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逓信ギルドの特急運搬人
運搬人と魔猟師スタークの小隊 4
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衝撃を感じたボッカは自分の腹を見た。腹の甲殻を貫通して、まるでつららのような銛が突き刺さっている。ボッカの甲殻は剣士の一突きを食い止める強度があるのだが、運悪く継ぎ目に命中してしまったようだ。
貝タコを見ると、頭の脇にある水管が前方に伸びている。そこから撃ち出したのだ。この貝タコは、イモガイの特徴を併せ持つキメラだった。イモガイは、ヒョウモンダコ同様に強力な毒を持ち、身体を伸ばして毒の銛を獲物に打ち込む。この巨大貝タコも同様に毒を持ち、しかも銛を射出できるように進化していた。その毒銛をボッカの腹に直撃させたのだ。
だがボッカは倒れない。呻きも苦しみもしない。
続けて繰り出される触腕を戦斧を振り回して追い払って範囲外に間合いを取った。
(何こいつさっきから……対俺専用の嫌がらせモンスターなの?)
毒霧に続いて直撃二回目だ、相性悪すぎとしか言いようがない。
恐る恐る小隊を見ると、案の定四人は目を丸くしてボッカを見ている。
(うわ、やっぱり。……今さら重傷のフリとか無理だよなぁ)
二人が実際に食らって即座に窒息しかけた毒に、ものの見事に刺さった銛だ。「頑丈なんです」で誤魔化すのにも限界がある。
(くっそー、だいたいこいつが悪い。こうなったら、アーイソンにこいつを倒してもらおう。で、『ハマらなきゃ大した強敵じゃ無いですね』という方向に持っていこう…)
穴だらけの計画な気もするが、この際しょうがない。開き直ったボッカは、腹の銛を無造作に引き抜いて放り投げた。
「おりゃッ!」
叫びながら巨大な貝に飛びかかり、戦斧を振り回した。触腕の一本が半ばから断ち切られる。
「え、えー!?」
ボッカがやられた?…そう思っていた四人は、平気な様子でで斧を振り回す姿に困惑の声を上げる。歩荷からは一滴の血も流れ出ない。
ボッカは両手で戦斧を掴んだまま巨大貝の後ろに回り込む。そうはさせじと巨大貝タコが頭を向けた瞬間、ボッカは戦斧を振りかぶった。貝はいざしらず、タコは頭が急所だ。倒せずとも、かなりの打撃になるはずだ。
(貰ったーーーーーっ!)…とばかりに振り下ろされた斧は、貝の縁に当たった。
「…あ」
『ガキッ』という音と共に斧は逸れて、触腕の一本に傷をつけただけに終わった。
(くっそー、だから戦いたくないんだっての……)
泣きたくなるボッカだが、それでも貝タコは用心したらしい。貝の中に潜り込み、触腕だけを出してボッカに絡み付けた。ヒョウモンダコは全身が毒に覆われている。傷や粘膜から全身に回りかねない。スタークが触れないように慎重に戦っていたのは慧眼だった。
(岩人に見られるし、カッコ付けたらスカるし、とっとと退場しやがれっ)
触腕に絡まれたまま、ボッカは八つ当たりのように力任せに戦斧を叩き込む。
「破壊ッ!破壊ッ!破壊ッ! バ〇オ粒子反応有り!だっ、こんチクショー」
今のボッカには、迷宮に潜った時のような余裕と落ち着きが全く無い。怒りと焦りで妙なテンションになったボッカは、意味の分からない事を叫びながら力任せに戦斧を振り回す。
巨大猫に丸呑みされても呑気にしていたボッカがキレているのは、傷を受けたからではない。『岩人に、攻撃を受けても平気な姿を見られたから』である。岩人が居なければ、ボッカはいつものようにのらりくらりとコンニャク問答をして誤魔化していたはずだった。正直、ボッカにとっては迷宮の巨大人食い猫より岩人の方が数段厄介なのだ。
ボッカは穏便に何事もなく運搬人としてこの仕事を終わらせたかった。小鬼退治なら問題など起きないはずだった。イレギュラーなコイツが、間の悪い攻撃ばっかりしてくれるせいで全て台無しだ。
