不死身のボッカ

暁丸

文字の大きさ
31 / 69
とある爺さんの異世界転生

管理神はポンコツ揃い 1

しおりを挟む
 「昔々……といってもちょっと前の昔なんですが」
 「どっちだよ」
 「言葉のアヤってもんです。とりあえず黙って聞いてください」
 「あ、はい…」

 中原のとある王国に一人の<勇者>が降り立ちました。
 当時大陸では只人至上主義が蔓延り、他の人間種族との間に戦争寸前の不穏な空気が漂っていました。それをいいことに、次元の狭間から他次元の魔人…通称魔神がこちらの世界への介入をしようと狙っています。人間種族との争いに辟易して、一旦は奥地に引き籠っていた竜なんかも平原への再進出を目論むなど、世界の天秤が一気に無茶苦茶になりそうな状態だったのです。勇者は、それを正すために送り込まれたのでした。

 「……あぁ、神様は地上に直接手出しができない、とか制限が?」
 「そうですね。「管理神」と言いながら、実体は貴方方の世界でいう、「ゲームプレイヤー」に近いんです。やる気ならなんでもできるんですが、やったら管理神としては負けって事になります。基本的には代理を送り込んで、その代理人も「操る」ことはできません、「導く」だけです。その代理人が<勇者>ってことです」
 「…いや、なんの勝負なの、それ?」
 「勝負というよりはまぁ、矜持の問題といいますか…。想像はついてるでしょうが、私達は『至高神』という訳ではありません」
 「じゃあ『究極神』とかか。いつも至高に負けるという…」
 「……判って言ってますよね?」
 「Exactly(そのとおりでございます)」
 「うっわ、腹立つ…」
 「あ、上司が居るんだったら、苦情申し立てすれば聞いて貰らえますかね?本人の意思を無視して無理矢理拉致されそうになってるとか…」
 「私達、地上への干渉は制限されていますが<魂>に対しては割と権限強いんですよ?」
 「うぇ、ひでぇ…人権無視かよ」
 「死人に人権関係ありませんし……話が進まないので続けますね」
 「へいへい…」

 世界の危機だと言う事で、勇者には制限一杯のチート能力が与えられました。勇者はその期待に応え、たった一人で、大陸中の国々に根を張っていた教団を壊滅させ、魔神を彼らの次元に追い返し、我が物顔で飛び交い始めた竜を再度辺境に追いやり、どうにか世界の危機を払う事に成功しました。その役目の過程であちこちの王家に貸しを作った勇者は、ついでに只人の国家の紛争にも首を突っ込み、只人至上主義のせいで起きていた他の人間種族との間のゴタゴタをどうにか引っ込めさせるのに成功しました。「貸しのある勇者が王家に無理強いしたって事にしとけ」って事にしたんですが、只人至上主義者の主導のゴタゴタでしたから損切りをしたい王家としても渡りに船でしたし、勇者は開拓の手伝いしたり災害救助したり巨大魔獣退治したりと、お人良しかよってほど熱心に働いていたものですから勇者に恨みが積もる事もなく、すっかり<中原の勇者>として定着していました。
 役目を終えた勇者は、自分に政の才が無いことは承知していましたので、様々な国が出した騎士団長だの、侯爵位だの、王女の婿だのの勧誘を全部断って、最初に世話になった国で<王家の相談役>というお飾りの役職と屋敷だけを貰うと、元女剣士だった妻と二人で気ままな暮らしをしていました。

 「ハレム無しか、スク〇ニ的というかなんというか…ヒカセン?」
 「そうなんですよ、勇者としては稀に見る逸材でした…」

 そんな勇者を悲劇が襲いました。妻が娘を残して儚くなってしまったのです。悲しんだ勇者でしたが、愛する妻の残した子を育てようと奮起します。勇者は再婚する気は無く、何から何まで初めての経験ではありましたが、いろいろ善行を積んでいた勇者には協力してくれる知り合いも多く、どうにか男手一つで娘を育てる事ができました。娘は、普通の只人をちょっと上回る身体能力で、ちょっとだけ寿命が長い事が判りましたが、別に英雄になる気もなく、普通の娘として成長します。勇者も「子供の世話があるから」と言って、日帰りできる仕事以外はやらなくなりました。父子二人の家族でしたが、平穏な日々が過ぎていきました。
 年頃に成長した娘は、なんだか権力欲ギラギラの目をした大貴族の求婚者を全部袖にして、「そんなものより明日の天気が大事だ」というド田舎の貴族に嫁ぎました。娘は自分が嫁ぎ先と父親との縁を繋ぐ存在だと言う事は十分に承知していましたらから、まかり間違っても虎の威を借るような貴族に嫁ぐ気は無かったのです。単にドロドロの王宮が面倒くさかっただけかもしれませんが。
 彼らは、自分達に父のような力は無いと、栄達やらからは一切無縁で地方の領地をつつましやかに治めていました。夫となった貴族は、人知の及ばない出来事でもおきない限り義父に頼ろうなどとは考えない人で、勇者も婿殿の事は大変信頼していました。何しろ勇者が「一度でいい 奪っていく君を殴らせろ」と言ったら(ちなみにトロルを素手で撲殺できます)、「死なない程度にお願いします」と返したクソ真面目でしたから。

