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開演の時刻が迫ってきていた。ホールは既に満員で観客の期待であふれていた。
篠宮の代理で出演することになった瑛美の評判は瞬く間に町中に広がったようでホールの外には会場に入れなかった人たちでごった返していた。
しかしそこに瑛美の姿はない。
「タカクラはどうしたのです!」
指揮者の悲鳴に近い声がとぶ。ステージ裏は戦場のようだった。
主役はあくまでも瑛美であるが舞台に出演するのは彼女ひとりではない。多くのひとが携わって初めて幕は開くのだ。今日のチャンスを潰してしまえば瑛美が再び舞台に立つのはかなり難しくなる。
「シノミヤ。どう責任をとられるのです!そもそもあなたの勝手が引き起こしたんですよ。おわかりなんですか!」
ヒステリックに叫ぶその横で篠宮はおっとりと笑うのだった。
「大丈夫ですわ。まだしばらく時間はあるでしょう」
篠宮につかみかかろうとする彼をフランツが止めにはいった。
「すまないが彼女は病みあがりなんだよ」
「しかしですね。いくら彼女の歌が素晴らしくても本人がいなければ何も始まらないんですよ。中止になればもともこもないんですよ!」
「そうね。もし開演時刻を十分すぎてもあの子が戻らなければ私が歌いましょう。それならよろしいでしょう?」
篠宮は笑いながらそう言った。だがもちろん彼女にそんな気はない。篠宮には瑛美が来ることがわかっていた。
「ノブコ……」
「大丈夫よ」
「本当に……お願いしますよ。私は自分の仕事に誇りを持っているんです。あなた方もおわかりでしょう?」
指揮者は少しだけ落ち着きを取り戻しそう言った。
「ええ。充分にわかっていますわ。今夜はあなたにとって忘れることのできない素晴らしい夜になることを保証しますわ」
篠宮は穏やかに微笑んだ。
篠宮の代理で出演することになった瑛美の評判は瞬く間に町中に広がったようでホールの外には会場に入れなかった人たちでごった返していた。
しかしそこに瑛美の姿はない。
「タカクラはどうしたのです!」
指揮者の悲鳴に近い声がとぶ。ステージ裏は戦場のようだった。
主役はあくまでも瑛美であるが舞台に出演するのは彼女ひとりではない。多くのひとが携わって初めて幕は開くのだ。今日のチャンスを潰してしまえば瑛美が再び舞台に立つのはかなり難しくなる。
「シノミヤ。どう責任をとられるのです!そもそもあなたの勝手が引き起こしたんですよ。おわかりなんですか!」
ヒステリックに叫ぶその横で篠宮はおっとりと笑うのだった。
「大丈夫ですわ。まだしばらく時間はあるでしょう」
篠宮につかみかかろうとする彼をフランツが止めにはいった。
「すまないが彼女は病みあがりなんだよ」
「しかしですね。いくら彼女の歌が素晴らしくても本人がいなければ何も始まらないんですよ。中止になればもともこもないんですよ!」
「そうね。もし開演時刻を十分すぎてもあの子が戻らなければ私が歌いましょう。それならよろしいでしょう?」
篠宮は笑いながらそう言った。だがもちろん彼女にそんな気はない。篠宮には瑛美が来ることがわかっていた。
「ノブコ……」
「大丈夫よ」
「本当に……お願いしますよ。私は自分の仕事に誇りを持っているんです。あなた方もおわかりでしょう?」
指揮者は少しだけ落ち着きを取り戻しそう言った。
「ええ。充分にわかっていますわ。今夜はあなたにとって忘れることのできない素晴らしい夜になることを保証しますわ」
篠宮は穏やかに微笑んだ。
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