ヘタクソとはいえ何度も戦斧を叩き込まれ、ついに殻が砕け散って大穴が開いた。貝タコは、ボッカの足を触腕で締め付けていたが、効果が無いと悟ったか頭を出しボッカを巨大なカラストンビでかみ砕こうとした。だが、殻の砕けた貝は急所の内臓がむき出しになっているのに等しい。
「魔法!デカイのブチかませ!!」
「お、おぅ!」
アーイソンが炎の矢を発動させる。人格に問題があろうとも、魔法で岩人の右に出る者は居ない。矢の前方に魔法陣が三つ現れ、射出された矢は魔法陣によって熱量を更に強化されて、殻に空いた穴を直撃する。解放された高熱が体液を瞬時に気化し、『バンッ!』という轟音と共に貝殻が内側から破裂して飛び散った。内蔵を焼かれ殻を失った巨大貝タコは、声の無い叫びを上げ、動かなくなった。
「あ、あぶねー。コレは想定外だろ」
「いぃや、えんがみだ。なんだこいづは?」
「ボッカ君居なかったら全滅してたな、これ」
「あれ、そ、そういえばボッカ君は…」
アーイソンが砕けた殻の向こうを指さした。
「……組合の紹介の歩荷が狩りに巻き込まれて死んだら、小隊に責任あるんだっけ?」
ボッカも爆発で吹き飛ばされ砂浜に転がっていた
「んな事言ってる場合かっ!」
「まぢがであんでは、しんでねぇべが?」
「僕の魔法じゃ、重傷は無理ですよ」
「死んでても、遺体を勝手に解剖したら組合に怒られ…」
「…死んでません」
大慌てで安否を確かめようと(一名は物騒な事を言いながら)駆け寄った四人の前で、ボッカは何事も無かったように起き上がった。至近距離で破片を浴びたボッカの上着はボロボロになっているが、本人は大したダメージを受けたようにも見えない。破れた服の隙間から見える身体は、確かに甲羅に覆われていた。
「おま…至近距離でアレでなんともないの?」
「はい。ちょいと右脚がギクシャクしますが」
「えっ?だ、大丈夫ですか?」
慌てるテレンスに、逆にボッカが申し訳なさそうに頭を下げた。
「あぁ、すいません。今のは俺の故郷の慣用句みたいなもんです。大丈夫、なんともないです」
そう言ってひょいひょいと右脚を動かす。
生きていても重傷ではあろうと思っていたアーイソンは、ほぼ無傷なボッカに呆然としていた。自分の魔法の威力は良く知っている。アーイソンは手加減しなかった。当人が「デカイの」と要求したからありったけのデカイのをブチ込んだのだ、ボッカの安否など気にしている余裕は無かった。
「あ、足は大丈夫でも、腹の傷見せて、治療します」
「あぁ、そっちも大丈夫です。甲殻人は結構頑丈ですので…」
唖然としていたアーイソンは、ようやく我に返った。
「いや、大丈夫な訳ないだろ、あんなデカイので刺されて、腹に大穴開いてるだろ」
「甲殻人は内臓の配置が只人とは違いますから。急所を避けてあえて刺された上で反撃するという戦法を取っても平気です」
「いやどこの戦法だよ、それ」
「……まぁ、とにかく俺は平気なので、治療とかは結構です。というか、治療魔法で甲殻は治らないと思いますよ?」
そう話を打ち切られてしまったが、納得は行かない。確かにボッカの言う通り、腹からは血はおろか体液すら流れていない。甲殻人の身体はこちらの人間とはだいぶ違う。甲羅で止まり、本人が言う通り急所には届かなかったのだろうか?だが生き物には変わり無いはずだ。確かめようとアーイソンは放り投げられていた巨大キメラの銛を拾った、半透明の銛の中に液体が入っているのが見える。
「これ、毒銛じゃねぇか。さっきの霧もそうだけど、なんで平気なんだよ!」
突然の大声にビクッとしたボッカは、ぎこちなくアーイソンの方に振り向く。
「実は俺は、幼少の頃から薄めた毒をすこしづつ摂取してまして……」
「……お前、本当に甲殻人なの?」
アーイソンが冷たい声で言った。その一言で、皆がしん…と静まり返る。
(やっぱりそこに行き着くかぁ…)
ボッカはため息をつきたい気分だった、岩人がその疑問を持ってしまった以上、彼はボッカの正体を調べ続けようとする。ボッカが一番恐れた事態だ。
