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エドワードは森にいた。それはいつか瑛美を見かけた所。エドワードは森の入口付近の木の側で隠れるように身を潜めファントムを待っていた。昼間からファントムが現れるとは思わなかったがとりあえず待つことにした。
瑛美は部屋でぐっすりと眠っている。しばらくは起きてこないはずだった。彼女を舞台に立たせてはならない。エドワードはそんな気がしていた。
そよ風が木の葉を揺らす。
ファントムは来ない。
それでもエドワードは彼を待った。そして待ちながらふと思う。
自分はファントムを待って、それからどうするのだろうと。それにそもそもファントムと会えるかどうかも怪しいものだった。館に住むフランツでさえその姿を見たことがないものを自分が出会えるとは思えない。
エドワードのそんな思いは徐々に強くなり、結果、エドワードは部屋に戻ることにした。要するに瑛美から目を離さずに舞台に立たせなければいいのである。彼女に薬を飲ませ続け日がすぎるのを待てばいい。犯罪だと言われても構わない。たった後二日、いや一日半のことだ。ファントムと会う必要などない。
西日を感じながらエドワードは木を離れて歩きだした。
「もう行くのかい?」
背後から声が聞こえた。透明感のある子供の声だった。
エドワードの体に微かに緊張感が走る。
(子供?)
エドワードは振り向くのに少なからず勇気を要した。というのもその声に何故か恐怖を感じたからだった。
ゆっくりとエドワードは後ろを向いた。
彼の目に映ったのは小さな男の子。ブラウンの髪にブルーの目を持つ……
(ファントム?)
人形のように整った顔をしたブラウンの髪の子供が酷薄な笑みを浮かべて立っていた。
それは決して10歳やそこらの子供ができる表情ではない。
エドワードは彼から目をそらすことができなかった。
彼は唇の両端を持ち上げる。
「やあ、エドワード」
エドワードはかろうじて一歩後ずさる。
「なにを驚く?望み通り現れてやったというのに」
エドワードはもう何も口にすることはできなかった。
背も年も自分の半分程度と思われる目の前の子供に何故恐怖を感じるのかはわからない。しかし彼の何気ない言葉がエドワードをすくませる。
エドワードは直感的に危険を感じとっていた。これ以上彼に関わってはならないと。
「彼女に手を出してもらっちゃ困るんだよ」
それはファントムの言葉だった。
エドワードは彼を見ていることしかできなかった。
ファントムは天使のような声で囁く。
「邪魔はしないでくれ。私はあまり寛大ではないからね」
そして彼はエドワードから離れ、森の中へと消えていった。
ファントムから目が離せずにいたエドワードは、彼の姿が完全に見えなくなるとその場に崩れ落ち、そのまま動けなくなった。
「……死神」
エドワードはポツリとそう呟く。それは根拠も何もない、エドワードの頭に自然に浮かんだ言葉だった。
瑛美は部屋でぐっすりと眠っている。しばらくは起きてこないはずだった。彼女を舞台に立たせてはならない。エドワードはそんな気がしていた。
そよ風が木の葉を揺らす。
ファントムは来ない。
それでもエドワードは彼を待った。そして待ちながらふと思う。
自分はファントムを待って、それからどうするのだろうと。それにそもそもファントムと会えるかどうかも怪しいものだった。館に住むフランツでさえその姿を見たことがないものを自分が出会えるとは思えない。
エドワードのそんな思いは徐々に強くなり、結果、エドワードは部屋に戻ることにした。要するに瑛美から目を離さずに舞台に立たせなければいいのである。彼女に薬を飲ませ続け日がすぎるのを待てばいい。犯罪だと言われても構わない。たった後二日、いや一日半のことだ。ファントムと会う必要などない。
西日を感じながらエドワードは木を離れて歩きだした。
「もう行くのかい?」
背後から声が聞こえた。透明感のある子供の声だった。
エドワードの体に微かに緊張感が走る。
(子供?)
エドワードは振り向くのに少なからず勇気を要した。というのもその声に何故か恐怖を感じたからだった。
ゆっくりとエドワードは後ろを向いた。
彼の目に映ったのは小さな男の子。ブラウンの髪にブルーの目を持つ……
(ファントム?)
人形のように整った顔をしたブラウンの髪の子供が酷薄な笑みを浮かべて立っていた。
それは決して10歳やそこらの子供ができる表情ではない。
エドワードは彼から目をそらすことができなかった。
彼は唇の両端を持ち上げる。
「やあ、エドワード」
エドワードはかろうじて一歩後ずさる。
「なにを驚く?望み通り現れてやったというのに」
エドワードはもう何も口にすることはできなかった。
背も年も自分の半分程度と思われる目の前の子供に何故恐怖を感じるのかはわからない。しかし彼の何気ない言葉がエドワードをすくませる。
エドワードは直感的に危険を感じとっていた。これ以上彼に関わってはならないと。
「彼女に手を出してもらっちゃ困るんだよ」
それはファントムの言葉だった。
エドワードは彼を見ていることしかできなかった。
ファントムは天使のような声で囁く。
「邪魔はしないでくれ。私はあまり寛大ではないからね」
そして彼はエドワードから離れ、森の中へと消えていった。
ファントムから目が離せずにいたエドワードは、彼の姿が完全に見えなくなるとその場に崩れ落ち、そのまま動けなくなった。
「……死神」
エドワードはポツリとそう呟く。それは根拠も何もない、エドワードの頭に自然に浮かんだ言葉だった。
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