだった。だが、筋は良かったがガランドは壊れた人間だった。何度か行状を改めさせようとしたものの、結局師の許を出奔し、傭兵を率いて荒っぽい仕事を請け始めた。しかも、身代金にも興味を示さず、捕らえた相手も気分次第で簡単に首を落としてしまうことから<首取>の異名で恐れられるようになっていた。<王の手>アルカレルにとっては拭い難い失態だった。その男の一味だというなら、この鬼人に剣技など伝授できない。
しかし、この鬼人は……。鬼人というのも意外だったが、鬼人の構える様を観てそれ以上に意外な事に気が付いた。だから尚更鬼人とガランドの関係に想像がつかない。
「鬼人は女も剣士になるのか」
老人のつぶやきにステレはギクりとする。一目で女と見破られたのは初めてだ。
保守的なこの国で、女が剣を学ぶことなどほとんど無い。だからステレは、それを理由に師事を断られることを恐れた。エイレンで男装に自信が付いこともあり、問われぬなら男で通そうを思っていたのだ。
「同族には会ったことが無いので、他の鬼人のことは知りません。私は私がしたいことをしているだけです」
「それが魔人との決闘か…」
ステレは黙って頷く。
「私の剣は全く通じませんでした。ですが、ガランドの剣で魔人に一太刀返すことができました」
『獣人と親しい鬼人』が、『素手で剣士と闘って無敗の魔人』と決闘か…。しかもこの鬼人は、この国での礼儀をわきまえ、この国の貴族のような言い回しをする。
アルカレルはいくつかの手がかりから、目の前の鬼人の素性にたどり着いていた。
「お主は<鬼人卿>と呼ばれている鬼人だな?」
「……はい」
一瞬、躊躇ったが、嘘はつかない方が良い、と判断した。
いや、この老人に嘘は通じない。そんな気がする。
「聞くところによれば、お主が陛下の臣下となったのは、ガランドが死んだ後のはずだ。それまではお主の噂一つ聞かない。お主は何処から来て、一体どこでヤツと出会った?」
「………」
しばらく迷った末に、ステレは全てを明かすことにした。この老人は多くの事を知っている。取り繕ろうとしても、簡単に嘘を見破られるだろう。
「ガランドとは皇国領内の田舎町で出会って気に入られ、食事に誘われました。あなたが師であることはそこで聞きました」
「ヤツが?鬼人を?」
以外な話を聞いた。老人が知るガランドの好みは、庇護欲をそそられるような女性だったはずだ。鬼人の女など正反対だ。逆に、剣の技量がガランドに及ばないようでは、剣士としてもガランドが興味を引くとも思えない……。
「そのせいで彼の懇意と思われたのか、彼を狙うゴロツキに目を付けられ人質にされました。ガランドは私を救うためにゴロツキ全員を斬りました。彼の剣をそこで見ました」
「ん?、待て、お前は何を言って、、、、」
突然、理屈に合わないことを言い出す鬼人に、アルカレルは困惑して口を挟もうとした。
只人に対する鬼人の力は圧倒的だ。鬼人を人質にしようなどと思う只人がいるずがない。只人に拘束される鬼人が居るはずがない。居たとしても、そんな腑抜けた鬼人をガランドが助ける訳がない。
だが、ステレは構わず話を続ける。
「その後、ガランドと彼の傭兵隊が陛下を襲撃しました。私は食い止めるために闘い、ガランドを斬りました。ですが私も深手を負い、人としての命を終えました。秘術を使い、鬼人になることで今こうしてここにいます」
アルカレルとステレは黙ってしばらく互いを凝視していた。アルカレルにも、今全てが判った。
「私は、ステレ・カンフレーです」
ステレの言葉はあくまで静かだった。
アルカレル自身もそうであることに気づいていた。
だがそれでも、ステレの口からその名を聞いて、アルカレルは落雷に打たれたかのような衝撃を感じていた。立ち直るのに、アルカレルはしばしの時間を必要とした。
「カンフレー家の娘か…」
ようやく、絞り出すように呟く。
アルカレルは先代の<王の手>。すなわち王の代理人として貴族に死を与える、王直属の処刑人だった。
そして<首取ガランド>の剣の師であり……
王命によりステレの母、カンフレー男爵夫人・カーラを処刑した男なのだ。
役目とはいえ母親の首を落とした男を剣の師に…と平然と言ったステレを、ドルトンが危惧したのも当然の話だった。
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