そして静まり返る彼らの気持ちも判るから、怒る気にはならない。彼らにしたら<人間>だと思っていた歩荷が、突然<得体の知れない何か>なのだという疑惑が持ち上がってしまったのだから。
とはいえ、どうにか言いくるめなければならない。そうしないと…岩人は手段を選ばなくなるのは明らかだ。
口を開こうとするボッカを、スタークが制止した。
「俺たちは村に報告に行く。話はその後でやろう。君はどうする?」
スタークは、アーイソンに事前に言い含めておく必要を感じていた。それなしでボッカと話したらコイツは絶対暴走する。
「……俺はここで待ってますよ、この姿は見せない方がいいでしょう。あと、あの貝殻、対魔法の能力が残ってるのなら、防具か護符になるかもしれませんから破片を集めておきます。効果があるなら組合で買い取ってもらえるかもしれません」
「なるほどな…どう思う?」
言われたアーイソンは、しぶしぶボッカへの厳しい視線を外すと、貝殻の破片に手をかざして魔力を読み取ろうとした。岩人は魔法使いであり、優秀な工匠でもある。
「うん、本体が死んでも魔力は残ってる。何かには使えるかもね」
「身の方はたぶん端から端まで毒まみれだと思いますが、資料に持って帰ります?」
「いや、やめとこう。毒が平気なら魔石を抜いて海に放り込んでおいてくれるかい」
「待て、中まで解剖して調べたい、捨てるならそれからにしてくれ」
「……だそうなので、流れないように確保しといてくれ」
「承知しました」
「報告が終わったら、ここに戻る。一泊して明日帰ろう」
そう言って四人は村に向かって行った。
切り取った小鬼の耳を見せて依頼完了した事を告げた後、依頼に無い魔獣が居た事を指摘すると、村長は驚き「本当に小鬼しか居なかったんです」と、土下座する勢いでスタークに詫びた。依頼内容に虚偽があれば、これ以降の依頼を受けてもらえなくなる可能性だってある。しかも今回は現物支給で特別に依頼を受けてもらったのだから猶更だ。スタークは、その態度から見るに完全に不意の遭遇だったのだろうと判断した。
詫びと言って押し付けられた干しタコの束を微妙な表情で受け取ると、「死骸は沈めるが、万が一巨大なタコが流れ着いても毒だから絶対に手を出すな」と忠告してスタークはキャンプ地に戻った。
貝タコを見ると、頭の脇にある水管が前方に伸びている。そこから撃ち出したのだ。この貝タコは、イモガイの特徴を併せ持つキメラだった。イモガイは、ヒョウモンダコ同様に強力な毒を持ち、身体を伸ばして毒の銛を獲物に打ち込む。この巨大貝タコも同様に毒を持ち、しかも銛を射出できるように進化していた。その毒銛をボッカの腹に直撃させたのだ。
だがボッカは倒れない。呻きも苦しみもしない。
続けて繰り出される触腕を戦斧を振り回して追い払って範囲外に間合いを取った。
(何こいつさっきから……対俺専用の嫌がらせモンスターなの?)
毒霧に続いて直撃二回目だ、相性悪すぎとしか言いようがない。
恐る恐る小隊を見ると、案の定四人は目を丸くしてボッカを見ている。
(うわ、やっぱり。……今さら重傷のフリとか無理だよなぁ)
二人が実際に食らって即座に窒息しかけた毒に、ものの見事に刺さった銛だ。「頑丈なんです」で誤魔化すのにも限界がある。
(くっそー、だいたいこいつが悪い。こうなったら、アーイソンにこいつを倒してもらおう。で、『ハマらなきゃ大した強敵じゃ無いですね』という方向に持っていこう…)
穴だらけの計画な気もするが、この際しょうがない。開き直ったボッカは、腹の銛を無造作に引き抜いて放り投げた。
「おりゃッ!」
叫びながら巨大な貝に飛びかかり、戦斧を振り回した。触腕の一本が半ばから断ち切られる。
「え、えー!?」
ボッカがやられた?…そう思っていた四人は、平気な様子でで斧を振り回す姿に困惑の声を上げる。歩荷からは一滴の血も流れ出ない。
ボッカは両手で戦斧を掴んだまま巨大貝の後ろに回り込む。そうはさせじと巨大貝タコが頭を向けた瞬間、ボッカは戦斧を振りかぶった。貝はいざしらず、タコは頭が急所だ。倒せずとも、かなりの打撃になるはずだ。