 そんな平和な日が続き、勇者には孫もできました。前半生で教会、魔神、竜と闘っていた勇者はかなりの晩婚で、その頃には齢100は超えていたのですが、相変わらず若々しく元気なままでした。相手が魔神だろうと、竜だろうと、隣国だろうと、盗賊団だろうと、隣の家の迷惑親父だろうと、勇者が揉め事に首を突っ込んで来る事は知れ渡っていましたから、何処の国も目立つ争いは避けるようになっています。世情が安定すれば要らぬ人死にも無くなり、庶民はそれを歓迎します。勇者はただ在るだけで中原の安定に寄与していたのでした。

 「奥さんは残念だったけど、概ねハッピーエンド路線スね…ここから鬱展開な訳ですか?」
 「はい…と言っても、ありきたりな話です。王家のお家騒動に巻き込まれて、娘と孫が亡くなってしまいます」
 「ありゃま。……念のため、そこんところもう少し詳しく…」
 「あんまり楽しい話じゃ無いですよ…」

 しばらく平和な時代が続いた中原でしたが、王国の王が崩御すると雲行きが怪しくなりました。勇者が活躍していた時代から数十年が過ぎて王も貴族も代替わりしていましたし、勇者もだいぶ活動が減っていましたからそんなデタラメな人間が睨みを利かせているという事が忘れられ始めていたんですね。
 新王は、まだ少年と言っていい年頃でした。上に2人の王子が居たのですが、疫病で亡くなってしまっていたのです。急造…と言っちゃ失礼ですが、王の晩年に生まれてまだ年若く後を継いだ王を見て公爵…前王の弟の子。新王の従兄になります…が邪な心を持ってしまったようです。
 実は疫病が流行った時に、先代の公爵は勇者に縋ったようなんですが、勇者は断ってるんですよ。怪我なら一瞬でどうにかできるチート魔法も病気に対応するのは困難でしたらから。ただ、そのせいで長男を失った先代は常々恨み言を口にしていたようで、それが後継ぎの次男を蝕んでいたんでしょうね。おまけに、王子二人も亡くなって自分に王座が転がり込んで来ると思ったら、3人目が誕生して王位が手をすり抜けてしまいましたから、公爵は玉座を得て勇者を追放しようとか考えたようです。何食わぬ顔で王に諸侯への行幸を勧めて、それを襲撃させました。同時に有力貴族には根回しをして、とにもかくにも足止めさせることに成功します。実際、この公爵は中々の傑物でしたし、まだ足場固めも済んでいない少年王には抗う術も無いかと思われました。

 多くの貴族が日和見を決め込む中、見かねて手を差し伸べたのは勇者の娘とその夫でした。勇者の血を受け継いだのでしょう、領地の目の前で即位したばかりの王が臣下に襲撃されるという事態を、黙って見過すなどできない性分だったようです。
 彼女は父に急使を送ると、館を捨てて大河の畔に建てられた灯台代わりの古砦に立て籠もりました。娘は武装して家臣たちの先頭に立って公爵軍を迎え撃ち、武には一切縁の無いような婿殿は、砦を十重二十重に囲まれても全く怯むことなく、『義父殿がかけつける僅かの時間を凌げば勝ちだ』と、配下の兵を鼓舞し続けていました。
 急報を受けた勇者は走りに走ります。100歳を超えてなお、馬を乗り継ぐより速いのです。重傷でも虫の息でも勇者のチート魔法なら回復可能です。死んでさえいなければ。
 …けれども、勇者が砦にたどり着いたとき、娘夫婦は最後の門で手を握り合ったまま事切れていました。涙を堪えて「間に合え」と走る勇者が見たのは、王の座す広間へ続く廊下で愛する孫の頭が戦斧で割られる瞬間でした。
 勇者の手は…ほんの一歩間に合いませんでした……

 怒りと悲しみの絶叫を上げて孫の仇を虐殺した勇者を前に、公爵軍は恐慌状態となっていました。集められた兵はそれだけで散り散りになってしまいます。勇者が未だ健在だったこと。公爵がその勇者を敵に回したこと。この二つで日和見を決め込んでいた貴族が、こぞって王の前に参集すると公爵を攻め始めます。
 ……たとえ当の勇者が、抜け殻のようにただ立っていることしかできなくとも。
 主だった貴族を敵に回した事を知った公爵は、敗北を悟ると毒を呷りました。
 数年後、勇者は王が有力で、少なくとも邪悪ではない後ろ盾を得たのを見届けると、すべての職を辞して隠居料代わりに貰った荒れ地に引きこもりました……。

 「……と、ここまでが前フリになります」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

おっさんが雑魚キャラに転生するも、いっぱしを目指す。

お茶飲み人の愛自好吾(あいじこうご)
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...