(貰ったーーーーーっ!)…とばかりに振り下ろされた斧は、貝の縁に当たった。
「…あ」
『ガキッ』という音と共に斧は逸れて、触腕の一本に傷をつけただけに終わった。
(くっそー、だから戦いたくないんだっての……)
泣きたくなるボッカだが、それでも貝タコは用心したらしい。貝の中に潜り込み、触腕だけを出してボッカに絡み付けた。ヒョウモンダコは全身が毒に覆われている。傷や粘膜から全身に回りかねない。スタークが触れないように慎重に戦っていたのは慧眼だった。
(岩人に見られるし、カッコ付けたらスカるし、とっとと退場しやがれっ)
触腕に絡まれたまま、ボッカは八つ当たりのように力任せに戦斧を叩き込む。
「破壊ッ!破壊ッ!破壊ッ! バ〇オ粒子反応有り!だっ、こんチクショー」
今のボッカには、迷宮に潜った時のような余裕と落ち着きが全く無い。怒りと焦りで妙なテンションになったボッカは、意味の分からない事を叫びながら力任せに戦斧を振り回す。
巨大猫に丸呑みされても呑気にしていたボッカがキレているのは、傷を受けたからではない。『岩人に、攻撃を受けても平気な姿を見られたから』である。岩人が居なければ、ボッカはいつものようにのらりくらりとコンニャク問答をして誤魔化していたはずだった。正直、ボッカにとっては迷宮の巨大人食い猫より岩人の方が数段厄介なのだ。
ボッカは穏便に何事もなく運搬人としてこの仕事を終わらせたかった。小鬼退治なら問題など起きないはずだった。イレギュラーなコイツが、間の悪い攻撃ばっかりしてくれるせいで全て台無しだ。
ヘタクソとはいえ何度も戦斧を叩き込まれ、ついに殻が砕け散って大穴が開いた。貝タコは、ボッカの足を触腕で締め付けていたが、効果が無いと悟ったか頭を出しボッカを巨大なカラストンビでかみ砕こうとした。だが、殻の砕けた貝は急所の内臓がむき出しになっているのに等しい。
「魔法!デカイのブチかませ!!」
「お、おぅ!」
アーイソンが炎の矢を発動させる。人格に問題があろうとも、魔法で岩人の右に出る者は居ない。矢の前方に魔法陣が三つ現れ、射出された矢は魔法陣によって熱量を更に強化されて、殻に空いた穴を直撃する。解放された高熱が体液を瞬時に気化し、『バンッ!』という轟音と共に貝殻が内側から破裂して飛び散った。内蔵を焼かれ殻を失った巨大貝タコは、声の無い叫びを上げ、動かなくなった。
「あ、あぶねー。コレは想定外だろ」
「いぃや、えんがみだ。なんだこいづは?」
「ボッカ君居なかったら全滅してたな、これ」
「あれ、そ、そういえばボッカ君は…」
アーイソンが砕けた殻の向こうを指さした。
「……組合の紹介の歩荷が狩りに巻き込まれて死んだら、小隊に責任あるんだっけ?」
ボッカも爆発で吹き飛ばされ砂浜に転がっていた
「んな事言ってる場合かっ!」
「まぢがであんでは、しんでねぇべが?」
「僕の魔法じゃ、重傷は無理ですよ」
「死んでても、遺体を勝手に解剖したら組合に怒られ…」
「…死んでません」
大慌てで安否を確かめようと(一名は物騒な事を言いながら)駆け寄った四人の前で、ボッカは何事も無かったように起き上がった。至近距離で破片を浴びたボッカの上着はボロボロになっているが、本人は大したダメージを受けたようにも見えない。破れた服の隙間から見える身体は、確かに甲羅に覆われていた。
「おま…至近距離でアレでなんともないの?」
「はい。ちょいと右脚がギクシャクしますが」
「えっ?だ、大丈夫ですか?」
慌てるテレンスに、逆にボッカが申し訳なさそうに頭を下げた。
「あぁ、すいません。今のは俺の故郷の慣用句みたいなもんです。大丈夫、なんともないです」
そう言ってひょいひょいと右脚を動かす。
生きていても重傷ではあろうと思っていたアーイソンは、ほぼ無傷なボッカに呆然としていた。自分の魔法の威力は良く知っている。アーイソンは手加減しなかった。当人が「デカイの」と要求したからありったけのデカイのをブチ込んだのだ、ボッカの安否など気にしている余裕は無かった。
「あ、足は大丈夫でも、腹の傷見せて、治療します」
「あぁ、そっちも大丈夫です。甲殻人は結構頑丈ですので…」
唖然としていたアーイソンは、ようやく我に返った。
「いや、大丈夫な訳ないだろ、あんなデカイので刺されて、腹に大穴開いてるだろ」
「甲殻人は内臓の配置が只人とは違いますから。急所を避けてあえて刺された上で反撃するという戦法を取っても平気です」
「いやどこの戦法だよ、それ」
「……まぁ、とにかく俺は平気なので、治療とかは結構です。というか、治療魔法で甲殻は治らないと思いますよ?」
そう話を打ち切られてしまったが、納得は行かない。確かにボッカの言う通り、腹からは血はおろか体液すら流れていない。甲殻人の身体はこちらの人間とはだいぶ違う。甲羅で止まり、本人が言う通り急所には届かなかったのだろうか?だが生き物には変わり無いはずだ。確かめようとアーイソンは放り投げられていた巨大キメラの銛を拾った、半透明の銛の中に液体が入っているのが見える。
「これ、毒銛じゃねぇか。さっきの霧もそうだけど、なんで平気なんだよ!」
突然の大声にビクッとしたボッカは、ぎこちなくアーイソンの方に振り向く。
「実は俺は、幼少の頃から薄めた毒をすこしづつ摂取してまして……」
「……お前、本当に甲殻人なの?」
アーイソンが冷たい声で言った。その一言で、皆がしん…と静まり返る。
(やっぱりそこに行き着くかぁ…)
ボッカはため息をつきたい気分だった、岩人がその疑問を持ってしまった以上、彼はボッカの正体を調べ続けようとする。ボッカが一番恐れた事態だ。
そして静まり返る彼らの気持ちも判るから、怒る気にはならない。彼らにしたら<人間>だと思っていた歩荷が、突然<得体の知れない何か>なのだという疑惑が持ち上がってしまったのだから。
とはいえ、どうにか言いくるめなければならない。そうしないと…岩人は手段を選ばなくなるのは明らかだ。
口を開こうとするボッカを、スタークが制止した。
「俺たちは村に報告に行く。話はその後でやろう。君はどうする?」
スタークは、アーイソンに事前に言い含めておく必要を感じていた。それなしでボッカと話したらコイツは絶対暴走する。
「……俺はここで待ってますよ、この姿は見せない方がいいでしょう。あと、あの貝殻、対魔法の能力が残ってるのなら、防具か護符になるかもしれませんから破片を集めておきます。効果があるなら組合で買い取ってもらえるかもしれません」
「なるほどな…どう思う?」
言われたアーイソンは、しぶしぶボッカへの厳しい視線を外すと、貝殻の破片に手をかざして魔力を読み取ろうとした。岩人は魔法使いであり、優秀な工匠でもある。
「うん、本体が死んでも魔力は残ってる。何かには使えるかもね」
「身の方はたぶん端から端まで毒まみれだと思いますが、資料に持って帰ります?」
「いや、やめとこう。毒が平気なら魔石を抜いて海に放り込んでおいてくれるかい」
「待て、中まで解剖して調べたい、捨てるならそれからにしてくれ」
「……だそうなので、流れないように確保しといてくれ」
「承知しました」
「報告が終わったら、ここに戻る。一泊して明日帰ろう」
そう言って四人は村に向かって行った。
切り取った小鬼の耳を見せて依頼完了した事を告げた後、依頼に無い魔獣が居た事を指摘すると、村長は驚き「本当に小鬼しか居なかったんです」と、土下座する勢いでスタークに詫びた。依頼内容に虚偽があれば、これ以降の依頼を受けてもらえなくなる可能性だってある。しかも今回は現物支給で特別に依頼を受けてもらったのだから猶更だ。スタークは、その態度から見るに完全に不意の遭遇だったのだろうと判断した。
詫びと言って押し付けられた干しタコの束を微妙な表情で受け取ると、「死骸は沈めるが、万が一巨大なタコが流れ着いても毒だから絶対に手を出すな」と忠告してスタークはキャンプ地に戻った。
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